死ぬまでの暇潰し   作:たくは

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書き方を忘れました


11.己の役割

 

 作戦室に入ったとき、空気は少しだけ重たかった。

 荒船はいつも通りの顔をしていたが、机の上には複数のログ端末が開かれていて、さっきまで誰かが戦術検討をしていたことが分かる。

 

「遼、来てたのか」

「ああ。少しだけ見せてもらおうと思って」

 

 荒船は軽く顎で端末を示した。

 

「好きなの選べよ。今日の試合のログ、全部入ってる」

 

 画面にはさっきのランク戦が再生されていた。

 村上が嵐山隊に捕まる瞬間。那須隊が別ラインで戦況を組み替えていく動き。鈴鳴第一の合流判断の遅れ。観客席で見ていたときよりも、ずっと細かい情報が流れている。

 

「……これ、見える情報が全然違うな」

「そういうもんだ。試合は見てる側とやってる側で別物だからな」

 

 立花はしばらく黙って画面を追った。

 村上が落ちた瞬間、全体のバランスが崩れている。

 それなのに那須隊は即座に得点を取りに行かず、嵐山隊の射線を意識して動いていた。

 

「これ……那須隊、最初から勝ち筋を一点に絞ってる?」

「多分な。あの隊長……那須は勘がいい。無理に全部取ろうとしない」

「でもそれだと、鈴鳴が崩れるのは予測出来たんじゃないか」

「分かっててもやる。勝つために一番効率がいいからだ」

 

 その言い方が、妙に引っかかった。合理的で正しい判断。でも、どこか割り切りすぎている。

 

「……戦いに感情論は関係ないんだな」

「いや、関係あるぞ」

 

 荒船は即答した。

 

「むしろ感情が邪魔をすることの方が多い」

「例えば?」

「さっきの鈴鳴だよ。来馬さんが太一を切らなかったやつ」

 

 立花は少しだけ目を細めた。

 確かに、あそこが分岐点だった。

 合理だけなら、別役を切って村上を回収するのが最適だったかもしれない。

 でも、それをしなかった。

 

「……意思、か」

「来馬さんは人情味のある人だからな」

 

 荒船は椅子に寄りかかった。

 

「ボーダーの戦いってのは正解だけで動かねえ。仲間の存在、自身のプライド、どうしたって正解を選べない理由が絡む」

 

 正解を選べない理由。

 立花はその言葉を繰り返すように小さく呟いた。

 

 それは立花自身にもあった気がした。

 

 端末の映像を巻き戻す。

 村上が最後に放った旋空弧月のシーン。あの一瞬だけ、戦況が逆転しかけていた。

 

「なあ荒船」

「ん?」

「村上って、あそこから勝てる可能性はあった?」

 

 荒船は少しだけ間を置いた。

 

「あるにはあったな。嵐山さんの位置取りが一瞬遅れてた」

「じゃあ、なんで負けた?」

「判断が速すぎる相手がいたからだろ」

「木虎?」

「それもあるし、隊全体だな」

 

 荒船は画面を指でなぞった。

 

「鋼は強い。けどそれは独りで強い戦い方だ。まあ今んとこだが」

「……エースはそういうものじゃないのか」

「ランク戦はエースが強いだけじゃ勝てねえ」

 

 その言葉が、妙に残った。

 

 立花は端末から目を離す。

 ふと、さっきの観戦席の感覚が戻ってくる。

 

 面白かった。ただそれだけじゃない。

 あの中に、自分が入ったときの景色を想像してしまっていた。

 

「荒船」

「なんだ」

「もし僕があの試合にいたら、どこかの隊に所属していたとしたら、戦況は変わっていたと思うか?」

 

 荒船は少しだけ笑った。

 

「新人がいきなり大きく出たな」

「真面目に聞いてる」

「そうだな……」

 

 荒船は画面を見直しながら答えた。

 

「変わるだろ。それが戦況を崩す側になるか、崩される側になるかはわからんが」

「荒船はどう思うんだ──いや、自分で考えるよ。訊きすぎた」

 

 己の武器は? 日々の訓練、村上との個人戦、チームランク戦の観戦。それらを踏まえた上でゆっくりと切り出した。

 

「……戦況を崩す側か」

「そうだ。お前は完成された隊に入るタイプじゃねえ」

 

 荒船は淡々と告げる。

 

「穴を見つけるタイプだ」

 

 その言葉は、妙にしっくり来た。

 

 さっきの試合でもそうだった。

 村上の強さは正面から見れば圧倒的だった。それは立花は個人戦をしたことで痛感している。しかしながら、あの無敵と思われた村上にも穴があった。

 

 合流の遅れ。視界の遮断。初動の孤立。そこを突けば、村上は崩れたし、戦況は動いた。

 

「……穴を見つけて、そこを突く」

「そういうのは嫌いか?」

「いや」

 

 立花は即答した。

 

「むしろ、そっちの方が向いてる気がする」

 

 その瞬間、荒船は少しだけ目を細めた。

 

「じゃあ、そのうち試してみるか」

 

 ここまでの気前の良さは荒船の面倒見の良さから来るものなのか。立花はその瞬間こそそう捉えたが、実際は半分正解といったところで。

 事実として、荒船は立花を使って自身の計画の実験をしてみたかったということでもあった。もちろん、立花にもその説明はあったし、お互いが得をする形になったのでその計画は実行されたわけだが。

 

 

 その夜、立花は帰り道の途中で立ち止まった。

 

 風はまだ冷たい。でも、以前ほど重くは感じない。

 ポケットの中で端末が小さく振動する。

 

 新着メッセージ。

『次の日曜、シミュレーターを使って簡単なランク戦をしないか』

 

 送り主は荒船だった。短い文面。けれど意味は明確だった。

 

 立花はしばらく画面を見つめてから、小さく息を吐いた。

 

「……思ったより早いな」

 

 でも、不思議と怖くはなかった。

 むしろ少しだけ、楽しみだった。

 

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