魔族少女のエロタナティブ   作:アナリザンド

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一級魔法使い試験

 

 

 

 一級魔法使い選抜試験――開幕まであと五分――。

 

 ちょうど学校で、校長先生が話す前のざわつき。

 そう表現するのがふさわしいほど、大ホールの中では、試験前の緊張が波をうち、そのエネルギーを発散させるかのように、興奮に充ちていた。天井からはいくつもの魔導シャンデリアが吊り下げられ、その柔らかな光が、磨き上げられた大理石の床と、そこに集う魔法使いたちの緊張した面持ちを照らし出している。

 

――ここは大陸魔法協会の北部支部。

 

 三年という月日を経て、再び選ばれし者たちによる試練の舞台となろうとしていた。

 

 集まった魔法使いたちは総勢六十名ほど。その顔ぶれは様々だ。歴戦の風格を漂わせる壮年の魔法使い、野心に満ちた瞳で周囲を窺う若者、そして、どこか場違いなほど落ち着き払ったローブ姿の者もいる。彼らは皆、それぞれの想いと覚悟を胸に、この大陸最高峰の資格を得るため、各地から集結した精鋭たちだ。

 

 ホールの一角では、ひときわ異彩を放つふたりの少女がいた。

 

 まず目につくのは、雪のように白い髪を長く伸ばしたエルフの少女――フリーレン。その表情はいつものように読み取りにくく、ただ静かに、しかしどこか遠くを見つめている。まるで、この喧騒すら彼女にとっては悠久の時の一瞬に過ぎない、とでも言うかのように。

 

 その隣には、紫色の髪を蝶型の髪留めで束ねた少女――フェルン。彼女は師であるフリーレンとは対照的に、ピンと背筋を伸ばし、周囲の空気を肌で感じ取ろうとしているかのように、わずかに緊張した面持ちで佇んでいた。

 

 受験者たちが、観察するように見ていたのはフリーレンである。ネットを使って、フリーレンという伝説上の魔法使いを覚知している彼等にとって、フリーレンは最大の障害にも最大の味方にもなりうる存在であるからだ。

 

 そして、フェルンも同じく。

 アナリザンドが妹として、目の中に入れても痛くないと主張するほどに、デロデロに甘やかされている存在。フリーレンの隣にいる少女こそ、フェルンだと気づき、その実力を推しはかろうとしている。

 

「あれが……フェルンか。確かにかわいいけど、私ほどじゃないね」とカンネ。

 

「おまえ馬鹿かよ。あいつを見てみろ。ほとんど平均的な魔法使いと同じ魔力だ」とラヴィーネ。

 

 他の受験者たちも同じ感想だ。

 フリーレンもフェルンもなんだか普通すぎるのだ。フリーレンはそこらの老魔法使い程度の魔力値。100程度しかなく、フェルンも同じく100ほど。平均的な三級程度の魔力しかない。

 

 そう、あくまで平均的で、おかしくない数値なのが()()()()

 魔力を偽装していると考えるのが自然だった。

 

 壁際で受験者たちを見守っていたファルシュ一級魔法使いとゼンゼ一級魔法使いもまた、フリーレンたちの魔力を感知している。もちろん、ゼンゼたちにとってはフリーレンだけに留まらず、他の受験者たちにも気を配る必要がある。

 

「今年はなかなか粒ぞろいですな」

 

 ファルシュが眼鏡をクイと押し上げて、そのように評した。

 

「長年に渡り魔王軍の残党と戦ってきた北部魔法隊隊長のヴィアベル二級魔法使い」

 

 ファルシュの視線の先には、いつものようにファーつきの服を着て獰猛な表情をうかがわせるヴィアベルがいる。その傍らにいるのは、レルネンの弟子であり孫であるエーレ。

 

「乙女ゲームの祖。レルネンの孫であるエーレ」とゼンゼ。

 

「ふむ。少し頼りない印象も受けますが、将来は有望そうかもしれないですね。今年、合格するかはわかりませんが」

 

「確かに戦闘経験が足りないかもしれないが、アナリザンドが関わっている」

 

 ゼンゼが空間跳躍魔法を開発できたように、あの不思議な魔族と関わった者は、なんらかの覚醒を果たしているようにも思える。だから、ゼンゼには期待感があった。

 

「アナリザンドさんが関わっていると言えば、デンケン二級魔法使いもそうですね」

 

 ファルシュが次に視線を移したのは、モノクルの奥から眼光鋭く、壇上のゲナウを睨みつけるように見ているデンケンだった。

 

「APについて、ゼーリエ様となんらかの裏取引がおこなわれたらしい」

 

 ゼンゼは、アナリザンドがわっしょいわっしょいしていた様子を思い出す。

 なんだか誇らしげに、我がことのように、デンケンの政治的手腕を褒めていた。

 その内容まではわからなかったが、ともかくデンケンとも知己の仲らしい。

 

「アナリザンドさんと一番関係が深いと言えば、史上最年少で三級試験をトップ合格したフェルンさんですね。さすがの私も覚えましたよ。彼女、油汚れよりもしつこかったですから」

 

 ファルシュが紫髪の少女に目を移す。

 やはり、魔力値としては普通。

 どうやらアナリザンドは、妹のかわいさをファルシュにも根気強く啓蒙していたらしい。

 ゼンゼも同じようなものであるから苦笑が漏れた。

 

 しかし――、笑い話ではすまないのが、フェルンの魔力。

 揺らぎがほとんどない。ステルスの魔法を使っているのか?

 あの、習得するのが大人に近づけば近づくほど難しいとされる魔法を?

 いや、普通の魔力を感知できるということは、意図的に魔力を制限しているということになる。

 

「末恐ろしい子だな……」

 

「私としては、やはり伝説の勇者一行の魔法使い。フリーレンが恐ろしいですね。どうしてゼーリエ様が彼女の受験を認めたのかわかりません。この試験が無事に事無く終わるかは、彼女次第と思います」

 

「フリーレン、か……」

 

 ゼンゼの脳裏にアナリザンドとの会話が甦る。

 

 いろいろと世間話のように、フリーレンの情報をだだ漏らしまくっていたアナリザンドだったが、直前にゼンゼに教えられたのは、ゼーリエがフリーレンを倒すようアナリザンドに命じたらしいということだ。

 

 魔力数から考えれば、蟻と象ほどの――いや、蟻と太陽ほどの違いがある。

 だが、魔法という深淵を解析してきた経験値は、アナリザンドよりも遥かに上。

 直接的な戦闘をした経験はないらしいが、その結果がどうなるのかはゼンゼにとっても未知である。まったくわからないというのが本当のところだ。

 

「しかし、最も恐るべき例外は、やはり――」

 

 ファルシュが再び眼鏡をクイっとあげて、ホールの奥から出てきた魔族の少女を見る。

 ゼンゼが、わずかに表情を緩めた。

 

「ああ、それは間違いないだろうね。アナリザンド――彼女が試験のトリックスターだ」

 

 

 ずり……ずり……ずり。

 

 

 最後に現れた一団の姿に、ホール内は騒然となった。

 現れたのは、ふたりの魔族。

 まず一人目は、言うまでもなく、魔族の中でも超有名人であり、みんなのお姉さんとしても振舞ってきたアナリザンド。今日のアナリザンドは、この前ゼンゼにしてもらって気に入ったのか、小さな角を髪の毛で包んで猫耳にした状態で、着ているのはゴシックロリータ風の、スカートの丈の短めの服だった。

 

「アナちゃんちっちゃい……」

 

「おてて、あんよ。ねこみみの欲張りセット」

 

「ふおおお。記念受験してよかった」

 

「サインもらってこようかな」

 

「魔族が試験受けるのかよ。怖くね?」

 

「いや、アナ様と協力できれば心強くね?」

 

 そんな感じに様々な反応が返ってくるが概ね好評のようだ。

 そして、アナリザンドの隣を歩いている腐った魔族リーニエも黙っていれば、ただの美少女魔族であり、史上初の和睦を成した姫君である。

 

「ふくらみかけのリーニエちゃんだ!」

 

「あ、アナ様と隣り合ってるの尊い」

 

「お肌。まっしろいねぇ。ふぅ……」

 

「思い出して果てるな。試験前だぞおまえ」

 

 こちらも概ね好評の模様。

 リーニエの実力についてはあまり知られていないが、アナリザンドといっしょに配信をしていたというだけで、人間にとってはある種の信頼が生まれている。

 

 そして、最後に。

 ずり……ずり……ずり。

 現れた魔物の姿に、ざわめきは最高潮に達する。

 

――幻影鬼(アインザーム)だった。

 

 正確には、アナリザンドに捕獲され、エーデル二級魔法使いに現在飼われているらしい魔物。首元にはペットの証か、不思議な色合いを帯びる首輪をつけており、そこに彫りこまれた字には『サリー』と書いてあった。

 エーデルからの伝聞であるが、曰く、偏食を治すのが大変だったらしい。

 もちろん、偏食というのは、人間だけをエサとするアインザームの性質のことだ。

 

「げぇ! 幻影鬼! なんでここに」

 

「魔物が参加するなんて聞いてねーぞ!」

 

「マジかよ……てか、アナ様。アインザーム飼ってるの?」

 

「覚悟はしてきたが、とんでもねぇ試験だぜ……」

 

「あの子、もし試験に合格したら、初の一級魔法使いになった魔物ってコト!?」

 

「魔物の同僚ができちゃう系? 冗談きついな」

 

 受験者たちに広がったのは困惑の一言。

 魔物が受験するなんて、天地が逆転してもありえないことだったからだ。

 とはいえ、魔族であるアナリザンドが参加することは、特に不思議とも思われていないことからもわかるとおり、人間というものはどんな異常にも慣れるものらしい。

 

「……ゼンゼさん。このことは?」

 

 ファルシュもわずかに困惑していたが、他の受験者よりは動揺は少なかった。同僚のゼンゼがまったく動揺していなかったからだ。

 

「もちろん知っていたよ。ちなみに、あのアインザームは()らしい」

 

「ものすごくどうでもいい情報を聞いてしまった気分です」

 

「数合わせだよ」

 

 

 

 

 

「どうやら全員そろったようだな。静粛に――、これより一級魔法使い選抜試験をおこなう」

 

 アナリザンドの到着とともに、壇上にいたゲナウ一級魔法使いが声を出した。

 聞き洩らすまいと、騒然としていた会場は一瞬で静まり返る。

 

「それでは第一次試験の内容を発表する。()()()()()だ。総勢ろくじゅ……59名と一匹。三人一組のパーティーに分かれ、試験を受けてもらう。では組分けをおこなう」

 

 受験者たちの目の前に現れたのは銀色をした腕輪だ。シンプルな意匠をしていて、表面には数字が書かれてある。その数字がパーティナンバーなのだろう。

 

 おそらく折り込み済みだったのだろうが、アナリザンドとリーニエ、そしてアインザームは最初から選り分けられていた。ホールの少し離れたところから動く様子はない。

 

 フリーレンは、ちらりと横にいるフェルンを見た。

 

「別パーティのようですね」とフェルンは少し寂しそうにする。

 

「そうだね。フェルンがんばってね」

 

「わかりました」

 

 師であるフリーレンはフェルンの合格を信じている。

 そして、自分が試験に合格しようとは微塵も考えていない。そもそも試験を受けることすら乗り気ではなかったのだ。それをフェルンがなんとか説き伏せて、いっしょに試験を受けるよう頼みこんだのである。

 

――でも、きっとフリーレン様は一級魔法使いという資格に、興味はないのでしょう。

 

 フェルンもなんとなくフリーレンの気持ちを察して、心配をかけないようにさらりと別れた。

 

 

 

 

 

 フリーレンは歩く。

 腕輪は、臨時パーティーの仲間の居場所を教えてくれる。

 やがて、雑踏のような人混みの奥からは、キラキラとした瞳で見つめる一人の少女と、こちらを値踏みするような視線で射貫いてくる、こちらも少女だった。

 

「やった! フリーレンだよ、ラヴィーネ。SSRひいちゃった!」

 

 カンネは飛びあがらんばかりに大喜びしている。

 ちなみにSSRとは、配信で時折アナリザンドがいっていたレア度を表す謎の言葉である。

 ダブルスーパーレア。あるいはエスエスアールと呼ばれ、いわゆる最高レアのことを指すらしい。

 伝説の魔法使いが同じパーティにいる。それだけで試験合格はグッと近づいてくる。

 

「あんたがフリーレンか。私はラヴィーネ。こっちの馬鹿はカンネだ。よろしく頼むぜ」

 

「馬鹿って言うな!」カンネが怒る。そしてフリーレンには笑顔。「よろしくね」

 

「うん。よろしく」

 

 フリーレンは言いながら、ふたりを観察する。

 見たところ、魔力の数値的には三級魔法使い程度。

 実力的には、旅立ちの頃のフェルンと同程度だろうか。

 

 ネットという見えない呪いに覆われて、相手だけがフリーレンを知っているという状況は、ここ数年ずっとつきまとってきた感覚だった。

 

 フリーレンはそもそも名をあげようという野心はない。

 フランメからは魔王を(たお)すまでは、雌伏し、魔族に名を知られないように努めてきたといえる。だから、その行動指針は、今も変わらずフリーレンの中で続いている。

 

 ヒンメル一行の魔法使いというポジションは、ヒンメルのオマケのようなもので、おそらく長い年月をかけて忘れ去られていくものだと思っていた。

 

 そうならなかったのは、ネットという記憶媒体のせいだ。フリーレンの意図とは裏腹に、ネットによってその名と功績が再び注目され、ある種の有名税を支払わされている。

 

 まさに、魔族の呪いとも言えるのである。少なくとも、フリーレンにとってはずっと呪われている感覚がしている。だから、あの魔族に敵愾心が湧くのだろう。

 

 それは人間たちにとってもそうだ。カンネが、無邪気に慕ってる分にはまだいいが、もしもそれが依存というレベルにまで達してしまったら――。

 

「仲間どうし。協力しよう」

 

 フリーレンは楔を打ちこむように、協力を唱えた。

 

 

 

 

 

 フェルンは歩く。

 

 フリーレンがどこぞへ向かったあと、独りで仲間を探す。

 ほどなくして、見つかったのは一組の男女。

 ひとりは露出度の高い服を着た、ジト目をしたねばりつくような視線の少女。

 片結いしたいわゆるサイドテールがかわいらしく、全体として少女らしいかわいらしい姿をしていると言えるが、鋭い刃物のような雰囲気はどことなく危険な香りも感じさせた。

 

 そして、もうひとりはボーっとしている表情の、でもこちらもジト目でフェルンを観察している眼鏡をかけた男性だ。

 

 両人とも年の頃はフェルンと同じくらいだろうか。

 

「あんたがフェルンちゃんかー。私はユーベル。よろしくねー」

 

 間延びした声を出すユーベル。

 

「ラントだ」たった一言のラント。

 

「よろしくお願いします」腕輪を見せながらフェルン。

 

「それにしてもさぁ。フェルンちゃんってすっごい美人だと思ってたけど、案外普通なんだね。アナちゃんがあんなに褒めるもんだから、一目見ただけで魔族すら魅了するような天使みたいな容姿だと思っていたよ」

 

「アナリザンド様には、妹のようにかわいがってもらってますから」

 

「ふーん。怒らないんだ。普通って言われたら()()怒るもんだよ」

 

「アノマリーであることを求めるのは人間の特性ですから、ユーベル様がおっしゃりたいことはわかります」

 

「真面目ちゃんだねぇ」

 

「パーティ戦が始まる前から、仲たがいするような動きはやめてもらえないかな」とラント。

 

 もちろん、ラントはユーベルにバレないように振舞っている。

 あの仮面騎士を演じたときとは違い、ダウナー系のいまどきの若者風な態度を崩さない。

 効率性という観点から、仲間の結束を求めている。

 

「眼鏡くんも、真面目だねぇ。なんだか……いや、まあいいか。とりあえず、仲良くしよーよ。同じパーティなんだし」

 

「はい。わかりました」

 

 フェルンが答えて、不穏な空気はひとまず去った。

 

 

 

 

 

 レンゲは最初から所在ない感じでキョロキョロしていた。

 その内心は、獲物を狙うハンターである。もちろんターゲットになっているのは素材となりえる英雄の卵たち。彼女の描くびーえる小説に登場させうるキャラクター性を秘めた逸材である。

 

 フリーレン? 知らんな。

 心の底からどうでもいい。背景の価値すらない。

 そんな態度で、レンゲがやっていたのは、つまるところ、言い方が悪いが男漁りだった。

 

 そんなレンゲも、より長く観察時間を増やすため、なるべく試験には合格したいと考えている。

 仲間を示すリングが出現したとき、できるなら男がいいと考えたものの、しかし、自分に興味を持つようなロリコンはノーセンキューだと考えていた。神は不可侵なのである。

 

「あらあら。小っちゃい子が仲間なのですね」

 

 現れたのはデカ女だった。

 

「レンゲ」と、短く告げる。

 

「メトーデです。失礼ながらお撫でしても?」

 

「なぜ?」

 

「レンゲさんが、とてもかわいらしいからです」

 

「……」

 

 レンゲは答えず、旅をするうちに仲良くなった信徒の姿を探す。

 リーニエは、アナリザンドといっしょのパーティのようだ。

 助けてリーニエ!

 

「もうひとりの……仲間は?」

 

 ひとまず気をそらすために、もうひとりの仲間の姿を探すフリをする。

 

「ああ、あちらにいらっしゃいます。トーンさんですね」

 

 そこには壁を背にしてかっこつけている軽薄そうな男がいた。

 ダメだ。こいつ使えない。

 

 神は一瞬で裁定し、興味を失った。

 

 まだしも、目の前にいるデカ女のほうが頼りになるかもしれない。

 

「撫でてもいい。でも、私……弱いよ。足引っ張るかも」

 

「最初から強い人なんていませんよ。では、お言葉に甘えて」

 

 抱き着かれながら、ナデナデされるレンゲ。

 デカいから、なんとなく男同士でもこんな感触なのかもしれない。

 それに、お言葉という文言も、なんとなく男場と読み替えることができる。

 なるほど、使える。使える女だ!

 

「むふー」

 

「あら、かわいらしい」

 

 腐った内面が表に出ることはなく、レンゲはただのかわいらしい少女だったのである。








 なんと、アインザーム君はアインザームちゃんでした。
 キャラが多いので、動かすだけで文字数がモリモリ増えちゃう。
 執筆カロリーも必然的に増えるので、これからが大変そう。
 感想が欲しいです。
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