死ぬまでの暇潰し   作:たくは

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9.強敵②

 

 

 奇策はある。ただそれを実行するだけの隙が無い。

 しかも、これを成功させてしまえばもう二度と村上には通用しないだろう。でも試してみたい。まだ正隊員としての経験が浅い僕がどれだけ通用するのか。

 

「いくぞ」

 

 お互いに構える。それから始まった。

 まずは村上とは距離を取った。卑怯だと思われるかもしれないが、今の僕の力では真向勝負は難しい。サッカーでもそうだった。フィジカルで敵わない相手には、戦術や技術で勝負する。僕が勝つには搦め手しかないのだ。

 

 今は見晴らしの良い開けた通りに居るので、そこから離れるために路地へ抜け家屋に飛び移っていく。屋根の上は足場が不安定なのでここでも戦わない。引き気味で受けるだけ。自分からは攻めない。

 

 村上は黙したまま追って来る。レイガストを装備している村上には追い付かれやしない。そう思ったが、ただでは走らせてくれない。

 

「スラスターオン」

 

 レイガストをナイフ状に変形し、僕の胴に向けて飛ばしてきた。弧月一本で防げるか? いや――僕はシールドを出来るだけ体から離して展開し、勢いを殺したものを弧月で弾き返した。僕は人並み以上にトリオン能力が高いらしい。そのおかげもあってか、問題なく受け止めることが出来た。

 

 しかし、一瞬足を止めてしまったので村上からの猛攻が始まる。

 一度屋根から降りてしまえば、地上から逃がしてはくれない。捌くのに精一杯になってしまう。だから降りない。降りずに凌ぎ、出来るだけ上を目指す。

 

 弧月による斬り上げ、レイガストを盾にした突進。そして、あの一撃。

 

「旋空弧月」

 

 ブレードが一瞬で伸びて喉元にまで届いた。それどころか、僕が後ろへ退いてばかりなことを逆手に取って通常よりもう一歩強く踏み込んでの旋空だった。宙に自分の左腕が飛ぶのが見えた。痛ましい。でも、それで怯みはしない。

 

 旋空を使用したことによる硬直。そのタイミングで僕は、今いる平屋から二階建てのアパートの屋根へと更に飛び移る。 

 

「よし、ここだ」

 

 そこから村上の影になるよう飛び降り、空中でオプショントリガーを起動した。

 

「旋空弧月」

 

 僕の旋空は村上のように精度が高くない。でも今はそれでいい。ただ建物を倒壊させ、村上の視界から外れられればそれでいいんだ。

 

 村上は大通りに出ていた。建物が崩れた衝撃で出た土埃から離れ、いつどこからでも対応出来る位置。いつでも僕を迎撃する構え。

 

 僕は更に別のトリガーを起動する。視界が遮られた状態では使えないので、建物の隙間を縫うようにして村上を視認出来る場所にしゃがみ込んだ。

 

 そして、20メートル先、村上の背後に瞬間的に移動。僕は体を捻るようにしてブレードを一気に振り抜き、死角からの一撃を叩き込む。

 

「テレポーター……なるほどな。そう来たか」

 

 村上の半身をそのまま引き裂き、トリオン体は活動限界を迎える。三本目は僕の勝利で終わった。

 

 続く四本目も僕は奇襲を仕掛けたが、この男は学習能力が高いだけに留まらず対応力までピカイチだった。

 今度は背後ではなく頭上に移動したものの、二度目は看破され返り討ちに遭う。追撃もレイガストに阻まれ、僕はそのセットを落とした。

 

 3-1で村上の勝ち。思い返せば圧倒的な実力差がそこにはあった。

 

 

 戦いが終わりロビーに出ると、見知った顔と出くわす。

 

「鋼相手によくやったじゃねえか」

 

 荒船哲次。この間『かげうら』で会った男だ。

 

「さすがに強かったよ。手も足も出ない」

「けどテレポーターの奇襲は良かったと思うぜ。こいつにはもう通用しなさそうなのがネックだが、工夫すればどうにでもなるだろうしな」

 

 今回僕は、村上と対戦するにあたってとにかく死角を突くやり方を模索していた。正面からではあの鉄壁を崩すのは至難。なら、どうにかして背後に回る手立てはないかと。

 そこで見つけたのがオプショントリガーのテレポーター。指定した位置に瞬時に移動することが出来るため、奇襲にはもってこいだ。

 

「正隊員になって浅いしまだ弾は使わないだろうなと思っていた。何か仕掛けてくるならスコーピオンを引っ掛けてくるかオプショントリガーくらいだろう。だから少し前に流行ったステルスを使ってくるかと予想してたよ。実際、ソロ戦で当たる相手はこれが多い」

「テレポーターの使用者はまだ少ないしな。鋼相手には良い目の付け所だと俺も思う」

 

 時計を見ればランク戦まで一時間を切っている。これ以上はよくないな。

 

「次また戦う時は真っ向から切り崩せるように努力するよ」

「ああ、楽しみに待ってる」

 

 肩慣らしには十分だったらしい。村上は満足気に作戦室へと去っていった。

 

「荒船はどうする? 僕はこれから試合を観に行こうと思ってるんだけど」

「お、それなら俺もついていってもいいか。夜の防衛任務まで空きがあって暇してた所なんだよ」

 

 ありがたい。

 

「そういや飯は食ったか?」

「まだだね」

「そんじゃあ俺の一押しの店に連れてってやる。ついでにおまえのことも聞かせてくれ。カゲによるとアクション映画オタクらしいじゃねえか」

 

 最近おすすめされたものを観てるって言っただけでオタクとは言ってない。どうするんだ。荒船が過激派のアクション映画オタクだったら。今日でこの関係も終わりになってしまうぞ。

 

 ついていけば本当に美味しい定食屋さんに案内してくれて、ついでに言えば過激派でもなく安心し、僕らは趣味の話に花を咲かせた。それから二人でランク戦も観に行くことになった。

 

「へえ。なんだか映画館みたいな設計だね」

「実際似たようなもんだ。この試合も実況と解説付きで観れるしな。映画館ってよりは競技場の方が近い」

 

 なにやら今日は人が多い。

 

「いつもこんなに人が埋まってるの」

「いや、今日は特別多いと思うぞ。まあ、十中八九嵐山隊が出てるからだろうな」

「確かにファンは多そう」

 

 嵐山さんの試合を観に来たらしい女性隊員がちらほらと見えていた。

 今日の対戦は、嵐山隊・那須隊・鈴鳴第一の三つ巴で行われる。思えば、那須さんとボーダーで会ったことがないので、なんだか不思議な感覚になった。

 

「おまえ、チームランクの方は初めて観るんだろ?」

「そうだね」

「じゃあよかったな。今日の解説は東さんだ。あの人以上にわかりやすい解説者はいねえ」

 

 ここまで絶賛するなんて。そう思って解説席に目をやれば、なるほど、年の功を感じる。

 

「あ、間違っても30過ぎたおっさんなんて思うんじゃねえぞ」

「違うのか」

「まだ25の院生。貫禄があるのは認めるが」

 

 顔に出すぎと窘められる。

 

「まあスポーツ観戦だと思って気楽に観ようぜ」

 

 さて、どの隊を応援したものか。鈴鳴第一はもちろん、那須隊にも勝って欲しいし、この二つを応援すると嵐山隊に悪い気がしてくる。はてさて困った。

 

 

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