顔のいい姉の弟に生まれたので姉を曇らせたい   作:じゃがありこ

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真音君バナーです。他イベントを書きつつ、3回ほど真音君バナーをやる予定です。


鬼灯が似合う貴方へ 1

フェニックスステージに行こう。そう思い立ったのは、日曜日の朝4時だった。その日はひどいもので、全然眠ることができなかった。

 

今までは模倣を行った時に、自分がわからなくなっていきその恐怖で眠ることができなかった。次起きた時に本当にそれは自分なのか自信を持てないからである。

 

最近はそれにも慣れてきて、ギリギリ繋ぎ止められるかなと思いつつ過ごしていたのだが、これまた今度は眠ると夢の中で、自分と同じ顔をした人間に追いかけられるようになり不眠が継続している。

 

吐きそうだ。そのせいで1時間おきに飛び起きている。このままだとメンタルが終わる。

ちょうど睡眠薬も切れていたため、今日もこの夢に立ち向かう必要があるのだ。

 

そう考えた結果、睡眠を取らないことには決めた。幸い、何事もなく朝を迎えることができた。なにぶん眠らなかったので、ふわふわする。気を抜くと寝てしまいそうなので、何か集中できるものを見に行こうと思ったのだ。

 

「前に貰ったチケットが確か夜公演だから………薬をもらう時間を考えてもそれまで暇だな」

 

部屋を出て、洗面台に行くと奏がいた。そうか、そういえば今日はお見舞いに行く日だ。

 

奏は、朝早くに起きている俺を見て目を丸くすると「どうしたの?こんな時間に」と聞いてくる。

 

「いやー 最近寝れなくてさー。リズムでも崩れたかな?」

 

そう言ってごまかすと 時計を見る。

 

「そろそろ行く時間でしょ。大丈夫そう?髪やろうか?」

 

「あ、ほんとだ。もうこんな時間………髪は大丈夫。じゃあ行ってくるね」

 

「はいはい」

 

奏を見送ってから、顔を洗って再度、自分の部屋に戻る。スマホで時間を確認し、ショーに間に合うように病院を予約した。

 

ただ、病院に行くまでの時間が余っている。

 

「スケッチ、やりに行くかな。誰に見せるわけでもないけど………偶にはSNSにでも挙げてみるかな。暇だし」

 

 

 

 

 

絵名には最近悩みがあった。自分の画力が奏の曲やまふゆの歌詞に追いついていないのではないかと

 

『お父さんとか、絵名のいう『誰か』じゃないけど少なくともボクは、絵名の絵が好きだよ』

『絵名、認める人が必要ならわたしが認める』

『誰かに認められたいなら認められるまで、描けばいい』

 

ニーゴの面々に背中を押され、少しは前を向けた気がする。

 

しかし、問題は変わっていない。実力不足、何より画家としてやっていく覚悟が問題なのだ。常に批評の目に晒され、劣等感や自分の無力さと向き合うことを求められる画家という生き方に対し、絵名は十分な強さを兼ね備えているとは言い難かった。それを見抜いての父親の言葉。

 

絵名は後者の課題を理解できていない。漠然と察しているが不器用な父親の真意を完全には理解できなかった。それ故に前者の方に目が行き、絵名は焦りを抱いていた。

 

思考する傍らで、見たことのある人物が視界に入る。

 

過去、コンクールの展示会にいた少年。

 

「宵崎さん………?」

 

真音はその声に振り返ると目を丸くして微かに笑った。

 

「東雲さん、でしたよね。お久しぶりです」

 

絵名は記憶が正しかったことと、一つの疑問を解決させるため問いかける。

 

「もしかして、奏の弟さん?」

 

「!ああ、もしかして姉のサークル仲間の方ですか」

 

疑問が氷解する。面影があるのだ。綺麗な銀色の髪と醸し出している何かが同じだ。

 

「やっぱり!ちょっと面影あるのよね!」

 

先ほど抱いていた苛立ちや悩みを脇に置き、会話に興じる。

 

「奏から弟がいるのは聞いていたけど、最初はわからなかったな。神山高校なんだよね?」

 

「そうですね、東雲さんの一つ下です。先輩は、彰人君のお姉さんですよね。美人なお姉さんで羨ましいです」

 

ストレートに褒める真音に少し機嫌がよくなる絵名。しばらく話して立ち話もなんだからどこかカフェに出も行きませんかと真音が切り出し、画材を仕舞いだす。絵名は、視界に映るそれを見つけた。

 

宵崎真音の手元にあるのは風景画だった。少し広めの公園のベンチに腰掛け、そこから見える風景を様々なタッチで書いている。

 

1枚が2枚ではない。少なくとも5枚以上の風景画が足元に散乱していた。

 

そしてそのどれもがまるで別人が書いたような絵である。使っている技法がまるで違う。

 

「………すごい」

 

しかし、コメントしづらい絵。確かに完成度は高いし、一体どれだけ練習をすればこのレベルに行くのかそう思わされ、感嘆する。だが、特徴がない。芯がない、引き込まれるものもない。

 

ただただすごい絵でしかないのだ。

 

(だけど、なんと言うか)

 

「歪、ですか?」

 

「ッ!」

 

「流石東雲先輩、慧眼ですね」

 

彼は展示会で出会った時の顔をしていた。

 

「大抵の奴はこれを素晴らしい物って評価するんです。本物には遠く及ばないこのハリボテが」

 

諦観と苛立ちを込めて吐き捨てる。

 

「前回のコンクールの時もそうだったんですけどね」

 

「コンクール?」

 

そこで絵名は再度風景画に視線を向けて気が付く。数ヶ月前のコンクールで展示されていた絵と風景画の数枚がよく似ているのだ。

 

「展示されてた作品、描いたのは―――」

 

「ああ、俺ですね。すいません、あの時は名乗り出なくて。生の声が聴きたくて。まあ、絵は本気じゃないのでいいんですけどね。時間が空いた時にやってるだけなので。ただ、音楽でもそうなので―――――」

 

衝撃を受けた。いきなり殴り飛ばされるような衝撃だった。それでもそれは絶対に聞き間違いだと思ったから、もう一度だけ聞き返した。

 

「……今、なんて………?」

 

違和感を覚えた真音は、絵名の様子を無視して何てことないように告げる。

 

「?俺が絵を描き始めたのは1年前からなので素人なんですよ。描き方も見て真似てるだけですから」

 

意味が分からない。……なに、それ。

 

絵名は積み重ねてきた。歳月を、感情を、思いを、努力を、劣等感すらも。だけど、真音にはそんなものはないのだ。

 

「悲しいですよね。向いていることとやりたいことが食い違っているっていうのは。本物が近くにいるとわからされる」

 

どす黒い感情が理性を貫通して漏れ出た。

 

「あんたも、そうなわけ?」

 

真音はこれが地雷だと察した。その上で突っ込む。どうせ、爆発するだろうから。

 

「あんたにはわかんないでしょうね?何も考えなくてもいいものは作れて評価されて期待されて、そんなあんたにわかるはずがない!」

 

発言した後、絵名はすぐに後悔した。これはただのやつあたりだ。結局受け入れて、書き続けるしかないと理解したはずなのに。審査員よりも二-ゴの曲を聞いている人よりもニーゴのみんなに必要とされているはずだ。だから諦めない。そう思っていたはずなのに……。

 

つい、苛立ちがどす黒い嫉妬が、焦燥を助長させ吐き出させてしまった。年下、しかも奏の弟相手だ。

 

「………わからない?」

 

しかし、客観的に見れば、真音も悪い。言い方に問題があった。むしろ、真音側に問題があった。彼女の地雷だと知って、わざと爆発させたから。問題はカウンターで飛んできた爆発が真音自身の想定よりも効いたことだ。

 

「わかりますよ!認められない痛みも苦悩も!自分が認めてほしい部分では致命的に認められない。やればやるほど、理想とかけ離れ色のない称賛が無価値さと本物との違いを突きつける!」

 

全容は理解できない。しかし、絵名には心当たりがあった。絵名の自撮りには、高い評価がつくが絵のアカウントには誰も見向きもしない。きっと似たようなことなのだろう。

 

「わかってんだよ!平凡な器を叩き砕いて、金の破片で継ぎ接いでも!金の器にはならないって!俺がよく一番分かってるんだ!!!!!」

 

適当に受け流す予定の絵名の言葉に、寝不足で不安定になった真音の心が爆発した。

 

「金の器になったとしても、それじゃあ誰も救われないし、自分が苦しいだけなのも知ってる。でもダメなんだ!手放せないんだ、例え満たされなくても、これに縋る以外に俺はッ」

 

あまりの剣幕に完全に言葉を失っていた絵名。我に返る真音。

 

「………冷静さを欠きました。すいません、東雲先輩。お詫びに一つアドバイスです。独り言だと思って聞き流してください」

 

「え?」

 

「たぶん、俺と先輩が今抱えているものは少しだけ共通しています。才能とか実力とか、足りない事実もそれでも前に進まなくちゃいけないこともわかっていてもできない。だから大事なのは楽しいと思うことだと思うんです。思い出せるのなら、その時の気持ちをもう一度考えた方が良い………すいません、これから用事があるので帰ります」

 

走り去る真音の表情は泣いているようにも嗤っているようにも見えた。

 

 

 

 

絵名と別れた後、真音は睡眠薬を貰いに近場の病院に来ていた。昼間だというのに雨のせいか室内が薄暗く、陰鬱な雰囲気を出していた。

 

「真音君、紹介状を書くから相談した方が良い」

 

「………」

 

大した診察をせずに睡眠薬の処方をしてくれる医者はそうそういない。だから、真音が頼ったのは父親の知り合いの町医者だった。小さいころから真音や奏のことを見てきた近所のおじさんといてもいい距離感だ。

 

「そう心配しないでくださいよ、蔵元おじさん。落ち着いたら相談します。ただ、今はまだやることがあるので」

 

「………真音君、僕は医者として―――」

 

「姉に知られるわけにもいかないんです。姉さん、時々笑うようになったんです。友達も外にいるみたいだから、出かけるようにも」

 

「………」

 

蔵元は息を呑んだ。真音の瞳から零れ落ちるその情が孕んだ大きすぎる痛みに呑まれたからだ。真音の演技はもはや自分すらも騙せるため、他人が見抜くのは至難である。

 

「だから迷惑かけたくないんです。俺は正常じゃないのはわかってますけど、姉さんだって壊れかけだから」

 

蔵元は何も言えなかった。宵崎家の現状を知っている一人だから。

 

「くれぐれも周りには言わないでください。あー、ほら患者の個人情報なので?」

 

真音が浮かべる作り笑いは完璧だが、それがあまりにも蔵元にとっては痛々しく映った。

 

診察室を出て処方箋を受け取り、病院から出た真音は奏の姿を発見した。本当に偶然のエンカウント。奏は真音の姿に気が付いていない。

 

目を見開きつつ、真音は瞬時に計算をする。信号が変わるまでおそらく10秒程度。奏が病院の前まで来るのに20秒掛かるとして、自分の姿を見せつつ話しかけられるのを避けられるタイミング。

 

(流石に無理だな)

 

そう考えた真音は財布から診察券を抜き取り病院の前に落とした。そして、奏が自分を視界に収めたであろうタイミングで電話を掛ける振りをしてその場を速足で離れた。

 

 

 

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