優柔不断ゾンビ~ゾンビだらけの世界で女の子と海に行こうとするバカの話。ゾンビだらけといってもゾンビがだらけているわけではない、念のため~   作:でぃくし

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さようなら、スーパーアイアンハルク

 

 「あああ~っ!?なん、なんてこったあ!!」

 「ス、スーパーアイアンハルクが、かか、完全にブッ潰れてる……!!?」

 

 

 

 「あっ、さっきのあの子だー!」

 

 駐車場に停めてあったスーパーアイアンハルクは、屋上から落ちてきたゾンビゴールデンハムスターに押し潰され無残なスクラップと化していた。

 

 大破だとかもはやそういうレベルでもなく、鉄クズのせんべいとしか表現しようがないくらいぺしゃんこになっている。

 

 シンイチと友人の男が呆然とする横で、優ちゃんはゾンビゴールデンハムスターの死体をつっついていた。

 

 しかしシンイチたちはそれどころではない!

 

 

 

 「シンイチ!やべーよ、どうすんだよお!もう終わりだろこれ!」

 

 「落ち着け。まだいける」

 「えっ?」

 「紙風船で遊んだあの日々を思い出すんだ!」

 「叩いて膨らませろってのか?!」

 

 「ああ!」

 

 

 

 「「おらおら~~」」

 

 

 

 シンイチたちが寄ってたかって鉄クズに蹴りを入れると、スーパーアイアンハルクはボコンボコンと音を立てて復元されて……いくわけねーだろ!!

 

 ただ叩くだけでは駄目だ!もっと激しく強く叩くのだ!!

 

 

 

 「オアーー!」

 

 

 

 鉄クズをバカスカ殴りつけていると、ついに鉄板が剥がれ落ち、ひしゃげたタイヤが外れてバタンと倒れる。いやもうダメだろこれ!

 

 そんなシンイチたちのバカ騒ぎなどどこ吹く風の優ちゃんがぽつりと呟いた。

 

 「ねえねえ、シンイチ」

 

 

 

 「優ちゃん、どうしたんだ?」

 「この子、このままだとかわいそうだよ」

 「ああ……けどお墓に入れるにはちょっと大きすぎるからなあ……」

 

 

 

 血とオイルに塗れていたものの、屋上から落下したはずのゾンビゴールデンハムスターの巨大な体はまだ原形をとどめている。

 しかし完全に生気を失い、まるで物言わぬ死体のようだ。それでもその強大さは見るものを圧倒し、死してなおも圧倒的な存在感を示していた。

 

 

 

 「シンイチ!もう無理だ!スーパーアイアンハルクはもうダメだあ!」

 

 

 

 誰もが諦めかけたその時だった。

 

 まるで友人の男の言葉に呼応するように、死んだかと思われていたゾンビゴールデンハムスターがむくりと起き上がったのである。

 

 「いやそっちかよ!」

 「あ、起きた~」

 

 ゾンビゴールデンハムスターはもぐもぐと口を動かしながら、シンイチたちをビーズのようなキラキラした目でじっと見つめている。

 

 「ん、んもがあ……」

 

 どうやら敵意は持っていないようだが、その体は今にも朽ち果てそうなほどボロボロだった。

 

 

 

 「ねえ、シンイチ。この子お腹すいてるみたいだよ?」

 「……そうみたいだな」

 

 

 

 ゾンビゴールデンハムスターはよたよたとシンイチたちの方へ近づいてくる。

 

 

 

 「シンイチ、助けてって言ってるよ。お願い」

 

 「ああ、でも助けるって言っても……」

 「なんか食わせてやればいけんじゃね?」

 

 「わかってるよ、腹が減ってるんだろ?でもなあ……」

 

 

 

 シンイチは周囲を見回してみる。ここは駐車場だ。

 

 目につくものと言えば葉の落ちた植え込みがあるくらいで、ハムスターが食べられそうなものなど何もない。

 動物病院まで戻ればペットフードくらいはあるかもしれないが、ゾンビが徘徊する中で戻るのはリスクが高すぎる。

 

 

 

 「あ、これなんかよさげじゃん」

 

 

 

 友人の男は駐車場に転がっていたおっさんの生首を拾い上げると、ゾンビゴールデンハムスターへと差し出した。

 

 

 

 するとゾンビゴールデンハムスターはハゲ散らかした頭皮をふんふんと嗅ぎ……次の瞬間、怒ったようにおっさんの生首を張り手で叩き落した。

 

 路面にぶつけられたおっさんの生首は風船のようにパアンと破裂し、腐った脳汁がアスファルトに汚らしい水たまりを作る。

 

 

 

 「何がよさげなんだよ」

 

 「いや、肉だしいけるかなって」

 「そんなんよりトランクの中にみかんの缶詰かなんかあったろ」

 「シンイチ!ダメだ!あれは俺の好物なんだよ!」

 

 友人の男が慌てて止めるも、時すでに遅し。

 

 

 

 「優ちゃん、その缶詰って……」

 「みーかんーだよー」

 

 

 

 優ちゃんはスーパーアイアンハルクのトランクの中から缶詰を取り出し、ゾンビゴールデンハムスターに食べさせてしまっていた。

 

 するとどうだろう、ゾンビゴールデンハムスターの体からシロップのような甘い匂いのする蒸気が立ち上ってくるではないか!

 

 そして見る見るうちに体が修復されていき……見事、ゾンビゴールデンハムスターはふわもこ愛されボディへと復活を果たしたのである。

 

 

 

 「もんがあぁあぁあっ!!!!」

 

 「おー!元気になったー!」

 「俺の缶詰が……」

 「まあまあ、今は目の前のこの奇跡を素直に喜ぼうじゃないか」

 「この子すっごくかわいいよー」

 

 「もんがあ」

 

 

 

 どうやらこのゾンビゴールデンハムスターは、優ちゃんに懐いてしまったらしい。敵意など微塵たりとも感じられない愛らしさにシンイチと友人の男も思わず顔をほころばせる。

 

 

 

 「ねえ、この子に名前つけてあげようよー」

 「そうだな……よし、こいつの名前は……」

 

 優ちゃんと一緒にみかんもぐもぐしているゾンビゴールデンハムスターを見ながらシンイチはふと閃く。

 

 

 

 「そうだな。スーパーアイアン……いやスーパーゴールデンハルクにしよう!」

 「スーパーゴールデンハルクだね!よろしくね、はるちゃん!」

 

 

 

 優ちゃんがほっぺをなでなですると、ゾンビゴールデンハムスター改めスーパーゴールデンハルクことはるちゃんは嬉しそうに顔をすり寄せてくる。

 そして……はるちゃんは優ちゃんをひょいとつまみ上げると、そのふかふかした背中に乗せたではないか!

 

 

 

 「シンイチ、すごいよ!はるちゃんがわたしたちを乗せてくれるって!」

 

 「優ちゃん、ちょうどいいな。スーパーアイアンハルクはもうダメだし、今後は優ちゃんがドライバーだ」

 「やったあ!わたし、みんなと一緒に海に行くんだ!」

 

 

 

 もこもこの背中にまたがり、大喜びではしゃぐ優ちゃん。

 それは夢と希望にあふれる新時代の幕開けを予感させる光景だった。ああ、なんと素晴らしきかな友情よ……!

 

 

 

 (さようなら、スーパーアイアンハルク。今までありがとう)

 

 

 

 心の中で哀悼の意を捧げると、シンイチたちは病院を後にする。

 こうして三人はスーパーゴールデンンハルクことはるちゃんの上に乗って海へと向かうのであった。

 

 衝撃の実話を基に予期せぬ恐怖に襲われるサバイバル・ヒューマンドラマが今始まる!

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