魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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夜明け

 

 

 

「家族なんです。かけがえのないお方なんです……」

 

 フェルンは泣いていた。

 魔力を抑圧することは、感情を抑圧することだ。

 わたしは、フェルンちゃんが泣いているところをほとんど見たことがない。

 

 フリーレンはフェルンに泣くなと教育したのだ。

 それをわたしは虐待だと論じたが、フェルンちゃんも、それでいいと言っているから、しかたなく、そのままでいた。

 

 泣いていたら手が震える。手が震えたら上手に人を殺せない。

 

 けれど、フェルンちゃんは本当は感情豊かな女の子だ。

 その身の内には、巨大な感情がたゆたっていて、いつも身体の外に出たがっている。

 

「わかった。共犯になろう」

 

 いっしょに和睦をぶち壊そう。

 

 わたしは選ぶ。

 和睦を殺して、アウラを殺して、わたしを殺して、あなたを生かす。

 なぜなら、あなたは、和睦より、アウラより、わたしよりかけがえないのない存在だから。

 

「大好きだよ。フェルンちゃん」

 

 わたしは、フェルンちゃんの杖に手を添えた。

 フェルンちゃんが不思議そうに杖を見つめる。

 

 充填されていく人の力。

 けれど、それだけでは足りない。

 

「魔力を精密にコントロールする必要がある。HUDを展開して――、呼吸を落ち着かせて」

 

 これだけの距離をピンポイントで撃ちぬくんだ。

 フェルンちゃんの技量がいくら優れているといっても限界がある。

 わたしが補正する。人間の計算力を借りて、わたしが結果を引き寄せる。

 

 胸がはちきれるように痛い。

 初めて殺す。いやだ。殺したくない。

 フェルンちゃんはあんな小さな頃から殺せたのに。

 

 姉、失格だね。本当に。

 

「アナリザンド様。私は……」

 

 フェルンちゃんの顔には、後悔の跡がありありと見て取れる。フェルンちゃんはずっと前から頭の良い素直な良い子だったから、自らの手で和睦を破壊し、観念上のわたしを殺すということにちゃんと気づいていた。それでも、なおフリーレンを選んだ。わたしは棄却された。

 

 でも――、それでもいい。和睦もわたしも言葉に過ぎない。和睦のうえに五万人の領都に住む人々の想いが乗っているとか、それを踏みにじることになるとか、あるいは自分自身も和睦に連帯しようとしたのに、それを否定する自己矛盾とか。

 

 すべて――、すべて言葉に過ぎない。

 事実として、事象として、いまからやることは、アウラを殺すということ。

 

「集中して。もう、フェルンちゃんは選んだんだよ。選ぶことができたんだ。わたしもそうする。わたしがそうできるように願って。フェルンちゃん、わたしの殺意を支えて」

 

「わかりました」

 

 HUDに対象を拡大する機能はない。倍率を操り、遠距離から狙撃するという戦い方は、まだこの世に生み出されていないからだ。

 

 あるいは、数百メートル程度なら、フェルンちゃんがそのうち生み出しただろう。

 

 だけれども、20キロという超距離を貫くなんて発想は、この世界ではおろか、前世ですら不可能だったことだ。魔法にはそれを可能にしてしまう力がある。

 

 わたしはHUDのプログラムを書き換え、その場でカスタマイズした。

 

 権力者たちは、いつかそのことに気づくだろう。自分たちがどことも知れない場所で、凶弾に倒れることになるということを。そして、それをできえてしまう我々魔法使いを、その恐怖ゆえに確実に辺境に追いやるか、殺そうとするだろう。

 

――魔女狩りがはじまる。

 

 わたしは人の歴史を識っている。世界は狂乱の渦に巻きこまれる。テロリズムの歴史がここから始まるんだ。

 

「ターゲットの姿は確認できた?」

 

「はい……」

 

「身体の枢要部――、心臓のあたりを狙って。頭だと外す可能性が高い。チャンスは一度切りしかないよ。わたしが補正する。撃てと言ったら撃って」

 

「わかりました」

 

 わたしもHUDを起動する。フリーレンとアウラの動きが停まっている。アウラの天秤には、フリーレンの魂とアウラの魂がのっていた。

 

 アウラが勝ち誇った顔をし、フリーレンは何もかも諦めたような、そんな表情をしている。

 今回は20キロの距離で、音声を拾う機能まではつけていない。唇の動きを読む。

 

『フェルン……、あとのことは頼んだよ』

 

 風の動きを読む。重力の動きを読む。星の回転を読む。フェルンちゃんの心臓の音を読む。ターゲットの動きを読む。因果律の動きを読む。

 

「アナリザンド様。早く!」フェルンちゃんが叫んだ。

 

 もう少し調律が必要だ……。

 最後の因果を。フリーレンが杖を、銃口を自らに向けようとしている。

 そして幼子のように天を仰いだ。囁き漏れる魂の断末魔。

 

 

 

『助けて』

 

 

 

 フリーレンは願った。誰に乞うたかはわからない。もしかすると師匠であったというフランメかもしれないし、いっしょに戦った勇者ヒンメルかもしれない。アイゼン、ハイター、旅の仲間たち。もしくは、弟子であり妹であるフェルンちゃんにかもしれない。

 

 あるいは神に対して。

 だが、祈る対象がどうであれ、フリーレンは手を伸ばしたのだ。

 

 ここに因果の調律はなされた。

 

「撃て!」

 

 無窮の闇夜を一線の光が引き裂いていく。

 その光はよく見ると、黒と白が二重らせんを描き、踊るように前に進んでいく。

 フェルンは思い出す。

 魔法という一念で、一番岩を刺し貫いた時を。

 彼我の距離をゼロにする。

 あなたに逢いたいという魔法を。

 ソレは二十キロという途方もない距離を、一瞬で駆け抜け――。

 

 アウラの心臓あたりを掲げられた天秤ごと貫いた。

 本当は首を堕とされたかっただろう。

 自身の死すら選ばせない完全なる存在の否定。

 こんな最低最悪な殺し方を、魔法使いがしていいはずがない。

 

『なぜ……こんなところで……私が』

 

 自分が死にゆくことを理解して、アウラは驚いていた。胸のあたりには虚空があき、魔力の身体がそこから崩れるように散っていく。

 そして、何がそうさせたかを理解して、わたしを睨んだ。

 見えていないはずなのに、わたしが見ていると、彼女は信じている。

 

『取り立てが……早すぎるのよ……』

 

 そうだね。アウラ様。

 あなたとは隣人になれたかもしれない。

 こうして、わたしは初めて人を殺した。

 

「ごめんね。フェルンちゃん。気分が悪くなってきたから、わたしいったん帰るね」

 

 そっと触れていた手を離す。

 手のひらのぬくもりはすぐに消えて、冷たくなった。

 

「アナリザンド様……」

 

「フリーレンが待っているよ。行ってあげて」

 

 わたしは応えを聞かず、すぐさま家に帰って、トイレの便器に向かって吐いた。

 気持ち悪い。こんな不快感は――久しぶり。

 前世の残滓がけたたましく騒ぎ立てている。

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 

「あああああああああ!」

 

 本当に、反吐がでる。

 

 

 

 

 

 

 

「フリーレン様!」

 

 傷ついた身体では二十キロを走り抜けるのに時間がかかった。

 一時間か、二時間か、ともかくそれほどの時間がかかったのだ。

 頭は混乱で、言葉にならない言葉を発し、身体が、魂が震えるほど寒い。

 

 それでもフェルンは走らなければならなかった。

 フリーレンは待っている。そう、アナリザンドは言ったのだから。

 

 そして辿り着いた。

 

 朝焼けが戦場跡を照らしていた。

 太陽の光に包まれて、凄惨さは覆い隠される。

 モノ言わぬ躯たち。バラバラの死体。むせかえるような死の臭い。

 大地を見れば、めまいのする光景が転がっている。

 

 けれど汚泥に咲く蓮の華のように、フリーレンが死体に包まれ鎮座していた。

 フェルンは言葉にできない神々しさを感じた。空っぽだったからだ。自我という穢れが消え、フリーレンの精神は神の不在に近づいている。取り残された戦災孤児のように、フリーレンが感情を感じさせない瞳で、目の前の風景を見ている。

 どう声をかけていいかわからず、シュタルクが静かに見下ろしていた。

 

 ああ――、あれは()だ。

 フェルンは空っぽだった自分を思い出した。

 戦争で両親が死に、自死したかった自分。

 本当の望みは自死ではない。自死ではどうしても生きようとしてしまう。

 現象としての肉の身体を殺すことではなく――、ただ、消えたかったのだ。

 

 フェルンはフリーレンが今にも消えそうに感じ、一秒でも早くフリーレンを抱きしめ、彼女がそこにいることを確かめたかった。

 

 

 

 

 

「フリーレン様!」

 

 耳長の耳に、弟子の声が届く。

 フリーレンはかすかに顔をあげて、フェルンを見た。

 肩のあたりを怪我している。走り方がわずかにぎこちない。

 杖を握るのも忘れて、汗まみれで、必死の形相で走ってきている。

 

――いつも、冷静沈着にって言ってるのに。

 

 フリーレンのどこかが思う。

 

 フェルンは二メートル前で、きっかり停まった。

 抱きしめたい衝動を抑えて、壊れてしまわないように、そっと微笑んでいる。

 

「フリーレン様。大丈夫です。断頭台のアウラは私が討滅しました」

 

――ああ、嘘をつくのがうまくなったね。

 

 フリーレンのどこかが思う。

 

 フェルンに対しては魔族を殺すために嘘をつくことを教えた。フリーレンはフェルンが和睦に向けていた想いを識っている。アナリザンドに共感し、共に和睦を目指そうとしていた。

 

 フェルンは、フリーレンを助けるために、アナリザンドの思想を殺し、そしてその思想に共感しているはずのフェルン自身をも殺したのだ。

 

 なのに、大丈夫なはずがなかった。

 

 その微笑の裏には、引き裂かれるような痛みがあるはずだった。

 

 だから、その優しさは嘘でできている。

 フェルンの手はかすかに震えていた。

 

 アウラもそうだったのかもしれない。

 あのとき、かすかに風に揺れた天秤は、殺される恐怖がゆえだったのではないか。

 

「ごめん……」

 

 ぽつりと――、フリーレンから言葉が漏れ出た。

 

 ほとんど意識せずに、空っぽのこころの中から、突然、言葉の雨が生じたみたいに。

 降る。降ってくる。言葉の雨が降りそそぐ。

 フェルンの魔法は、あのときヒンメルと見たエーラ流星のようで。

 空っぽの容器はすぐにいっぱいになり、溢れだした。

 

「ごめ――。ふ、フェ、フェ……ルン……ごめん……」

 

 弟子のこころを踏みつけにした後悔。涙。ヒンメルの矜持を穢した後悔。涙。聞かん坊の自分への恥ずかしさ。涙。弟子の前で取り乱す自分へのふがいなさ。涙。殺す方法しか教えてこなかった申し訳なさ。涙が、涙が止まらない。引き裂かれる。消えてしまいたい。死んでしまいたい。でも、生きたい。死にたくない。こんな――こんな矛盾している存在だった。私はどこまでも人間だった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! うぉぉぉぉぉぉん! うぉぉぉぉぉぉん!」

 

 癇癪を起こした子どものように、フリーレンは泣いた。

 

「大丈夫です。フリーレン様。何も怖いことは起こりませんよ」

 

 フェルンはひざまずき、フリーレンを抱いてあやした。

 

 

 

 

 

 後処理というのは、人間が現実に生きるうえで、どうしても必要になってくる。

 フリーレンが宿にひきこもり、ずっとずーっと泣きわめいており、フェルンがフリーレンにつきっきりで慰撫しているという状況である以上、残された人間たちは、事態に対処しなければならない。

 

 アナリザンドも体調を崩したとかで、引きこもり中だ。

 

「なあ、リーニエ」

 

 ただ唯一動けるフリーレンパーティのひとり、シュタルクはリーニエに話しかけた。

 リーニエはいま、ソファに寝っ転がって、リンゴをかじりながら、神に上奏している。

 アイゼンの年齢を若くすればいいんじゃないかという回答がなされ、マジ神すげぇとなっていた。

 賓客か捕虜かは微妙な立場であるが、ともかくニート生活を満喫中であった。

 

「ん。シュタルクか」

 

「おまえに頼みがあるんだ」

 

「なにを?」

 

「おまえ、アウラの代わりに和睦調印できないか?」

 

「それになんの意味がある? 魔族は敗北して、もう私ひとりだ。そんな私も、フリーレンの部下に負けたただの雑魚。ついでに言えば、アナリザンドにも指先一本で殺されるよ。なにもできないじゃない。魔族なんていなかったものとして、人間たちは智慧と勇気で巨悪を打ち倒しましたってほうが簡単でしょ」

 

「そりゃそうかもしれねーけどよ。姉ちゃんも、フェルンも……グラナトのおっさんも、城の衛兵のみんなも、街のみんなも、和睦を願ってたんだ」

 

「ふうん。それ本当? グラナト伯爵は、息子の死体を取り返したかっただけでしょ。死体バラバラになっちゃったらしいけど、いまでも和睦を願ってるの?」

 

「ああ……」

 

 シュタルクが一番最初にしたことは、ごくごく自然なこと。

 首無しの――というより、もはや肉塊と成り果ててしまった、それらを葬るための巨大な穴を掘ることだった。持ち前のパワーで、大きな穴を堀り、そこに何もかも合葬する。

 

 城の衛兵たちも手伝ってくれた。

 

 それが、人間にできた唯一のことだった。

 

 グラナト伯爵は、もはや息子の遺体がどこにいったかもわからない状況に、目をつむって耐えていたが、それでも、フリーレンを赦した。そして、魔族も。

 

「あのおっさんは、アウラもいっしょにって言ってたぜ。つえーよな……オレなんかよりずっと」

 

 アウラの形見は、壊れた天秤だった。

 魔力のカタマリであるそれは、唯一破壊されることなく残っていた。

 放っておけば霧散するかもしれないが、それをいっしょに合葬することを、グラナト伯爵は赦した。アナリザンドの、アウラは和睦を望んでいたという言葉を信じたからだ。敬意を払うべき存在だった。葬られ、祀られるべきだった。たとえ、かつて敵であったとしても、人間だからこそそうしなければならない。

 

「まあいいや」

 

 そのあたりの事情は、リーニエにはわからない。

 けれど――、そう、シュタルクが願っている。

 あのすさまじい享楽をもたらしたシュタルクという存在が、自分に乞い願っているのだ。

 へその下あたりが、強烈にうずく。

 

「もほ……、おまえには借りがあるからな」

 

「なんだよそれ。オレ、おまえに何かしたか?」

 

「そこに立っているだけで、おまえは偉いんだよ」

 

「あいかわらず、魔族の言葉はわけわかんねぇ……」

 

「わけがわからなくても、おまえの言葉は私を動かしたんだ。まあ、人間たちは気づかないだろうけど」

 

 そう、人間たちはシュタルクがどんな偉業を達成したのか誰も気づかないだろう。

 フリーレンが鎧を吹き飛ばし、フェルンが七崩賢を打倒したという、わかりやすい偉業に目を奪われるだろう。それはそれで間違ってはいない。

 

 けれど、最後の和睦の刺客は――、シュタルクだったのだ。

 彼自身も気づいていないだろうけど。

 

「無知シチュもいい……」

 

 リーニエは虚空に向けて呟いた。

 

 

 

 

 

 そんな報告をシュタルク君から受けて、わたしは落ち込んでいた自分が恥ずかしくなった。

 ちょっとうまくいかなかったからって、立ち止まっている場合じゃない。

 シュタルク君は、動かなくなったみんなの分まで働いてくれた。

 

「シュタルク君。かっこよくなったね。大好きだよ」

 

 わたしにはかわいい妹だけでなく、頼りになる弟もいたのだ。

 そのことを思い出して、最後の仕事に、わたしはでかけた。

 

 世界で初めての和睦の配信。

 会議室は厳粛な空気に包まれ、魔族の少女リーニエは亡くなったアウラの名代としてそこにいる。

 そして、リーニエの隣にはわたし。

 わたしは、リーニエの保証人になっていた。

 

 カバーストーリーとしては、アウラ自身は和睦を望んでいたが、ドラートやリュグナーはそうではなく、内紛が起こり、そのなかでアウラが討たれたというもの。

 

 リュグナーの死にざまは、誰にも見られていないので、フリーレンと戦ったのはリュグナーということになった。リュグナーの最後は、フリーレンと共闘したアウラと戦い敗れたということになっている。外交官にスパイに黒幕にと、八面六臂の活躍ぶりである。彼もあの世で鼻が高いだろう。

 

 そんなわけで――。

 

 残されたリーニエは、アウラの意志を継ぐ者として定義された。

 彼女は七崩賢であるアウラに比べれば格が落ちる存在ではあるが、相続人がひとりであるならば、アウラの格も引き継いでいるとみなされる。それが人間の流儀である。

 

 ただ、力不足は否めない。

 人間にとって、名もなき魔族と和睦を結んだところで、なんの意義があるのかという声も当然出るだろう。

 

 そこで、わたしはグラナト伯爵に提案したのだ。

 

 わたしが保証人になると。いままで人間の外交官をやっていたのに、突然の鞍替え。違和感半端ない。でも、なにはともあれ、わたしは名前が売れている。保証人としての価値ぐらいはあるのだ。

 

「人間と魔族はここに和睦が成立したことを認め、互いに殺しあわず、手をとりあい、笑顔をかわしあい、こころを交わし合って、生きることを誓いますか」

 

 あのときグラナト伯爵を治療した神父さんが言った。

 

「誓おう」グラナト伯爵が言う。

 

「誓うよ。神様の名にかけて」リーニエが言う。

 

「魔族に神はいるのか?」グラナト伯爵は聞いた。

 

「いるよ。女神様じゃないけどね。ああ……女神以外の神さまに誓うのがダメなら、己の魂にかけてとでも言い直したほうがいいか?」

 

「いや……そのままでいい。言葉なんぞ、これからいくらでも交わせるのだから」

 

「ではサインを」

 

 グラナト伯爵と、リーニエがサインをする。

 

 そして、わたしもそこに書き加える。

 

 そうして、史上初になる人間と魔族の和睦は成った。

 

 

 

 

 

 

 本当の後日談。

 

「疲れたよー。先生」

 

 わたしはべったりとゼーリエにくっついていた。

 ゼーリエは椅子にあぐらをくんで座っていて、なんかの本を読んでいた。

 うっとうしそうにわたしを見る先生である。

 

「ぜんぜんうまくいかなかった」

 

「そうだな」

 

「わたしの中におごりがあったんだと思う」

 

「そうだろうな」

 

「先生、わたしをちゃんと見てよぉ」

 

「なんだ。私は結果なんぞどうでもいいといったはずだ。おまえは好き嫌いをきちんと分けることができたのか。毎日、素直に過ごしていたか?」

 

「素直になろうとはしたよ。わたしがんばった」

 

「ふん。ならいい。私は何も言わん」

 

「先生、わたしを慰めてよー。フェルンちゃんには殺されちゃうし、アウラ様死んじゃうし、結末だけ見たら、敵がいなくなって平和になっただけっていう、ひどすぎる結果なんだけど。兵隊さんたちの鎧はグチャグチャのドロドロだしさ」

 

「くだらん。おまえは失ったものに目を向けすぎだ。あの魔族の少女――リーニエだったか。そいつが生き残ってるだろうが、それに牢番の衛兵だったか……。ついでに言えば、グラナトの坊やもおまえにずいぶん助けられただろうさ」

 

「そうかなぁ」

 

「気に病みすぎだ。人間なんぞ勝手に助かる。それより今月の支払いがまだだぞ。グラナト伯爵から一億APもらったんだろう。早く私に渡せ」

 

 取り立てが厳しいゼーリエである。

 

「あ、わたしちゃんと補填したからね。一億APグラナト伯爵にもらった委任料を、全部、フェルンちゃんたちが壊しちゃった壁や屋台の代金や、鎧すら無くなっちゃった遺族の方に渡したんだよ。だって、わたしは保証人ですから!」

 

 ドヤ顔になる。要するに素寒貧である。

 

「ち。まあいい。和睦を成立させたおまえを私が褒めてやろう。ゼンゼがうまい紅茶を出す店を知っている」

 

「わたし、いま文無しだよ」

 

「そんなことは知っている。心配するな。私の()()()だ」

 

 ゼーリエ先生に連れられて、わたしは人間たちの街に繰り出した。

 

 人間たちの喪が明けて、街は光に照らされる。




区切りまでたどり着いたよ。
感想と評価をお待ちしてます♡
いつも読んでくれてありがとうんこ♡
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