魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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あるいはペストのような贈り物

「あのさぁ。先生たち。わたしに課金してみたくない?」

 

『課金?』

『お金を支払うってこと?』

『いつも楽しい配信ありがとうってコメントしてるけど、それが課金?』

『うーん? よくわからんのだが、説明求む』

 

「課金だとわかりにくいか。スパチャだともっと意味わかんないだろうし。じゃあ、パパ活とか援助交際とかいったほうがいいかな?」

 

『パパ活? ふむ……なんとなくえっちな響きがするんだが』

『なにかよくわからんが、下半身が興奮する……』

『この配信でのやりとりも一種のパパ活であり援助交際なのでは?』

『金銭的なやりとりはないがな』

『いまいち要領を得ないな。いつも迂遠ではあるが今日は特に』

『アナ様、お金欲しいの? 住んでるとこ教えてくれればいくらでも課金しにいくよ』

『ありがと。パクリ。モグモグ』

『こりゃいっぱい喰わされた』

『コメントでコントすんな』

 

「うん。わたしお金が欲しいの。でも、物理的な接触って本当はいらなくないかな。ゴールドで組成された物質に価値を感じている人は稀でしょう。みんなが求めているからそれに価値があるの。交換というプロセスさえ挟めば、そこに価値が生じる。交換こそが価値なんだよ。だから、仮想であっても交換という機能があれば、それは通貨になりえる」

 

『言ってることよくわかんないだけど』

『具体的にどうすればいいんだ?』

『なんかすげー嫌な予感がする……』

『アナ様、あなたはいったい何をなさろうというのか』

『お金という概念そのものが欲しいのか?』

 

「うん。簡単なことだよ。例えば、今、お金あげるって言ってくれた人、そう先生、あなた」

 

『ん? オレ?』

 

「そう、あなた。あなたの言葉。うれしかったよ。だからお返しにアナちゃんポイントを10000点あげちゃう。アナちゃんポイントだと言いにくいから、これを仮にAPとしようか。あなたは今、10000AP持ってる」

 

『ふええ? なんか画面下に10000APって表示されているんだけど!? アナちゃんの二次元デフォルメ顔がかわいいんだけど!?』

 

「ねえ。わたしに課金して。わたしの顔をタップするの」

 

『なんか数字があらわれたんだけど?』

 

「好きな数字をいれて。それがわたしへの好感度をあらわしてる。価値の尺度になってる」

 

『10000をタップして送ったよ。あ、APがゼロになった』

 

「わーい。ありがと。という感じで、いまわたしは課金されたよ」

 

『なんかオレのコメント赤くなってんだけど!?』

『これはネットワーク上に存在する貨幣を作ったのか……』

『ヤバすぎる……これは本当にヤバいって』

『ん。コメント目立たせることができるってだけじゃね?』

『アナリザンドは人間を支配被支配の関係に置きたくなかったのでは?』

『魔族がお金作っちゃダメでしょ。フェルンちゃんに怒られるよ!』

 

「魔族が人間の魔法を使っちゃいけない道理はないよね?」

 

 アナリザンドは不敵に微笑んだ。

 そもそもネットも人類のコミュニケーションの延長だ。

 仮想通貨も通貨の延長。

 何も変わることはない。

 干渉――ではあるかもしれないが、これは時代を加速させただけであって、女神から受け継いだであろう形質が延伸されただけ。

 人間の欲望という形質自体を壊してはいないわけだし、セーフだよねという理論。

 だから、人間の魔法という表現を使った。

 

『そりゃそうだが』

『お金って魔法だったの? まあ魔法みたいなもんか』

『その魔法はマジでやべーって』

『国から狙われるぞ。本気で』

『誰かアナ様を止めろ。間に合わなくなっても知らんぞ!』

 

「あ、いまのコメントおもしろいね。あ、このコメントもいいね。というわけでバラまきまくります。大サービスでわたしの配信を見にくるだけで1000AP。コメントしただけで10000APあげちゃう。ほうら明るくなっただろう」

 

『お待ちくだされ。私はとある国の財務を担当している者なのですが、アナリザンド様、おやめいただいてもよろしいでしょうか。それはあまりにも危険です』

 

「んー。やだ。だから、財務大臣せんせーに100万APを贈呈します!」

 

『うぎゃあああああ』

『お、おちつけ。まだ何も始まってはいない。現実的にはなんの影響もないはずだ』

『でもよー。これって商人にとっては悪くないんじゃね? 100AP』

『ん。どうしてよ』

『いや貨幣を持ち歩くのって大変だし、盗賊とかに襲われる心配が少しだけ減るというか。それになにより、アナ様に課金できるんだぞ。100AP』

『財布を忘れたときに、APで買い物できれば便利かもしれないな』

 

「そうだよ。みんなどしどし交換しよう。交換すれば交換するほど価値は高まっていくよ。女神様の愛のように無限に拡大されてゆくはず。資本主義には利子という機能がついているからね」

 

『いや普通に考えて、アナちゃんポイントが通貨として通用するはずもなくね?』

『アナ様は魔族だからわからんかもしれんが、人間は物質としての手触りも重要視しているよ』

『なんか数字だけの増減にはあんまり興味が湧かないっつーか』

『この仮想たる通貨――仮想通貨を創るのはアナ様が人間病に罹患したことを証明している』

『そうだよな。人間の魔法ってわざわざ言ってるくらいだし』

『金、金、金。魔族として恥ずかしくないのか』

 

 さすがに人間たちの反発も大きかった。

 いずれは受け入れられるかもしれないが、それには年単位の時間がかかるだろう。

 でも、それでは間に合わない。

 

「――だって、あともうちょっとで、フェルンちゃんの誕生日なんだよ」

 

『なんだよそれwww』

『結局、妹狂いかよ』

『アナ様の狂愛が世界経済をぶっ壊す寸前だったってコト!?』

『いやいや、どういうこったよ』

『説明を求ム……。いや今回はマジで頼む』

 

「説明するまでもないことなんだけどね。よく考えたら、わたしってフェルンちゃんのお誕生日をほとんど言葉でしかお祝いできてなかったんだよね。物理的に接触していないから当然だけど」

 

『まあ、ネットの妖精さん(魔族)だしな』

『ひきこもり魔族だしな』

『物理的な贈り物をしたかったってこと? 突然ナンデ?』

『どうせフリーレン』

『きっと嫉妬もっと』

『姉プレイに興じることが、アナリザンドにとっての人間を真似る工夫なのだろう』

 

「まー、そんな感じ。どれに対しての返信かは言わないけれど」

 

 アナリザンドは指先をツイっと空中に向けて、小窓を出現させる。

 そこには誰の視点か、帆船が停まる湾口が映し出されていた。

 

「フェルンちゃんたちは港町にあと数日で到着しそう。交易が盛んな町だし、品物も豊富。フリーレンもきっとかわいい妹に何か誕生日プレゼントを目論んでいるに違いない」

 

『フリーレンって幼げなんで、その可能性は五分五分というか』

『要するに姉としての対抗意識か』

『でも、それなら仮想通貨じゃなくてもよくね? 1000AP』

『確かに、オレらの誰かに頼むとかでもよかった気がするが』

『アナ様がお願いすれば、きっと誰かが代わりに何かを買ってくれるよ』

 

「いいえ。贈与から贈与だと意味がないよ。交換から贈与じゃないとダメなの。交換でいったん切断して純粋な贈与をしたいの。だって、他人の精液にまみれたプレゼントなんてキタナイじゃん。ああ、フェルンちゃんに心臓をちょうだいって言われたらそうするのに」

 

『うーむ。でも先生の一人がアナちゃんに渡したらそれってアナちゃんのものでは?』

『アナ様ってこの世界のすべては妄想であり実体はないとか考えてそうなのにな』

『純粋な贈与なんてありうるのか?』

『お金で交換したものはアナ様の言うまがいものなのだろう?』

『フェルンちゃんにまがいものを掴ませていいのかよ』

『というか、純粋な贈与を求めておきながら交換のツールを創るって意味わかんねーよ』

 

「だって、フリーレンはまがいものをプレゼントして、フェルンちゃんの気をひこうとしている……。いや、まがいものだからこそいいんだよ。まちがってるからこそ知らないことを強調できる。知らないからこそ知りたい気持ちを強調できる。フリーレンはフェルンちゃんに謝罪するのかもしれない。そんな気がする」

 

――今まで知ろうとしなくてごめんねって。

 

 それは、これ以上なく純粋に主張してしまう。

 

 あなたに逢いたいと。

 あなたを想っていると。

 

 そして、フェルンはこう返すのだ。

 

――あなたが私を知ろうとしてくれたことが嬉しい、と。

 

 母子逆転してるじゃん。

 ぜったい、フェルンちゃん女神様みたいに微笑んでるじゃん。

 師匠が赤ちゃん面すんな。それは魔族(わたし)の専売特許だぞ。

 

 いや、フリーレンの内心をけなしているわけではない。

 フリーレンはおそらく本当に知らなかったのだろう。

 その無垢さが少し羨ましく思っただけ。

 

『フェルンちゃんに1兆APあげるとか言い出しかねない恐怖w』

『あ、いまおまえ笑ったな。恐れるな……魔族を』

『マジでそれしそうだから怖いんだわ』

『うーん、純粋な贈与ってなんだろうな。要するにお金じゃ買えないものを返礼を期待しないで贈るってことだよね。なのになんでお金を創ろうとしているんだろう……』

 

「贈与は交換をベースにしている。先生たちには与えられたら返さなければならないという返報性の原理が働く。交換が増幅すれば交易になり、体系化されれば資本主義となる。要するに贈与を愛と称すれば、資本主義は愛の宗教ということになる」

 

 どうやらわたしは神父の属性を引き継いでしまっているらしい。

 わたしはわたしの言葉を識っている。どうにも説教くさく感じてしまう。

 

『うーん?』

『もっとわかりやすく言って!』

『アナ様が妄想を炸裂させているな』

『フェルンちゃん愛が暴走している!』

 

「贈り物は人間の世界に参入しないとできないんだよ。でも、愛はわたしにとっては毒物だからね。だから、毒性を抜いた仮想通貨を創造しようとしたってわけ。だって、アナちゃんポイントにおいて、わたしは中央銀行だもん。無限に『愛』を排出できるわけだし、排出口はヘドロだまりよりはキレイなんじゃないかな」

 

 わたしはそんなに難しいことは言ってない。

 他人のウンコは汚く、自分のウンコはそれよりマシってだけ。

 

『壮大なプロジェクトぶちあげて、結局フリーレンよりいい贈り物したかっただけかよw』

『もうさ。生まれてきてくれてありがとうでいいんじゃね?』

『難しく考えるな。感じろ』

『ていうか、オレらとの会話も贈り物であり愛なんじゃねーの』

 

「まあそれはそうだけど……」

 

『APをアナルポイントって言うとなんだか楽しい』

『アナリザンド様が言葉の海でのたうちまわってるみたいで御労しい』

『なんか隠しごとがあるような気がするなぁ』

 

「文脈生成をした先生がいるね。ああ、そうだよ。今のはわたしの嘘。本当は、フリーレンに()()()()()()()()から、フェルンちゃんにはきっとわたしが見えないと思う」

 

 判官びいき。

 弱いものを守りたいと思ってしまう人間。

 フリーレンは知らないことを――情動の弱さを謝罪して――だから、フェルンに愛される。

 

 フリーレンの贈り物に対して、フェルンはお礼を述べる。

 それは交換だ。

 

――人間は交換に価値を見出している。

 

 情動の交換こそ価値だとみとめている。

 

 魔族は情動の交換ができない。そういうと、ほとんどの人間は魔法のように魔族には共感する能力がないと言ったりするが、ことはそう単純ではない。近似真実としては正しいとしてもいいが、それは真実とは程遠い。

 

 魔族は不感症である。こう述べたほうがたぶん正しい。

 情動の交換に快楽を感じ得ない。情動の交換に不快すら感じる。

 

 人間は不快なものを棄却しうる。

 

 要するにわたしは人間たちのヌメヌメした魔法にすがったのだ。

 

 うううううう。

 わたしのほうが人間力で勝ってるってどういうことだよ。

 魔族のほうが人間よりも人間のほしいものを知っている状況イズ何!?

 こちとら魔族やぞ。

 

 わたしは頭をかきむしりたい状況だったのだ。

 髪の毛が乱れるからしないけど。

 

 結局フリーレンは負けるだろう。だからこそフリーレンは勝つだろう。

 

 

 

 

 

 みんなが寝静まった夜。

 フリーレンが眠った頃を見計らって、アナリザンドはフェルンに呼びかけてみた。

 フェルンも大きくなった。夜更かししても眠くはならない。

 それに、アナリザンドとの付き合いは長い。

 自分の誕生日にアナリザンドが言葉をかけてくれるのを、フェルンは信じて待っている。

 もちろん、アナリザンドもそうだ。

 

 はたしてフェルンと繋がった。

 

「フェルンちゃん。お誕生日おめでとう」

 

『はい。アナリザンド様ありがとうございます』

 

 フェルンはうっすらと微笑を浮かべる。

 どこかしら女神様を彷彿とさせる慈愛を帯びた微笑だ。

 それから、フェルンはふと横を見た。フリーレンの寝ている方向を。

 必然的に、後頭部がわずかに見え、アナリザンドはその夜闇にも光るそれを目ざとく見つける。

 

「あ、新しい髪飾りしてる。キレイだね。似合ってるよ」

 

『ありがとうございます。フリーレン様にいただいたんです。あの方、不器用ですから……、私がどんなものが欲しいとか聞かずに、丸一日悩んでくれて、それで、私のことを初めて見てくださった気がするんです』

 

「……」

 

『あの? どうかされたんですか?』

 

「ううん。なんでもないよ」

 

 わたしは笑顔で嘘を隠蔽する。

 

「ねえ。フェルンちゃん」

 

『はい、なんでしょう』

 

「どうして髪飾りつけてるの? ()()()()

 

『思いのほか気に入ったので眠るとき以外はつけていようと……』

 

「そう。大人になったね。フェルンちゃん」

 

『ええ、もう16歳ですからね。私もお姉さんです』

 

「お姉さんはわたし。フェルンちゃんはずっとわたしの妹だよ。大人になってもね。だから、無理やりお母さんの位置に収まらなくてもいいんだよ」

 

『あの、アナリザンド様はフリーレン様と仲良くすることはできないのでしょうか』

 

 アナリザンドは視線を奥にやった。

 布団にくるまってミノムシみたいになって眠っているフリーレンの姿が見える。

 顔はこちらのほうを向いておらず、本当に寝ているかはわからない。

 

「仲良くっていうのは、相手方が必要な行為だからね。フリーレンの中には話のわかる魔族なんてものはいないんじゃないかな。当然、わたしもいない。いない相手とは話せない。そういうことなんだと思うよ」

 

『アナリザンド様には仲良くしたいという気持ちはないんですか?』

 

「あるよ。ハイターにそう言われたからね。フェルンちゃんを妹として見守ってほしいって。同じ姉としてフリーレンのことは嫌いじゃない」

 

『でしたら、私がおふたりの仲を取り持ったほうがよいのでしょうか』

 

「ああ、その贈り物は素敵。どこかの言葉では贈り物って()って訳されてもいたっけ。フェルンちゃんはわたしたちを毒殺しようとしているんだね」

 

『そういうつもりではありません。ですが、おふたりが反目しあってると心が苦しいんです』

 

「わかった。喧嘩しないよ。約束する」

 

『ありがとうございます』

 

 フェルンはほっとしているようだった。

 

「あ、それとさ。わたしもフリーレンみたいに贈り物があるんだよね」

 

『なんでございましょう?』

 

「すぐにわかるよ。フェルンちゃんが本当に欲しいもの」

 

 それもまがいものではあるが。

 

『ハイター様……』

 

 フェルンが驚きに固まっていた。

 亡くなる少し前の生前の姿。

 しかし、それは写真のようなモノ言わぬ影ではない。

 活動写真である。アナリザンドがハイターに話を持ちかけ記録したもの。

 

 それはただの光の反射である。

 それはただの空気の振動である。

 それは、ハイターではない。

 けれど、それはどうしようもなくハイターだった。

 

『フェルン。()()()()()()()おめでとうございます。あなたは健やかに成長しておりますか? 病気はしておりませんか。フリーレンはあなたを困らせていませんか。あなたは頑張り屋さんですからね。きっと、今も頑張っているのでしょうね。あなたに幸多からんことを。ずっと祈っておりますよ』

 

 応答のない一方的な言葉。

 返報性の働かない純粋な贈与。

 とどのつまり、女神の愛は無償である。

 

 フェルンは赤ん坊のように泣き崩れてしまった。

 

 そしてひとしきり泣いたあとに、フェルンはアナリザンドに感謝の意を述べた。

 

『アナリザンド様は、なんだか、おかあさんみたいですね』

 

「その言葉だけは聞きたくなかった」

 

『どうしてですか?』

 

「ごめんね。フェルンちゃん。わたしちょっと気が狂ってるんだ」

 

『それは誰だってそうじゃないんですか。誰だって少しずつ』

 

「いいえ。だって、フェルンちゃんは()()()()()()()()でしょう。あなたが欲しいものを提示して、贈与をおこない、親切な隣人を装った。あなたは、きっと魔族に殺されてしまう」

 

 フェルンは、フリーレンとの関係では、師匠と弟子であり、母であり子であり、そして姉であり妹だった。アナリザンドとの関係では、魔族と人間であり、子と母であり、そして姉だった。

 

 いくらでも入れ替え可能なポジション。

 

 贈与の究極は、自分の身体を食べさせることではないか。フリーレンは無垢な身体をフェルンに捧げたように見えた。そして母親は赤子を食べるだろう。その恐怖を棄却し隠蔽する装置。

 

「きっと、贈与の下敷きには、互いに殺さないっていう信頼関係が必要なんだろうね。だから、物理的な距離が開いているうちは、殺さないのではなく殺せないのだから贈り物はできないんだよ」

 

『私は、アナリザンド様に贈り物をいただいたと思っております』

 

「それはハイターがそうしたようにそうしただけ」

 

『それで十分じゃないですか』

 

「いいえ。そうではない。それではただの配給システム。わたしじゃない。あなたはわたしじゃないわたしを仮想して、わたしじゃないわたしに感謝している」

 

 仮想通貨の腕をのばして、あなたに触れたかった。

 

 きっとそれすらも真相ではない。

 

『どうすれば、あなたに逢えるのでしょうか。あなたにお逢いしたいです、アナリザンド様』

 

 

 

 

 

 

 

『ダメだよ。フェルン』と、フリーレンが顔をそむけたまま言った。

 

 

 

 

 

 

『フリーレン様。起きて……』

 

『行っちゃダメだ。魔族の言葉に耳を貸すな』

 

『ですが……』

 

『ハイターの幻影に騙されたな。あれは魔族が精巧に創り出した偽物だろう』

 

『いえ、あれは魂の再生でしょう。フリーレン様はあの姿が全部嘘だと言うんですか! あの優しい眼差しが、あの声が、全部全部偽物だって言うんですか』

 

『フェルン!』フリーレンが大きな声をあげる。『お願い。行かないで』

 

 フェルンが葛藤する。画面の中のアナリザンドとフリーレンを交互に見ている。

 

 アナリザンドは溜息をつく。

 

「行っていいよ。ハイターはわたしに言ったんだ。行ってそうしなさいって。そこのエルフのお姉さんの言う通り。魔族は殺すべき。わたしも含めてね。せめて、他の知らない魔族よりは先に、あなたの童貞を貰ってあげる。簡単なことだよ。そこの×ボタンを押せばいい」

 

『で、ですが……』

 

 あなたは自分を殺せたんだ。

 あなたにはそれができたはず。

 

 押してください。

 わたしを殺して。

 

『フェルン!』「フェルン!」

 

 プツン。

 

 接続は切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは……はははは……負けちゃったね。ざーこ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、アナリザンドがまったく予期していないところで、最初は飴玉一個みたいな小さいところから、APの使用が感染症のように広まっていった。これが人間の魔法として固着するまでには今しばらくの時間を要するだろうが、深く静かに潜行し、けっして絶えることはない。

 

 仮想通貨は生きている。無限の拡大は、きっと無限に生きたいという人間の欲望から生じている。生まれてしまったからには生きねばならない。仮想通貨もそう思っているのではないか。

 

 人間を惑わし、求められ、無限に増殖を繰り返して、いつか世界を覆うほどの悪意に成長してほしい。

 

 女神の創り出した聖霊たちと、せいぜい殺しあうがいい。

 

 そうしたら、お母さんが喰べてあげるね。

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