死ぬまでの暇潰し   作:たくは

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12.シミュレーション

 

 

 日曜日。指定された訓練室に入ると、すでに荒船は席についていた。

 

「おう」

 

 軽い挨拶。だがその隣に座っている人物を見て、立花は少しだけ足を止めた。

 

「……村上」

「お疲れ」

 

 村上はいつも通りの穏やかな顔で手を上げた。荒船が肩を竦める。

 

「実験するなら相方もいた方がいいだろ」

「相方」

「俺一人で隊を再現できるわけねえしな」

 

 それは確かにその通りだった。

 

 部屋の中央にはシミュレーター用の大型モニターが設置されている。

 簡易マップと駒、それにトリオン兵を代用した敵ユニット。

 

 ランク戦を簡略化した訓練用プログラムらしい。

 

「何をするんだ?」

「簡単な話だ」

 

 荒船は端末を操作しながら言った。

 

「俺たちは全員指揮役」

「なるほど?」

 

 思わず聞き返す。

 

「プレイヤーとして戦場に赴くのも大事だが、まずはお前のポテンシャルを測ってみたい」

 

 荒船は即答した。もう既に計画は纏まっているのだろう。

 

「お前、戦況を見るのは得意そうだろ。それがスポーツをやっていたからなのか、性格に由来するものか。何にせよ試してみたい」

 

 画面にマップが表示される。

 

 三人一組。

 

 敵部隊は3チーム。村上は鈴鳴第一、荒船は荒船隊、立花は那須隊を操作することになっている。

 

 ルールはチームランク戦と同様にポイントで勝敗の決まる得点制。極めて単純なルールだ。

 

「この前の観戦、お前はずっと穴を探してるように見えた」

 

 荒船はモニターを見たまま続ける。

 

「どこが崩れるか。どこが弱いか。誰が損をしてるか。どこかの隊に入るのかはわからんが、自分の強みを知る所から始めてみてもいいんじゃねえか」

 

 ぶっきらぼうに荒船は言う。立花はその親切心に感謝しつつ、モニターに目を移した。

 

「鋼は隊長にでもなった気分で自由にやってくれ。もちろん本気で来い」

「了解」

「俺も曲がりなりにも隊長だしな。全力で行く」

 

 荒船はニヤリと好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「それじゃあ始めるぞ」

 

 合図ともにモニターにはそれぞれの駒がランダムに配置される。平面図を用いたシミュレーションではあるが、射程や障害物は存在している。

 

 立花は盤面を見ながら考え込んでいた。

 

 もし自分なら。

 

 もし相手なら。

 

 もしここが崩れたら。

 

「……」

 

 開始から数十秒。荒船が切り出す。

 

「凌げるか?」

 

 不思議なことに、その問いは重くなかった。試されている感覚とも違う。ただ純粋に聞かれているだけだ。

 

 だから立花も素直に答えた。

 

「もちろん。全く問題ないよ」

 

 荒船を模した弧月を使用したユニットが熊谷に襲いかかる。熊谷もまた弧月を使用しているため痛手にはならないが、開始直後の急襲だったため対処し切れずやや傷を負ってしまった。

 

「最初は合流がセオリーじゃなかったのか」

「配置が良けりゃあ攻めることもあるだろ。開幕の数十秒が最も浮きやすい時間帯でもあるしな」

 

 配置が良い。つまり、既に合流を完了しているか、射線を通して荒船をカバー出来る位置に味方が追いついたということ。狙撃手を有する荒船隊ならではの動き出しだ。

 

 立花はその速攻に一度思考が止まり手を止めてしまった。その隙に村上もまた行動を開始する。

 

 単独で動く熊谷に対して鈴鳴第一の来馬がアサルトライフルで交戦を仕掛けた。早々に落としきって那須隊の盾役を落とし切ろうといった判断か。

 

 慣れの差か、さすがに2人の判断は早い。荒船はともかく、普段指揮をしていない村上でさえも順当に正解の一手を繰り出してくる。

 

 立花は熊谷のトリオンが削られていくのを見て2択を迫られていた。

 他のユニットでカバーに入るか、捨てるか。

 

 判断は早かった。

 

「右は捨てる」

「え?」

 

 ぽつりと呟く。

 

「敵が集中しすぎてる。ここは取りに行ったら潰されるに違いない」

 

 荒船が目を細めた。

 

「続けろ」

「代わりに中央」

 

 立花は別のルートを示した。

 

「誰も見てないここを取りに行く」

 

 沈黙。そして数秒。それから荒船が笑った。

 

「なるほどな」

 

 村上も頷く。

 

「確かに」

 

 立花は少しだけ眉をひそめた。

 

「そんなに変なこと言ったか?」

「いや、中々やるなと思ってな」

 

 マップの辺境、熊谷は大勢のユニットに囲まれている。もう耐え凌ぐことはかなり難しいだろう。しかし、それらの裏側。熊谷と挟み込むような位置に立花のユニット──那須玲が陣取っていた。

 

「うわ」

 

 村上が声を漏らす。

 

 右側に向かった三チームの激突。熊谷は耐え切れず落ちたが、代わりに日浦が狙撃で1名落とし、那須が射手の特性を活かした広範囲な射撃で2部隊を圧倒する。

 

 中央を取った立花たちは、誰にも邪魔されず得点を積み重ねていた。しかし。

 

 荒船が呟く。

 

「本当に誰も見てなかったな」

 

 だから。誰も取らない場所が生まれる。誰も警戒しない隙が生まれる。それは人の手で指揮される限りなくならない。

 

 合理的な判断をしているつもりでも、感情は必ず混ざる。

 

 昨日、荒船が言っていたことだ。

 

『正解を選べない理由が絡む』

 

 その意味が少しだけ分かった気がした。戦況は盤面だけじゃない。そこにいる人間ごと見なければならない。

 

「……面白いな」

 

 気づけば口に出ていた。

 

 村上が振り向く。

 

「ん?」

 

「いや」

 

 立花は小さく笑った。こんな感覚は久しぶりだった。何かを考えることが楽しい。先を読むことが楽しい。生き延びるためでもなく。暇を潰すためでもなく。

 

 ただ純粋に。

 

「続けよう」

 

 その声は、自分でも少し驚くほど前向きだった。

 

「まあ、それで負ける俺たちじゃねえけどな」

 

 結果として順位付けは荒船が1位、立花が2位、村上が3位という結果に終わる。

 中盤に得点を重ねた立花だったが目立ちすぎた故に両方から注目を買ってしまい、荒船隊の不意の狙撃で撃沈してしまう。熊谷が落ちたことによる前衛の不在が大きかったのだ。

 

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