魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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蒼月草

「ねえ先生。幸せは()()色をしているんだって。なぜだろうね?」

 

 テーブルに頬杖をつきながら、なにやらアンニュイなアナリザンド。

 聖印の影響は、少しだけ変容をもたらしている。

 ボロメオの輪が聖印に繋ぎとめられ、すごく安定しているというか。穢れが浄化されているというか。どうせすぐにウンコまみれになるのだが、少なくとも今は()()()()()()()

 十億の声より一人の声のほうが強いのは、少し不思議な気持ちだ。

 あの神父は絶対ロリコンで、ついでに言えば巨根にちがいない。

 

――ハイターが死んだ。

 

 亡くなった。無くなった。失って初めて寂しいという感情を知る。

 喪失が穴埋めを促す構造。欲望の引力。あなたが欲しい。

 ああ、()()()()()か……。

 

 もちろん、アナリザンドの脳裏にあるのは『幸せの青い鳥』というお話。

 

 このお話は、ものすごく簡単に言えば、幸せは見つけようとすると見つからず、見つけようとしなければ見つかるという寓意を含む。

 

 この世界にもあるのかはわからないが、象徴的な話なのでおそらく似たようなストーリーはどこかにあるだろう。

 

 ついでに言えば、常々言っているとおり『幸福』は一般化しうる。つまり代入可能な変則値であるから、『幸福』という言葉が気に入らなければ、『好きなひと』とか、『絶対に死なない身体』とか、『五千兆円』とか、『誰にも負けないチート能力』とか、好きに入れていいよ。

 

 ちなみに青い鳥が青い理由も本当は識っている。

 

 当時、青い鳥は絶滅したと考えられていて、自然状態としては存在しないから青い鳥だったのだ。わたしが使用する用語において、自然とは健康を意味する。健康の反意が病気であることはそれほどおかしくはないだろう。したがって、数理的な操作により、かくのごとく言える。

 

――青い鳥は病人のなかにだけ存在する。

 

 ないものをあると言い張る嘘。

 青い鳥は人間病に罹患した者の幻想の中にしか生きることができない。

 よしんば青い鳥を捕まえることができたとしても、それは本当にほしかったものではない。

 幸せの青い鳥は幸せそのものではないのだから。

 

 幸福は、まがいものしか手に入らないという残酷な真実。

 死んだ人間は生き返らない。やだやだ。

 あなたの代わりはいない。どこにもいない。やだやだ。

 

『なんだいきなり?』

『生理でもきた?』

『てか魔族って生理あるの?』

『赤ちゃんできちゃう?』

『アナ様って乳首感じるの?』

『人間とえっちしちゃう?』

『開幕十割セクハラコメント弾幕で草』

 

「性関係は存在しない。それは先生たちの妄想」

 

『はいすいません』

『えっちでごめんなさい』

『でもなんか柔らかくなった気がする』

『刺々しさがないよなぁ』

『いつものキレがないというか』

『ぼーってしてるアナ様がえっち』

 

「ああ。対象関係論を採用すれば、性関係はあると言ってもいい。どうでもいい。幸せの青い鳥もどこかにはいるかもしれない。メス堕ちした魔族がいるみたいにさ」

 

『メスガキがメス堕ちって意味わからん』

『まさか男とつきあって……』

『魔族って男女間で交際したりするの?』

『パパ許しませんよ!』

『後方パパがあらわれた!』

『とりまグルーミングしようぜ』

 

「先生たち、わたしみたいな小さな女の子に欲情しているんだ。さいてー♡♡♡」

 

『おまえがみせつけてくるのが悪い』

『アナ様、女の子になる?』

『魔族に女も男もあるかよ』

『なんとなくだが理由わかる気がするんだよな』

『あの子に執着しているからなぁ』

 

 そう、アナリザンドはフェルンに執着している。

 

 直接的な原因は、ハイターに『妹』を見守るように命じられたことが大きいが、フェルン自身への興味もないわけではない。ずいぶんと人間になってしまっているけれど。それはアナリザンドもそうなのだし。

 

「そういやLINEの使い心地どうかな?」

 

『掲示板に比べると、仲がいいやつどうしでやりとりできて便利』

『というか、これって防諜とかスパイの手段に使えるんじゃ……』

『アナ様という管理者……っつーか魔族が見てるかもしれんからスパイに使うアホはおらんやろ』

『ふとした拍子にアナ様が暴露しちゃったら、謀略の類は全部ご破算だしな』

『まあこれもくだらない話しかできないわけだけど、それで十分つーか』

 

「だいたいは肯定的評価みたいでよかった。わたしが管理者やってるっていうのがいいのかもね。おかげで政治的に使うのは抑制されているみたいだし。ちなみにLINEについてもネットと同じく検閲はしていないよ。それはルール違反だと思っているし、覗かれてるって思われたら、緊張しちゃってくだらないお話をできなくなるからね」

 

『まあそりゃそうだな』

『でもよー。なんでLINE作ったんだろうな』

『魔族の時間からしてみれば突貫工事だしな』

『便利だから? でもアナ様は見ないっつってるし……』

『そりゃ、気になるあの子に突撃するためだろw』

 

フェルン『アナ様。一日に千通も送ってくるのやめてください。ゾルトラしますよ』

 

『wwwwwww』

『フェルンちゃんきちゃあああw』

『てか、千通って推しに対して厄介すぎる』

『フェルンちゃんに個人的なラブレター送るためにLINE作ったのかよw』

『誇り高き魔族の姿か。これが……』

『もう草どころか森生えるわ』

 

「……自重します。だから既読スルーしないでママ」

 

『妹じゃなくてお母さんじゃねーかよw』

『メス堕ちって、赤ちゃんになっちゃったってコト?』

『退行しちゃった魔族がいるらしい』

『おま。旅して忙しいのに千も送ってたらそりゃ既読スルーもするべよ』

『ストーカーじゃないっすかね?(素直な疑問)』

 

「す、ストーカーじゃないよ。既読は承認の証だし。百分の一くらいはコメント返信してくれるし。ね? ね? フェルンちゃん、わたしストーカーじゃないよね?」

 

『それって千送って十じゃねーかww』

『返信0だとそれはそれで厄介度が増すと思われてる説』

『素直にストーカー』

『アナ様って病んでない? 病んでてデレてるから。ヤンデレって感じやな』

『ヤンデレかぁ。おもしれー言葉だな。次からそれ使お』

 

「ところで、フェルンちゃんが配信に顔を出すのは久しぶりだね。なにか用事があったのかな。もしかしてわたしって頼られていたりして?」

 

 にっこり微笑んで、姉アピールするアナリザンド。

 あいかわらずヤジはうるさかったが、フェルンはいつかのように頼ってくれた。

 

『アナリザンド様にひとつお願いがあるのですが、いいでしょうか』

 

「うん! なになに? かわいい妹の頼みならなんでも聞いちゃう!」

 

『私はアナリザンド様の妹ではありませんが』

 

「いいえ。いいえ。いいえ。フェルンちゃんはわたしの妹だよ。フェルンちゃんの身元保証人であり、わたしの連帯保証人であるハイターがそう言ったんだから間違いない」

 

『ハイター様が……?』

 

「うん。そうだよ。その言葉をフェルンちゃんは否定する?」

 

『いえ、できるはずがございません』

 

「先生たち聞いたよね! フェルンちゃんは今わたしのことを姉だと認めたよ! やったー」

 

 バンザーイと両手をあげて喜ぶアナリザンドだった。

 

『姉ポジにおさまるためになりふり構わない魔族がいるらしい』

『おめでとう。8888888』

『おめでとう。888888888888』

『なんだこれw』

『アナ様の謀略が人間を越えてる件について』

『育ての親を人質にとるとか卑怯だぞおまえ』

 

「なんとでもいうがいい。わたしはお姉ちゃんですし! 承認したのはフェルンちゃんですし!」

 

 ともあれ、これでひとつの約束は果たされた。

 利子くらいは返済できただろうか。

 

「さて、落ち着いたところで、どんなお願いなのかな?」

 

『はい。実をいうと、フリーレン様が……』

 

 フェルンの話を要約すると、フリーレンが蒼月草というのを探しているらしかった。蒼月草は勇者ヒンメルの故郷に咲いていた花で、いまはほとんど見かけなくなった絶滅危惧種。あるいは絶滅したのではないかとも言われている。

 

 ヒンメルの銅像を洗った際に、像のまわりに花を咲かせようという話になり、ヒンメルの故郷の花を咲かせたいと思ったらしかった。

 

 花畑を出す魔法は識っている花しか生成できない。

 

 だから、フリーレンは蒼月草を探している。

 

「ふーむ。控え目に言って、勇者ヒンメルってドチャクソ変態なのでは?」

 

 しばらく黙って聞いていたアナリザンドが口を開いた。

 

『なぜでしょうか?』とフェルン。

 

「惚れた女に()()()()()()()()()()()のを夢見てニヤニヤしてたとかド変態じゃないとできないと思うんだけど。しかも、ヒンメル像って各地にあるんでしょ。ちっちゃなおちんちん乱立させて、キレイにしてくれる? って言ってるわけだよね。オナニーここに極まれりって感じ。あ、フェルンちゃんも大人になったからわたしも自重しないからね?」

 

『勇者ヒンメルをいわれなき中傷が襲う』

『これはひどい評価w』

『ヒンメルって各地で銅像たててるのは事実だが、あくまで望まれてだぞ』

『魔族にとっては、全部エロいエピソードとして変換されるのか』

『おまえフリーレンに殺されるぞ』

 

「どうせあの人は()()()()()()()()()()()()よ。それでいて、わたしの妹を肉体的なスペースで奪おうとする。わたしが小窓を開いてフェルンちゃんとお話ししてると、わずらわしそうに話をとめようとするの。あのクソババァ……」

 

『意趣返しか』

『クソババァwwww』

『ヒンメルはフリーレンに覚えていてほしかったんでしょ』

 

「そう覚えていてほしかった。フリーレンもヒンメル像にしがみついているイメージはあるかも。だから、フリーレンにとって、本当に欲しいのはヒンメルであって、そのまがいものとして魔法や蒼月草を求めるんだろうね。ふたりの間のそういうプレイなんだって解釈することもできる。だったら、わたしの妹をまきこむなよって言いたい」

 

フェルン『フリーレン様のことを悪く言わないでください……』

 

「あう。言い過ぎたかも。ごめん。でもわたしは怒ってる。フェルンちゃんのことを共犯にしたてあげて、自分と同じだからつきあってほしいって言っているようなものだからね。しかも、あの人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『どういうことでしょうか?』

 

「シードラットを棄てさせたでしょ」

 

 シードラットはリスに似た生物で、食物の種を食べる。

 フェルンがひそかにかわいいと思い、一度飼おうと思って手を伸ばしたのだが、フリーレンが『害獣』だと評して棄てさせた。

 

 フェルンはハイターを亡くしたばかりだった。寂しさを感じた少女が温かくてふわふわしたものに惹かれるのがそんなに悪いことなのだろうか。あのとき、フリーレンは確かに命じたわけではない。大人になろうとしているフェルンが自発的にそうしたようにも思える。けれど、少しの間くらい受けいれることはできなかったのか。「しょうがないね」って言って、「自分でお世話するんだよ」ってなぜ言えないのか。なぜ自分は幸せの青い鳥を求めておきながら他人のそれはあきらめさせるのか。わたしは怒っている。フリーレンにフェルンの姉たる資格はない。

 

『あの……』

 

「うん」

 

『私のために怒ってくださるのはありがたいのですが、どうしてアナリザンド様がそのことをご存じなのでしょうか。あのときはネットにつなげていなかったはずですが』

 

「あ、あ、そ、そうだったかなー。えへへ。き、記憶違いじゃないかな。かな?」

 

『アナリザンド様。何か隠しましたね。怒らないから正直に話してください』

 

『はい……。二者間通信で閉じずにおいて、小窓の透明度を百パーセントにしてました』

 

 しょんぼり顔のアナリザンド。

 完全に自白した犯人だった。

 

『やっぱストーカーじゃねーかww』

『控え目に言ってさいてーww』

『これはゾルトラーク不可避』

『この魔族おもしろ』

『見てみろよ。あの吊られる寸前の死刑囚みたいな顔をよ~』

 

『二度としないでくださいね』

 

「はい。二度としません」

 

『わかりました赦します。シードラットの件は、私があきらめたのであってフリーレン様は悪くありませんよ。魔法についても……そうですね。フリーレン様は魔法に、ヒンメル様に執着しているのでしょうが、それは私がハイター様に執着しているのと同じです。だから、それでいいのです』

 

「わたしの妹がけなげすぎる件! 耳長のお姉さんにツレションいこうぜって誘われても断っていいんだからね」

 

『だから妹に萌えすぎるなって』

『蒼月草生やすぞオラ!』

『淡い恋心を知ろうとしているエルフをツレション扱いすんなw』

『フリーレンめっちゃかわいいやん。ワイは好きやで』

『でも、フェルンちゃん巻きこむなよっていうのはわからんでもないわ』

『まあ、それはフリーレンの想いであってフェルンの想いじゃないわけだしな』

 

フェルン『あの、そろそろ具体的なアドバイスをお願いしたいのですが……』

 

「例えば、せんせーたちに探してもらうとかは可能だろうね。ネットの最もわかりやすい効用は情報の集積にある。蒼月草も世界のどこかにはまだ生えている可能性は高い。絶滅というのは、環境因によることが多いけれども、ここ数十年で劇的な環境変化はなかったからね」

 

『お願いできますでしょうか』

 

「いいよ。でも、わたしはフリーレンにあきらめさせるほうが現実的だと思うけどな。()()()()()()()()()()()()()()()のだから」

 

『私にもあきらめたくないという想いは理解できるのです』

 

「そうだね……わかるよ」

 

――データ解析。

 

 アナリザンドは右手を掲げる。

 

 知の集積は魔法陣となって出力される。周辺のデータを蒐集。検索。

 インターネットは人を繋ぐ魔法だが、そこに連結された情報は人間のみに限らない。

 

 光の子は女神の肛門から排出され、同様の理由において、人間は太陽と肛門にて接合されている。

 

 世界をひとつの機械と捉えれば、人間も魔族もひとつの生産のプロセスとして捉えられるということだ。すなわち、部分対象は全体へとつながり、内と外、自然と自分の差異は抹消されうる。

 

 わかりやすく言えば、自然信仰なんだよ。わたしは偽神を信仰している。だから女神様とは養子の関係しか結べないというわけ。まあ、女神様も強い精霊の一種だとしたら包摂関係的に家族になれなくはないけれど。今はどうでもいい話か。

 

 そして、見つけた!

 

「あは♡」

 

 わたしは寓意を破壊する。

 青い鳥の寓意。つまり、幸せを探そうとすればそれは逃げ去るという真理。そして探さないことによって見つかるという真理。

 

 もし、わたしが介入しなければ、シードラットが蒼月草を見つけただろう。

 

 フェルンに棄てさせたものをイケニエにして、フリーレンがそれを得るのだ。妹を出汁にして幸せになろうだなんてふざけんなよって感じ。それでおこぼれもらってトリクルダウンして、おまえも幸せを見つけたからいいよねって片腹痛いんだよ。

 

 そんなことはさせない。おまえの寓意を破壊してやる!

 

「蒼月草は、古びた塔のてっぺんに生えてるよ。座標もマップに表示してあげる。フリーレンに教えてあげたらいい。なんだったらお前が否定した害獣(まぞく)が見つけたとでも告発してあげればいい。あはは。あははははは」

 

 アナリザンドは狂笑した。

 

 だってこんなにおかしなことってない。

 わたしも、フェルンも、大事なものを無くしたんだよ。

 おまえだけ見つけるなんてズルいじゃないか。

 

 わたしはおまえの虚偽を告発する。

 おまえはまがいものを掴まされたんだ。

 おまえが欲しいものは絶対に見つかることはない。

 どうか()()()に。

 

 

 

 それから――。

 

 

 

 フェルンはフリーレンよりずっと大人で、誰によってとは言わず、古い塔の上に咲いている花にさりげなく誘導した。シードラットを使って、フリーレンが自分の功績であるように仕向けた。

 

 ねえ――。

 

 フリーレン。わたしはあなたとお話がしたい。

 わたしたちの妹はこんなにも素敵な女の子だよ。

 

 そして、蒼い花の冠をかぶった像があった。

 嘘で隠蔽された小さな欲望。

 

 あなたを覚えておきたい/あなたに覚えていてほしい。

 

 その隔たりが存在する限り性関係は存在しない。

 それは乙女にコンドームを被せられた、ちっちゃなおちんちん。

 

「あら、かわいらしい」と、誰かが評した。

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