魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
アナリザンドオンザメトーデだった。
英語的に正しいのかはこの際どうでもいい。
わたしは冬の間、メトーデと一日十分の抱っこ契約をしている。
だから、これも抱っこの一種なのかもしれないが、要は膝の上に抱きかかえられていたのだ。
「ねえ、これって抱っこなのかな?」
わたしは疑義を述べる。
「抱っこですよ」
「えー、そうかなぁ。なんか逃げられない体勢だから嫌なんだけど」
「支えていないからいつでも逃げられますよ。逃げないのはアナリザンドさんの選択です」
「むぅ……」
メトーデは腕でわたしを支えてくれていない。
髪の毛あたりをさわさわと触っているみたい。
彼女のふとももは女性らしく柔らかなスライムみたいでグラグラする。
わたしは、落ちないようにメトーデの足にそっと手を添えて固定しているが、あえてその様子を愉しんでいるのだろう。
わたしはというと、か細い腕だけでは安定をはかれないので、やむなく――そうやむなくだ――三点にて安定をはかることにした。わたしの頭をメトーデの胸骨あたりに接着する。
より正確に描写するならば、後頭部に柔らかな感触を受けている。暖炉の赤外線でほのかに温められている豊潤なカタマリに頭をのせている状態である。物質的にはただの脂肪成分多めのお肉に過ぎないのに、最高クラスの枕みたいだ。そこに重力を預けているから、わたしという儚い存在は、メトーデに支えられているともいえるかもしれない。
「アナ様はおっぱいがお好きですもんね」
「好きじゃないよ! 嫌いじゃないけど!」
わたしは否定も肯定もしなかった。魔族的特性によって、何かを肯定するのはとても難しい。
「ふふふ……照れ屋さんですね」
腕でシートベルトみたいに固定してって言ったら、それはそれで喜んでそうするんだろうなぁ。
天然の香炉みたいにメトーデからはいい匂いがする。
魔族の感性からすれば、肉は肉に過ぎないしエサはエサに過ぎないのだが、それでも吸い寄せられるように抱っこされてしまうのは、やっぱりわたしの特性なのだろう。
「アナリザンドさんのツムジが見られるというのも利点ですね」
メトーデの声は弾んでいる。
「それってなんだかメトーデだけにメリットあるよね」
わたしは頭をそらしてメトーデをみあげた。
あいかわらず慈母のようなやさしげな顔をしている。
あまりえっちな波動は感じない。
「いいえ。よくお考えください」
「考える?」
「顔が見えないよーって寂しがって、こちらを振り返ってくるちっちゃくてかわいいアナリザンドさんを見られるんです。背面座位もなかなか乙なものですよ。配信では月の裏側は見れませんからね。先生さんたちに羨ましがられるに違いありません」
ロマンティックか変態なのかはっきりしてください。
「やっぱりメトーデだけ有利だよね!?」
「では対面座位のほうがよろしかったですか? 私はそれでもかまいませんが」
「いえ、それはキケンです……」
何がとは言いませんが、とても危険な体勢な気がする。
「まあ実をいうと、アナリザンドさんの髪の毛をいじってみたかったのです」
「え、いつのまに」
わたしの髪の毛は、メトーデによっていいようにもてあそばれていた。
ロングヘアの毛先はくるくると巻かれ、みつあみになっている。
それを後頭部でまとめると、まるで装飾品みたいな、フィッシュボーンと呼ばれる髪型になった。ついでに前のほうの房もいくつかはみつあみ状態にして完成。
うーん、かわいいかも。
自分じゃそこまでできないからなぁ。メンドクサイし。
「ありがと、メトーデ」
こうしてお世話されるの、実はすごく嬉しかったりする。
人間と魔族の溝は深く、生まれて初めて髪の毛をいじられた。
魔族にとっては首を差し出すような形になるから、常道ではなしえない。
魔族ではアウラ様がみつあみしてたけど、たぶん自分でやってたんじゃないかなと思う。
一定の信頼関係が必要な行為だ。
「では報酬をいただきます」
腕でガッチリホールドされて、わたしは収穫された。
いつかのときにフェルンちゃんにもされたことがあるアナ吸いである。
わたしってそんなに吸いたくなるものなの?
また、恍惚としているよ、この人……。
誓っていいますが、アナリザンドは危険なオクスリではありません。
「あら、アナリザンドさんお出かけですか? 園児みたいでかわいい」
わたしがステルス式外套を着こんだのをメトーデはめざとく見つけた。
外套を着ている姿を幼稚園児のスモックみたいでかわいいとか言うのメトーデくらいだよ。
そもそも、わたしは十歳児程度には見えるので、それなりに育っております。
本来なら遺憾の意を示すところだが、今日は特別に赦してあげる。
「うん。せっかく
「アナ様は時々、人間が欲しい言葉をくださいますよね」
「うん?」
「無意識なんでしょうか」
「意識的だよ。わたしは物凄く計算してるの」
胸をそらしてわたしは主張する。
メトーデがかわいくしたいなんてこと、わたしはちゃんと理解しているのだ。
「もうなにもかもがかわいらしいですね」
「でも春になったら、きちんと試験に向かわなきゃダメだよ」
メトーデは一級魔法使いの試験を受けに北部高原を抜けてきたのだ。
わたしにかまけて、試験をスルーしたなんて、よろしくない。
それに、魔法の研鑽――修行だって、本当はもっとしたほうがいいように思う。
一級魔法使いの試験は三年に一回しかなく、人間にとっては、かなりチャンスが少ない。
「このまま、アナリザンドさんのお家で修行するというのもよいかと思いますが、ダメなのでしょうか。試験まで一年ほどはありますし、もうしばらくは試験会場に向かわなくても大丈夫だと思うのですが」
「なんだかメトーデは、わたしを吸ってばかりな気がするし、わたしは訓練相手にならないから大丈夫かなって思ったの」
「幼女エネルギーを充填しているのです。私はどんどん強くなっていますよ」
幼女エネルギーとはいったい。
でもガチで強くなっていそうで怖い。
「そもそも、メトーデはなんで一級魔法使いになりたいの? まさかゼーリエ先生がちっちゃくてかわいいからじゃないよね?」
大陸魔法協会のホームページには、一級魔法使いのプロフィールが載っている。
自分の容姿を載せたくない人は載せてないけど、ゼーリエ先生はフルオープンだ。
どこかの誰かが張り切って写真撮影しまくったせいで、いろんな服装、いろんな服装でお目見えできる。最近では、動画で挨拶もしてくれる。有象無象には興味がないとか言いながら、なんだかんだ人間のことが大好きなゼーリエ先生である。お弟子さんたちの頼みを聞いて、低い声でわりと真面目に大陸魔法協会のPRをしている。
そしてゼーリエ先生はちっちゃくてかわいい。メトーデ好みなのはまちがいない。
「それもありますが」
メトーデの目が心持ちいたずらっぽく輝いていた。
「あるんだね。やっぱり……」
「魔法は楽しいという感覚があるからですね。新しい魔法を学べるというのは私にとって得難い経験なのです。魔法学校で習うようなことは一通りできますから、より高みを目指したいという気持ちはあります」
メトーデはやはり才媛なのだろう。
わたしが魔族だから言わないのだろうけど、魔族を倒したいって気持ちも多少はあるんじゃないだろうか。それはRPGで新しい武器を試し切りするようなものだし、なんだかんだ言っても、魔法は武器であり兵器なのだから。
まあそれはいいとして、メトーデが本当に一級魔法使いになりたいというのなら、なおさらアナ吸いをしている場合じゃないとも思う。
「わたしがちょっとだけ心配なのは、メトーデが
ドヤぁ。ニマニマぁ。
「冬の間だけと区切ったのは、それが理由だったのですね」
「うん。情報収集も魔法使いの才能っていえるかもしれないけど、他の受験者たちとの不公平になるかもしれないから、メトーデには自分の力で合格を勝ち取ってほしいな」
「わかりました。アナリザンドさんの優しさをおっぱいに吸収して、試験に臨むことにします」
そこ、幼女エネルギーのタンクだったんですか?
キリッとした顔はかっこいい。
メトーデは素の状態では美人さんだからな。
何も言わなければ――。
「だから、冬の間は幼女成分を十分に補充させてください」
これがなければね。
さて、大陸魔法協会の六畳ほどありそうな豪華なトイレに転移し、いつものようにゼンゼ先生のもとに向かう。
お部屋に直接転移するなんてはしたないことはしない。
いまのわたしはいまだかつてないほどに女子力が高い。淑女ですから!
一番にこのあみあみ髪の毛を見せたかったのはゼンゼ先生だった。
なんだかんだ言っても、ゼンゼ先生は安心安定のオトナな女性だ。わたしを過度にからかうこともなく、かわいがってくれている。
それになんといっても、髪の毛といえばゼンゼ先生だからね。きっと褒めてくれるだろう。
「せんせー。いるー?」
コンコンとドアをノックし応答を待つ。すぐに返事はあった。
「どうぞ」
わたしはお澄まし顔でドアを開けた。
そこには、ゼンゼ先生と、あともうひとり一級魔法使いの人がいた。
眼鏡をかけた男の人だ。男女で部屋の中――アヤシイ――なんてこともなく、気軽な同僚との会話といった感じだった。ゼンゼ先生って女子力高いように見えて、根が研究者だからな。
ふたりして、お茶を呑みつつ、なんらかの話をしていたのだろう。
えっと……、誰だっけ。
小首を傾げる。
「ああ、直接名乗ってはいませんでしたね。私はファルシュといいます」
「ファルシュ先生。こんマゾ。アナリザンドだよ」
できる限りの愛嬌をふりまく。
この人、影が薄くて、つい存在を忘れちゃうんだよね。
実はけっこう強いんじゃないかと思ってるんだけど。
「……やはり魔力に揺らぎはないですね。外套のせいでしょうか」
眼鏡をクイっとあげる動作。
ファルシュはわたしをジッと見つめて、魔力観測をしているらしい。
もはや何度も記述しているが、素の状態のわたしには魔力の揺らぎはない。
制限しているわけじゃないからね。せいいっぱいがんばっても60程度。
わたしが人間の魔力を借り受けていることを、ゼーリエは教えないだろうし、ゼンゼやレルネンもあまりしそうにはない気がする。まあべつに教えてもいいけど。
「わたしの魔力が気になるの?」
わたしは外套のフード部分を脱いだ。
さりげに髪の毛あみあみだよ。
ゼンゼ先生に向けてアピールするわたし。
けれど、ゼンゼ先生はチラっと見ただけで、また紅茶を飲んだ。
どうやら、ファルシュとの会話のターンを遮るつもりはないようだ。
「魔力量60ですか。これでは五級魔法使いと同じ程度になりますね」
「他に気づくところない?」
わたしは頭を振って強調する。
くるくるまわって、いつもと違うわたしを見せつけるのだ。
ファルシュとは直接会話をしたことはないが、何度も姿は見せてるし、いつもと違うことに気づいて当然のはずだ。こんなにも今のわたしはかわいいのだから!
ほらほらぁ。
「魔族にしては魔力が低いように思えますが……」
こ、このニブチンがっ!
もう! もう! こんなにいつもと違うのに!
いくら初対面とはいえ、わたしの姿なんか常時どこでも見れるのに。
こんなに鈍いと、最近ではすっかりHUDでの観測すら誤魔化すようになったフリーレンやフェルンちゃんにすら騙されるぞ。
「人間風情を騙すなんてカンタンだな!」
わたしは怒りにまかせて吐き捨てる。
顔が熱い。腕はぷるぷるしている。
でも、ファルシュはもう一度、わたしをさっと観察しただけで終わった。
「そうなのですね。アナリザンドさんはゼーリエ様が取り立てたわけですし、私には計り知れない何かがあるのでしょうね」
「見ればわかるよ! ファルシュ先生にもわかるの!」
「まったくわかりませんね。ゼンゼはわかりますか?」
そう。ゼンゼ先生ならわかってくれるはずだ。
もう、こんな影の薄い人のことなんか知らない。
ついでに髪の毛も薄くなってしまえ。
「私の見解を述べようかな」
ゼンゼ先生はあいもかわらずマイペースに紅茶を飲みつつ言った。
「アナリザンドは、魔力量だけ見れば五級魔法使い程度。けれど、座標転移をしている時点で、その話は破綻している。普通なら、そんな低い魔力量で転移はできない。魔法が発動すらしない」
「確かにそうですね」ファルシュが首肯する。「ゼーリエ様が秘密の部屋に囲っているのではないかとも思っておりましたが」
「この子の配信を見てないの?」
「ああ……配信ですか。あまり興味がなくて」
ピキっ! 髪の毛後退しろ後退しろ後退しろ!
「ならわからないかもしれない。配信でアナリザンドがいる部屋は
「なるほど」ファルシュは深く頷いた。
どうやらゼンゼ先生はヒントだけ与えるつもりのようだ。
いうまでもないけど、ゼンゼ先生はわたしが魔力を借り受けることができることを知っているからね。そのまま素直に事実を告げてもよかったんだけど、わたしに配慮してくれたのかもしれない。
膨大な魔力を意のままに使えるというのは、人間にとっては恐怖だろうし、わたしがインターネットを無償供与しているそばで、実のところ詐欺的に魔力を無断で借りていたというのは、人間的価値観においてもよくないことだろうから。
でも、せんせー。髪の毛は~~~~。
こんなに違うのに気づかないの?
やっぱり一級魔法使いって魔法にしか興味がないのだろうか。
ちょっとだけ、しょんぼりザンドだ。
「ところでアナリザンド。君もお茶にするか?」とゼンゼ先生。
「うーん……。先生たちは何か話してたんでしょ。邪魔にならない?」
「特に問題はありません。来るべき一級魔法使いの試験について少々話し合っていただけですから。まだ時間は一年以上あります」とファルシュ。
前世でも一年かけて試験の準備をするとか当たり前だったからな。
しかも、超エリート選抜試験なんだろうから、今の内から草案を創っておくというのがセオリーなのだろう。
「でもそれって機密情報だよね。わたしが聞いちゃっていいの?」
「それも問題ないでしょう。零級魔法使いというのがどういう立ち位置かは曖昧ですが、あなたが一級魔法使いの試験を受けるわけではないでしょうから」
うーん。情報リテラシー。
というより、おそらくファルシュは常識の中で生きている人なのかもしれない。
魔族が人間と仲良くできるなんて、おそらくほんのちょっと前までは非常識なことだっただろうし、いまでも大多数の人間にとってはそうだろう。
だから、わたしが一級魔法使い候補の人たちと仲良くなっているなんて、想像すらできないのだと思う。
わたしのこともよく知らないみたいだしね。
「君は、もしかして、有望な人でも見つけたのかな?」
ゼンゼ先生は気づいたらしい。単純に過ごした時間の長さのおかげか。
それとも、ゼンゼ先生がわたしのことを気にかけてくれているからかもしれない。
「そんな感じ。えへへ。だから行くね」
手のひらを振り振り。
わたしは部屋を後にしようとする。
「ああ、アナリザンド……」
ん。
「君のその髪のあみこみ。とても似合っている」
クスリと笑うゼンゼ先生は、最初からすべて理解しているみたいだった。
わたし、ゼンゼ先生にからかわれちゃった!?
オトナの女性だと思ってたのにー。
人間ごときに騙されるとは、アナリザンド一生の不覚!
けれども、当初の目標を達成できたのだ。
この行き所のない感情をどう処理すればいいかわからない。
「先生なんて、先生なんて大好きなんだから!」
バタンとドアを閉めて、アナリザンドは去っていく。
支離滅裂な言葉を残して。
「女の子はよくわかりませんな」
「彼女の場合は比較的わかりやすいと思うけどね」
「ですか」
「よく言うだろう。髪は女の命って」
「魔族がそんなことを気にするのですか?」
「どうだろうね。少なくともあの子は気にする。そういうタイプだ」
メチャメチャ褒められたがっていたのだ。
あれで気づかないほうがおかしい。
ただ、少しだけ気がかりなのは、あの子の向かう先だ。
いや、それは彼女も望んでいることなのかもしれない。
あえて罠にかかりにいく。それがアナリザンドのスタイルだった。
「ゼーリエ先生。いたー」
わたしは大きないつもの謁見の間の扉を開いた。
そこには、本がうずたかく積まれていて、先生はいつものように椅子の上であぐらを組み、シコシコと魔法の覚えなおしをしていた。
「ん……」そしてわたしを見る。「誰にやられた」
やられたって……。
髪の毛のことだよね。
瞬間的に悟ってくれるのはうれしいけど。
なんだか顔が怖いような。
「えっと、ゼンゼ先生に」
とりあえず、その場しのぎの嘘をつく。
「ゼンゼがこんなめんどくさい編み込みをすると思うか? あいつの生活能力はフリーレンに毛が生えた程度だぞ」
「ええ……? ゼンゼ先生はオトナの人だよ」
「おまえにとってはそうだろうがな。言え、誰にやられた」
「……えっと、ちっちゃくてかわいいのが好きな人です」
「またおまえは誰か別の
「違うよ。その人がわたしのことを好きなの」
「ほう。では、おまえはどうとも思っていないと、そう主張するわけだな」
「う、うん。まぁ……」
「こっちへ来い」
わたしは言われるがまま、おずおずと近づく。
ゼーリエ先生は無造作に髪をこめている小さなリボンを取り払う。
ああ、せっかくのかわいい髪型が。
「先生、わたしのかわいいがなくなっちゃう」
「わめくな。私だって、髪型くらいセットできる。なんの問題もない」
ええ……(困惑)。
何だか知らないけれど、燃え上がる炎をバックに、ゼーリエ先生の美容室が始まってしまった。
得体の知れない奇妙な髪型にでもされるんじゃないかって、戦々恐々としていたけれど、できあがったのはものすごくシンプルな、いわゆるポニーテールをあみあみで表現したものだ。
「こっちのほうがいい」
満足そうに呟くゼーリエ先生に、わたしもほのかに嬉しくなってしまう。
確かに今在る形が崩れてしまったのは惜しいなって気持ちもあるけれど、先生の嫉妬心や所有欲は、わたしに対して保証人としての責任を果たしているようにも思えるから。
「先生、わたしをかわいくしてくれてありがとう」
わたしの言葉に、ゼーリエ先生はフッと笑う。
せつなそうに、さみしそうにしているような気がするのは気のせいだろうか。
本当は、この髪型の似合っている子がいたのかもしれない。
互いに互いが代替物。
そんな関係だけど、悪くはないよね。せんせー。
「ところでまた私に嘘をついたな、アナリザンド」
ニヤっと笑う表情遷移。
その刹那の時間、わたしはとっさに逃げようとする。
「ぐえ」
が、ダメ。
馬の尻尾のようになった髪の毛をグイっと引っ張られて、わたしの首がもげそうになった。
見るまでもなく大変怒ってらっしゃる。さっきまでは不満のゲージだったのに、これは明らかに怒りのサインだ。確かにゼンゼ先生のせいにしたのはよくなかったかもしれない。あるいは逃走しようとしたのも明らかに悪手。
でも、ゼーリエ先生も悪い。
わたしはただ先生にかわいいと言われたかっただけなのだ。
それを無碍にしたのは先生じゃないか。わたしはそう言いたい。
「借金を増やされないとわからないらしいな」
「ひえ」
これからわたしは一世一代の命乞いをすることになるだろう。
これ以上借金を増やされたら、首がまわらなくなる。
こういうとき、どういう言葉がふさわしいかわたしは知っていた。
――アナリザンド、危機一髪。