優柔不断ゾンビ~ゾンビだらけの世界で女の子と海に行こうとするバカの話。ゾンビだらけといってもゾンビがだらけているわけではない、念のため~   作:でぃくし

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ゾンビワクチンと副作用

 

 

 「どうした教頭、まだ何かあるのか?」

 「キミたちの勝ちだ……こ、これを持っていくがいい」

 「……」

 

 教頭先生は呻き声を上げ、どこからかアンプルを取り出すとシンイチに突きつける。

 

 

 

 「そんなのどこに保管してたんだよ」

 「どこでもよい!細かいことを気にしてる場合か!早く持っていくんだ!」

 

 (いや気になるだろ普通……)

 

 

 

 それよりも気になるのはアンプルだ。一体これはなんだというのだろう?

 それになぜこのタイミングでこれを渡すのか?まるで自分たちに何かを託すかのように……。

 

 

 

 シンイチが渋々とアンプルを受け取ると、教頭先生は体の全ての力を使い切ったかのようにぐったりとその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 「……で、これは何なんだよ教頭。まさかゾンビワクチンだとでも言うんじゃないだろうな」

 

 「なんだって!?ゾンビワクチンなんてあるのか!」

 

 「ふふふっ……やはりゾンビワクチンのことを知っていたのか。さすがだ。もはや隠すことは何もなかろう……そう、それこそがワタシの執念が生み出したゾンビワクチンだ」

 

 「なんだって!?ゾンビワクチンなんてあるのか!」

 

 

 

 「どうした教頭、最期はこのワクチンを使って人間として死なせて欲しいとかいう感動的な話なのか?」

 

 

 

 シンイチの言葉に教頭先生は一瞬悲しそうに顔を歪めたが、それでも絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

 

 

 「違う……キミに託すのだ。そ、そして人間に戻したい相手がもしいたなら、その者に使ってやるのだ」

 

 「……」

 「……」

 

 

 

 教頭先生の衝撃の告白にシンイチと友人の男は互いに顔を見合わせる。

 

 

 

 「……教頭、こんなものがあるならどうしてあんたは自分で使わなかったんだ」

 

 シンイチがそう問いかけると教頭先生は少し迷った後、弱々しくもぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

 

 「も、もしワタシを受け入れてくれる女性がいたなら、その人と二人で人間としての生を全うするつもりだった」

 

 「……」

 

 「……だがそんな女性はどこにもいなかった。ワタシはその……自分でもわかっているんだ。どれだけ優れた知性を持って生まれてもこれだけはどうすることもできないと」

 

 「そうか……」

 

 「だからワタシは人間をやめてゾンビとして生き、ワタシだけの世界を作ろうとしたのだ」

 

 「教頭……」

 

 

 

 「そりゃそうだろ」「パンツ一丁の上に今はフルチンだしな」と思ったものの、シンイチたちは口に出さなかった。

 教頭先生の悩みと苦しみ、そして心の闇が痛いほどに伝わってきたからである。

 

 

 

 「シンイチ!そのワクチンを優ちゃんに使えば人間に戻せるってワケか?」

 「落ち着け。でも教頭の話だと、そういうことみたいだな」

 

 「じゃあ、わたしは人間になる!シンイチ、いいでしょ?」

 

 

 

 だが教頭先生はひょいっと起き上がったかと思うと、優ちゃんたちを慌てて制止しようとする。

 

 

 

 「ま、待つんだキミたち!現在そのワクチンには副作用が確認されているんだ!」

 「どんな」

 「ゾンビになる」

 

 

 

 「「「……」」」

 

 

 

 シンイチはワクチンを投げ捨てようと思ったものの、取りあえずポケットにしまい込んでおくことにした。 教頭先生はその様子をなんかかっこつけた感じで見届けると「さあ行くんだキミたち!」とかなんとか言いながらぱたりと横になり、感動的にくたばっていくのであった。

 

 

 

 シンイチたちはしばしの呆然とその場に立ち尽くしていたが、やがて優ちゃんがシンイチの肩をぽんぽんと叩く。

 

 

 

 「シンイチ、行こ!あの女の子を探すんだよね?」

 「あ、ああ、うん。ごめんよ、おかしなことに巻き込んだりして」

 

 「うへへ。全然気にしてないよー!シンイチたちと出会ってからずっと楽しい!」

 

 

 

 シンイチは優ちゃんに謝りながらも進むべき道を見据える。

 あの女の子を探し出し、友人の男が愛を手に入れられるかどうかを見届けるのだ。

 

 そして自分は、優ちゃんを海に連れて行くのだ!

 

 

 

 (……じゃあな、教頭先生)

 

 

 

 シンイチはそう心の中で呟くと、さっさと先に行ってしまった友人の男を追って走り始めるのだった。

 

 だがこの後すぐにシンイチは思い知ることになる。

 ゾンビの楽園と化した世界はかくも広く、そしてどうしようもなく混沌としており不条理だということを……。

 

 

 

 「くそお~教頭め、期待させやがって……」

 

 「シンイチ、ごめんねっ」

 「ゆ、優ちゃんが謝ることないよ、悪いのは全部あの教頭だ!」

 「でも私がゾンビのせいで」

 

 「いいんだ、いいんだよ優ちゃん。俺は君が人間だろうとゾンビだろうと変わらないよ!」

 

 

 

 「うぉおぉおぉ!いたぁああ!あっ、ああ、あの子だあ!ひゃあぁぁっっ!」

 

 

 

 しばらく校舎の探索を続けていると錯乱状態の友人の男が叫びながら前方を指さした。なんと先ほど出会ったゾンビの女の子だ。相も変わらず美しい容姿のまま制服姿でニコニコと手を振っているではないか。

 

 

 

 「お、おい!落ち着け、落ち着けって!!」

 

 シンイチは必死に引き留めようとするがそんなアドバイスを素直に聞くような男ではない。

 

 

 

 「ねえねえ~!名前くらい教えてよーー!!」

 

 

 

 自分のことを棚に上げて友人の男はバンザイの姿勢のまま女子校生ゾンビに突撃する。その体勢から何をしようというのか。

 だが女子校生ゾンビは友人の男に抱きつかれる直前にスカートをふわりとひるがえして身をかわすと、そのままぴょんぴょんと跳ねるように逃げてしまう。

 

 

 

 「そ、そんなぁ……なんで逃げるんだよぉ~♪」

 「いやそりゃ逃げるだろ……」

 

 

 

 シンイチが呆れながらそう呟くと女子校生ゾンビはくるりとこちらを振り返った。

 敵意があるのかないのかはわからないが、なんとも楽しそう……というよりまるで誘うような、期待に満ちた瞳で微笑んでいる。

 

 

 

 だがシンイチは直感的に『こいつは危険だ』と感じ始めていた。

 

 

 

 確かにこの女子校生ゾンビは他のゾンビと違ってそこまで凶暴さを感じられないが、どうも様子がおかしい。さっきの教頭先生とはまた異なる危険な香りを感じるのだ。それでもシンイチは友人の男を本気で止めるべきかについては迷っていた。

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