魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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罪と罰

 

 

 

――私は罪を犯しました。

 

 ()()()使()()フェルンの著書にて、その述懐は見つかった。

 その著書は著者の死後、五十年経ってから開封される封印を施されたものであり、先のグラナト戦役における歴史の転換点となった和睦について、その根底から覆すものだった。

 

 我々の歴史においては、七崩賢アウラとフリーレンは肩を並べ、()()()()()であったリュグナー及び、その子飼であるドラートと激烈な戦いをし、最終的にフェルンの魔法によってリュグナーたちを打倒したというものであった。

 

――英雄フェルンの誕生である。

 

 その報はたちまちグラナト領内に布告されたが、ついにフェルンは和睦の場にあらわれることはなかった。

 

 記録によれば、アウラの従える五百を超えるグラナトの兵たちの鎧が、リュグナーとの戦いで壮烈なまでに散り、アウラ自身も塵へと消えたとなっている。フリーレンも存命したものの、その戦いの中で消耗しきり、数か月の間はまともに生活できなかったとされる。

 

 フリーレンの評価は、当時の記録では曖昧である。巨悪を打倒したということに鑑みれば、フェルンとともに英雄としてみなされてもおかしくはない。ただ、それはフェルンの名に隠されている。

 

 ここに歴史の謎が残されていたのだ。

 

 その理由は、フリーレンが街中で魔法を放つという危険行為を行ったことと相殺されたということと、リュグナーという巨悪と戦うゆえにいたしかたなかったことであるが、戦いのさなか英霊たちの鎧を幾分か損壊してしまったがゆえというのが通説とされた。

 

 しかし、そうではなかった。

 

 真実は、アウラとフリーレンが些細な行き違いから交戦状態に突入し、兵たちの鎧をすべてことごとく破壊したのはフリーレンだというのである。

 

 リュグナーは一介の魔族にすぎず、当時のグラナト伯爵を害しようとしたところをフェルンとアナリザンドの手によって討たれ、ドラートにいたっては戦いに参加すらしておらず、その前にフリーレンを暗殺しようとし、逆撃をくわえられむなしく散ったとされる。

 

 アウラを討ったのはフェルンである。死力を尽くして戦っていたアウラとフリーレンがいよいよ最後に至り、フリーレンが殺されようとしていた。だから、やむなくアウラを殺したと書かれてある。その文字は震えており、捻じれ狂い奇態を成している。

 

 アウラの内心が和睦にあったか否かまでは、この著書からは読み取れない。しかしながら、フリーレンの弟子であり、アナリザンドの妹であるフェルンにとっては、その点に関しては沈黙せざるをえなかったのだろう。断言してしまえば、どちらかが悪となってしまうのだから。

 

 こうして、いまフェルンの心の内が晒されているのは、彼女自身が罪と述懐していることからも、その罪の重さに耐えられなかったからではなかろうか。

 

 すべてを伝えられたグラナト伯爵が信じたのは、おそらくアナリザンドのほうであったと思われる。アナリザンドはアウラを説得し、和睦へと向けさせたとされることから、フリーレンが和睦を破壊したと考えたはずだ。

 

 何故そう言えるかというと、繰り返しになるがフェルンを英雄に据えおいたからである。グラナト伯爵は英霊たちの魂ともいえる鎧を壊してしまったフリーレンに対し、怨みの念を抱いたのではないだろうか。しかしながら、グラナト伯爵を助けてくれたのも、アナリザンドの命をうけたフェルンだったのである。グラナト伯爵は自身の闇を呑みこんだ。その政治的表現が、フリーレンを無視するかのように記述し、フェルンを英雄と呼ぶことだったのである。

 

 しかるに、フェルンは和睦という事象に対して、破壊と創造を同時になしたともいえる。

 ゆえに、グラナト伯爵は、フェルンに対して英雄という地位を授けたのである。

 

 英雄は、事実として見ればただの殺戮者に過ぎない。戦争という場において誰よりも人を殺したから英雄と呼ばれる。

 

 グラナト伯爵はフェルンにフリーレンの責任を、あるいは和睦を破壊した責任を負うよう申し向けたのだ。そして、フェルンはそれを受け入れるほかなかった。フリーレンを守るために。アナリザンドに贖うために。

 

 つまり、英雄という称号は、彼女にとって()にほかならなかったのである。

 

 ――『大魔法使いフェルンの告解に寄せて。 著者『      』――

 

 玄関口にノックの音が響き、少女は睨んでいた小窓から目を離し顔をあげた。

 ドアを開けると、見知った顔。人好きのする微笑みを浮かべている彼女の姿。

 少女は笑顔で迎え入れる。

 

「あ、――――様。お久しぶりです。いま大婆様の封書を読んでおりました」

 

「本当によろしいのですか? 封書の内容を公開してしまっても」

 

「かまわないと? 口さがない人々に良いように解釈されるかもしれません」

 

「大婆様からの贈り物だからですか? よくわかりません」

 

「はい。あなた様のお言いつけどおり、良い子でいます」

 

「もう、旅立つのですか?」

 

「はい、またのお越しをお待ちしております」

 

 少女は少女の姿をした彼女に撫でられ、人類の歴史は続いていく。

 

 

 

 

 

 合わせる顔がなかった。

 

 フェルンはアナリザンドに対して罪の意識を覚えていた。フリーレンの命を助けるために、アナリザンドの思想も、領都の人々の想いも、アウラの命も、すべて殺してしまった。

 

 口では良いように言いながら、結局のところ、自分には和睦なんて言葉はどうでもよかったのだ。姉のように慕っているアナリザンドが笑顔になるならそれでよかった。しかし、そのアナリザンドすら殺し、フリーレンを選んだ。アウラと仲良くできたといって無邪気に喜ぶアナリザンドの顔が苦しそうに歪んでしまった。

 

 どの面下げて逢えるというのだ。

 

 アナリザンドは今も気遣うような通知を送ってくれている。そのすべてを未読スルーする。

 

<大丈夫?>

 

 そんなやわらかな言葉にさえ突き刺すような痛みを感じる。

 

 もはやいまは手元に残った、すべてを犠牲にして手に入れたぬくもりを――フリーレンを抱いて眠ることしかできない。

 

 フリーレンは戦いで身もこころも疲れ切ったせいか、いまも泣きわめいている。

 その理由は、フェルンには理解できないが、おそらくヒンメルのポジションにフェルンがおさまったからではないだろうか。フリーレンはヒンメルを殺した。だから、フリーレンも合わせる顔がなかったのだ。だから、フェルンにすがった。

 

 ここにふたりの共依存関係が成立し、いわば共犯的に疑似的な母子関係ができあがっていた。もともとフリーレンは生活がだらしない。千年くらいは掃除しなくてもいつかやればいいやと思っている節があり、必然的に品行方正な生活を望むフェルンは母親的ポジションにおさまりがちだったということもある。その関係性が今回の件で強化されてしまったという感じだ。

 

 三週間ほど経過し、いまではぐずるような泣き方になってはいるものの、いまもフリーレンの喪は続いている。

 

 引きこもりを無理やり外に連れ出したのもよくなかったのだろうか。荒療治は功を奏することもあれば、むしろ悪化することもある。アナリザンドに偶然出逢ってしまったことも悪かった。

 

 そもそもにおいて"逢う"というのは不吉なことなのである。その言葉はあえて選択的に記述されている。夕暮れ時誰ともわからぬ影を認める。だから人は誰かと出逢うとき、自身が敵でないことを知らしめるために、あるいは自身の恐怖を抑えるために、笑顔を浮かべるのだ。

 

「フリーレン様。ごはんですよ。あーんしてください。あーん」

 

 スプーンでスープを掬い、フリーレンの口元まで持っていく。

 

「フェルン……口開けられないから代わりに開けて……」

 

「なにいってるんですか。口くらい自分で開けてください」

 

「フェルン。おしっこしたくなってきちゃった」

 

「ええ……、ご自分でトイレくらい行ってください」

 

「フェルン、代わりに行ってよ」

 

「そんな魔法はありませ……いや、あるんでしょうか」

 

 身体の座標転移が可能であるならば、部分的な座標転移もまた可能かもしれない。

 フェルンにはいまだ難しくて視界の先の数百メートルほどの距離しか転移できないが、フリーレンならばそれを覚えれば、膨大な魔力に任せて、部分転移も可能かもしれない。

 

 しかし――、自分のお尻も拭けない師匠はダメだろう。

 

 フリーレンの今の姿は責任を放棄してしまっているように見える。いや、自分の責任を直視するのが怖いのだろう。フェルンに甘えてしまっているのも、自分を拾い上げてくれたフェルンに捨てられないための媚びなのもしれない。あるいはどこまでなら赦してくれるかを試しているのかもしれない。

 

 フリーレンは子ども還りしている。

 

 フェルンがいまフリーレンを手取り足取り介護できているのは、晩年のハイターを介護した経験があるからだ。穢れとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()ところではあるけれども、ほとんど歩くこともままならなくなったハイターをトイレに連れていったりもしている。

 

 だから、人間の死に近づく姿が――本当は――現実的には――さほどキレイなものではないことも識っている。若い頃の深酒がたたったのか肝機能が衰え、白かった身体には黄疸ができて、呼吸をするのすらしんどそうで、なでつける手は枯れ枝のようだった。

 

 それでも、ハイターはフェルンに自分の尻を拭かせなかった。それが肉体的に衰え、ほとんど身動きすることすらできなくなった彼の矜持――人間の精神の輝きだったのである。

 

 今のフリーレンは逆だ。肉体的には衰えてはいない。傷ひとつついていない。

 精神的に追い詰められ傷ついているのはわかっている。けれど、輝きはくすんで、いまにも消え入りそうだ。たとえ肉体が滅んでも、フェルンは魂の輝きを信じている。いまのフリーレンの姿は見るに堪えない。

 

「怒りますよ。フリーレン様」フェルンは叱咤するために言った。

 

「フェルン……」

 

「もう三週間ですよ。和睦が成立して人間たちの喪は明けました。フリーレン様も、そろそろいいのではないでしょうか。わたしにはエルフの時間感覚というものはわかりません。ですが、後悔ばかりしていても始まりません。泣いてばかりでは前に進めないのです」

 

 フェルンは嘘をつく。

 身を裂かれるような後悔をいまなお感じているのは、フェルンも同じだ。

 だから、アナリザンドと対話をしない。顔をあわせられない。

 

「…………」

 

 フリーレンは応えない。

 

「旅はこれで終わりなんでしょうか」ぽつりと呟く。

 

「…………」

 

「フリーレン様がよろしければ、ハイター様が残してくださった家に帰りましょう。そこでいっしょに静かに暮らしましょう。私はそれでもかまいません」

 

「ごめん。フェルン……。私はあの魔族に敗北したんだ。今は一歩も動きたくない気分なんだ」

 

 あの魔族というのが、アウラではないことはすぐにわかった。

 

「アナリザンド様はフリーレン様と戦う気はございませんでした。今もそうです」

 

「そうだよ。私が勝手に戦って勝手に負けたんだ。馬鹿みたいだ。たかが六十年そこらしか生きていない魔族に千年以上生きたエルフが()()()()()で負けたんだよ」

 

 フリーレンはうちひしがれている。

 

「人間らしさは勝負するようなことではありません」

 

「だけど、私がもう少し人間のことを識っていたら、ヒンメルを殺さずに済んだかもしれない」

 

「ヒンメル様がもし生きておられて、同じような状況に遭遇したら、アウラを殺すことを戸惑われたかもしれません。フリーレン様はヒンメル様の精神を殺したとお考えのようですが、そんなことは事実不可能なのです。なぜなら、死者の魂は私達には見えないのですから」

 

「そうだね……。でも、ヒンメルは私に人間らしさを教えてくれたんだよ。私も少しは人間らしくなっているかななんて思っていたんだ。けれど、そんな人間らしさも私の中ではひとつも根づいてもいなかった。私があの戦いで殺したのは――殺してしまったのは――、人間の幼女の私だよ」

 

――自己嫌悪。

 

「フリーレン様は十分に人間らしいこころを持っております。ハイター様から託された私を一人前の魔法使いに育ててくださったのは、他ならぬあなた様です」

 

「ヒンメルならそうしたからだよ」

 

「フランメの著書を見つけるとき、私の時間を気遣ってくださいました。人間が短い生しか生きられないことに心を寄せてくださったのは、あなた様です」

 

「ヒンメルならそうしたからだよ」

 

「いつも私のために悩んでくださり、私の喜ぶ顔を想像して、誕生日プレゼントを贈ってくださるのは、あなた様です」

 

「ヒンメルならそうしたんだ。私は人間(ヒンメル)の物真似をしているエルフに過ぎないんだよ。所詮は異種族なんだ。魔族よりは人間に近いってだけで、本当のところは人間の心はわからないんだよ」

 

「いいえ!」フェルンは否定した。「私の十六の誕生日に、私に行くなと訴えたのはどなたですか?」

 

「……私だよ」

 

「私がいま部屋を出ていったらどう思いますか?」

 

「行かないでほしいと思う」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「私がそう願っているから」

 

「人は人とつながりたいと思うものです。あなた様は私を求めてくださった。フリーレン様の人間らしさは少しも損なわれておりません。私が保証いたします」

 

「私は怖いんだ。また、間違えてしまう気がして」

 

「何が間違って、何が正しいかなんて、その時、その状況で異なるのです。考え続けるしかありません。後悔しながら生きていくしかないんです」

 

「そんな思考方式疲れちゃうよ。ヒンメルならそうしたって言えば、カンタンなのに」

 

「幼年期は終わりにしましょう。もう自分の足で立つときがきたのです。お支えはいたします。だから、立ち上がってください」

 

「……もう少しだけ待ってくれないかな。エルフは時間がかかる生き物なんだ」

 

 フリーレンはあいかわらずメソメソしていたが、ほんのわずかだけ光が灯った気がした。フェルンの心の中にも。

 

「わかりました」

 

「ひとりにしてくれないかな」

 

「……わかりました。何かあれば呼んでください」

 

 フリーレンがこのとき三週間ぶりにフェルンを遠ざけた。

 

 

 

 

 

「確保~~~~」

 

 宿を出て、介護グッズの買い出しにでも出かけようとしていた時のことだった。

 フェルンに抱き着いてくるローブ姿の影があり、腰元に重力を感じた。フェルンは一瞬、暗殺かと思い、反応しかけたのだが、その声やぬくもりや重さが以前感じたものであるとすぐに察し、刃を収めたのである。

 

 アナリザンドだった。

 

「アナリザンド様……」

 

 猛烈にすりすりしている。

 なりふりかまわないあざとさの爆弾。

 魔族の奸計に、フェルンは戦慄を禁じ得ない。

 かわいさの余りに、おもわず噛みつきたくなってしまうほど。

 なんの冗談だろう。魔族を喰べる人間なんて。

 

 フェルンは罪悪感のため、アナリザンドの背中に腕をまわさなかった。

 見上げてくる視線は、うるうるしていて、もうそれだけで目をそらしたくなってくる。

 すりすりすりすりすりすり。魔族の角(なぜかカバーつき)が胸のあたりに擦りつけられる。

 

「アナリザンド様、おやめ……おやめください……」

 

「フェルンちゃん。どうして返信してくれないの。わたし、めんどくせー女は目指してないけど、さすがに哀しいよ。フェルンちゃんともっとお話ししたいよ」

 

「すみません。アナリザンド様」

 

「もしかして介護疲れってやつ? ヤングケアラーは大変だもんね」

 

「そういうわけではないのですが……」

 

「ごめんね。フリーレンのことを悪く言うつもりはないんだけど、どうしても、フェルンちゃんをとられちゃったって思うと、悪口を我慢できなかった」

 

 エルフ顔になるアナリザンドである。

 フェルンもフリーレンがその顔になるのを何度か見ている。

 アナリザンドは、同じエルフであるゼーリエと配信に出演したらしい。

 フェルン自身はフリーレンにつきっきりだったため、その配信は見ていないのだが、シュタルクに聞いた。やはりゼーリエとなんらかのつながりがあるのだろう。

 

「合わせる顔がなかったんです」

 

「どうして? そんなことないよ」

 

「私はアナリザンド様ではなくフリーレン様を選んでしまいました」

 

「そういう観念的なことは置いておいてさ。人間は強欲だからどっちも選んでもいいんだよ。わたしも選んでほしいな。フェルンちゃんはわたしがお姉さんだったら嫌?」

 

「嫌じゃないです」

 

「わたしはフェルンちゃんと何度でも出逢って、何度でもお話しして、何度でもいっしょにお茶したいって思ってるよ。フェルンちゃんはどう?」

 

「私もそうしたいです」

 

「なら、わたしと出逢うたびに罪の意識を感じたりしないで。逢うときはお互い笑顔でいよう」

 

「難しいです」

 

「フェルンちゃん」アナリザンドは手を差し出す。「いっしょにデートにいこうよ」

 

「デートですか……」

 

「うん。いっしょに甘いスイーツを食べて、お茶しよう」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 気づけばドーナツを10個ほどたいらげて、フェルンは愚痴っていた。

 甘いものを食べると体重が重くなるのと引き換えに、口が軽くなるのがフェルンだ。

 

「せめて誤射だと言ってくださればよかったんです。和睦を望んだアウラ様は哀れにも新米兵士であるフェルンの誤射によって倒れた……。英雄は誰もいなかった。戦いはむなしい。そんな歴史だとダメだったのでしょうか」

 

「誤射で、倒される七崩賢って……」

 

「私が英雄だなんて……。こんな穢れた称号。伯爵様はひどいお方です」

 

「でも、フリーレンを赦してあげたんだよ。それに英雄というのはまぎれもなく誉れ高い称号でしょう。グラナト伯爵にとってもだけど、その意味は両義的なんじゃないかな。リュグナーを倒したのはまぎれもなくフェルンちゃんなんだし」

 

「アナリザンド様がおっしゃってくだされば……」

 

「わたしに甘えちゃってるフェルンちゃんかわいい」

 

「すみません。失言でした。私にそれを言う資格はありませんね」

 

「わたしは人間の歴史には干渉しないようにしてるの。グラナト伯爵には、この戦争を記述する権能があるよ。もちろん、フェルンちゃんやフリーレンにもあるけれど、自白することになるから言わないほうがいいと思う。グラナト伯爵が赦さないよ。赦せなくなるから」

 

 大義名分という意味で赦せなくなる。

 フリーレンの罪を黙っておくというのがフェルンちゃんに課せられた罰だ。

 

「こうして人間の歴史は生き残った人間の都合の良いように書き換えられていくんですね」

 

「魔族なんてもっとひどい扱いだよ。リュグナーはなぜかはわかんないけど、七崩賢と葬送を相手取っても戦えるくらいの強敵になっちゃってるし、笑っちゃったのが魔王の息子なんだってさ」

 

「ドラートなんか、戦いの余波でいつのまにか死んだ扱いですもんね……」

 

 フェルンちゃんがなんともいえない表情になる。

 ドーナツを詰め込みながらなので、やはりリスみたいだ。

 栄養はどこにいってるのだろうか。――おっぱいか。

 

「フェルンちゃんはお墓の中まで秘密を持っていかなくちゃならない。でも、わたしも同じように誰にも言わないよ。いっしょに撃ったんだもんね。覚えてるよ」

 

「申し訳ございません。それでも、私はフリーレン様のことが――」

 

 身を乗り出して、唇にそっと人差し指を添える。

 言わなくてもわかっているし、言いたいこともわかってる。

 

「デートでは他の(ヒト)のことを話すのは禁止だよ」

 

 人間の作法をわたしは教える。

 フェルンは寂しそうに笑って、その作法に従った。

 

 姉妹のデートはそれから何十年も――、いや百年近く続くことになった。

 最後のラブレターを受け取ったのはふたりの姉のうちいずれだろうか。

 そのとき、ひとつの歴史の謎が殺され、新たな歴史の謎が生まれたのである。

 

 人の歴史が続いていく――。




ちなみにシュタルク君はリーニエちゃんとしっぽりデートしていた設定。アナリザンド殿に抱き着き、あまつさえ許可なく角をしゃぶるようなガキはこの程度の扱いでよいと、グラナト伯爵は言ってたとさ。
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