優柔不断ゾンビ~ゾンビだらけの世界で女の子と海に行こうとするバカの話。ゾンビだらけといってもゾンビがだらけているわけではない、念のため~   作:でぃくし

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ゾンビわんこ

 

 「シンイチ!あのナースたちは一人で何十匹もの犬猫を担架に乗せてるぞ!」

 「落ち着け。それだけ重病の動物がいっぱいいるってことなんだろ」

 

 友人の男の言葉通り、ナースゾンビたちはぐったりとしたチワワやマンチカンなどの犬猫を担架に乗せ、上へ下へ右へ左へと大慌てで動き回っている。

 

 すれ違うシンイチたちには目もくれず、手術室と思わしき施設へと運び込んでいるのだ。

 

 

 

 「ええっ??マジかよこいつら!」

 「よく考えたらすげーな。ゾンビになってからも働いてるんだから」

 

 「シンイチ、どんなお仕事してるか見学しようよ!」

 

 優ちゃんにねだられシンイチはそーっと手術室をのぞいてみる。

 

 するとそこには担架から降ろされたたくさんの動物たちが手術台に縛りつけられているではないか!

 

 

 

 ナースゾンビたちはそんな動物たちの脳天に針をぷすりと刺したり、点滴で妙な液体を注入したり、体に何かを注射したりもしている。

 そしてその謎の作業が終わればまた担架に乗せてまた別の場所と忙しそうに運んで行こうとするのだ。

 

 

 

 「この人たち何してるんだろ?」

 「うーん。きっと動物を治そうとしてるんじゃないかな」

 

 その時、手術台の上にいたドーベルマンに突如として異変が起こった!

 

 ぐねぐねと体をくねらせ始めかと思うと、原形をとどめぬ異形の姿へと変わっていくではないか!

 

 

 

 「シンイチ!ち、違えよ!あれは治療してるんじゃねえ!ぞっ、ゾンビに作り替えてるんだ!」

 

 

 

 「シンイチ、あれってどうなってるの?」

 「あ、あれはラブラドールレトリバーだ……!」

 

 なんということだろうか。先ほどまで賢そうなドーベルマンだった犬が今やお利口そうなゾンビラブラドールレトリバーへと変貌を遂げていたのだ。

 

 これこそまさに神をも恐れぬ鬼畜の所業ではないか!

 

 

 

 「うぉんっ!うぉおうっ!」

 

 血走った目のゾンビラブラドールレトリバーが牙を剥き出しにしながら吠えている!だが変形直後の体では上手く動けないのか、ゾンビナースの手で担架に乗せられるとあっさりどこかへと運ばれてしまうのであった。

 

 

 

 「うああ、もうだめだあ!お、お終いだあぁ!」

 

 友人の男が絶望の声を上げるのも無理はない。手術室ではその後も様々な動物の異形化がくり広げられていった。

 

 

 

 「ウォウオォンッ!」

 「ばぁあうっ、ばうっばああうっ!」

 「ぽぎいぃいぃい!!」

 

 

 

 ナースゾンビの手によってウェルシュテリアは凶暴なゾンビエアデールテリアへと姿を変え、ナースゾンビの施術によってノーフォークテリアは凶暴なゾンビノーリッチテリアへと生まれ変わっていく!

 

 ナースゾンビの投薬が!

 ナースゾンビの腹腔鏡手術が!

 ナースゾンビのマンモグラフィーが!

 ナースゾンビのレントゲンが!

 ナースゾンビのお薬手帳が!

 

 犬を!バリケンを!センゲを!ニグヴェを!ハヌマンラングールを!凶暴なゾンビへと変えてしまうのだ!

 

 見よ!この狂気の動物実験を!この悪夢の光景を!

 

 絶望のインシデントをしかとその目に焼き付けるのだ!

 

 

 

 「シンイチ、あのわんこさんたちかわいかったのに」

 「ああ……でもあれはもうナースゾンビの仲間だ。忘れちゃった方がいいよ」

 「シンイチ!帰ろうぜ!寝てる間に改造されたらたまったもんじゃない!もう俺はこんな所には一秒だって居たくない!」

 

 「落ち着け。まあそうだな。優ちゃん、行こう」

 

 手術室の前からそっと立ち去ろうとしたその時だった。

 

 

 

 けたたましい警報音が病院内になり響いたかと思うと、出入り口への通路がシャッターによって完全に閉ざされてしまったではないか!

 

 これでは閉じ込められたも同然だ!

 

 「シンイチ!閉じ込められたぞ!」

 「落ち着け。閉じ込められたのならこじ開けるまでだ」

 

 だがそんなシンイチたちのことなどお構いなしに次なる困難が襲いかかる!

 

 『緊急事態発生!緊急事態発生!バイオアニマルズ出動!』

 

 院内のスピーカーから機械音声のアナウンスが流れ、シンイチたちを取り囲むように様々な場所からゾンビわんこたちが現れたではないか!

 

 

 

 「シンイチ!ゾンビリチャードソンジリスがこっちに来たあ!」

 「落ち着け。あれはゾンビプレーリードッグだ」

 

 「ケケケケケ!」

 

 侵入者の新鮮な血肉を求め、ゾンビウッドチャックがおぼつかない足取りで迫ってくる。その目は血走り口からはよだれをたらし、もはや生前の穏やかな性質など欠片も残っていないことは明白だ!

 

 

 

 「シンイチ、あの子たちかわいそうだよ」

 「優ちゃん、怖い思いをさせてごめんな」

 「ううん、シンイチが一緒にいるから平気。でもあの子たち、もう元には戻れないの?」

 「優ちゃん……そうだな、あいつらはゾンビになっちまったからな。でももし元に戻す方法があるなら……」

 

 「シンイチ!上を見るんだ!ゾンビオキノテヅルモヅルがいるぞお!うわあ!もう終わりだろこれぇ!」

 

 

 

 動物たちの理不尽な運命を悲しんでいる暇(いとま)などない。

 生き残るためにはこの凶暴なゾンビわんこたちをなんとかして退けなければいけないのである!

 

 

 

 「シンイチ、戦うの?」

 「ああ、危ないから優ちゃんは下がっていてくれ」

 「ダメだよ。わたしも戦う」

 「え?優ちゃんはそんなこと出来ないだろ、危ないから下がってるんだ」

 

 四方八方からゾンビわんこたちが迫る!

 もはや絶体絶命のピンチだ!

 

 「シンイチ!ショットガンを車に置いて来ちゃってるよ!もう終わりだぁ!」

 

 「落ち着……えっ、ちょっっ!??」

 「シンイチ、大丈夫だよ。わたしに任せて、これでもゾンビだもん」

 「優ちゃん……」

 

 「ケケケケケケ!」

 「アロロロロロ!」

 

 「もう終わりだ!もう終わりだ!」

 

 

 

 ゾンビといえども優ちゃんの見た目はかわいい女の子だ。

 

 シンイチにとっては彼女を戦いに巻き込むのは気が引ける。おまけに相手は愛らしくそして気の毒なゾンビわんこたちなのだ。

 

 ……しかし、優ちゃんはもう覚悟を決めたのだ!

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