顔のいい姉の弟に生まれたので姉を曇らせたい 作:じゃがありこ
姉の音楽を聴いた時、ゾクゾクした。これほどの物を作れる人間を、優れた彼女を傷つけることができたら、どれ程の価値を生むのだろうか。生きた証を刻み、その生涯で恨まれることで自身に価値が生まれる。そう思った瞬間から、俺は姉のことを大好きになった。
姉を外に連れ出すスレ
1:名無しのイッチ
姉を外に連れ出しました!【画像】干からびそうな美少女。
普段から髪梳かすのワイがやってるからこういう時好きな髪形にできて役得。
2:名無しの一般転生者?
ポニテ!?
3:名無しの一般転生者?
白!
4:名無しの一般転生者?
病的に白!
5:名無しの一般転生者?
吸血鬼かな
6:名無しの一般転生者?
太陽が天敵なんですね、わかる
7:名無しのイッチ
昔おとん達と行った場所を回りつつ、インプットがてらミュージカルを見に行きます。思い出話をしてその思い出を壊したことを実感させてやるぜ。
8:名無しの一般転生者?
イッチの入れ込みがわかる顔だな
9:名無しの一般転生者?
これが姉か
10:名無しの一般転生者?
完全には壊さない。記憶の蓋を刺激するだけ。その上でとことん寄り添ってやる。裏切る時は格別だろうな………
11:名無しの一般転生者?
イッチが邪悪
12:名無しの一般転生者?
人の心無いの?
13:名無しの一般転生者?
あるやろな
14:名無しの一般転生者?
草
15:名無しの一般転生者?
あるやろ
16:名無しの一般転生者?
いつものや
17:名無しの一般転生者?
人の心を持つから曇らせができる
18:名無しの一般転生者?
MはSみたいな?
19:名無しの一般転生者?
草
20:名無しの一般転生者?
イッチ、ひどい歪みやな
21:名無しのイッチ
思い出巡りで姉のメンタルを削りつつ、ミュージカルショーを見に来ました。ショーでメンタルを回復させる所業。ワイ、優しい!
22:名無しの一般転生者?
やさ、優しい………あ、うん
23:名無しのイッチ
お!挨拶はしないけど、緑髪とその幼馴染み発見。あー、視線があった。
24:名無しの一般転生者?
は?デート?
25:名無しの一般転生者?
幼馴染みイケメンやな
26:名無しの一般転生者?
イッチは身長の差負けや
27:名無しのイッチ
負けてねぇ、ワイの方が曇らせれる
28:名無しの一般転生者?
そうじゃない
29:名無しの一般転生者?
おかしいw
30:名無しの一般転生者?
基準よw
31:名無しの一般転生者?
草
32:名無しのイッチ
ちなみに緑髪が姉のことを彼女だと勘違いしてそうなので放置しますね。時間ないし
33:名無しの一般転生者?
妙に慌ててるよな緑髪ちゃん。イッチに対して謎の執着がおあり?
34:名無しの一般転生者?
まあ、イッチカウンセリングが刺さったんだろ。
参考:緑髪ちゃんのトラウマと今後の方針を安価で決めるスレ
35:名無しの一般転生者?
自分のトラウマをほじくりかえしつつ同時に癒し、傍で嗤うムーブ………これDVだろ
36:名無しの一般転生者?
気付かれましたか
37:名無しの一般転生者?
そうなんです
38:名無しの一般転生者?
スレ見てきた
39:名無しの一般転生者?
イッチ悪魔すぎや
40:名無しのイッチ
最後は、姉と夜景を見に来ました
41:名無しの一般転生者?
や、けい?
42:名無しの一般転生者?
ビルの屋上とか想定してた
43:名無しの一般転生者?
歩道橋の上か
44:名無しの一般転生者?
割りと高い位置にあるけど
45:名無しの一般転生者?
何で歩道橋?
46:名無しの一般転生者?
思い出の場所のひとつだから?
47:名無しの一般転生者?
人気がないから
ミュージカルを見終え、散歩をした後に真音はとある歩道橋の上に来ていた。普通の歩道橋よりも少し高く、人通りも少ない。昔月食を見たいと頼んだ真音のために、家族が訪ねた場所だった。
「ここは………」
奏もそれには気が付いていた。
「………そう昔ここで月食を見たよね。当日に駄々こねて困らせちゃったけど、おかげでいい穴場を見つけられた」
真音は複雑な顔で俯く姉を見て思う。
奏が精神的にも強いとは思わない。もし今以上に、大切な人を自分が救えないと判断した場合は一気に崩れ落ちるのは容易に想像できる。
思い出に蓋をして、救える曲を作り続けると自分に言い聞かせる今の奏は歪すぎる。奏はどんな曲を作りたいのだろうか。いや、勿論救いの曲を作るというのは理解している。しかし、誰かを救うための曲を作ることは少女にとっては義務に近い。あの男が掛けた最悪の呪いの結果だ。
倒れる直前、彼は【養うための音楽】を描いていた。
昔、奏は父の曲を聞いている時の母はすごく幸せそうだったと言った。心がポカポカすると。奏の目指す幸せはそんな自分が味わった感覚を他人にも知ってもらいたい、感じてもらいたい。それが、原点だったはずだが、真音には現状の奏がやる作曲が義務に見えていた。
まるで父の養うための音楽のように。
何ともおぞましい呪いだ。
小学生の頃の奏と中学生の頃の奏とは明らかに作曲に対する向き合い方が変化している。それは父の状態であることは明白。
「姉さんさ、音楽は好き?」
「――――え?」
初めは、聴いた人を幸せにできる曲を作っていた。それが今では救うための曲に目的が変化している。だが、それは正しくない。
奏が本当に作るべき曲は後者ではなく前者だ。
何故なら奏が救われないからである。
本当であればここまで深く傷つけるのは自分がやりたかった。しかし、この傷を癒した後でなければ自分が傷をつけたとは言えない。
故に、真音にできることは家から奏を引っ張り出し、こういう応急処置をすることのみ。
「俺は姉さんの音楽好きだな。姉さんの曲で救われてる」
今後の曇らせを際立たせるための言葉だが、姉のメンタルを回復させる側面がある。意図して作った言葉。しかし、自分でも驚くほどその言葉はするりと口をついた。目を丸くした奏は真音を見る。
その言葉が他人ごとではなく他でもない自分の言葉だと後々になって自覚する。そのままの勢いで、奏を抱きしめた。奏の方に手を回し、彼女は真音の方に顔を埋めた。
甘い匂いと優しく押し返してくる柔らかさ。感覚のすべてに脳が焼かれるようだった。
「わたしのこと嫌いにならないでね」
まるで親に置いてかれたような子供の弱々しい声だった。緊張と同様で震える手を掴み、改めて背中に回す。そのまま数秒にも数分にも感じられる時間が経って、ゆっくりと 体を離した。相手が恋人であれば、そこにほのかに上気した顔があったのかもしれないが、目の前にあったのは少し顔色の悪い白い肌と潤んだ相貌が月の光を映して弱く輝いていた。
「帰ろうか」
真音は静かにそう言った。