傷ついたエルフを拾ったらめちゃくちゃ愛が重くなった件、とりあえず一緒に錬金術する?   作:名無しさん

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第39話 【久しぶり】に【昔】みたいに【激しく】

「……こちら獲れたて野菜のサラダと、肉の炒め物です」

 

 明らかに不機嫌なレナセールが、師匠に料理を差し出した。

 俺の胸ぐらを掴んだ瞬間、二人ともおそろしいほど魔力を漲らせた。

 

 危うく一瞬即発だったが、急いで事情を説明したところ(レナセールの傷の事を師匠に)「……ふむ」と手を緩めてくれた。

 

 レナセールに食事の準備をしてもらっている間に、これまでのことを話していた。

 ちまなみに後ろ姿で耳がぴょんぴょん動いていたので、おそらく聞き耳を立てていただろう。

 

「お前が奴隷を買うとはな。それにこんなに”可愛い子”を――ん、めちゃくちゃ美味しいな」

「……ありがとうございます」

 

 嬉しいのか、そうでないのかわからないレナセールが、不愛想な顔で耳をぴょんぴょんさせていた。

 おそらく両方かもしれない。

 

 師匠の事は伝えているが、詳細まで話した事はない。

 こんな事ならばもっと詳しく伝えておけばよかった。

 

 ……特に”あの事”を。

 

「それで、優勝した冷気送風機とやらはどこにあるんだ? 私の教え通りなら二つあるのだろう?」

「二階の寝室です。後でお見せしますね」

「…………」

 

 レナセールが、エプロンをぎゅっと握りしめている。

 ど、どういう気持ちなのだろうか。いや、なんとなく理解しているが。

 

「いや、寝室ならいい。部外者が入るのは嫌だろう」

 

 するとそのとき、鈍感で何も考えていないはずの師匠(バレたら確実に殺されるので口どころから身体が割けても言えない)が、そんなことを言い放った。

 それを聞いたレナセールが、不思議そうな顔をする。

 俺が、尋ねてみた。

 

「どういう意味ですか?」

「んっ、このサラダも炒め物も美味しいな。――そのままの意味だ。お前たちは特別な関係なんだろう」

 

 師匠は当然かのように答えた。

 レナセールの事は奴隷だと説明したのにありえない言葉だ。

 

 するとレナセールが、

 

「なぜ……そう思ったのですか?」

 

 師匠はペロリを平らげ、机の上に置いてあったナプキンで口を拭く。

 この人、見かけと言動は豪快なのにすげえ丁寧に食べるんだよな。

 俺も食事の作法で何度も怒られた。おかげで綺麗になったが。

 

「私も女だ。それくらいわかるよ。すまないな突然お邪魔してしまって。愛弟子の事が心配だったんだ。有名になればなるほど危険は増えるからな」

 

 その言葉は、俺も嬉しかった。

 師匠はかなり厳しい人だった。錬金術の基礎や、この世界について教えてくれたのは彼女だ。

 

 成功してしまったことで自分を見失った人、望みすぎて全てを失った人の話も聞いた。

 

 だから俺は気を付けている。危険な目に合わないように、石橋を叩きに叩いて。

 レナセールも、師匠の根の優しさに気づいたらしい。

 

 さっきまで強張っていた表情はどこかに消えて、頬が緩んでいた。

 そして、思い切り頭を下げる。

 

「色々と申し訳ございません。私、ベルク様の事を凄く信頼しています。それに、好きなんです。だから……レベッカ様のことを敵視してしまいました」

「はっ、随分と正直なんだな。構わないよ。私は昔から人に警戒される性質でな。それより、様はつけなくていい。私は主人じゃない」

「え、で、でも――」

「頼む」

「……レベッカさん」

「ああ、ありがとな。レナセールちゃん、食事、本当に美味しかったよ」

 

 そう言いながら、師匠は立ち上がるとレナセールの頭を撫でた。

 意外と女性にちゃん付けするんだ(バレたら殺される)。

 

 俺にも厳しかったが、こうやって褒めてくれるときもあった。(ごくまれにだが)

 

 ちなみに見た目は若いが、年齢はかなり上らしい。

 まあ、詳しくは教えてくれなかったが。

 

「あ、あの! ベルク様、私は大丈夫です。レベッカさんに、エアコン見せてあげませんか?」

「そうだな。師匠、良かったら見てください。かなり良いものなんですよ」

「いいのか? なら、楽しみだな」

 

 師匠が、ふっと頬を緩める。

 初めはどうなるかと思ったが、二人ともいい人だ。

 何も、問題はない――。

 

「ならベルク。長旅で溜まってるんだが、良かったら”久しぶり”にどうだ? 何だったら”昔”みたいに激しくしてもいいぞ。レナセールちゃんも交えてでもいいが」

 

 ……うん。 

 

 どうしたらいいだろうか。

 

 何か言い訳ができるか?

 

 いや、難しいな。

 

 レナセールの顔を見るのが怖い。

 

 俺はおそらく、死んだ。

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