魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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邪詩

 

 

 

 フェルンはどこぞの宗教家のように磔にされていた。

 肩のあたりが熱い。ずきずきとした痛みに、フェルンはなお冷静になる。

 フリーレンが何度も何度も教え聞かせるように言っていた。

 魔族との戦いでは、常に冷静にならなくちゃいけない。

 感情の揺らぎは魔力の揺らぎになって、魔族に覚られてしまう。

 

――魔力の隠匿。

 

 ステルスの魔法はカタチとして魔力を隠すものである。

 血によって穢された瞬間に、ステルスは破壊されている。

 残されたのは、本来の魔力を隠匿する技術である。

 フェルンはいま、生身の状態で隠匿している。

 

 そして、杖。

 フェルンの杖は、地面に転がっていた。

 魔力伝導体である杖がなければ、魔族を貫けるほどの威力は出ないだろう。

 手のひらでもゾルトラークは放てるが、リュグナーに効くとも思えない。

 

 さらに視線を奥に――。

 アナリザンドはかなりの距離を吹っ飛ばされていた。

 その体はピクリとも動かないが、おそらく無事だろうと思う。

 さきほどの魔力の奔流を見るに、アナリザンドは強い。

 だったらなぜ無抵抗にやられているのかという話だが、おそらくは防御特化なのだろう。

 

 そして血鬼。

 

「下手に動いたせいで急所を外してしまった。苦しませるつもりは無かったのだがな」

 

――フェルン。魔族を相手にするときはね。じっくり観察するんだ。

 

 フリーレンの言葉がまた蘇る。

 

 魔族は高慢でプライドが高い。その見解はアナリザンドも同じである。

 両者の意見が一致しているから、確度は高いだろう。

 

 隙を見つけなければ。

 

 時間稼ぎをするために、フェルンは相手の言葉を待つ。

 

 すぐに殺さないという事象が生じているのは、なにかしら喋りたいことがあるからだ。自分の存在意義だったり、己の傲慢さをみたすためだったり、あるいは相手を苦しめるためだったり、いろいろな理由は考えらえるが、ともかく時間稼ぎにはなる。

 

「何を驚いている。致命傷を負ったはずの私がここに立っていることか?(あんたの攻撃なんて全然痛くないんだからね。勘違いしないでよね)」

 

「それとも我々の接近を探知できなかったことか? 魔力の制御による存在の隠匿など君だけの才覚というわけではない。魔族なら誰もができることだ。(私にだって同じことできるんだからね。自分だけができるなんて思わないでよね!)」

 

「とはいえ、魔法使い同士の戦いに似つかわしい行為だとは到底思えんがな。(私のほうが美しい魔法の使い方をしてるもん。卑怯者のあんたたちとは違うのよ。ふんだ!)」

 

 すべて自己を肯定するための言葉。言い訳の羅列。

 しかし、それは本命ではない。

 迂遠な会話は死を迂回する転移を繰り返す魔族ならありがちなことだろう。

 

 フリーレンは言った。

 

――あいつらプライドが高いから、魔法使いの前には絶対に姿を現すよ。

 

 アナリザンドは言った。

 

――魔族は人間の魔法使いに恋しているから、絶対に話しかけてから殺しにくるよ。

 

 沈黙のうちに殺せないのが魔族なのである。

 最低でも、こんにちわ死ねという言葉を発してしまう。自己アピールしてしまう。

 自分はここにいると泣き叫んでしまう。

 それが魔族の弱点である。

 なお、魔法使いではない人間はモノに過ぎないので、殺害するという意識すらない。

 目の前からどかすといった感情に近い。

 

「よく喋りますね。とどめを刺さないんですか」

 

「殺し損ねたついでに、いくつか聞きたいことがある」

 

 これが本命だったらしい。

 リュグナーはいくつか質問した。

 まずはシュタルクのこと。アイゼンの弟子と答えたら、可哀想にと応えた。獰猛な猛獣であるリーニエにどことは言わないがいろいろと拡張されるのだ。可哀想なことに間違いはない。

 

 そんな感情はもっていないはずなのに、その言葉を出力したのは、自分の優位性を示すため。

 戦士シュタルクは、現状、フェルンを助け出せる唯一の戦力だからだ。

 

 リュグナーはフェルンに希望を捨てるよう申し向けている。

 

――そして、下に広がる森のなかで、青姦しているふたりである。

 

「もう一つ。フリーレンはどこだ?」

 

「この街から逃げましたよ。あなた達が牢番の衛兵を殺したせいです」

 

 フェルンは嘘をつく。

 牢番は殺されていないし、フリーレンはアウラを殺しに向かったのだ。

 なんだったら、既に交戦中である。

 

 フェルンのこころの内に焦りがつのる。

 フリーレン様が負けるとは思えない。けれど、フリーレン様がアウラを倒すということは、アナリザンド様の求めた和睦がうち壊されるということだ。

 あれだけ人間のために、駆けまわってくれたのに、魔族の温情をはらいのけるのが人間として正しい行いなのだろうか。

 

 フリーレンは魔族を赦さないと言った。しかし、本当に赦せないのは、あのとき何もできなかった自分自身なのではないだろうか。あのとき――がいつなのかはフェルンにはわからない。けれど、過去を後悔するのが人間である。自死しようとしたフェルンにはそれがわかる。

 

 きっと、いつか後悔する。

 裂傷が暗がりから顔をもたげる。

 フリーレン様を救いたい。

 そう、フェルンは考える。

 

 フェルンが血を失い、ぼんやりとした思考をしていると、その間もリュグナーは同じく思考を進めていたらしく、

 

「アウラ様か」

 

 ほどなく結論に至った。

 

 しかし――、ここで()()()()()()()()()()()()()が起こっている。

 

 リュグナーはずっとフェルンを冷たい目で観察していた。

 万が一にも反抗されないように注視していた。

 魔族にはありえない慎重さ。感情の抑制。

 高慢さが油断を招くはずだった。

 そうはならなかった。

 

――どうして。

 

 フェルンが天才に見えたからである。

 

 フェルンは事実天才なのだが、単純に不意打ちを喰らわせただけなら、ゾルトラーク一本なら、まだフリーレンがもたらした技を、人間が引き継いだだけに見えただろう。それならば、凡俗ではないが、秀才の域。

 

 リュグナーにとっては、取るに足らない存在となる。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 多くの天才たちの魔法を装備していたフェルンは、リュグナーにとっては忌むべき天才に見えた。だから、確実に殺すために、視線を逸らすことはなかったのだ。

 

――死の恐怖。

 

 覚悟はできている。けれど、このまま何もできずに終わりたくはない。

 

「聞きたいことはすべて聞いた。一思いに殺してやろう」

 

 リュグナーが死刑宣告をする。あとは手をひと振りすれば、フェルンの首は堕ちるだろう。

 

 スペルを割りこませる。

 

「意趣返しがしたかったんですよね」と、フェルンは言った。

 

「何が言いたい?」リュグナーがピタリと停まった。

 

「私に不意打ちで傷つけられて、あなたは意趣返しがしたかった。これでイーブンです。私は片腕しか使えない。それでも、わたしと正面から魔法を撃ち合うのが怖いですか?」

 

「貴様……」リュグナーの顔に怒りがにじむ。「その程度の挑発に私が乗ると思ったか」

 

「私はあなたに()()()()()()()ます。どちらの魔法が優秀か、明らかにしたくはありませんか」

 

 ひとつの仮説だ。

 

 魔族にとって、魔法がかけがえのないものであるならば、あるいは自分の万能感そのものであるなら、魔族はどんなに不利な条件でも決闘を受けざるを得ない。魔族の生物としての不合理な部分であり、致命的な弱点でもある。

 

 リュグナーは己の中に不快感が広がったことだろう。自身の獣性と、それを塗り固めて抑圧する外交官という役割。その矛盾する習性が、彼を内部的に引き裂いている。フェルンの言葉は確実にリュグナーという存在にダメージを与えている。

 

 だが、それでも彼は耐えた。

 

「虫のいい話だ。糞便にたかるハエ虫どもにふさわしい。……もうひとつ聞きたいことがあった。おまえはあの魔族とどんな関係がある?」

 

 対話を継続させて、ダメージを解離させている。

 

 フェルンは、このときリュグナーの内心を正確に理解していた。

 彼の内心は、アナリザンドに対する嫉妬で満ち溢れている。ネットという魔法を毛嫌いし、糞便と評しているのは、彼がなしえなかった外交官という立場をアナリザンドが全うしているように思えたからだ。自らが絶対に持ちえない人間の魔法を羨望している。

 

 だから――、ここで、アナリザンドの関係者であると名乗ることは、彼の殺意を惹起する。

 それでもフェルンは嘘をつかない。たとえ殺されても、その真実だけは揺らがない。

 

「私はアナリザンド様の妹です」

 

 歪む。言い訳が成立したことの喜び。

 

「いいだろう。ならば、姉妹仲良く地獄に送ってやる!」

 

 リュグナーが血の鞭を振り上げた。

 世界が遠くなる。

 死が近づいてくる。

 ほんの十年前はあれほど望んでいた死がすぐ近くに。

 

「助けて…………様」

 

 フェルンが祈る。リュグナーの端正な顔立ちが醜く歪む。獣の獰猛な口。

 

「pkill -9 blood_magic」

 

 遠くから声が聞こえて来た。

 ただの声ではなく、ただの音ではなく、それは詩。つまり記述。

 割りこまれた記述そのものによって、リュグナーの魔法が停止した。引き裂かれた。

 

「あがああああああッ!」

 

――臓腑をえぐるような痛み。

 

 リュグナーがのたうちまわる。

 

 自身の中の魔力の流れが、むちゃくちゃにかき乱され、血で覆った傷跡が引きちぎられるように痛む。リュグナーの顔が、今度は恐怖や不安や、わけのわからない事態に対する苛立ちで歪んだ。

 

「くぅ……何が起こった」

 

 リュグナーは血を自らの身体の中に戻し原因を探る。

 ウイルスに侵されたように、血の魔法をうまく制御できない。血の魔法はただの血に戻り、自然の理に従って、地面にしたたりおちる。慌てて統御しようとするがうまくいかない。うずく。痛む。崩れる。壊れる。コワレル。コワレロ!

 

 同時に、フェルンの身体が支えを失った。

 彼は見た。いや、見られた。すぐに理解した。闇がそこに立っていた。

 

 ソレは愛らしく、かわいらしく、そして想像を絶するほどに冷たい表情をしていた。

 十を数えたばかりに見える魔族少女が世界の闇を呑みこんでいる。

 

 それをあえて言葉で封じこめようとするならば、

 

――幼き魔女(メスガキ)

 

 と呼ばれる存在かもしれない。

 

「女の子を傷つけて喜ぶなんて。おじさんサイテー♡」

 

「なんだその口調は」

 

「ねえおじさん、お前のその血の魔法、何回も見たから飽きちゃったよ。もっと面白いことできないの? あ、でも無理か、そんなウンコみたいに垂れ流すしか能のない魔法には難しいもんね~♡」

 

「ふざけるな! 私はリュグナー。首切り役人筆頭だ」

 

 リュグナーが血の鞭をしならせた。

 けれど、もはや血の魔法は無効化されている。

 しなびたペニスのように、アナリザンドの前でへたってしまった。

 

「あれれ、おじさん。そんなに必死になっちゃって、かわいそう♡ 血を操るなんて、そんな古臭い技、今時誰も驚かないよ? もっと新しいこと考えなきゃ、わたしに勝てないよ?」

 

「私の魔法が無効化されているだと……、いったい何が起こっている」

 

 ゆったりと近づいてくるアナリザンドに、リュグナーは得体の知れない恐怖を覚えた。

 

「お前のその血の力って、結局は血液量頼みでしょ? せいぜい5リットル。必死に伸ばしたら枯れ枯れになっちゃうし、自傷しなきゃ何の力もないんだもんね♡ あーあ、そんな無力な魔族に生まれちゃって、ほんとにかわいそう~♡」

 

「クソ!」

 

 何度も攻撃を試みるが、やはりアナリザンドの周囲にはなんらかの魔法的なバリアが張られているようだ。リュグナーの魔法が、その領域に触れるたびに霧散してしまう。無に喰われるように消えてしまう。

 

 アナリザンドが言うように、血の量が減る。それだけ力を失うということだ。

 リュグナーは距離をとろうとする。

 

「あれれ~、逃げちゃうの。ほんとざっこ♡ 魔族のくせに魔法で負けて恥ずかしくないのぉ♡」

 

「こんなものが魔法であるものか」

 

 正体不明の魔法。いや、それはもはや魔法と感知できない何かだった。

 彼は既に記述されている。アナリザンドによって翻案されている。

 ノエマ/ノエシスは逆転し、彼は我を唱えることができない。

 ああ、一応、少しは抵抗できるよ。アゼリューゼと同じく、魂は抵抗可能な力を秘めている。

 

 魔族であっても魂がある存在だから、記述されることに抵抗しうる。

 だが、魔族の精神は惰弱の一言。

 

 幼き魔女の邪詩から逃れる術はない。

 

「生きてて恥ずかしくないの♡ はやく死んだら? 逝け♡ 逝っちゃえ♡」

 

 気づくと、アナリザンドは目の前にいた。

 彼はそれを知覚できなかった。そう記述されているからそうなった。

 想像が現象に相転移される。

 

 ただの蹴り。魔法でもなんでもない物理攻撃で、リュグナーの身体は数十メートルも吹き飛ばされた。さっきのお返しだ。そしてかわいい妹を傷つけたことへの復讐。

 

 乙女の柔肌を傷つけた罪は重い。

 わたしはこいつを赦さない。

 

 

 

 

 

 リーニエはリュグナーが挽肉にされようとどうでもよかった。

 

 なんか上のほうでは、メスガキに踏みつけにされてたりと、哀れなことになっているようだったが、それもどうでもいい。

 

 そんなことより、シュタルクがさっきから倒れているのが気に喰わない。

 

『立ち上がれ。シュタルク』

 

 そう、どことは言わないが立ち上がるべきなのである。

 ふにゃふにゃだと挿入できないから。

 

 果たしてそのとおりになった。

 

 シュタルクが血まみれになりながら、立ちあがったのである。

 

――立った。立ったよ。シュタルクが立った!

 

 リーニエは無表情のまま、もほほほと笑いたい気分だった。

 それほどに胸が踊る光景。

 

 技術でも力でも劣るシュタルクが、持ち前の若さとタフネスで熟練の戦士であるアイゼンに喰らいついていく。

 

『なかなかやるな。シュタルク。何度でも立ち上がる。それでこそ戦士だ!』

 

『オレは師匠には負けねぇ!』

 

 そんな花咲く光景を実体験できる私は、なんて幸福なのだろう。

 無表情ながらに、リーニエはニッコリ笑顔になりそうだった。

 

「絶対、神に報告する」

 

「おまえさっきからなに言ってんだ」

 

「おまえには関係ないことだ……」やはり人形のような表情で応えるリーニエ。

 

 黒子に話しかけてはいけない。

 

 しかし、無粋なやつがいた。楽園を現実に引き戻す上司の命令だ。

 リュグナーが、得体の知れない魔法を恐怖し、リーニエにヘルプを求める。

 

「リーニエ。何をやっている! 早くそいつを片づけろ!」

 

 リーニエは舌打ちした。

 

「なんだよ。我儘だな。さっさと素材になっちまえよ」

 

 そんなリーニエの内心など、おかまいなしに、シュタルクはただ驚愕していた。

 リーニエの行動化(アクティングアウト)が、あまりにも似すぎていたからだ。

 

「その斧捌き。どういうことだ。そいつは師匠の技だ」

 

 シュタルクは疑問を口にした。

 

「私はびーえる素材を読み取るのが得意でさ。人がびーえるしてるときの体内の魔力の流れを記憶して、動きを模倣できるんだよね」

 

 リーニエが英傑の剣を振り下ろす。

 効果はいまいち。やはり、アイ×シュタのほうがいい。

 

「びーえるってなんだよ」

 

「おまえは知らないほうがいい。腐海に沈みたくなければ……」

 

 リーニエが斧を出現させ、勃起するように切り上げる。

 

――ドォォォン!

 

 空を削るような攻撃だった。

 

 シュタルクの身体が空中を舞う。

 

 アイゼンの技で『無茶苦茶』にされる。

 

 たまらない。

 

 シュタルクのたくましい体は、よりたくましい肉体にねじ伏せられ、倒れこむ。

 

「ようやく()()()か」

 

 師弟どうしの仁義なき戦い。どちらが上なのかを知らしめる行為。

 

『立てシュタルク』

 

 ああ、しかし、アイゼンはシュタルクが自分を超えることを願っているのだ。

 

『戦士ってのは、最後まで立っていたやつが勝つんだ』

 

「まったく師匠め。変な理論押しつけやがって……。脳みそ筋肉で出来てんじゃねぇのか」

 

 脳みそ海綿体で出来ている。いいセンスだ。報告しよう。

 

()()()()()()()()()()()()のに」

 

 純愛ルートも悪くはない。

 

「……オレはまだ立っている」

 

 しゅき♡

 

「それに思い出したんだ。師匠の技はもっと重かった」

 

 アイゼンの身体、重い!

 オレの身体つぶされちまうよ。

 

「やっぱりお前のはただの真似事だ」

 

 スン。

 

 そりゃそうだ。背景がしゃしゃりでてきちゃ話にならない。

 さっさと退場するに限るだろう。

 

「なら、その真似事で引導を渡してあげよう」私自身に。

 

――模倣する魔法(エアファーゼン)

 

 リーニエが腰を低くして、突撃する。

 大振り。防御もなし。血迷ったな。

 いやHUDはたとえ全力の一撃を入れても、殺しきれないことを伝えている。

 ああ、私って本当にフリが得意だ。

 

「閃天撃!」

 

 シュタルクがアイゼンの技をもってアイゼンを打倒する。

 

「相打ち覚悟だったのにビビッて損したぜ」

 

 相打ち。そういう概念もあるのか!?

 

 神ぃぃぃぃぃぃぃ!

 

 リーニエは果てた。

 

 現実的な描写をすれば、シュタルクの斧はリーニエをわずかに逸れ、大地を穿つにとどめている。しかし、リーニエは天国に逝ったかのように満足そうに気絶しているのだった。

 

 

 

 

 

「リーニエ!」

 

 殺されたかのように見えたリュグナーは一瞬の隙を作ってしまった。

 いや、それすらもただそうなるよう、運命は操られている。

 

――リュグナーは壁に磔にされる。

 

 なんの変哲もないただの操作魔法。

 領都五万人ほどであっても、魔族に対する怨みは結実する。

 

 体中の骨がグチャグチャになるほど折れ、肉体が崩壊寸前まで軋んだ。

 

「あ……待て」リュグナーはここに来てようやく。「待ってくれ!」

 

 魔族らしく命乞いをする。

 

「死にたくない……助けてくれ。私はアウラ様の命に従っていただけだ」

 

「……本当に?」アナリザンドは気だるそうに聞いた。

 

「本当だ。私はアウラなんて……、あんなたまたま魔法に恵まれただけの天才なんて本当は反吐が出るほど嫌いだったんだ!」

 

 その反吐がでるほどに糞便のような言い訳に、アナリザンドは迷いが生ずる。

 たとえ、リュグナーの言い訳が虫けらのように拙いものであっても、彼が生きたいという想いは切実なものであるからだ。

 その素直さを評価して、やはり殺すのはやめておくべきか。

 誰だって死にたくはないのだろうし、彼だってそうだろう。

 

「認めよう。おまえが……、いや、あなたが私を越える才覚を持つことを」

 

「おまえになんか認められなくてもいいよ。でも、これ以上人を殺さないと約束するなら、殺さないでおいてあげる」

 

「わか――」

 

 光の刃が、リュグナーを貫いた。

 フェルンだった。

 わたしの妹は素直な良い子で、最初の約束を完璧に履行したのである。

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