そんな記念日なので書きました。3時間くらいの即興で書いた為、色々雑で短いですが、よろしければお読みください。
「ひとりちゃーーん!いい加減出ておいでー!というかごみ箱の中なんて汚いよー!?」
「ヤドカリみたい」
ひとりは現在、ごみ箱の中にいた。ごみ箱の中に入り、そして震えていた。そんなごみ箱の周りにいるのは、伊地知虹夏と、山田リョウ。今ひとりがいるライブハウス「STARRY」でバンド活動をする予定の女子高生だ。
「何してんだお前は」
更にその直ぐ近くには、ジョニーもいる。当然、虹夏とリョウには見えていない。
(無理無理無理無理!!いきなりライヴとか絶対に無理!!)
30分前、ひとりが公園で虹夏に話しかけられた。虹夏は今から自分のバンドがライヴをやるのだけれど、ギターの子が突然バンドをやめてしまったので、代打として今日だけバンドに入って欲しいと言われたのだ。
そしてひとりが返事をする前に、手を引いて下北沢にあるライヴハウスまで連行。その様子をジョニーは、一言もしゃべらずに興味深そうに見ていた。あれよあれよとライブハウス「STARRY」へと到着。
尚、STARRYに入った時ジョニーは、
「ほう?ナイトシティのライヴハウス程じゃないが、悪くないな」
と言い、割と好評な印象を持っていた。スタッフが全員女性なのは変だろうとも思っていたが。
そしてひとりは、虹夏と同じバンドメンバーで、ベース担当のリョウと軽い挨拶をし、時間が無いので即練習をする事に。この時こそひとりは、自分もネットでは有名人だし、評判も良いので2人が驚くと思っていた。
だが、結果は散々。虹夏にはド下手と言われるし、リョウには鼻で笑われる始末。今まで誰かと合わせた事の無いひとりは、演奏が突っ走ってしまい、どうしても上手く合わせる事が出来なかったのだ。自分が思っていたより下手で、更に人生で初めて人前で演奏をするという事が突然怖くなり、ひとりは今こうしてごみ箱に入っているのだ。
(やっぱり帰ろう…そもそも、私みたいなミジンコがお洒落な街のライブハウスで演奏するなんて、考える事そのものが失礼なんだ…)
虹夏が必死で説得してくれているが、ひとりはもう帰りたいと思っている。
「おい、ひとり」
そんなひとりに、幽霊であるジョニーが話しかける。
「俺からのアドバイスだ。よく聞け」
どうやら、アドバイスがあるらしい。もしかすると、自分を励ましてくれる言葉でもあるのかもしれない。そう思ったひとりは、ごみ箱に入ったままジョニーの言葉に耳を傾ける。
「お前ここでライヴをしなかったら、絶対にもう2度とバンドなんて組めないぞ?」
「…………へ?」
しかし、ジョニーの言葉は励ましとは言えない冷たい言葉だった。
「いいか?今お前の目の前には、チャンスがある。やりたいと思っていたバンド活動ができるチャンスがだ」
ジョニーのいう通り、今ひとりの目の前にはチャンスがある。念願のバンド活動ができるチャンスがだ。
「だっていうのにお前は、それを掴もうとしない。何時もみたいに怖がってな」
しかしひとりは、今それを怖がってごみ箱に入っている。それどころか、帰りたいとさえ思っている。これでは、目の前にあるチャンスを掴むなんて不可能だ。そんな後ろ向きな考えでは、掴める物も掴めないだろう。
「俺の持論だが、目の前にチャンスがあり、それが掴めるのに掴もうとしない奴は、絶対に自分からチャンスを掴む事なんてできない。何があろうと絶対にな」
少なくとも、ナイトシティではそうだ。ナイトシティでチャンスを掴もうとしない者は、一生惨めなまま。誰もが、その僅かなチャンスを手にする為に足掻いている。
なのに、ひとりはそのチャンスを不意にしようとしている。ジョニーはそれが許せないのだ。折角自分がギターを教えてやったというに、バンドをやる機会を自ら失おうとしている。もし実体があったら、ジョニーはひとりに1発グーパンを入れているところだ。それだけ、ひとりがチャンスを逃そうとしているのが許せないから。
「もし、お前がこのままそのごみ箱の中に引きこもっていたいならずっとそうしろ。でもその時は、もう死ぬまでバンドなんてできないだろな」
だから、こうして発破をかける。自分らしくない事をしているのはジョニーもわかっているが、それでも彼はひとりに発破をかけてみる事にしたのだ。もしこれでも、ひとりがバンド活動をしようとしうとしなければ、ジョニーはもう2度とひとりに興味を示さないと思っている。
(いやだ…)
そんなジョニーの言葉を聞いたひとりは、
(そんなの、いやだ…!!!)
勢いよくごみ箱から出てきた。
「あ、あの!!」
「「!?」」
「や、やります!!初めてだけど、私やります!!」
そして虹夏とリョウと共に、今日のライヴをやると決める。ひとりだって、このチャンスを不意にはしたくない。正直、今でも怖い。もし観客から「ヘタクソ」と言われて、ゴミでも投げられたらどうしようとか思っている。
でも、嬉しかったのだ。虹夏にバンドに誘われて、本当に嬉しかったのだ。ずっとバンドをやりたいと思っていたが、友達もおらず、超コミュ障の自分が誰かをバンドに誘える訳が無い。そんな時に虹夏に誘って貰えて、本当に嬉しかった。だから、誘ってくれた虹夏を助けたい。それにジョニーの言う通り、このチャンスを不意にしたら、自分は絶対にバンドなんて組めない。
だからやる。怖いけど、やってみせる。
「は!それでいいんだよ。つーか最初からそうしろ」
ジョニーもそんなひとりの覚悟を見て、それ以上は何も言わない。これなら多分大丈夫だ。これでひとりはバンドが出来るだろう。
「あ、でもやっぱりお客さんの視線が怖いので、何か被る物とかあります…?」
「……」
やっぱりダメかもしれない。
「うーん…近くのトンキとか行けば、コスプレ用の仮面とかあるかもだけど、もう時間ないし」
「じゃあこれ被る?」
そんなひとりに、リョウが完熟マンゴーを書かれた段ボールを持ってきた。ひとりはそれを被ると、
「おおー!落ち着きます!!いつもギター弾いてる環境と同じで!!これなら問題無く演奏できます!!」
テンションを上げて、これで演奏ができると言う。
「普段どこでギター弾いてるの?」
「ナイトシシティにもこんな奴はいなかったな…つーか何やってんだこいつ…」
虹夏が若干引き、ジョニーが呆れる。
「そういえば、何て言って紹介すればいい?あだ名とかある?」
ここで虹夏は、ライブでひとりを紹介する時の事を聞く。メンバー紹介は、バンドにとって必要な行為だからだ。
「あ、中学ではあのーとかおいとか言われてましたけど…」
「それあだ名じゃないよね!?」
「あ、あだ名で呼ばれる程仲の良い友達がいなくて…」
でも悲しいかな、ひとりにあだ名等無い。そもそも友達がいないし。
「じゃあ、ぼっちでいい?」
「ちょっとリョウ!?それは流石に!!」
「ぼ、ぼっちです!!」
「喜んでるし!?」
リョウがデリカシーの無いあだ名を言うが、ひとりはそれが気に入った。だって今まで、あだ名で呼ばれた事なんて無かったから。
「あ、そういえばバンド名って何ですか?」
「う゛」
段ボールから顔を出したひとりが、虹夏にバンド名を聞くと、虹夏は少し嫌そうな顔をする。
「結束バンドだよ」
「え?」
「リョウーー!?」
虹夏に代わり、リョウが答える。結束バンド。それが2人が立ち上げて、ひとりが今日助っ人として入るバンド名らしい。
「結束バンド?」
「だせぇ名前だな」
結束バンドと言えば、ケーブルを束ねる時に使用する配線材料である。確かに、かっこいいとは言えない名前だ。でも正直、ジョニーのバンド名のサムライもどうかとひとりは密かに思っていたりする。
「絶対に名前変えるからね!!」
「何で?可愛いよね?」
「あ、はい」
恐らくノリで考えたけど、後になってダサイと思ったのだろう。でもリョウはこのバンド名を気に入っているので、変えるつもりはさらさら無い。
そしてひとりは今、ライブハウスのステージの上で演奏をしている。何時もと違って実力を発揮できていないし、音に自分の気持ちも乗せれていないし、誰かと合わせるのも初めてなのでミスしまくっているけど、ひとりは今凄く楽しかった。誰かと一緒に演奏をし、バンドをするのがこんなに楽しいとは思わなかった。
(私、今最高に輝いて…いる訳ない!!むしろ人生で1番みじめかも!?)
でもそれは、完熟マンゴーと書かれた段ボールを被っていなければの話。今ひとりは、明らかに好奇の眼差しを向けられている。そりゃライブステージに段ボールを被った変な奴がいたら、こうもなろう。
(もう帰りたい…こんな惨めな姿さらして…)
さっきまで最高の気分だったのに、今はもう最悪の気分だ。さっさと演奏を終わらせて、今日は帰るとしよう。
「よし、じゃあ変われ」
「え?」
「少しだけ、その惨めさを晴らしてやる」
最後の曲の演奏が終わった瞬間、ジョニーがひとりにそう言うと、以前みたいにひとりの体を乗っ取った。そしてひとりの体を乗っ取ったジョニーは、段ボールをどけて姿を現す。
「え?ぼっちちゃん?」
突然のひとりの行動に、虹夏は驚く。しかしジョニーはそれを無視して、1度会場を見渡した後、思いっきりギターを弾いた。
瞬間、会場からギター以外の音が消えた。
虹夏もリョウも、ライヴを観に来ていた観客も、そして店長や店のスタッフも、全員がひとり、いや、ジョニーの演奏の聞いていた。誰も喋らない。喋れない。今ここで口を開くのは、折角のギターの音に雑音を入れていまう行為になりそうだから。
だから誰も、一言も喋れらずジョニーのギターを聞く。それだけ、ジョニーのギターに心を奪われてしまったのだから。
「以上だ。ありがとう」
およそ30秒の演奏。だが、それだけで十分。ジョニーが最後にそう言った瞬間、ライヴハウスが沸いた。今日1番沸いた。ジョニーは適当に手を振ると、そのまま奥の部屋へと消えていき、そこでひとりと再び入れ替わたのだった。
「凄い!凄いよぼっちちゃん!最後の突然ソロギターやりだした時はびっくりしたけど、一気に皆虜になってたし!」
「驚いた。ぼっち凄い」
バンドの待合室で、虹夏とリョウがひとりを誉め倒していた。2人共他の皆と同じように、先程のギターに心を奪われていたからだ。
(私じゃなくて、ジョニーさんがした事だけど…)
でもあれは、ひとりじゃなくてジョニーがした事。ひとりにまだ、あれ程の演奏は出来ない。
「あー、でも、今度からはやる前に一言言ってね?いきなりされるとびっくりしちゃうから」
「あ、すみません。本当にごめんなさい」
虹夏に言われ、ひとりは直ぐに謝る。確かに段ボールを被ったままの惨めな思いは無くなったけど、今度は罪悪感が出てきた。そして入れ替わって演奏をしていたジョニーは、部屋にあるソファに寝っ転がってる。
「えっとねぼっちちゃん。相談なんだけど」
「あ、はい」
ソファに寝ているジョニーから、前の前にいる虹夏に視線を移す。
「良かったらなんだけど、このまま私達のバンドに入ってくれない?」
「え?」
そして虹夏は、ひとりにそんなお願いをした。
「辞めちゃったギターの子の枠が開いているし。何よりさっきの演奏聞いちゃったら是非って思っちゃったよ!どうかな!?」
「私も、ぼっちには入ってほしい。こんな逸材、滅多にいないし」
リョウも虹夏に賛成の様子。
「え、えと、いいんでしょうか?私なんかがバンドに入っても」
「勿論だよ!!」
「むしろ大歓迎」
「あ、じゃあ。よろしくお願いいたします」
その熱意に負けたのと、このチャンスを失いたくないので、ひとりも虹夏の誘いに乗る事にした。
( あ、でも、ジョニーさんみたいな演奏はまだ出来ないから、練習しとかないと…)
けれどひとりはまだ、ジョニー程の演奏は出来ない。あそこを目指してはいるが、まだそこにたどり着けていない。もし今後、さっきみたいな演奏をして欲しいと言われたら、またジョニーを入れ替わる事になるが、それではずっと他力本願だし、何よりジョニーがそれを許すとは思えない。
だからもっと練習しておこう。いつの日か、ジョニーみたいな演奏ができるように。
こうしてひとりは、長年の夢であったバンド活動を、遂にする事になったのだ。
おまけ
「そういえばぼっちちゃん。ギターはどうやって習ったの?」
「あ、えっと、師匠みたいな人がいて、その人に色々手ほどきを」
「師匠?なんか凄いね。どんな人?」
「え、えっと、髭を生やしてて、右腕が義手で、サングラスをしていて、平気で女の人殴りそうな人です」
「ちょっと待って!?それ大丈夫!?」
「ぼっち、その人に何か脅されてない?」
「あ、別に脅されてなんていませんよ?偶に煙草が吸いたいから買ってくれとかは言いますけど」
「いや十分ダメじゃんそれ!?」
「ぼっち、悪い事は言わない。その人とは縁切った方がいい。絶対に碌な事にならない」
「え、えっと、切りたくても切れないって言うか、逃げても追ってくるみたいな感じで」
「私、ちょっとお姉ちゃんに言ってくる」
「ぼっち、近くに役所あるからそこ行こう。DV相談窓口あるし」
次回はぼざろ2期が始まったら書くかもしれない。気長に待っててね。
クロス元の作品知ってる?
-
ぼざろだけ知ってる
-
サイバーパンクだけ知ってる
-
両方知ってる