傷ついたエルフを拾ったらめちゃくちゃ愛が重くなった件、とりあえず一緒に錬金術する?   作:名無しさん

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第72話 利他的であるがゆえに

『……第三皇子はとても素晴らしいお人です。国王を目指しており、国民の幸せを願っております。そのためには、私自身にも力が必要なのです。ベルクさん……あなたしか頼めないのです』

 

 チェコにも聞いていたが、国王の勅命でもない限り依頼は断ることができる。

 リティアは悪い人じゃないだろう。だがそれでも危険だ。

 レナセールは錬金術師とはいえ元奴隷だった。彼女を危険にさらしたくはない。

 

 そう思ってとき、隣の騎士がなんと頭を下げた。

 

『ベルクさん、レナセールさん、どうかお願いします。今回の試験は、とても重要なものなのです』 

 

 リティアも驚いていた。いや、俺とレナセールもだ。王騎士がここまで……。

 だが俺としてはさらに不安を覚えた。

 

 ここまで藁にも縋る想いなのは、ある意味で危険度も表している。

 

 もし、もしだ。俺が国家錬金術師を超えるほどの武器を作り上げたら?

 凄いとほめられるか? いや、そうは思えない。

 

 この世界の全員が善人ではないのだ。

 

 恨みを買う可能性はある。

 

『……申し訳ございませんが、今回の依頼はお引き受けすることができないです』

 

 

 

「レナセール、俺は最低だと思うか?」

 

 朝食を食べ終えて彼女に尋ねた。

 俺はリティアの頼みを断った。それはできないと。

 彼女は丁寧に了承し、ありがとうござざいまいた。今日はもう遅いので、一晩泊まっていってくださいと部屋まで用意してくれた。

 

 レナセールは、首を横に振る。

 

「お気になさらないでください。私たちには、私たちなりのやり方でいいと思います」

「……そうだよな」

 

 リティアは依頼を断った俺を責めることは一切なかった。

 それどころか、あの後、王城を見学させてもらった。

 とても笑顔で、まるで何事もなかったかのように。

 

「馬車のご用意ができましたので、こちらへどうぞ」

 

 帰り際、裏庭に移動していると女性の叫びに似た声が聞こえてきた。

 リティアの声に似ていると思っていたら、まさか本人だった。

 なんと剣を振っていたのだ。まるでどこかの門下生のように汗だくになりながら、一人で。

 

 どうやら彼女は本気で試験に勝ちたいみたいだ。

 そのとき王城で働いている人たちだろうか。何人かがリティアを見ていた。

 

「リティア様、いつも頑張っていてすごいです。でも……難しいですよね」

「妃候補になって日が浅いからって国家錬金術師に頼めないって流石にひどいよなあ。自分で武器を作るのかな」

「本当にいい人なんだけどね。先月も孤児院で寄付金をしてたの、リティア様だけだよ」

 

 俺は耳が良い。

 師匠いわく尋常じゃなく発達していると。

 おそらく異世界に転生したときの恩恵が少しあるのだろう。

 

 レナセールはじっと眺めていた。今の会話も聞こえたはずだ。

 彼女は俺があげたお小遣いの一部を孤児院に寄付している。

 他人事だと思えないだろう。だが、それでも――。

 

「レナセール、行くぞ」

「は、はい」

 

 残念だができないことはある。

 

 

 リティアの手紙から七日が経過した。

 いつもの日々、新しいアイテムを作ろうと模索しているときだった。

 

 レシピは思いついてもアイディアは浮かばない。

 何かいい案がないかと街を散歩していたら孤児院が目の前にあった。

 

 するとそこから聞こえてきたのは、なんとリティアの声だった。

 ひょいと覗く。直後、目を疑った。

 

 純白のドレスとは程遠い、汚れている服を着ている。

 それでも気にせず、子供たちの相手をしていた。

 

「リティア様、遊んであそんでー!」

「今日はダメ。来月までにちょっとやることがあるから」

「ちぇっ、いつもなにしてるのー」

「私にも秘密があるのよ。ほら、お皿取って」

 

 あの後、色々と調べたがリティアは大変な苦労人だった。

 元々はとある小国の王家の娘だった。だが戦争に負けて国を転々とし、最終的に受け入れてくれたのがこの王都の第三皇子だったそうだ。

 

 評判はすこぶる良い。王都では孤児院政策なるもので寄付金を集めている。

 実際に王家が参加するとの触れ込みから始まったのだが、きちんと参加しているのはほとんどリティアと第三皇子だけらしい。

 

 同時に可哀そうな話も多く出てきた。

 

 妃候補の中でも一人だけ不遇らしく、舞踏会ではドレスの格が低いものを用意されていたこともあるという。

 また、一人だけスピーチの出番がなかったりなと国民から見えることもあったそうだ。

 大変な思いをしているのだろう。

 

 それでも依頼を断った俺を責める事は一切なかった。

 

 

 するとそのとき、孤児院の裏から出てきた女性に俺は目を疑った。

 ――レナセールだ。

 

「リティア様、用意できましたよ」

「ありがとうレナセールさん、だったらいつもの場所でお願いできるかしら」

「もちろんです」

 

 たまに孤児院のボランティアをしていたことは知っていたが、まさかここにいたとは。

 裏庭に行く二人を眺めていたら、なんと木剣を構え始めた。

 

 それからなんと手合わせだ。レナセールは随分と手加減しているが、それでも鬼気迫るものがある。

 

 リティアの攻撃はお粗末と言うほどではないが、動きがあまり良くない。

 だが続く魔法の練習では素晴らしい魔法を見せた。

 とはいえレナセールにかなうはずもない。

 

「ありがとうレナセールさん、付き合ってもらって」

「いえ、とんでもないです。私にできることならばいつでも、ただ――」

「大丈夫。ベルクさんにはもう頼まないから安心して。最近、錬金術も頑張ってるんだよね。試験までにはなんとか一つぐらいは用意できると思う。それで、何とか頑張ってみるよ」

「……本当に申し訳ございません」

「謝らないで。元々無茶なお願いをしたのはこっちなんだから。ここまでしてくれてありがとうね」

 

 偶然出会ったのか、それともレナセールが申し訳なく思っていたのかはわからない。

 俺は、空を見上げた。

 

 錬金術師になりたかったのは何となくだ。

 ただ、物作りが楽しそうだったから。

 

 だが師匠と出会い意識が変わった。人のために作ること、誰かのために作ることが自分がこの世界にきた意味だとわかった。

 

 もし試験でリティアがいい成績を残し、王妃になる可能性が少しでも上がるのならば……。

 

 リティアが王妃になれば王都はさらに良くなるだろう。

 

 それこそ、レナセールのような境遇の誰かを救えるかもしれない。

 

 ……師匠は怒るだろうな。人のために生きろ。だが自分を一番に優先しろと口酸っぱく言っていた。

 

「レナセール、リティア様」

 

 そして俺は姿を見せた。

 レナセールが驚いてリティアも目を見開く。

 

 そういえばレナセールに気配を悟られなかったな。師匠のおかげで気配の消し方は上手のようだ。

 

「べ、ベルク様!? どうしたのですか!?」

「ベルクさん!?」

「引き受けるよ」

「……え?」

「できる限りことはする。試験の内容は教えられるところまで教えてくれ。それに適したものを作る。だが俺には自信なんてない。保証もできない。それでも精一杯やるよ」

「……本当に良いのですか」

「ああ。――レナセール、君がいなければ成り立たない。俺からのお願いだ。一緒にやってくれるか?」 

 

 するとレナセールはとびきりの笑顔を浮かべ、勢いよく抱き着いてきた。

 

「もちろんです! 私は、ベルク様の助手ですから」

「お、おう。頼んだぞ」

「はい! 何があろうとも私はベルク様をお守りします」

「ありがとうな。――それとリティア、条件ってわけじゃないが俺にもいくつか頼みことがある」

「はい。もちろんでございます!」

 

 自信はない。だが俺にもプライドがある。

 やるからには本気を出す。もちろん、国家錬金術師たちにも負けないように。

 

 どんな試験だか知らないが絶対にリティアにいい成績を残してやりたい。

 

 ……あ。

 

「……すいません今呼び捨てしてました……それも……ため口で……」

「お気になさらないでください。――これからよろしくお願いしますベルクさん」

 

 ほんとリティアはいい子だな。

 

 

 さて、どうせなら最強の魔法の杖を目指すか。

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