魔族少女のエロタナティブ 作:アナリザンド
セーラー服が元々水兵の軍服が元になっていることは有名な話。
それを日本人が魔改造して、あのような女児が着るかわいらしさを追求した形に至った。
いまでは古式ゆかしいセーラー服を着ていることがかえってお嬢様学校のブランドを強調するに至っている。特に小学校の頃から制服があるということは、いいところに通ってるなというイメージが強い。一部の層にいたっては強烈なフェティズムの対象にすらなっている。もちろん、日本の話だけど。
わたしは、ゼンゼ先生につくってもらった小屋の中の自室、鏡の前で魔力を錬成した。
知っての通り、魔族は裸族である。魔力で服を構築している。
だから、魔力の波長を変えるだけで、簡単に服を変えることができる。
カメレオンみたいなものなのだ。大多数の人間は服を着ているので、人間を擬態する魔族も服のようなものを身にまとうという話。
「ふむん……こんなもの、か」
歴戦の強者ムーブで、自分の恰好を確認する。
いまは春先の気配を感じるとはいえ、まだまだ寒い時期。
特にこのあたりは、寒気が厳しい。だから、わたしが着たのは、黒セーラーだ。
まあ、わたしに限らずだけど、魔族のパーソナルカラーは黒よりが多いからね。
どこか、死を連想させる色を帯びるのは、タナトスの使者である魔族の特性だと言えるだろう。
それにしても、久しぶりに着てみたけど、やっぱりかわいい。
かわいいよね?
自分のことはよくわからない。こだわりはスカートの裾の高さ。普段はハイニーを履いてることが多いけど、今回はあえての短めのソックスで、真っ白い足を強調してみた。冬なのになんでというツッコミはしてはいけない。かわいいのためだ。
ストラップつきのテカテカの黒い靴と、クレマン帽を被れば、どこからどう見ても、いいとこの小学校に通うお嬢様である。
んー。やっぱりスカートをもう少し長くすべきか? いやここは攻める!
ここで問題になるのは、やはりイメージである。先にも述べたように、日本人は百年近く女子生徒のまとう服として、セーラー服を取り扱ってきたからか、イメージレベルで、セーラー服と言えば、女の子が着るものとすりこまれている。小学生みたいなわたしが着れば、日本人ならロリコンが歓喜するというのは想像に難くない。
が、この世界ではどうかというと、そういう歴史と文化がない。
いや、どこかではあるのかもしれないが、少なくとも、わたしが元いた世界よりは服飾関係が発達しておらず、統一化された大量生産というのが難しい。
それに、魔法はイメージとはよくいうもので、自分にあった服を着ると、魔法使いは戦闘力があがるのだ。着ている服でテンションがあがったりすることってあるでしょ? 勝負服みたいな概念ね。だから、この世界の魔法使いは一張羅になっていく。けっして作画カロリーを抑えるためではないと信じたい。
さて――、まずは近場で試してみるか。かわいいによる侵略を始める。
「ねえ、メトーデ」
自室のドアを開けて、わたしは台所でお食事を作っていたメトーデの背中に声をかける。
「はい。冬ですよー」
冬告妖精さんかな?
メトーデはわたしの姿を目にいれた。
「まあ、なんということでしょう」
静かに感動していた。
わたしは、てとてとした足取りで、メトーデに近づく。
はっきりと目のなかにハートマークが浮かんでいる。
「ねえ、メトーデ。わたし、かわいい?」
「あまりのかわいさに失神しちゃいそうです。もしかしてこれは、ベッドへのお誘い?」
すごい反応だ。
「お誘いじゃないけど、この服、どうかなぁって思って」
「なんというか……、すごく小っちゃな子がすごくがんばってるなって感じがして微笑ましいです。それでいて、アナリザンドさんがどことなく大事に育てられた貴族の子女のようにも思えます」
「ロリコン的にはどう?」
「かわいいがかわいいを纏うのは反則だな、と。反則魔族は抱っこの刑に処しちゃいますよ」
「抱っこは一日十分までって言ったでしょ!」
「これは約束ではなく戒めなのです。アナリザンドさんが悪いんですよ」
「ああ~~~」
すごい質量魔法だ。息ができないくらいに押しつぶされていく。
どうやら文化とか歴史の下地がなくても興奮するらしい。
ひとつ、学びになったな。制服だけに。
いくつかのサンプルを集めるために、わたしは大陸魔法協会の先生たちの部屋を訪問する。
【ゼンゼ先生の場合】
「見て見て―。先生。どうこの服」
「ん? 君に似合ってる服装だな」
淡泊!
でも、先生の髪の毛でヨシヨシされました!
満足!
【ゼーリエ先生の場合】
「くるくるザンド!」
先生の前でスカートを翻し、ゼーリエ先生にアピールするわたし。
「何をしている?」
「先生、どう? この服かわいいでしょ?」
「ああ、かわいいぞ。こっちへ来い。もっとかわいがってやろうか」
ひえ。
わたし、かわいがられちゃう。
そそくさと逃げ出すわたしでした。
【ゲナウ先生の場合】
「どうした?」
「先生、いつもよりちょっと妙味のあるわたしだよ。どう?」
「なにがだ?」
「服!」
「ああ……、服がいつもと違うな」
興味なしかよ。敗北。
【ファルシュ先生の場合】
「おや、アナリザンドさんですか」
「先生、どうかな。この服」
眼鏡をくいっとあげる。
「どう、とはなんでしょうか」
「かわいいとか、かわいくないとか、魔法学校の小学生かなとか、いろいろあるでしょ!」
「ああ、魔族は服装を変えられるんでしたね。悪くありません。アナリザンドさんなら違和感なく魔法学校の初等部に溶けこめると思いますよ。あとは、声を雰囲気にあわせて変えられれば完璧でしょう。ちなみにゼーリエ様の場合ですが、ハ行とマ行に少し力を入れるのがポイントです」
声豚かよ。
「そうですか……。ありがとうございます」
敗北。
【レルネン先生の場合】
「アナリザンド様。いかがなされましたかな?」
「先生、みてみてー。魔法学校初等部の制服をイメージしてみたんだけどどう?」
実際の魔法学校に制服という概念があるかは知らないが。
「こ、これは……!?」
雷に打たれたようにショックを受けるレルネン先生。
やったか!?
「このような学校の制服という概念……。ゼーリエ様がお召しになれば……。ああ革命だ! これこそまさに、ドキドキレッスン。そうか! そうだったのか! 先輩ゼーリエ様!」
先輩ゼーリエ。そういう概念もあるのか……。
「何だ。弁当を忘れただと。おまえは本当に忘れっぽいな。私のを分けてやろう」レルネン。
「いや、ゼーリエ先輩。いつも悪いです」レルネン。
「気にするな。おまえは私の後輩だからな」レルネン!
「ゼーリエ先輩……私は私は……」レルネン先生ェ!
脳内で青春劇を繰り広げるレルネン先生にかける言葉が見つからず、わたしはすごすごと退散した。もうこれ、勝ったか負けたかわからない。
さて、ここまで試してみたが、やっぱりロリコンじゃないと思われる先生たちの反応は薄かった。
ここはいよいよ、本命で試してみなければなるまい。
「ブルグお兄ちゃん。いるー?」
ガチャリとドアを開けると、わたしの足に視線が向くブルグ先生。
「……。風邪ひくぞ」わたしのおみ足に釘づけだ。意味もなくもちあげてみたり。
「お兄ちゃん、またわたしの部分に興奮した?」
「す、するか! まだ寒い。そんなはしたない恰好をするんじゃない」
「この服かわいいでしょ?」
ブルグ先生が、わたしに興奮するのはわかっている。
問題になるのは、比較だ。この服がロリパワーをアップさせるのであれば、ロリコン魂を刺激することが明確になる。ロリコン判別機として、わたしは駆動しうる。
先生はじろじろとわたしの矮躯を鑑賞した。
見ていいよとロリ神であるわたしに許可されたので、遠慮なく――あるいは理由ができたので、ぶしつけにわたしを見ている。
「感想は?」
「すごく、かわいいです……」
ふふん。勝った。
ロリコン判別機としてのわたしの性能はまずまずといったところだろう。
おそらく99パーセントの確率でロリコンであるメトーデとブルグ先生には効果的に機能した。
「――というわけで、どうかな。エーレちゃん」
「というわけって、どういうわけよ」
大陸魔法協会の一室で、エーレちゃんとお茶しているわたし。
ロリコン疑惑事件のあと、ヴィアベル君は当然、自身がロリコンではないと、それはもう血を吐くような勢いで否定した。しかし、エーレちゃんの疑念は晴れず、ヴィアベル君も彼女の頑なな態度に業を煮やしたのか、それ以上の弁明を諦め、森の奥へと姿を消してしまったのだ。
それから数日経った今もなお、ヴィアベル君からのコンタクトはなかった。
以来、エーレちゃんのヴィアベル君に対する疑念は、むしろ増幅しているように見える。あの『おもしれー女』発言は、やはり自分をからかっていただけで、本心ではわたしのような『ちっちゃくて可愛い女の子』のほうが好きなのだ、と。エーレちゃんの疑惑の念は、風船みたいにパンパンに膨らんでいた。
憧れの存在だったのだろうと思う。理想というフィルターを通してヴィアベル君を見ていたエーレちゃんは、そのフィルターがはずれてしまって、言っちゃ悪いが勝手に落胆したのだ。もっと正確に言えば、かわいさ余って憎さ百倍というやつ。エーレちゃんは自身のイメージと、実際のヴィアベル君とのズレを補正するために、ヴィアベル君がロリコンであれば整合されると考えたのである。それもまた勝手な解釈。
そこで、わたしは考えたのである。
このロリコンを誘因する幼い容姿に、さらにはセーラー服というこれまた少女趣味を誘うような服をまとった状態で、ヴィアベル君に近づけば、彼がロリコンではないと、はっきりするだろう、と。
もちろん、わたしとしては、ヴィアベル君がロリコンではないことは、ほぼ確信している。<わたし>のデータベースと照合しても、彼の過去の行動パターンや言動に、そのような傾向は見られない。魔族は魔力に敏感であり、魔力とはすなわち
でも言ってもダメなら見せてみろ、というやつだ。
「あんたって時々とんでもないこと考えるわよね」
「そうかな。エーレちゃんのご要望に沿った結果なんだけど。憧れのヴィアベル君がエーレちゃんに興味をもってもらえるか、これでわかるよ」
「私がヴィアベルに興味があるみたいに言わないでくれる?」
きょどってるエーレちゃん。
「でも、エーレちゃんはヴィアベル君に協力を申し出たよね?」
「そ、それは……あれよ。一級魔法使いの試験に合格するため。その確率を少しでも上げるためには有効だと思ったからよ」
「ふうん……、でもそれってヴィアベル君がロリコンであってもそうでなくても関係ないよね。ロリコンでもすごく強い魔法使いのお姉さんとか、お兄ちゃんとかいるよ?」
「英雄、色を好むって言っても、さすがに限度があるでしょ! 私くらいの年齢だったらともかくとして、あんたは十歳児くらいにしか見えないじゃない」
「わたし、合法だよ? ヴィアベル君より年上だし」
「見た目が大事なの! 英雄が、あんたみたいなチビ魔族とダンスでもしてたら、いくら年齢が上でも、ああ、この英雄はロリコンなんだな。幼い容姿が好きなんだなって思われるじゃない!」
どうやらエーレちゃんは、
――英雄。
という言葉にこだわりがあるようだ。
そして、ヴィアベル君のことを出逢った当初から英雄視していた。
視覚情報を重視しているのだろう。エーレちゃんの乙女フィルターではちょい悪オヤジなヴィアベル君のこともキラキラ輝いてるエフェクトがかかって視えてるのかもしれない。
しかし、冷静に考えれば、仮にエーレちゃんのことが欲望の対象になりえるとしたら、それはそれでロリコンなんじゃなかろうか。エーレちゃんの年齢は18歳くらい、ヴィアベル君が35歳くらいだとして、年の差はなんと17歳にもなる。
やはり、ロリコンなのでは?
い、いやこれは言わないでおこう。不都合な真実には蓋をするのが人間的所作だ。
代わりに述べるべきなのは、ヴィアベル君に対する評価かな。
「エーレちゃんって、ヴィアベル君の顔、好みだったりする?」
「……顔は悪くないんじゃないかしら」
「やっぱり、ヴィアベル君のことが好――」
「そんなんじゃないわ!」
被せるように否定するエーレちゃん。その声は、いつになく必死で、頬もほんのり赤い。まるで、図星を突かれた幼女のようだ。
わたしは、くすりと笑みをこぼす。
エーレちゃんの反応は、正直で可愛らしい。わたし好みの妹ちゃんだ。彼女がヴィアベル君に対して、単なる事業提携者以上の関係を築きたがっているのは、もう隠しようがない。
「でもさ、エーレちゃん」わたしは、わざと真面目なトーンで切り出す。「そんなにヴィアベル君の英雄としてのイメージを大事にしているのに、どうして、彼がロリコンかもしれないっていう疑いを、そんなに強く持っちゃうのかな? 普通なら、憧れの人がそんなはずないって、もっと信じようとするものじゃない?」
わたしの問いかけに、エーレちゃんは一瞬言葉を詰まらせた。
そして、俯き加減に、ぽつりぽつりと語り始めた。
「昔、私の村が、魔族に襲われたことがあるの」
頼りになる魔法使いも戦士もいない名もなき村だったらしい。
「まだ、私がずっと小さかった頃の話よ。私は何もできない無力な子どもだった。村の大人たちが、必死に戦っていたけど、魔族の力はあまりにも強大で……。わたしも覚えたての魔法でがんばって応戦したけど、ぜんぜんダメで。もう死んじゃうんだと思った」
エーレちゃんの声が、微かに震える。
あの時の恐怖と絶望が、ありありと映し出されているようだった。
「山のように大きな鎧を着た魔族だったの。もしかすると小さい私からみて、そんなふうに見えただけかもしれないけど。逃げ惑う声と、魔族の愉悦に染まった笑い声だけが響いてた」
エーレちゃんは、ぎゅっと自分の腕を抱きしめる。
まるで、あの時の無力な自分を慰めるかのように。
「そんな時だったわ。突然、空から、まるで英雄譚に出てくる騎士みたいに、ひとりの魔法使いが現れたの。ファー付きの外套を翻して、巨岩みたいな魔族の前に立ったの。うずくまる私を守るみたいに。そして一撃だったわ。たった一撃でその巨体は寸断されたの」
エーレちゃんの声に、ほんの少しだけ、あの時の憧憬の色が戻る。
「その人が、ヴィアベルだったの?」わたしは、静かに尋ねた。
エーレちゃんは、こくりと頷いた。
「ええ。ヴィアベルは私を救ってくれた。だから、私のなかでは今でも彼は英雄なの」
揺るぎない尊敬の念。
そして、憧憬。
「だから……だからこそ、許せないのよ」エーレちゃんの声が、再び怒りの色を帯びる。「あんなに気高くて優しい英雄だった彼が、アナリザンドみたいな……その、ちっちゃくて幼い女の子に、特別な目を向けているなんて。そんなの許せない。……私の大切な憧れが、汚されてしまうような気がして」
ああ、なるほど。そういうことだったのか。
わたしのなかの予想が確信へと変わる。
エーレちゃんにとって、ヴィアベル君は、単なる『ちょい悪オヤジ』でも、『おもしれー女好きの魔法使い』でもない。彼女の命を救い、絶望から救い出してくれた、文字通りの
それは、信仰にも似た、純粋かつ危うい思想。
すなわち、乙女の恋心。
<わたし>のデータベースを参照するまでもなく、これは人間の精神発達の過程でよく見られる現象だ。精神分析の言葉を借りるなら、エーレちゃんはヴィアベル君に対して、強烈な
自我理想というのは、幼い頃に親や尊敬する人物に対して抱く、『こうありたい』や『こうあるべきだ』という理想化されたイメージのこと。つまり、誉れの赤ちゃんみたいなものだ。それは、自分自身の未熟さや不完全さを補い、成長するための道しるべになる。エーレちゃんにとって、ヴィアベル君はまさにその輝かしい道しるべ、完全無欠の英雄だったのだろう。
でも、人間は成長するにつれて、その自我理想が必ずしも現実とは一致しないことを知る。そして、より現実的な自己イメージ――
エーレちゃんはその過渡期にあるのかもしれない。
だからこそ、彼女はヴィアベル君が『ロリコン』であってほしくないし、同時に、もしそうなら、その事実を自分の手で暴き出し、そして幻滅することで、自分の中の英雄像を守ろうとしているのかもしれない。
わたしは、エーレちゃんの複雑な乙女心を、ようやく少しだけ理解できたような気がした。そして、そんな彼女の想いを、ただの、『自分勝手な解釈』と切り捨ててしまうのは、あまりにも酷なことのように思えた。それもまたわたしの自分勝手な姉心だからだ。
「エーレちゃんの想いは伝わったよ。でもね。英雄だって人間なんだから、少しはヴィアベル君のことを信じてみてもいいんじゃないかな」
「それくらいは、私にだってわかってる。でも、ロリコンは絶対に許さない。絶許よ。絶許」
「じゃあ、予定どおり、ヴィアベル君を呼ぶけど。それでいい?」
「ええ、お願い。もう試験まで時間がないわ。なんとか協力をとりつけないと」
こうして、セーラーロリアナリザンドとの、ヴィアベル君の名誉をかけた戦いが、ヴィアベル君自身も与り知らぬところで始まったのである。