兎は星乙女と共に(リメイク)   作:二ベル

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更新していないやつのリメイク的な読み切り的な何か。


月が綺麗ですね

 暗い岩窟のそこで、激しい剣戟の音が鳴り響いていた。

火花を散らせ、血潮を撒き散らし、瞋恚の炎を瞳に宿して、1人の少年と1体の怪物が戦っていた。

 

 

「ぁ、ぁああああああああああああああッ!」

 

『アハ、アハハハハハハハッ!』

 

処女雪のような白い髪は今や血と土埃で薄汚れ、どこをどう見ても瀕死と言えるほどにベルの身体は傷つき果てていた。それでも、彼は戦い続けていた。目の前にいる義母と瓜二つの身姿をした、怪物を相手に。

 

 

 その怪物の名は、『遺体をむさぼる者(ナハツェーラー)』。ベルが7歳になった頃にこの世を去った彼女の遺体を何者かが盗んだことから生まれた存在。もういない筈の義母の姿を追いかけ、迷宮の中で爆発が起こり装甲に覆われた紫色の恐竜の化石の様な巨大な外見をした怪物が生まれ、巨大な蛇(ラムトン)に飲まれ、単独で深層へ落ちたベル。そこからどれくらい時間が経ったのか、ベルはたった1人で深層域を彷徨い続けた。襲い掛かってくる厄災(ジャガーノート)から逃走し、数多の怪物達からも逃走し、義母の遺体を利用して生み出された怪物からも逃げ、何度も死を前にした。彷徨い続けた末に辿り着いたのは正規ルートであり、階層主の生まれる場所だ。そこに、義母と瓜二つの怪物が待ち構えていた。まるでベルが現れるのがわかっていたかのように。あるいは引き寄せられるかのように。彼女もまた深層域で彷徨い続けた結果なのか、身姿が少しばかり変わっていた。怪物の皮を引き裂いたのか身に纏う装束から受ける印象は襤褸を纏う魔女。しかし、その手に持つのは厄災(ジャガーノート)の破爪は複数の怪物の身体を利用したのか、不気味な死神の鎌を彷彿させ、背面は『外骨格』というのだろうか、うなじあたりから下へ続き、鋭い尾が伸びている。鎌の薙ぎ、尾を使った突き、そして魔法。ベルの精神をぐちゃぐちゃかき回す身姿にどれも必殺となりうる攻撃に対して、ベルは命を燃やしてアイズより譲り受けた『黒いデスペレート』を用いて受け流し、果敢に挑んだ。

 

 

「僕には……あの人みたいに才能、が……ない……!」

 

それでも、と深く踏み込んで地を蹴る。

弧を描くようにして彼女の周りを駆けまわり、直角に方向転換しすれ違いざまに何度も切りつける。彼女の身体は怪物染みて硬く、なにより取り込んだだろう怪物達の部品(パーツ)が邪魔をする。

 

「僕は、アルフィアお義母さんとは違う……僕は、【静寂】のアルフィアじゃ、ない……!」

 

ベルは14歳になった。

実力も何もかも十代半ばでLv.7に達していた彼女には遠く及ばない。彼女と同じ才能をベルは持ち得なかった。けれど、まだベルは()()()()()()。彼女を追い抜く可能性はいくらでもある。

 

「だから、全部……全部、使い切る……! 足りない才能の分まで、何もかも……ッ!」

 

Lv.2になった時に発現した『魔法』は、【ラスト・ジャーニー】。現時点でベルにとって唯一無二の魔法だ。それはアルフィアの才禍代償(スキル)を魔法にしたような効果で火炎や雷を吐き出したり治癒を行う魔法のように普段使いできるものですらない。女神曰く『諸刃の剣』で魔法の効果が終われば、『毒』『麻痺』『機能障害』を始めとした複数の『状態異常』を併発し、神との繋がり…すなわち『恩恵(ファルナ)』まで機能しなくなる『死亡判定』を受けてしまう。その魔法は既に解放済み。限界を超えた速度をもって白き弾丸となりかつて憧れた英雄の成れの果てとぶつかり合う。

 

「死んででも、倒す……ッ!」

 

決戦の前、夢の中で彼女は言った。

それが都合のいい幻想であろうとも、今のベルに力を与える燃料にはなっていた。

 

<私のような化物でなくとも、お前はやれるだろう?>

 

やせ細った白い腕を伸ばし指でベルの血をすくって握り締める。

 

<なにしろお前は、私の息子なのだからな>

 

彼女の手を汚したベルの赤い血は、燻ぶっていた火種が力を得るように炎上していった。そこで夢は終わる。

 

 

『【福音(ゴスペル)】』

 

「ぎ……っ!? い、たく……ない……!」

 

強がり、無理矢理に笑みを浮かべ、認識の外から反撃を繰り出す。ベルの胸は炎を吹き出すかのように青白く発光し、剣を走らせれば放電現象(スパーク)を撒き散らした。

 

『【祝福ノ禍根、生誕ノ呪イ、半身喰ライシ我ガ身ノ原罪】――』

 

「―――ッ!」

 

空気が揺らぐ。

周囲に散った魔力を回収しながら、彼女は詠唱を開始した。目に見えるほど空間が波打ち歪み、ベルの本能が警鐘を鳴らす。

 

『【(みそぎ)ハナク。浄化――】、イヤァアアアアアアアアアッ!?』

 

爆発が起こる。

制御を失った魔力による魔力暴発(イグニスファトゥス)だ。怪物の美しい顔が下あごを失いだらりと首を曲げて頭部を垂らす。彼女の背後には、真っ黒な細剣が地に突き刺さっていた。魔法の詠唱が始まり、それが超長文詠唱であるとわかったその時、二節目に入ったところでベルは剣を投擲。投擲された剣は怪物の口腔を貫き、そして爆発を起こしたのだ。喉から音を立てて鮮血を吹き出した時、ガラス玉のような球体が吐き出された。

 

「ぁああああああああああああッ!」

 

『!?』

 

再生する彼女の肉体。

それを待たず、全力を乗せて押し倒す。両の肘の上へ膝を乗せて動きを封じ、そのまま抜剣した短剣を胸に勢いよく突き立てる。

 

「―――かはっ」

 

背中に走る激痛。

視線を向ければ、背中には彼女の……いや、正しくは『厄災(ジャガーノート)』の尾が刺さっていた。血を何度も吐き、下にいる彼女の顔を汚し、起き上がろうとする彼女に気がついて意識を戻す。

 

「さよう、ならお義母さん……っ」

 

『……、………ッ!?』

 

「ちゃんと、お墓参りするっ、から……もう、眠ってて……、ごめん、ごめんなさい……っ」

 

『ギ、ィ、ァァアア……!』

 

彼女の身体は酷く硬く、生前の彼女と同じように細い。ベルは血と涙を流しながら胸に沈もうとする刃に恐れ苦悶を漏らす怪物へと力を込める。それに合わせて胸の内で輝いていた青白い光が腕から短剣に流れていく。そしてそれを解放する。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

それは憧れていたアルフィアの魔法を受け継いだのではなく名をとったにすぎない。【ラスト・ジャーニー】は効果中、常時限界突破となる魔法。その力を一点集中し流し込む。魔法の終了と引き換えに放つことができるベルの唯一の必殺だ。

 

『――――ァ』

 

身体を貫く光に魔石を破壊され、地面にさえそれは通ったのか噴火するかのように罅割れ、青白い炎が噴き出した。断末魔を挙げることもなく、静かに身体を灰に変えていく彼女は脱力しゆっくりと瞼を閉じていく。

 

「ごめん、ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

 

零れる涙が止まってくれない。

彼女の顔に落ち、肌を流れて落ちていく。

取り込んだ怪物達の部品は音を立てて剥がれ落ち、それらもまた灰へと変わっていった。嗚咽を漏らすベルの頬を誰かが撫でた。肩を揺らし瞼を開けてみれば、いつか見た義母の微笑みがそこにはあった。

 

『愛……して、いる』

 

「……うん、僕も……愛してる、よ」

 

どうしようもない息子を宥めるように頬を撫でる彼女にアルフィアを重ねてベルは言葉を返す。それが、最期の親子の会話。眠るように再び瞼を閉じた彼女はとうとう灰に変わって青白い炎に撒かれて消え失せた。短剣を突き立てたまま背を丸くしながら、ベルは静かに泣き続けた。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

「ねぇアミッド、あんた、ベルのことどう思ってんの?」

 

「はい?」

 

それはいつかの少女達の会話。

ティオネが頬杖をつきながら、遠慮なしにアミッドへ聞いてくる。都市にある喫茶店のカフェテラスの卓を1つ囲む少女達はアミッドとティオネを始めアイズやレフィーヤ、ティオナがいる。

 

「いや、アイズもアミッドもあの子とは腐れ縁でしょ? 私達も派閥に入った頃に見たことはあるけど……」

 

「あの頃は尖ってたからねえ」

 

「は、はぁ……」

 

男神(ゼウス)みたいに女にだらしなくって、女神(ヘラ)みたいに嫉妬深くて独占欲が強い……あの子の両親がどんなだったかは知らないけど、面倒くさいところは受け継いでるっぽいし、それに……」

 

「それに?」

 

「あの子、早死にするタイプよ。私の女の勘がそう告げているわ」

 

「…………」

 

「何よレフィーヤ、何か言いたそうな目をしているけど」

 

「い、いえ、何でもないです……」

 

ティオネの女の勘とやらは果たして役に立つのだろうかと言った疑問を浮かべたのだろう。レフィーヤは顔を逸らしてストローに口付け果実水をちゅーっと吸い上げた。

 

「それでアミッド、ベルのこと……どう思ってるの? もう抱かれてるんでしょ?」

 

「………は、は!?」

 

「いいのいいの、そんな慌てなくても。あんたからはもう生娘の気配を感じないもの。っていうか、前からベルの膝の上に座ってたり街中を手を繋いで歩いてたり、付き合ってないの?嘘でしょ?って思ってる人達結構いるわよ?」

 

「抱かれるって何?」

 

「んーアイズは気にしなくていいんだよ~」

 

「え……え?」

 

「【アストレア・ファミリア】の本拠に泊まりに行ったりもしているんでしょ?」

 

「それはその……私がちゃんと休暇をとらないのが原因と言いますか、いえ、休暇はあるのですが休暇の日でも新薬の調合をしている私が原因で周りの方々が休めないそうでベルさんに連れ出されるようになったと言いますか……ああ新薬の調合というのは、私の趣味みたいなものですので」

 

「で、ベルのことどう思ってるの?」

 

「どう……と言われましても、好ましく思ってはいますよ?」

 

「あー………うん、ダメだこりゃ」

 

「近すぎてってやつでしょうか?」

 

「レフィーヤでもわかる?」

 

「ま、まぁ、なんとなく……? アイズさんはどうですか? あの子のこと」

 

「え……?」

 

突然振られたアイズは目を見開いて少し驚き、そして考えて答える。どこか頬を染めているのが余計に珍しく可愛らしさを演出している。

 

「ベルは……えと、可愛い、かな」

 

「え」

 

「は」

 

「寝顔が可愛くて、モフモフしてて……」

 

「ダメですねこっちも」

 

「ダメだねぇ……っていうか、アイズはあの子に剣あげてたじゃん。かなりいいやつだよねあれ」

 

「あーデスペレートと同じやつだっけ? あの黒いの。ウダイオスのドロップアイテムで造ったとか?」

 

「うん、ベル、嬉しそうだった」

 

「私は指輪を贈りました」

 

ムッとした表情で、聞いてもいないことを言い放つアミッド。え?指輪?まじで?といった顔をするのはアイズ以外の少女達である。

 

「彼が早死にするタイプというのは存じております。ですので、人造迷宮の攻略に行かれると聞いた時に一角獣(ユニコーン)の角を加工した指輪を……なんですか、どうして皆さんギョッとした顔で私を見ているのですか」

 

「「「普通異性に指輪送りますか?」」」

 

「え」

 

「いくら付き合いが長くても贈りませんよ」

 

「そうね、せいぜい精霊の護符とかのクーポンとかじゃない?」

 

「だねー、それかドロップアイテムとか? ほら、水晶とかならお手軽だし」

 

「ですね、いらなかったら売ってくれればお金にできますし」

 

「流石にあの子の好みとか把握してないから、武器を贈るわけにはいかないし……あ、好みの女はだいたいわかるわよ? 年上で胸が大きい子がいいのよね、きっと」

 

「ベルの周りって年上の女性しかいませんよね」

 

ベルの女事情とべらべら言う少女達。

だいたいその通りなので「違います」とも言えずアミッドは口端を引き攣らせる。あれ、意外と彼、クズなのでは?と思えてしまうのが悔しいが良い子ではあるのだ。

 

「ベ、ベルさんはその、確かにそっち方面はだらしない……かもですが、良い子ではあるんですよ? それに、その、少し、ずるいところもあるといいますか」

 

「というと?」

 

「…………ふぅ」

 

「え、ここで深呼吸?」

 

「その、以前……彼と夜道を歩いている時、彼がぼんやりと空を見上げていたのでどうしたんですか? と聞いたんです。そしたら」

 

「「「そしたら?」」」

 

「……つ、月が綺麗ですね。と」

 

「「「ふぅ~~~~っ!」」」

 

「!?」

 

「盛り上がらないでッッ!?」

 

聖女様の恋バナに盛り上がる女子3人。

急に奇声が上がったことに肩を揺らす少女(ポンコツ)が1人。顔を赤くするアミッドは周囲に聞かれていないかキョロキョロ。そう、ベルはずるいのだ。わかっててやっているのか、素面でそういうことを偶に言っちゃうのだ。ドキリとさせてきちゃうのだ。そりゃ聖女様だって酔った勢いで宿屋に行っちゃう。

 

「めっちゃ好きじゃない」

 

「お付き合いされないんですか?」

 

「そういえば許嫁とかって話聞いたことがあるけど、ほんと?」

 

「ぅ………その、誤解ですから、許してください……」

 

「ちゃんと気持ちは伝えないと、ああいうのは気づいてくれないわよ」

 

「気持ちと言われましても……こう、皆さんに迫られると意識してしまいますし……」

 

少女達に迫られて言葉を詰まらせるアミッド。

それも仕方のないことだ。一緒にいるのは普通のことだったし、疑問視したこともない。彼の体調管理は自分の役目だという自負もあるし、彼以上に彼の身体については詳しいとも思っている。そう、今の関係がアミッドにとっては普通のことであり逆もまた然りなのだ。

 

「あの子が他の女にかっさらわれてもいいの?」

 

「………」

 

そんなことを言われれば、面白くない。

口角は下がり、チラリと見たアイズも似たように面白くなさそうな顔をしている。

 

「私は、彼のお義母様を助けてあげられませんでした。仕方のないことだったとはいえ、治療師として仕方がないで済ませていいとは思えないのです。酷く落ち込んでいた彼を知っていますし、だからこそ負い目というものがあります。頼りにしてくれていたというのにそれに応えらえなかった私が……そもそも、彼を思うことは許されるのでしょうか」

 

「別にいいじゃない、昔のことでしょ」

 

けろっと言うティオネは続ける。

 

「そのことでアミッドのことを恨んでたとしたら、今まで一緒にいたりしないわよ」

 

「確かにそうですよね、治療院でアミッドさんのお手伝いしているところ何度か見てますし」

 

「………」

 

黙り込むアミッドに、少女達はニマニマと笑みを浮かべる。彼女達のせいで余計に意識してしまうのだが、他の誰かにとられたりしたら……と思えばやっぱり面白くない。彼の【ファミリア】の女性達であればまだしも、どこの馬の骨とも知らない女性となれば話は別で……。両足の間で手をもじもじとさせて、何を考えさせられているのだろうと顔を赤くする。

 

「………かも、しれません」

 

「ん?」

 

「に、憎からず……思っております……」

 

「ひょっとして今、言いなおしました?」

 

「………うぅぅ」

 

 

顔を赤くして俯くアミッドを揶揄うように少女達は笑う。

それはいつかの記憶で、アミッドがベルと再会するのはしばらく後のことで、生きているのが不思議なくらいに冷たくなって眠るベッドの前だった。

 

 

×   ×   ×

 

 

灰の上でうつ伏せになって倒れていたベルはゆっくりと瞼を震わせて開ける。魔法の効果も切れ、力も碌に出ない。

 

「………」

 

もう動けそうになかった。

手のひらには怪物から吐き出されたガラス玉のような球体が収まっている。それは、『殺生石』と呼ばれる代物でベルが探し続けていたものでもあった。その中には、とある少女の魂が封じられている。怪物を倒し奪われた少女の魂を取り戻した今、ベルからはやりきったとばかりに気力が失われてつつあった。

 

「アストレア様……アリーゼさん、リューさん……ヴェルフ……」

 

【ファミリア】の姉達の名を呟いて顔を浮かべて、友人達の名を呟く。ここにはいない、ベル1人。血を流しすぎたベルの身体は徐々に冷えていく。

 

「疲れた……だから、もう……」

 

下りていく瞼。

右手に包むようにしていた殺生石を誰にも奪われないように抱き寄せようとする。その時、右手の薬指に嵌められていた白い指輪が映った。アミッドがくれた一角獣(ユニコーン)由来の指輪だ。

 

「………」

 

トクン、と鼓動が鳴る。

地面を殴り付けるように手を這わせ尽きた筈の力を込める。

 

「が……あ、ああお、ああ……ッ!!」

 

歯を噛みしめ、傷口から血を吹き出させベルは立ち上がった。風は吹いていないのに寒い。防具は全損。周辺に対人含めた動体反応なし。

 

「かえ、らなきゃ……ッ」

 

それでも、道は四方に広がっている。

剣を拾い上げ、杖のようにして身体を引きずるようにしながら血の足跡を残してベルは進んでいく。女神との繋がりを失い、ただの人になった少年は力の限り歩み続けた。次に目が覚めた時、ベルの傍にはいつも気にかけてくれている昔馴染みの銀髪の女の子がいた。

 

 

×   ×   ×

 

 

「馬鹿です、本当に……作戦行動中に隊列を抜けて単独、迷宮に入り……結果、ダンジョンが爆発して、単独で深層を……1週間も……本当に、貴方は心配させるのがお好きなようですね」

 

ベッドの上で眠るベルを相手にアミッドはくどくどと漏らす。ベルが行方不明になったことを告げてきたのは彼の【ファミリア】で、彼を連れ帰ってきたのは猪人(ボアズ)の武人だ。身体は酷く冷たく、生きているのが不思議な状態。右手にはガラス玉のようなものが握られていて、取られないようにしていたのか指を剥がすのが難しかった。

 

「ずっと、責任を感じていたのですね」

 

ベルの主神であるアストレアにそのガラス玉のことを聞いてみれば、彼女が連れてきたのは武神とその眷族だった。それの中にはある少女の魂が封じられているんだとか。アミッドはベルの手を握り、聞こえているかもわからないのに独り言のように唇を動かす。

 

「アルフィアさんより、長生きしてください。お願いですから……」

 

握り締めたベルの手にいつしか額を当てて、希う。

治療院に運ばれ、治療している時、アミッドは胸が締め付けられて気が遠くなりそうだった。なによりたった1人で深層を彷徨ったというのが理解に苦しむもので、そうなってしまった結果に盗まれた遺体から生まれた怪物……女神アストレアは『遺体をむさぼる者(ナハツェーラー)』とあえて怪物としての名を称していたが、自分の義母と戦ったようなものだ。きっと苦しかっただろうとアミッドはベルの心中を推し量る。

 

「はぁ………何度も貴方の治療はしたことがありますが、今回ばかりは……」

 

ベルの髪を梳くように撫で、いつか喫茶店で友人達と話したことを思い出す。ティオネが言っていたように本当に彼は早死にするタイプだ。放っておけない。

 

「ベルさん……起きていますか?」

 

握り締めていた手からは反応がない。

起きていてくれたらよかったが、それはそれで言いづらいこともある。

 

「ベルさん、結婚してください」

 

握り締めていた手がぴくっと反応したような気がする。こんな時に何を言っているのだろうと自分でも思う。顔だって熱い。でも、言い出したら止まらなかった。

 

「お、お付き合いを前提に……結婚しましょう、ベルさん」

 

ぴくり、とベルの手が反応する。

閉じられた瞼からは、涙が流れ落ちていた。

 

 

×   ×   ×

 

 

治療院を退院して少しした頃、2人は家族になった。

新居は少しどころかかなり大きくて使い勝手に困るが、狐人のメイドが手伝ってくれる。何せ元々は太陽の神の派閥の本拠だったのだ。アミッドとベルでは掃除の手が行き届かない。狐人の少女も少女でまだ本調子ではないが手を貸してくれる彼女の友人や姉貴分が様子を見に来てくれるから問題はないだろう。

 

「今夜は少し、肌寒いですね」

 

「……はい」

 

肩を並べて夜道を歩く。

この日は【ファミリア】の宴会で酒場で食事をとっていた。今は、その帰りだ。雲一つなく、空には綺麗に輝く満月が浮かんでいる。ふとベルが足を止めて月を眺めていて、いつか言われたことをアミッドは思い出す。

 

「……つ、月が綺麗ですね」

 

言われた時はとても恥ずかしい思いをしたのを覚えている。だから、やりかえしてやった。さあ、どんな反応をしますか? としてやったりな顔をして隣のベルを見つめていると握っていた手を胸元に持ってきてベルは言い返す。

 

「……今なら……手が届くかもしれませんよ」

 

「…………!?、っ!?」

 

やっぱり彼はずるい、と頭から湯気を出すアミッドである。ベルに手を引かれ、家へ戻れば玄関で膝を抱えて座る金髪金眼の女の子がいて、彼女は不思議そうに「どうしたの?」と言ってくるのでアミッドは彼女の背を押すようにしてそそくさと奥へ引っ込んでいった。

 

 

■   ■   ■

ベル・クラネル

Lv.5

 

■二つ名

子兎(ザイチク)】→【生死不明(ペイルライダー)

 

■基本アビリティ

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

 

■発展アビリティ

幸運 :F

耐異常:G

魔導 :G

治療 :I

 

 

 

■スキル

栄光血統(クレオス・ブラッド)

・早熟する。

・効果は持続する。

・苦難の数だけ効果は向上する。

 

停滞熱狂(サタデーナイトフィーバー)

・非戦闘時自動発動。

・体力及び精神力(マインド)自動回復(オート・ヒール)

 

星屑淡輝(スーサイド・ムーンライト)

・瀕死時、全能力に高補正。

・速度が上昇すればするほど攻撃力に補正。

 

冀求灯火(アトンドリ・エスペリエ)

・魔法発動時のみ自動発動。

・魔法の効果を共有。

 

 

聖女抱擁(セイント・アコレード)

・一部魔法、スキルの効果共有。

・感応現象。

・距離に応じ遅延発生。

 

■魔法

 

【ラスト・ジャーニー】

・効果発動中、常時限界突破。

・効果終了後、『毒』『麻痺』『機能障害』を始めとした複数の『状態異常』を併発。

・死亡判定。

・階位に応じて能力増強。

 

【アトンドリ・エスペリエ】

・瀕死時、自動発動。

・完全復活及び一時的な階位昇華。

・発動対象は自身を含め個人限定。

・昇華時間はレベルに依存する。

 

【ウォーリアー・オブ・シャングリラ】

・召喚、転移魔法。

・行使条件は詠唱文及び対象魔法効果の完全把握。

・対象魔法分及び転移距離に応じて精神力を消費。

・転移可能条件は番に限る。

・詠唱の有無に応じて効果変動。

 

 

アミッド・テアサナーレ

Lv.3

 

■スキル

白兎戴冠(スノウ・ホワイト)

・一部魔法、スキル、基本アビリティの効果共有。

・感応現象。

・距離に応じ遅延発生。

 

■魔法

 

【ディア・フラーテル】

・全癒魔法。

 

【ホーリー・オブ・シャングリラ】

・召喚魔法。

・召喚可能魔法は『防御』『支援』『回復』限定。

・行使条件は詠唱文及び対象魔法効果の完全把握。

・対象魔法分の精神力を消費。

・番との絆の丈に応じ効果は向上する。

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