魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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グラナト伯爵

 

 

 

 街が夜に沈んでいる、とグラナト伯爵は思った。

 長い戦争が続いている。地には怨嗟の声が木霊している。

 

――断頭台のアウラ。

 

 魔王直下の大魔族であり、その配下はアウラの魔法で断頭された元人間である。

 戦いにおもむき、負ければ首を斬られ、相手の配下にくわわる。

 積極的に戦えば戦うほど敵が増えるのだから、人間側としてはたまったものではない。

 しかも、首無しの元味方と剣を交えなければならないのだ。

 またたくまに厭戦の気分が兵士たちに広がり、それは街中にまで蔓延している。

 

 このような状況下でも、なんとか攻め落とされずにすんでいるのは、大魔法使いフランメの残した防護結界が街を包みこんでいるからだ。

 

 いくら魔族の魔法であっても、天才の生み出した大魔法を突き崩すことはできず。かろうじて戦力は均衡を保っている。

 

「儂はまちがっていたのだろうか」

 

 グラナト伯爵は、壁に掲げられた剣を見る。

 アウラに敗北し、剣しか帰ってこなかった息子の形見。

 

 戦争が始まって、すぐにグラナト伯爵がおこなったことはネットを禁止することだった。しかし、フランメの結界すらすり抜けるそれは、いくら禁止しようとせきとめることはできない。人の口に戸はたてられない。

 

 匿名掲示板という場に狂乱がうずまく。

 

 そこで、グラナト伯爵が次におこなったことは、ネットを――正確にはグラナト伯爵領に関する話題を統御することだった。具体的には配下の者を掲示板に張りつかせ、戦争を鼓舞する内容を書きこませる。戦争を忌避するようなコメントがあったら、複数人で徹底的に叩き潰す。時には不利益になりそうなコメントを魔族の間諜扱いした。

 

 あまり過激な内容になると、アナリザンドに削除されてしまうので、加減しなければならなかったが、そうするほかなかったのだ。

 

 それでも、長い戦争のあいだに醸成された戦うこと自体に対する『恨み』は極限まで高まりつつある。厭戦の気分は頂点に達しようとしている。人間は魔族やエルフのように気が長くはない。なにより、いつ終わるともしれない戦いにグラナト伯爵自身が疲れ果てていた。

 

 そんなとき、アウラ側から和平への打診があった。

 当然、グラナト側は渡りに船とはならなかった。罠である可能性が高い。

 皮肉なことに、戦争という()()を通じて、人間側も魔族の習性をわずかながらも理解する時間があったのである。

 それになにより、掲示板に広がる闇がどうしても恐ろしいのだ。

 

 得体の知れない魔族。

 

――狂乱のアナリザンド。

 

 最近は、魔法通貨という珍妙なものをつくったり、ゼーリエによって一部抑制されているなどと言われているが、結局根本のところは二十年以上にわたり殺し合いをしてきたという生々しい現実のほうが勝つ。

 

 魔族とは殺し殺される間柄だという事実のほうが確信を持てる。

 

 だが、疲れたのだ……。とても。

 

「アナリザンド殿。少し言葉を交わしたい」

 

 そうして、彼はコンタクトをとる。

 和平の使者を受け入れるか否か。

 魔族少女の意見を聞くために。

 

 

 

 

 

『こんマゾ~~~。伯爵さま。わたしアナリザンドっていうの。今日は呼んでくれて嬉しいな』

 

 あいもかわらず愛嬌たっぷりに、アナリザンドは手を振っている。

 子どものような矮躯に、人形めいた微笑を浮かべる魔族の少女。

 

 戦争が始まってからは、表立っては小窓を開くことすら禁じ、ゆえなく開いた者は投獄したりもした。グラナト伯爵自身も領民の範となるべく、ネットにはほとんど手をつけていない。先に述べたような情報統制とスパイ活動以外の目的では。

 

 アナリザンドの姿を見るのも久しぶりだった。目の前にいる魔族少女の無邪気さに多少の苛立ちを覚える。確かに掲示板自体はただの場にすぎない。いわば井戸端会議のようなもの。だが、それは人の悪意を増幅する。製造者にまったく責任がないわけではないだろう。ただし、その論法を援用するならば、人間をそのように創った女神様も悪いということになってしまうが。

 

『ごめんなさい。伯爵さま』

 

 と、話を始める前にアナリザンドが謝ってきた。

 

「なぜ謝る」

 

『わたしが意図したものではないけれど、ネットがそこにあるという影響はどうしても存在するから。伯爵さまは、リアルとネットの二面作戦をせざるをえなかったから、大変だったかなって思ったの』

 

「大変だったさ」

 

 重みのある言葉だった。

 グラナト伯爵は傍らにあるワインを飲んだ。

 この場は公式な会合ではない。ただ、話好きな魔族と私的に会話するだけの場だ。

 それを言外に主張するために、彼は酒を飲む。

 

『それにしても、伯爵さまは魔族をオンブズマンなんかに据えていいの?』

 

「オンブズマン? なんだそれは。魔族の言葉か」

 

『ああ……、うーん、民草の苦情を伝える者……。顧問とかだったら似ている概念かな』

 

「理解できる。アナリザンド殿を顧問に据えるというような話ではない。魔族の話を鵜呑みにして攻め滅ぼされたなんてことになれば後世まで笑いものだ。ただ魔族というものがどういう存在なのか。いま一度自分のなかで整理したかっただけだ。話を聞かせていただければありがたい」

 

『わたしって自分で言うのもなんだけど、魔族っぽくないよ』

 

「それでも人間よりかは理解しているだろう」

 

『まあ、たぶん?』

 

 アナリザンドは少し自信なさげだ。

 というか、人が人をわかるなんて幻想自体を信じていないので、理解しているかと言われると自信がないのも当然だった。統計的な傾向を判断はできるかもしれないが、それこそ個体の特性に目をつむるなら、フリーレンあたりのほうが詳しいだろう。

 

 魔族とは会話が通じない。ただし神のごとき努力がなければ。

 そういう話である。

 

『じゃあ、できるだけ地平線の気持ちになってお話するよ。伯爵さまは何が知りたいの?』

 

「戦争とはなんだ?」グラナト伯爵はぶしつけに聞いた。

 

『うわ。いきなり難しい問いだね。わたしにどれくらい理解力があるのか試しているの?』

 

「そのようなものだと考えてもらってもよい」

 

『わたしの言葉ではファルスどうしのせめぎあいで終わってしまう話なんだけどね』

 

「ファルスとはなんだ?」

 

『おちんちんのこと』

 

「……そうか」

 

『魔族にファルスがあるかという話になると、魔族は女だからファルスはないというのが論理的には正しいんだけど、この点については陰核がちっちゃなファルスとして機能すると言えるかな」

 

「さっぱりわからん」

 

『この点はわりと重要な話なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この認識を持っておいてもらいたかったの』

 

「もう少し人間の言葉で話してくれると助かる」

 

『イデオロギーと言えばわかるかな? 魔族には組織化された系としての主義や主張が存在しない。生存本能や食人本能はあるけどね』

 

「それならば多少は理解できる。だが、魔族にも陰核があるのだろう?」

 

『そこは定量的にどちらを重視するかだね。虚空を本質とするならば、ファルスを突き入れる人間は常に侵略者なんだよ。つまり魔族は徒党を組んで抵抗運動をしているに過ぎないの』

 

「は」グラナト伯爵は鼻で笑った。「戦争をしかけてきたのは魔族のほうだぞ」

 

『そうなんだけど。種族的に見れば、魔王を討ち滅ぼされ、絶滅されようとしている魔族は侵略ではなく抵抗しているといえるでしょ』

 

「視点の話だな。魔族側からみればそうなのかもしれん。それで?」

 

『戦争とはなんだって話だったよね。封建国家において、それは君主の誇りを保つ手段だった。時には道楽でさえあった。伯爵さまもその意識は少しはあったんじゃない?』

 

「誇りか……」

 

 グラナト伯爵は形見の剣に視線をやった。

 剣は陛下から賜ったものだった。

 

――誇り。

 

 と言われれば、確かにそのとおりだ。グラナト伯爵が戦争を続けてきた理由は、領土と領民を守るためであったが、それらはつきつめると陛下に賜ったものである。

 

『これは伯爵さまにとっては剣よりも鋭い言葉になるかもしれないけど、あえて言うね。君主の誇りを守るために犠牲になったのは国民のみんなだよ』

 

「儂のせいだというのか」

 

『いいえ』アナリザンドはいつものように否定した。『伯爵さま。匿名掲示板は部分的にだけど国民国家を成立させてしまっている。この認識は持ってる?』

 

 おそらく持っていないだろうと、アナリザンドは推察する。

 

――オンブズマン。

 

 行政に対して第三者的立場で国民の苦情を伝える者。

 その概念がない以上は、国民がクレーマーであるという認識がない。つまり国民が権力者であるという認識がない。窮状を訴える子であるという認識はあるかもしれないが。 

 

 アナリザンドは、ほんの少しだけ言葉を抑圧していた。

 本当は『国民国家』ではなく『畜群国家』あたりが妥当かもしれないと思っているからだ。

 信じるべきイデオロギーがなく動物的に鳴くだけの大衆たち。

 

――アナちゃんねるには人を動物化する効果がある。

 

 ただ、この世界には君主がいる。まだ対立するイデオロギーがある。

 だから、ここでは国民国家という言葉でごまかそう。

 その言葉のほうが事態を説明しやすい。

 果たして、そのとおりだった。

 

「国民国家?」と、グラナト伯爵は首をひねった。

 

『国民ひとりひとりが君主であるような国家のこと。実をいうと、伯爵さまは魔族との戦争だけじゃなくて、国民とも戦争してたんだよ』

 

 君主は命じる。そして抑圧する。

 

――国のために死ね。

 

 国民は死にたくないと抵抗する。

 

 その両者のファルスのせめぎあいが現象として立ち現れたのが、匿名掲示板における呪詛だ。

 

『戦争なんて行きたくねーよ』

『グラナト伯爵は無能』

『さっさと自分が行って刺し違えてこいよ』

『いつまで戦争やってんだよ。馬鹿か』

『息子を死なせた間抜け領主』 

 

 グラナト伯爵の脳裏にいくつかの言葉が再生される。

 動物が鳴きわめいたような価値がない言葉ではあったが、なぜか忘れることができなかった。

 

「魔族と戦わなければ領は滅んだだろう」グラナト伯爵は苦しそうに言った。

 

『それはそうだろうね。だから二面作戦になっちゃってたんだと思う』

 

 アナリザンドは紅茶を一飲みする。

 応ずるようにグラナト伯爵も杯をあおった。

 

「儂は知らず、国民を害していたか」

 

『いいえ。そんなふうに考える必要はないよ。戦争における利は生きること、害は死ぬことでしょう。誰だって死にたくない。国家だって死にたくはない。そう思うことは悪いことじゃない。人間側の論理で防衛戦だったというのも事実。伯爵さまに感謝している人間もきっといるよ』

 

 アナリザンドは慰めの言葉をかけた。

 それから、右手を軽く掲げて、いくつかのコメントを参照する。

 コメントがマンガの吹き出しのように浮かびあがった。

 

『魔族と戦ってくれてありがとう』

『城壁の外に住んでいる者ですが、兵士の方に助けていただき感謝しております』

『伯爵様の勇猛果敢ぶりに魔族どもも恐れをなしているようだ』

『魔族なんかに負けるな。がんばれ』

『息子様の名誉の死にご冥福を』

『兵士の皆さん。どうか死なないで。祈りを』

『感謝を』

『勝利を』

 

 国民の声は分裂している。

 なので、ピックアップすれば肯定的な意見も必ず存在する。

 混沌のるつぼ。狂乱の彼方。

 グラナト伯爵はそれらのコメントを見つめる。

 

「アナリザンド殿……ここだけの話をしてよいか」

 

『うんいいよ』

 

「儂はひきこもっておればよかったのだろうか。七崩賢を討伐するという功名に駆られ、息子を死なせてしまった。儂は本当に愚かな領主だ」

 

 事実として――。

 フランメの結界に守られたこの伯爵領は、魔族にとって攻めあぐねている土地だといえる。

 もしも、アウラを討伐しに向かわなければ、アウラは首無しの兵士を量産することなく、その力を蓄えることはなかっただろう。

 

 事実として――。

 グラナト伯爵がいうように、ひきこもっていれば、息子が殺されることはなかっただろう。

 

 なぜ、そうしたか。

 魔族という穢れを取り除きたかったから。

 魔族に奪われた領土を奪い返したかったから。

 一度はアウラを撃退した勇者ヒンメルに成りかわりたかったから。

 その身に帯びた光の剣を魔族の身体に突き入れたかったから。

 奪えると思った。支配できると思った。勝てると思った。

 

 だから客観的にはどうであれ、グラナト伯爵の主観的動機において、

 

 その始まりは、その起源は、ただの侵略戦争だった。

 

『グラナト伯爵。御子息は勇敢だったのですね』

 

 皮肉に聞こえる。

 だが、それは己のこころがそうさせるのだろう。

 

「少し飲みすぎてしまったようだ。続きは明日に茶でも飲みながらお願いできるか」

 

『うんいいよ』

 

 

 

 

 

 次の日。昼。

 グラナト伯爵は、配下のものを下がらせ私室でアナリザンドを迎えた。

 傍らには紅茶のポッドが置かれてある。

 

『こんマゾ。伯爵さま待ったー?』

 

「いや、今ちょうど準備ができたところだ」

 

『よかった。じゃあ、お話はじめましょう』

 

 紅茶をたしなみながら優雅に、余裕をもって、文化的に。

 ふたりの非公式会合は始まる。

 

「アナリザンド殿の話を聞いて、この戦争のはじまりを思い出した。最初は小さな小競り合いだった。それから、わずかずつ投入する兵士の数が多くなってな。そのあとは話のとおりだ。儂は功名心に走って焦り、息子を死なせ、息子が死んだあとは復讐心をくべながら、ここまで戦いを長引かせてしまった」

 

『復讐心は今もあるの?』

 

「あるというのが本当のところだ。いまアウラが目の前にあらわれれば躊躇なく斬る」

 

『戦いの起源なんて、関係ないところまできちゃってるからね』

 

「そうだな。実際に儂の考えだけではなく、この領の人間の考えとしても引くに引けないというところはあるだろう。家族を殺されたものも多い。儂が死においやったのだがな」

 

『事実として、殺し合いなのだからしょうがないよ』

 

「ここらで手打ちとしたいというのも本当だ。いい加減、飽いている。魔族側がこれ以上攻めてこないのであれば、和睦の可能性も十分にありえる」

 

『その場合は、今まで戦ってきた兵士さんたちや領民さんたちに、諦めさせなければならないという面もあるよ』

 

「なにをだ?」

 

『復讐を……。あるいは賠償を』

 

「それはそうだろうな。そのくらいの度量はあるつもりだ。非難もあびるだろうがかまわん。20年以上戦ってなんの成果も得られない稀代の愚者の誕生だ」

 

 グラナト伯爵は快活に笑った。

 

『覚悟しているんだね』

 

「ああ……、だが懸念事項はある」

 

『魔族が本当に和睦をしたいのかだよね。そのためにわたしを呼んだんだもんね』

 

 魔族の精神のエレメントモデルとしてアナリザンドを参照にする。

 それが、グラナト伯爵がアナリザンドを呼んだ意義だ。

 グラナト伯爵は軽くうなずく。

 

「和睦をするにしろ、裏から刺されることだけは避けねばならん。儂が殺されれば戦争はさらに泥沼化するだろう。魔族のこころはどこにあると思う?」

 

『うーん。たぶん騙して殺したいのほうだと思うの』

 

「ほう。アナリザンド殿はそう思うのか。根拠は?」

 

『わたし、魔族のお姉さんに逢ったことがあって、お話ししたことがあるの。その時の経験』

 

「では、和睦の使者は受け入れるべきではないか」

 

『そうかもね。でも……、正直なところ魔族は人間のように心をあわせて同一化しない種族だからね。断頭台のアウラがどう思うのかは、アウラと実際に話してみないとなんともいえないかな』

 

「それでは和平の使者を斬ったほうがよいか?」

 

『慎重にいくならそうするべきかも。あとは防御を固めて英雄の到着を待てばいい』

 

「英雄? 誰だそれは」

 

『葬送のフリーレン。魔族絶対殺すウーマン』

 

「勇者一行のか。彼女がここに来るのは確実なのか?」

 

『うん。たぶん。ここはフリーレンの目的地の途上に位置しているからね』

 

「結局は英雄だのみか」

 

 かつて勇者ヒンメルにすべてを託したように、その仲間であるフリーレンにゆだねる。

 なんという悲劇か。いや喜劇か。

 自分たちで解決できると信じて、ここまで戦ってきたというに。

 思わず笑いたくなってしまう。

 

『伯爵さまは自分たちで未来を切り開きたいの?』

 

「どん詰まりの状態だ。四の五の言ってはおられん。だが――。アナリザンド殿と話していると、もしかすると人間と魔族はわかりあえるのではないか、とも思えるのだ。その可能性があるなら対話を試みるのも悪くはないだろう」

 

『いいえ。それは人間の業だよ。伯爵さまは情が厚いからすぐにほだされちゃうだけ。わたしに騙されてはダメ』

 

「ではなぜ、人間と対話しようとするのだ?」

 

『わたしは人間の味方になったわけじゃないよ。もしも、アウラや他の魔族が話せるやつだったら、その子の有利な状況になるように味方しちゃうかもしれない。伯爵さまは御子息の死に意味を持たせたいから、和平を為したいんじゃないの?』

 

「あくまで地平線の気持ちだったか」

 

『うん。でも、伯爵さまのことは好きだよ』

 

「敵の有利になるかもしれぬと言いながら、返す剣で今度は儂を好きだとほざくか。アナリザンド殿は、道化の才能があると見える」

 

『だって画面の外の存在なんだもん。生も死も関係ない。だから、わたしの言葉はそこそこ客観性が担保されてるんじゃない?』

 

「そうだな」

 

 もともとは魔族のこころが知りたくて呼んだのだ。

 魔族に有利な発言をするだろうと思っていた。

 しかし、アナリザンドは二次元の存在で、どこまでも他人事だ。

 だからこそ、かけられる言葉は善意としかいいようがなかった。

 

『もし、他の魔族のこころが知りたいんだったら、わたしが手伝ってあげてもいいよ』

 

「どういうことだ?」

 

『インターネットは魔族をはじいているわけじゃないからね。名前を呼び合えば魔族だろうと人間だろうと関係ない。魔族へのパスはつながる。その魔族がインターネットを使うかは別問題だけど、わたし、その子と話せるよ』

 

「今度はスパイの真似ごとか。アナリザンド殿は多才だな」

 

『そうなの。わたし情報蒐集は得意なの』

 

 膨らみのない胸に手をあてて、ドヤ顔をするアナリザンド。

 むしろ、いちばん得意分野まである。

 

「インターネットを魔族側につなぐということは、人間側の情報が魔族に漏れるということを意味するのではないか?」

 

『魔族は陰核があるってさっき言ったよね。ちっちゃなファルス、かそけき主張、それが自分の魔法なんだよ。原則として、魔族は人間の魔法を()()()()()し、自分の魔法がいつか立派なファルスになることを夢見ていじりまくっているんだよ。だからネットは使わない」

 

 基本的には、という注釈はつくが。

 ソリテールのような例外を除き、統計的にはあてはまるだろう。

 

「それは保証できるのか?」

 

『わたしが保証すると言ったところで、人間がそれを信じるの? 魔族の妖言を信じるなんて愚か者のすることだよ』

 

「確かにな。だが儂はそなたを信じてみたくなった」

 

『信じちゃダメって言ってるのに』

 

「頼んでもよいだろうか。少しでも可能性があるなら大義のために進みたい」

 

『伯爵さまはヒンメルさえ成し得なかったことを目指そうとするんだね』

 

 歴史上誰もなしえなかったことだ。

 人間と魔族の和平がなれば、それは月に行くに等しい偉業だ。

 

「いや、そんなだいそれたことじゃないさ」

 

 グラナト伯爵は大窓から空を望む。空は青く高い。

 そのことを久方ぶりに思い出した。

 

「いままで儂は民草の声も魔族の声も、誰の声も聞かずに葬ってきた。いよいよ拝聴すべき時がきたのだ。おまえは人々の苦情を伝える者なのだろう、聞かせてくれアナリザンド」

 

『伯爵さま、ちょろすぎだってば』

 

「耳が痛い」と、彼は応えた。

 

 和平の使者を迎えたのはそれから三日後のことである。

 

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