この高校は異常だ。常々、そう思っていた。
だが、どうも俺を除くクラスメイトはそうは思わなかったらしい。
イジメにより苦しんだ生徒達が集められ社会復帰を目指すために国が作ったらしいこの高校は、国が予定していた定員の数十倍もの人数が受験した。
俺もイジメを受け、卑屈になった訳だが、それでも可能性があるならとこの高校を受験した。
結果として、俺は見事合格した。嬉しかった。久しぶりに嬉し泣きをした。
だか、蓋を開けてみれば、社会不適合者の寄せ集めが、慣れ合っているだけ。
なるほど、確かにイジメは零だ。何しろ、全員がイジメの恐怖を嫌というほど突き付けられた同じ境遇の人間。
同族意識なるものが働き、それはもう仲の良いクラスが、学年が、学校が出来ていた。
だが、その同族意識が、俺の目には気持ち悪く映った。
その結果が、このザマだ。
俺がいたクラスには一体感があった。どんなことも、皆が真面目に話し合い、意見をまとめてから、共に行動した。
俺は意見を出さず、だからといって反発することなく、それなりの交友関係にとどめたままで生活していた。――深く関わりたくなかった。
今、俺が目の前の地獄を見ないといけない嵌めになっているのは、そのせいなのだろうか。
例え、クラスとしての意見一致しても、それが正解とは限らない。
教師や、誰か、もしくは他クラスの保護者、周囲に住む人々に起こられてしまうことも少なくなかった。
それで誰かを責め立てることはなく、「いい経験になったね」などという綺麗な言葉で、美談になって終わる。
ああ、美しい。本当に美しい。だが、俺はそれを本気で言っているとは思わなかった。
ただ、イジメにならないように、誰しもが我慢をして、平和を徹しているように思えた。
誰しもが平等に、均等に、我慢をしていた。――そんな結果が、これなのだろうか。
目の前。俺達の教室の窓から、夕焼けの空が注ぎ込んでいた。
教室が赤い。夕焼けは、人を殺すように輝いている。
輝いている。輝いている夕焼けの下、教室の中で、人が死んでいる。
赤い。紅い。朱い。
真紅の血液は、床に、机に、黒板に、壁に、亡骸に染み込み、どこか幻想的にも思えた。
「なんで、なんで、こんなことに……?」
分からない。ただ分かるのは、目の前で、次々と人が死んでいっただけだ。
残るのは俺と、目の前で拳銃を自らの頭に突き付ける少女のみ。確か、声優になりたくて、声真似でクラスを賑わせていた少女だ。
少女は朦朧としていて、だが、周囲に起こっていることは理解しているのだろう。
「死ななくちゃ……、死ななくちゃ……、みんな死んだんだから、私も死ななくちゃ」
呟く。呪詛のように。
一週間前、オーディションに受かったと、字のごとく飛び跳ねて喜んでいた少女の口から発した物とは思えなかった。
いや、それだけじゃない。既に息絶えた三十八人は皆、将来の夢を持ち、語り、それに近付くように必死に努力していた、そうして、その半分以上がその手で掴み取っていたはずだ。
なのに、その全員が、何の躊躇いもなく、死んだ。それぞれの手によって。
「……死なないと」
それが決意の、最期の言葉だったのだろうか。
軽い音が響いた。
軽い音が、少女の命を刈り取った。
そんな簡単に、呆気無く、人は死ぬのだろうか。
分からない。死んだことなどないのだから。
だが、恐らくはそうなのだろう。目の前で、軽い音が鳴り響き、結果三十九人が死んだ。
この教室にいた誰しもは、もう二度と話さない。二度と笑わない。――二度と、会えない。
何故かは分からない。だが、皆の中で「死ぬ」という選択肢が一致したのだろう。
そして、誰も疑わずに、それを実行した。
俺はそれに賛成はしない。
異常だ。皆が、皆の自由意志で死んだ。
それほどまでに連帯した関係は、もはや依存と言った方がいいのではないだろうか。
そんな依存をするほどまでに、一人は嫌だったのだろうか。
みんなと同じにしないといけない。そんなくだらない理由で、地球の中で最も賢く、賢しい生物である人間が、死んだ。理性のある人間が死んだ。
この三十九個の骸が死ぬ意味があるのだろうか。
分からない。――わからないということだけが分かっている。
『緊急のニュースをお伝えします。今日、午前八時三十分。◯◯高校の☓年△組の三十九人が、集団自殺を行いました。この学校は、過去にいじめられた経験のある子どもたちへ教育の機会を与えるために新設された試験高校で、現在唯一生存していた男子一名に事情聴取を行っております』