傷ついたエルフを拾ったらめちゃくちゃ愛が重くなった件、とりあえず一緒に錬金術する?   作:名無しさん

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第8話:苦しみが愛おしいほど

 サイズの合わない、野暮ったいエプロンを付けたレナセールが、お皿にたっぷりのパンと肉野菜スープを載せて運んできてくれた。

 机の上に置いた後、王都で人気の茶を入れてくれる。

 

「ベルク様、出来上がりました」

「美味しそうだな。ありがとうレナセール」

「……えへへ」

「それで、欲しいものはないのか?」

「はい。特にございません。ベルク様とこうやってお食事ができるだけで、私はとんでもなく幸せです」

 

 レナセールはすっかり助手として立派な仕事をしてくれるようになっていた。

 何か礼をしたいのだが、そう言われてしまえば悪い気はしない。

 だが奴隷と主人という垣根がある以上、なんだか申し訳なくなる。

 

 この気持ちは、俺が異世界人である以上決してなくならないだろう。

 

 今日のスープは、カレー風味の粉を使ったドロドロのジャガイモと肉が入ったものだ。

 しっとりとしたとろみと、程よい香辛料のおかげでパンが進む。

 

「最高だな。毎日これでもいいくらいだ」

「ふふふ、嬉しいです」

 

 ふと、ぺろりと舐められたことを思い出す。

 エルフ族では当たり前なのだろうか……?

 

 レナセールは子供ではないが、大人の女性というほど年上にも見えない。

 その出来事のせいで、というわけではないが、俺は一つの問題を抱えていた。

 

 ――性欲だ。

 

 今まで俺は、定期的に大人の社交場に顔を出していた。

 分かりやすくいえば、風俗である。

 

 だがレナセールが来てからというもの、同じベッドで眠っている為、一人ですらしていない。

 当然だが夜のお出かけもなし。

 

 さて、どうするか。

 

 食事を終えると、レナセールが洗い物をしてくれた。

 決して悪いことではないのだがどうやって抜け出そうと考えていると、彼女がにっこりと微笑んで「他にお仕事はありますか?」と尋ねてきた。

 

「……何もないよ」

 

 邪な気持ちに打ち勝つと明日のポーションの材料を確認、揃えてから就寝。

 だがその時、レナセールがぎゅっと後ろから抱きしめてきた。

 

 寂しいのか身体がまだ痛いのか、そのどちらかだろうと思い振り返ると青い目が、悲し気に俺を見つめている。

 

「どうした?」

「ベルク様、私は可愛くありませんか?」

「……どういう意味だ?」

 

 レナセールは、言葉ではなく身体で表すかのように足を絡めて答えた。

 心臓が鼓動し、現状の出来事を整理する。

 

 俺は主人で彼女は奴隷だ。

 

 その気になれば何でも(・・・)できる。

 

 レナセールは俺を命の恩人だといって慕ってくれている。

 気持ちは伝わっているし、実際に1000万はくだらないポーションで助けたのだ。

 

 だがそれでも、俺の理性がダメだと言い放つ。

 

「俺は元々この世界の住人じゃないんだ」

「……どういう意味なのでしょうか?」

 

 それから俺は、日本の事を話した。

 

 この世界に来る前、俺は引きこもりだった。

 だが決して怠惰だったわけじゃない。

 

 それなりにいい大学を卒業し、いい会社に就職した。

 

 しかし突然、俺は電車に乗れなくなった。

 人前に出る事が怖くなって、心臓がバクバクとなり、病院でパニック障害と診断された。

 

 それから家から出られなくなった。

 失業保険をもらいながらただ食つなぐ日々。

 

 家族はいなかった。

 

 辛くて悲しくて、最後のことは話したくない。

 

 だがこの世界で病気は一切発症しなかった。

 

 スキルを物作りに限定したのは、今度は一人でも生きていいけるようにと願ったからだ。

 

「そうだったんですか……話してくれてありがとうございます」

「でもレナセール、君が来てから俺は楽しいよ。王都に来る前、村で働いていたが、どうも自分がよそ者としか思えなかったんだ。でも、君とは家族、いやそれ以上に感じる」

 

 奴隷と主人の関係でありながら、俺はなんておこがましいことを言っているんだろう。

 こんな事をいってもレナセールはただ肯定することしかできないというのに。

 

「私もですベルク様。本当に幸せです」

「……そう言ってくれてありがとう」

 

 レナセールは自身の過去を話そうとしてくれた。

 幼い頃、奴隷商人に捕まえられ、貴族に……というところで、言葉に詰まった。

 口にすることが難しいほどの過去を、彼女は背負っている。深くは言わなくていいと伝えると、彼女は涙ながらに頷いた

 

「私は……地獄の淵でかろうじて生きながらえていました。苦しみは永遠に続くと思っていましたが、あなたが私を底から拾い上げてくださいました。私は奴隷ですが、これは奉仕ではありません。短い間でも、あなたを心からお慕いしています。もっと強く繋がりたいです」

 

 すべてを肯定してくれるかのように、レナセールは俺を抱きしめた。

 それから二人で口づけを交わすと、自然と肌に触れ、衣類を取っていく。

 

 傷はすっかりと癒え、真っ白い肌になっていた。

 思わず微笑むと、レナセールが微笑む。

 

「一つだけいいでしょうか」

「ああ」

「私は奴隷の身でありながら、あなたを独占したいと思ってしまっています。ベルク様がミュウさんとお話しているだけで、心が苦しくてたまりませんでした。そんな私でも……構いませんか」

 

 申し訳なさそうに、それでいて愛しいほど苦しそうに。

 

「構わない」

「……約束、ですよ」

 

 その日を境に、俺は夜の社交場にでることも、一人ですることもなくなった。

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