邂逅 坂本龍馬
日本中を探し回ったものの確たる発見はなく、どうしようかと思っていた矢先に辿り着いたのが横浜だった。
黒船に乗ってきたアメリカのペリー提督を初め、多くの異人が定住していると言う横浜を拠点に片割れを探すことにしたのだ。
徳川幕府は最も在任期間が長かった第11代将軍《徳川家斉》の贅沢三昧な生活、頻発する外国船の登場により幕府財政は破綻寸前、当時の老中首座《水野忠成》の政策により貧富の差がさらに激化、賄賂も横行し役人の腐敗を促進した。
その後、幕府の建て直しを計るが飢饉なども発生し、上手く行かず幕府は衰退の一途を辿っていた。
彼女が放浪していた時代も役人の腐敗。天皇の発言権拡大、尊皇、攘夷思想の台頭により治安が大きく悪化、後ろ楯など気にしない彼女は村の襲いかかる脅威を払っていたら村民たちの間で英雄的な扱いを受けることになる。
当時、横浜に辿り着いた頃から彼女は民の間ではちらほらと噂される程度の存在になっていたのだ。
この頃の噂を同じく横浜を目指していた坂本龍馬は知らぬはずはない。彼の性格からして興味を持ったに違いない、ならこの出会いは偶然ではない。ある程度、意図して出会ったと言うべきなのだろうか。
通行手形を得るために近くの村人から聞いた洞窟を辿れば出会ったのは黒洲藩の残党、藩を失ってもなお追ってくる執念は尋常ではない。
だが彼女は既に並みの武人では相手にならぬほどの実力を手にしていた、彼女は二刀の使い手であったが流派はなく独自の戦い方であったとされる。
黒洲藩では便宜上、無明流と呼ばれていたようだが無明とは仏教用語で無知を指す言葉、これだけで黒洲藩にとって隠し刀がどのような扱いであったかを察することが出来る。
または無流と言う意味かもしれない。
そんな黒洲藩残党と戦った洞窟の中で彼と坂本龍馬と出会った。
「おまんも、何やら訳ありのようじゃのう」
恐らく異国の武器を扱う、その男は馴れ馴れしく敵意を感じなかった。人付き合いが苦手な自分としてはさっさと分かれたかったがいつの間にか肩を掴まれてしまう。
「そうじゃ、ちっくとわしに付き合え」
「なにを」
急な扱いに戸惑いを覚えていると
「こっちじゃ、ほら!」
腕を掴まれ無理やり付いて行かされることになった。
「わしの短銃、ええじゃろ。上海帰りの友達に貰たんじゃ。黒船が来てから世の中、大きく動きよる侍の世もどうなるか分からん。西洋のええもん取り入れていかんと、取り残されるきのう」
四国辺りだろうか方言が道徳なその男は歩いてる間、ずっと話しかけてきた。話の内容から土佐から脱藩してきた浪人と言うことは分かったが勝手に自分も同じように志を持って脱藩してきたと思っているようだ。
「分かる、分かるぜよ。国許でくすぶっちょっても、何も変わらんきのう」
しばらく歩くと廃れた代官屋敷の麓に辿り着く。
そこには賊が根城にしており、そこから通行手形を拝借しようと言うことらしい。
「分かった。私も横浜には穏便に入りたい」
「そう来んとのう!わしの見込んだ通りぜよ」
なし崩し的に共闘することとなった二人だが代官屋敷を根城にする一党はあっという間に片付いた。
出会って間もないと言うのに二人は息を合わせ、次々と賊どもを蹴散らしていった。
この時の事を龍馬は、まるで考えが通じあっているかと錯覚するほどであったと語っている。
こと時の賊の頭は名を《権蔵》と言うが彼はこの回顧録でも度々登場する名脇役として出版された際に密かな人気物になるのはこの後の話。
この権蔵なる大太刀を振る人物は中々の手練れで二人が共闘した末に倒し、見逃すことになる。
その際に
「ありがとう!それじゃ、俺はこの辺で…」
と言って脇目も振らずに逃げ出したとされている。なんとも愛嬌ある人物である。
そんな人物だからこそ見逃したのかもしれない。
「いやぁ、助かったきに。ほれ」
蔵から戻ってきた龍馬は権蔵がいた所で横浜の街並みを眺めていた彼女に向けて大きな物を渡す。
どうやら滑空装置のような物で一時的に空を飛べる代物であったらしい。
「おまんなら使えると思うたんじゃが。どうじゃろう?」
「似たようなものを扱った事がある。行けるだろう」
「やっぱりのう。おまんなら、ここから飛んで横浜まで行けるじゃろ?手形が1つしかなかったからのう」
面白そうな物なので貰っておくことにした彼女はカラクリを置いていると龍馬は横に立ち、横浜を見下ろす。
「わしは横浜から、暗いこん国を《新しい日本》にしようち思っとるんじゃ。おまんとは何やら因縁を感じるの。横浜でまた会わんかえ?」
「良いだろう。だがいつ行くか分からんぞ」
「それでええ。横浜には西洋風の時計台があるそうじゃき。そこで落ち合うぜよ。まぁ、心配せずともまた会えるぜよ」
「おらんようなら、その辺りで坂本龍馬はどこじゃと聞いてみてくれるかえ?」
安心しろと言わんばかりに龍馬は拳をかたの胸にコツンと当てる。龍馬なりの友好の証となる動作だったがそれで不思議な感触に彼は出会った。
「ん?」
「?」
「おまん、まさか…」
「なんだ?」
察した龍馬と態度の急変に首をかしげるかた。
「おまん、女か!」
「そうだが?」
どうやら男だと思っていた龍馬は動揺するも咳払いをしてすぐに態度を整える。
「いやぁ、すまん。腕がたつから、てっきり男かと思っとったぜよ。新しい日本を目指しとるわしがそんな事で男女を分けるなんて浅はかじゃった!」
「なにを言ってるんだ?」
一人で納得していた龍馬は大袈裟に頷くと両肩に手を置いてくる。
「こっちの話じゃ、すまんのぉ!」
「そうか…」
「ほいたら、またの!」
最後は少し変だったが気の良い御仁であったと結論付けた彼女は試験も兼ねて横浜の街に飛び立つのだった。