嵐山隊どころか、那須隊も鈴鳴第一も知り合いがいるだけで構成する隊員までは詳しくない。荒船の助力もあり、なんとか各隊の大雑把な特徴を掴むことが出来たものの。
「今回の注目はやっぱ木虎だろうな」
「というと」
思わず聞き返す。
「嵐山隊には新しく木虎が入った。辞めちまった柿崎さんも安定感があってよかったが、こいつはちと別だな。鋼はお前も知っての通りA級にだって見劣りしないアタッカーだろ。那須さんもシューターとしてかなり強い。木虎は恐らくそこに並んでくる」
「そんなに強いのか?」
「まあ、個人の戦力で言えば見劣りするかもしれないが」
那須隊はシューター、アタッカー、スナイパーといった距離を問わないバランスの取れたチーム。鈴鳴第一もシューターがガンナーに置き換わっただけで似た構成だが、両者で異なるのは主軸がシューターかアタッカーかということ。
一方で嵐山隊はと言えば、ガンナー二人、スナイパーと近距離に寄せたオールラウンダーが一人ずつの四人チーム。部隊間で固まって動くとなれば人数で勝っていることもあり、この三竦みの中だと中距離の撃ち合いは最も圧がある。
「それでもエース対決を制すのは村上じゃないか」
「そうかもな。だが、それでチームが勝てるとも限らねえ」
それから試合が始まった。
試合開始後、転送された各隊員は合流を目指して移動中。
実況席が騒ぎ出す。
「ここで早くも木虎隊員が村上隊員を捕捉、部隊の合流を優先せずにここで一対一を選択しました!」
「転送直後は最も無防備ですからね。合流前に潰しておく判断でしょうか。しかしながら、村上隊員は決して落としやすい隊員ではありません。木虎隊員もそれは理解していると思いますが……」
木虎の慢心か、あるいは。
「どうやら事前に仕掛ける予定だったようです」
モニターに映し出された画面によると、嵐山隊は転送直後から合流ではなくそれぞれが別々に行動していた。恐らくは初めからこの手筈だったのだろう。
「村上隊員は部隊との合流を試みますが、木虎隊員によって上手く身動きが取れない状況です」
「そうこうしてる間に嵐山隊長が駆けつけてきましたね。やや遠く狙撃は難しそうですがスナイパーの佐鳥隊員も高所に待機しています」
試合開始五分、あっという間に村上は嵐山隊に取り囲まれていた。那須隊からしてもそれはありがたいようで、那須さんは残る鈴鳴第一の二人を牽制しつつ嵐山隊の戦況を目視出来る距離感を保っている。那須隊のアタッカーの熊谷さんも単身で殴り込むことはなく那須さんと合流を果たしていた。
「でもさ、荒船」
「なんだ?」
「もしこのまま村上が落ちたら嵐山隊が大差で勝つことになりそうだよね」
エースを失った鈴鳴第一では両部隊と撃ち合うのは困難であり、那須隊もまた人数的に不利なので難しくなってしまう。
でも、村上は強い。その実力は身を持って知っているし、荒船だって客観的に認めていた。木虎だって問題なく対処出来そうなものだが……。実況の声が響く。
「村上隊員かなりの深手を負ってしまった! 嵐山隊長が放った銃弾によって腹部からトリオンが漏出しています!」
「鈴鳴も早く村上隊員と合流したいところですが、那須隊長の足止めが厳しいですね」
「那須隊長は来馬、別役両隊員と撃ち合いつつ嵐山隊にも牽制する形、この隙をつければいいんですが……」
その那須さんには嵐山隊の時枝が銃撃を仕掛けた。そのカバーに熊谷が入る形になる。
「ちょっとこんがらがってきた」
「困ったら映像よりモニターのミニマップを見るといいぞ。隊員の位置が全部表示されてるからな」
確かにわかりやすい。戦況が見えてくる。
マップの南側では村上が嵐山と木虎の二人に応戦し、中央では合流を目論む鈴鳴第一の二人を那須さんが阻む形。その傍には熊谷が。時枝は間に入って嵐山と木虎の援護をしている。
南側で早くに交戦があったことで狙撃手は迅速に高所を取ることが出来たようで、嵐山隊の佐鳥、那須隊の日浦は揃ってそれぞれの隊を視認出来る場所で待機していた。
初動は嵐山隊が仕掛けたことで一歩リードといったところか。このまま村上が落ちれば戦況がかなり動くと思うが……。
「村上隊員が良い粘りを見せてますね。嵐山隊長のアサルトライフルによる銃撃も木虎のハンドガンとスコーピオンを組み合わせた近接戦闘も決して甘くはありません」
「普通であればもう落とされてもおかしくないと?」
「ええ、既にトリオンの漏出がありますし、あの連携を前にすれば仮に万全な状態だったとしても難しい。村上隊員の生存能力の高さが垣間見えます」
レイガストで銃弾を弾き、弧月ですかさず反撃。向こうも隙を見せれば一枚持っていかれることは理解しているので、慎重にならざるを得ない。
だからといって逃がしてくれる訳もなく。
「木虎隊員のスコーピオンが村上隊員の肩を貫いた! 更に嵐山隊長も銃弾を叩き込む!」
流石にもう厳しいか、そう思ったとき、光が一閃過ぎ去った。――狙撃だ。
「危ない!」
会場の誰かが呟いたときには遅く、狙撃によって片腕を失いよろめいた木虎に対し、村上は捨て身で弧月を振るう。旋空弧月、不可避の一撃だった。
「おおっと! ここで村上隊員と木虎隊員の相打ちだ!」
「しかしこれは、見えてますね」
別役が立ち退こうとした瞬間、佐鳥がそれを撃ちぬいた。
「嵐山隊に二点、鈴鳴第一に一点が入ります」
はっきり言えば意外だった。人数差があるとはいえ村上なら勝ててもおかしくないと思ったからだ。
それだけ他のボーダー隊員を甘く見ていた? いや違う。僕の想像以上に戦術が成立していたから。
村上を危険視して部隊の合流前に潰す判断。恐らくは誰か近い二人で仕留める、というオーダーが出てたのではないだろうか。連携も素晴らしかった。木虎が攻めて危ないときには嵐山がカバーを通す。銃撃に怯んだところを木虎が攻め込む。無難だがシンプルでやりづらい戦法。
「面白いな、ランク戦」
「だろ。奥が深いんだぜ」
これでどちらもエースを失うことになったわけで、二人落とされた鈴鳴第一の勝ちの線は薄い。那須さんと来馬が撃ち合っているけれど、那須さんの圧に対応出来ていない。というか。
「それにしたって那須さん強すぎない?」
「言ったろ。シューターとしてはボーダーでもかなりの実力者だ」
「弾曲がってるし。あれ当たり前にやってるけど異常だよね」
「バイパーの事か? まあ、那須さんの場合はリアルタイムで弾道を設定して引いてるらしいから異常と言えば異常だな」
シューターの弾は構築の度に射程、威力、弾速を振り分ける。バイパーはそれに加えて弾の軌道まで設定しなければならない。普通は予めいくつか軌道を用意しておくという。
見れば、那須さんは戦場を自由に走り回りながらバイパーであらゆる角度から攻撃していた。このままでは来馬も危ない。だが来馬を落として嵐山隊との三対三に持ち込むのも難しいか。
日浦は先程佐鳥の位置が割れたのでそこを追っている。佐鳥と嵐山が合流し那須さんに迫っていた。状況を変えずに三つ巴で撃ち合うか、来馬を落として真っ向から嵐山隊とぶつかるか。
結果として、来馬を取り切ったのは那須隊だった。那須さんが誘導し、熊谷が取り切っている。
中距離の撃ち合いは嵐山隊に分があり、そこに手を出せない熊谷は那須さんのガードに徹する他なかった。しかし、時間が経てば削られていき、佐鳥を追っていた日浦もカバーに回る羽目に。
那須さんが苦し紛れに放ったバイパーが想定外の弾道だったために、那須隊は時枝を落とすことには成功したが日浦の位置がバレて撃ち抜かれ、熊谷は射程差で押されていき撤退を余儀なくされる。
得点の内訳は、生存点も含めた6対2対1で嵐山隊の快勝で幕を閉じる。
解説は続いていたが、僕はあっけない幕切れに反して興奮が冷めなかった。この感覚は、サッカーをやっていた頃に感じたものとよく似ている。
「戦術っていいよな」
「なんだ突然。指揮官でも目指すつもりか?」
「いやあ、僕にそんな時間はないけどそれもありだったかもしれない。あ、時間ってあれよ、受験生だからさ」
「確かにな。人によっては受験に専念するか」
うっかり口が滑った。危ない危ない。
まだ余韻の残る観客席で、僕は今日の試合の戦況を頭の中で思い返していた。
僕が鈴鳴第一だったらどうしていたか。そんな振り返り。
「それより、僕の今回の試合の感想でも聞いてくれない?」
「それはいいんだが解説はいいのか」
「僕なりの見解をさ」
納得してくれたようで、荒船はこっちに耳を貸してくれた。
「じゃあ始めるぞ」
今回の試合の決め手は初動の立ち回りにあった。
優秀な駒は部隊の合流前に人数で押し潰すに限る。ストライカーを数で抑え込むように。
追い込み漁の方式で範囲を狭めて浮いた駒を狩っていく。今回で言えば村上を南側に繋ぎ止めた動き、狙撃によって位置のバレた狙撃手、孤軍となった来馬。来馬は両部隊に阻まれ背後もエリア外で行けず行き場を失っていた。
転送位置の運がなかったかもしれない。とも言い切れず、鈴鳴第一はさっさと那須さんを振り切って合流すればよかったわけで、最悪どちらかだけでも駆けつけるべきだった。時枝もその合流を阻止出来るほど深追いはしてこないだろう。
とりあえずここで合流して村上が万全の状態で再スタートを切ることが出来たら、戦況は綺麗な三竦みになっていたはず。
「そうなれば嵐山隊が一方的に勝つこともなかったんじゃないのか」
「そうだな。でもきっと来馬さんがギリギリまで太一――別役に行かせることを渋ったのは鋼と別役の意思もあると思うぜ」
「意思?」
「二人は来馬さんを慕ってる。俺はいいから来馬さんをって意思があってそこで迷いが出たのかもな。まあ木虎が思ったよりやる奴だったってのが一番の誤算だろうぜ」
個人の戦力、部隊の連携力、戦術、思想、様々な要素が絡み合って試合は決する。ランク戦は単純なものでもないらしい。
「興味湧いてきたか?」
「うん。他の試合も観てみたい」
情の無い選択をするのなら、村上を捨てて那須さんを落とす選択も出来た。
「やっぱりランク戦も個の力だけで勝てるほど甘くないんだ」
サッカーをやってた頃、同世代の代表入りの強豪校に勝ったときのことを思い出す。僕なら、なんて烏滸がましいことは考えないけれど、今日の鈴鳴第一だって勝たせることは出来たんじゃないのか。
「暇なときはうちの隊の作戦室に来いよ。ログでもなんでも見せてやれる」
「ありがとう。遠慮なく行かせてもらうよ」
僕はこの日、ランク戦の魅力に撃ち抜かれていた。多分、こういうチームスポーツが好きなんだと思う。
それから僕はたまに荒船隊にお邪魔するようになった。スポーツ観戦のように、観ているだけで熱くなれるこの訓練に魅了されていた。