傷ついたエルフを拾ったらめちゃくちゃ愛が重くなった件、とりあえず一緒に錬金術する?   作:名無しさん

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第84話 勝負の行方は

「……仲良く……入場ですか……うぅ」

 

 中庭が見える位置に移動していると、アイス・シードルが青い目に涙を貯めながらこっちを見ていた。

 彼女はなんでこんなに情緒不安定なのだろうか。

 

「気にしないでください。これが終われば、すべてが明らかになりますから」

 

 するとレナセールが俺の手に触れた。

 心配しないようにしてくれているのだろう。ほんのちょっとだけ笑顔がぎこちないのは気のせいか?

 

 いや、今そんなことを考える必要ない。

 

 何より大事なのはリティアだ。

 

 アイス・シードルの仕上げてきたもの、それは間違いなく王都最高峰の出来栄えだろう。

 

 それに勝つのは至難の業、いや俺のすべてをぶつけてようやく可能性が出てくる。

 

 だからこそ全力を込めた。リティアのため、ひいては自分のため。

 

 俺は今まで未来を信じて戦ってきた。

 

 だが今回は現在(いま)、己のプライドを賭けているといっても過言ではない。

 

 今までしてきたものが間違っていなかったのか。それを証明する。

 

「ベルク様、来ましたよ」

 

 レナセールの言う通り、リティアがやってきた。

 艶やかな黒髪は変わらずだが、驚いたのは、服装だった。

 思わず笑みがこぼれ、レナセールからも驚き、微笑んでいた。

 

 茶色のボロボロのローブ。ところどころ破れているものの、見慣れたもの。

 それは、レナセールと訓練をしているときに使っていたものだ。

 

 まさか妃候補とあろうものがそれを着てくるとは思わなかった。

 

 そして手には大きな杖を持っていた。

 

 だがその様子に周りで閲覧していた貴族たちが呟く。

 

「何だ……あれは?」

「……所詮、国家錬金術師ではないものが作ったものか」

「リティア妃も残念だな」

 

 理由は明快だ。杖の先端にはクリスタルなどはついておらず、なおかつ初級魔法使いが持つほどに弱弱しい見た目をしている。

 まるで、ただ木の棒のようだ。

 

 だが一人だけまったく違う感想を漏らした女性がいた。

 

 青髪が揺れて、声がこ漏れ出たのだろう。

 

「……凄い」

 

 その言葉に俺は一人笑み返した。

 

 次に現れたのは、オラクル妃だ。初めて見るが、リティアよりも随分と身長が高い。赤髪のショート、細みでスタイルがよく、宮廷魔法使いのような黒ローブを着こんでいる。

 手に持っているのは、俺も見たことがないほど綺麗な模様が描かれた魔法の杖だった。

 蒼い半透明、従来の杖よりも細い。だが魔力がひしひしと伝わってくる。

 まるで(つるぎ)だ。先端には六角形の水晶(クリスタル)が空中に浮いていた。

 最高峰のものだと一目見てわかった。

 そして何より、オラクル妃との相性が素晴らしい。寸分の狂いもない魔力調節がされているのだろう。

 

 アイスのことは知っていた。でも、本当の意味で彼女を知った気がした。

 

 試合のルールは非常にわかりやすい。

 己のすべてを出し合い、先に気絶したほうの負け。

 直後、宮廷魔法使いと思われる一人が現れ空に掌をかざすと、魔法障壁を展開した。

 

 これで魔法が周囲に飛ぶことはない。さらにもう一人、次は怪我をする代わりに魔力が消費される魔法を詠唱した。

 王都秘匿の魔法。

 

 といっても――。

 

『な、なんですかこれ師匠』

『私が編み出した魔法だ。ダメージを受けると魔力が消費される。ゼロになれば気絶するんだ。といっても多少の痛みはあるがな。さあ、訓練の続きをするぞ』

 

 俺は、見たことがあったが。

 

「……頑張れ、リティア」

 

 彼女はおそろしいほど集中していた。

 俺たちのことなんて一切目に入っていないのだろう。

 

 ただ、オラクルだけを見ている。

 

「アイス、ベルク」

 

 すると、師匠が俺たちの名を呼んだ。

 

「この対決がどんな形で終焉を迎えようが私が保証する。お前たちの作ったものは素晴らしかった」

 

 思わず心が揺さぶられる。今まで師匠がここまで明言したことはない。

 ならばあとは、リティアに任せるのみ。

 

 

 試合はすぐにはじまった。

 

 一体どんな展開になるのかと思いきや、まさかの出来事が起きた。

 

 オラクルが、とんでもない最上級の魔法を展開し始めたのだ。

 そして何よりも驚いたのは『無詠唱』だったことである。

 

 本来はエルフのみ、さらにレナセールのような生粋の魔術師でしかできない芸当だ。

 だがアイスはそれを可能にした。今まで世界で一度も見たこともない。『無詠唱』を可能にした『魔法の杖』。

 確かにこれは王都最高峰の国家錬金術師に名高い。

 

 思わず拳を強く握りしめる。

 心臓が鼓動して、汗が流れた。

 

 杖の先端を起点に、周囲が氷つくほどの冷気が集まってくる。

 もはや砲台だ。今リティアは、至近距離で大砲を突きつけられている。

 

 だがリティアは、彼女は静かだった。

 ただ杖のを構えて、微動だにしない。

 

 そして氷の大砲が発射されるであろうほんの少し前、リティアの口元が動いた『――魔法無効(アンチマジック)

 

 おこがましいが、この試合を例えるならば最強の矛、そして盾かもしれない。

 

 全てを破壊する最上級魔法と、リティアによる最強の盾。

 

 どちらが勝つのか、その答えはこの先にある。

 

 そしてオラクルの氷魔法が勢いよく放たれた。音の障壁を超えて凄まじい轟音が響く。

 

 そしてその魔法攻撃は――。

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