死ぬまでの暇潰し   作:たくは

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4.増える知り合い

 

 別れの季節がやってきた。哀愁漂う三月の初め。僕ら二年生にはまだ実感は湧いてこないが僕らの一つ上の代、三年生は本日をもって卒業する。 就職や進学、その他各々の進路に向けてこの学校を去っていった。

 

 先輩たちを見ていると、僕もこうやって卒業できたらなんて思った。

 

 去年の夏の大会以降、僕はあまりサッカー部に顔を出さなくなったのに、先輩は僕のことを気にかけてくれて、最後に一言だけ先輩としてのメッセージを頂いた。

 

「何があったかは知らんが、嫌いになったんじゃないってんならまた一緒にサッカーしような」

 

 僕は宣告を受けてから、宣告以外の理由も重なってさっさと退部してしまった。

 

 チームでは部員が少ないこともあって、1年生の時でもレギュラーで出ることがあったし、2年生になってからは主力として顧問にも扱われていた。周りからもそこそこ出来る奴とも称されていたと思う。だけれど、辞めた。

 顧問には特に理由を伝えることはなく一身上の都合によりとだけ伝えた。どっちみち辞めたいとは思っていたので、タイミングは良かったんだ。

 

 まあでも、先輩たちからそんなことを言われたから、休日に誘われでもしたらやろうかなと思った。先輩たちはどこまでも良い人たちだった。

 

 春休みに入っても、僕の生活習慣になんの変化もない。朝起きて時間に余裕が出来たら田村さんのところに行って、那須さんがいれば少しだけお話して、物足りなさを感じればボーダーに向かう。

 

 田村さんいわく、ボーダーに入ってからトリオン器官の膨張スピードが緩やかになっているとのこと。仮説ではあるが、トリオン器官の成長速度が著しく急速な可能性がある。それを消費することで鍛え、肉体に慣れさせ、丈夫にしていけばなんとかなるかもしれない。などと言っていたが、実際仮説に過ぎないらしく確証はないという。

 

 那須さんとは主に家での時間の潰し方について語り合っている。那須さんはよく映画を観るんだとか。

 

 邦画や洋画、ジャンルは問わず気になったものを。ただ、ラブロマンスを見るくらいならアクションものを見るらしい。今度、なにかの間違いで一緒に映画を見るようなことがあればそういう系統を中心に提案しよう。ちなみに、次会った時に僕のお気に入りの本と那須さんの持ってるDVDを貸し借りすることになった。僕にあった作品を貸してくれるらしい。 それならば僕も那須さんにあった作品をもってこよう。いまからとても楽しみである。

 

 これまた余談ではあるが、最近、田村さんに「善は急げじゃよ」と、意味深な発言をされる。困ったものだ、このおじさんには。

 

 

 

 

 別れを惜しむ間もなく、新たな出会いに心を膨らませる。

 

 春休みも終わり四月ももう中頃。桜がほどよく散り始め、もうこの景色を見ることがないかもしれないので、少し寂しく感じてしまう。

 

 僕は進級とほぼ同時に正隊員に昇格した。村上と対戦する日は近い。

 

 クラス替えでは見知った顔と同じになった。

 

「立花、昼は屋上で食べないか」

 

 落ち着いた話し方から温厚で優しい人柄であることがよくわかる。僕は屋上への誘いを了承し、弁当をもってついていった。

 

「もしかしたら混んでるかもな」

「確かに、こんな天気の良い日に屋上で昼食を食べられるならここに来ない理由がない」

 

 ただ、思いのほか、そこに人影はなかった。

 

「本当に使えるのか」

「先生にはいいといわれたんだが……おかしいな」

 

 村上が言うなら本当なんだろう。誰もいないのはむしろ僕にとってはラッキーなのだけれど、真面目な村上にとっては不安もあるらしい。

 

「注意を受けたらその先生から許可を得たと話せばいいさ。それよりさっさと食べよう」

 

 納得したようで、ちょうど程良く日陰になる場所があったのでそこに座ろうと思ったが……

 

「誰か寝てるな」

 

 唯一見つけたベンチには人が寝転がっていた。髪はほとんど手入れしていないのかボサボサで、体調が悪いのかマスクをしている。大丈夫なのかなと心配になり、起こそうと思ったらその人は目を覚ました。ジロりと不気味で冷たい視線が向けられる。

 

「誰だてめーら。人の睡眠の邪魔をすんじゃねーよ」

 

 属に言う、ヤンキーなのかもしれない。

 

「睡眠の邪魔をしたのはすまない。悪かったと思ってる」

 

 村上が頭を下げたから僕もそれに倣ってお辞儀した。すると、この人はバツが悪そうにベンチから起き上がるとぶっきらぼうに立ち上がって言った。

 

「おめーらは飯食いに来ただけなんだろ。寝てた俺がわりーに決まってんだろ。そんなんで頭下げんな」

 

 頭を掻きながらまたぶっきらぼうに言い放った。ひょっとすると、この人は悪い人ではないのかもしれない。それを村上も感じ取ったみたいで僕らは顔を見合わせた。

 

「邪魔して悪かった。じゃあな」

 

 ひらひらと気弱に手を振るヤンキーを僕らは呼び止めた。振り向きざまにガンを飛ばされるも怯まずに、

 

「一緒にご飯を食べないか」

 

 と、意を決して誘ってみた。 きっと断られるだろうと思い、期待はしていなかったが意外にもこの人は、軽く舌打ちをすると踵を返してベンチに座り直す。

 

「僕は立花遼」

「オレは村上鋼だ。よろしく頼むよ、影浦雅人」

 

 どうして名前を? その僕の疑問の答えは彼が口にしてくれた。

 

「おめーらまさかC組か?」

「そうだ。だがオレは同じクラスだから覚えていたわけじゃないぞ」

 

 僕らのクラスには時々教室からいなくなる生徒がいた。まだ、新学期が始まってから少ししか経っていないのに授業にはいないこともあるし、休み時間には姿を消しているからなかなか顔と名前が一致していなったかったのである。こうして目の前にいるのが影浦雅人。確かにそんなような名前の人が居た。

 

「でもなんで僕には教えてくれなかったんだ。同じクラスにボーダーの人が居るって」

「隠して隊員をやってる人もいる。本人が居ないところで言うのはちょっとな」

 

 影浦は特段気にしていないようだ。

 

「別にてめーらとよろしくやってくつもりはねーよ。じゃあな」

 

 手に持っていたビニール袋にはゴミしか残っていない。あえてこの場に残る理由はないのだろう。

 

 僕も無理をして止める理由はなかった。けれど、村上は引き留めた。

 

「強いんだろう。聞いたぞ、かなりの実力者だと。アタッカーの中では五本の指に入るらしいじゃないか」

「それが何だ」

「今度の週末、オレとソロランク戦をやらないか。オレも強くなりたい。そのためには影浦のような強い人間と戦って学習する必要がある」

 

 それから、村上は珍しく子どもじみた年相応な表情で煽った。

 

「おまえ、オレとやるのが怖いのか?」

「そんな安い挑発乗るかよ。さっさとメシ食って戻るんだな」

 

 応じることはなく、影浦は屋上を降りて行ってしまった。

 

「どうしてそんなに気に掛けるんだ。放っておけばいいだろう」

「まあ、純粋に強い奴と戦ってみたかったのはある。ただそれよりも、別に悪い奴じゃないのに学校をさぼっているのはもったいないと思った。ただ面倒なだけなら無理にとは言わないが、オレにはそれだけじゃない気がしてな」

 

 この日から、村上は学校に居る間は積極的に影浦に話しかけるようになっていた。そのおかげか、一か月も経った後にはすっかり仲を深めていて、村上の優しさとコミュニケーション能力の高さには驚かされたものだ。 

 

 それに基づいて、今さらながら気がかりなことがある。僕は誰かと仲良くしてもいいのだろうかと時々思う。

 

 僕の事情は誰も知らない。那須さんにすら伝えていない。

 

 村上とは仲良くしてもらっている。 最近では影浦ともそこそこ話す仲になってきた。僕はこのまま全て黙っててもいいのだろうか。

 

 もし、僕が突然死んでとして、彼らは悲しんでくれるのだろうか。心に傷を負わせてしまうことになるかもしれない。

 

 隠し通すことは難しいと内心感じていて、話して楽になろうという僕のエゴなのかな。待つには長すぎるこの時間を退屈に感じた僕のエゴ。話して、気にかけてもらって、退屈をしのぐ。死ぬ前には悲しんでもらって、死ぬその瞬間まで退屈せずに済む。

 

 僕には仲良くする相手は居ても、悩みを吐露する信頼出来る人は作れないのかもしれない。

 

 また僕は放課後になると神社に足を運んだ。

 

「病気が治る未来はないのかな」

 

 ほんの少しでいいから寿命が伸びますように。と、村上や那須さんと過ごしていると度々思う。だけれども、心のどこかでは、早く終わってくれ。と、諦めの気持ちがあるのも間違いはない。相反する二つの思いがせめぎあい、上手く言葉にならない。

 

 結局僕は、死ぬまでのこの長い時間に何をしたいのだろうか。

 

「田村さんなら、いや、那須さんなら相談に乗ってくれるかな」

 

 人の善意を利用して、自分の悩みを解決してもらおうなんて虫が良すぎるのはわかってる。だけれども、もう4月。一年を過ぎるのがあっという間に感じるように、僕がまた苦しみを感じるまであっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。

 

 高いところを吹く風は勢いが強い。

 4月の風は身体を震わせるには十分な冷たさだった。なるべく早めに答えを出そう。でないと、手遅れになってしまう気がするから。

 

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