顔のいい姉の弟に生まれたので姉を曇らせたい   作:じゃがありこ

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第4話

どこかの企業の主催で、 高校生限定の絵画コンクールが開かれるらしい。全国の高校生が対象。自分の書いた絵をネットに投稿または郵送後スキャンし、投票数が多かった作品と審査員である主催者の社員からの投票数が多かった作品を優勝として実際どこかの建物を貸し切って展示会を開くらしい。

 

正直どうでもいい話だったが 、賞金が魅力的だった。

 

流石、企業が開いたもの。最優秀作品は100万円の賞金が出るらしい。かなり大きい額だったので、すぐに参加を表明し、学校の美術室を貸してもらい2枚の絵を作った。

 

一枚目のタイトルは無水溺死。顔のない男性が無数のマリオネットを操作している絵。マリオネットには一体一体に個性があり、色が異なる。

 

二枚目のタイトルは時間経過。澄んだ湖に立っている少女に、赤い雨が降り注いでいる絵である。

 

プロの画家の業を用いて描いたそれらは結果的に入賞した。だが、最優秀賞に選ばれたのは2枚目であり、1枚目は入賞止まりだった。奇しくも、2枚目は1枚目と異なり前世の記憶を掘り起こして描いたアレンジなしの模写だった。

 

「まあ、1枚目の絵の方がコンクール受けするそういう絵を描いたし、これは予定調和ではあるけど、こんな絵の何がいいんだろうな………」

 

絵を2枚出した理由は出す絵の枚数に制限がないことも理由としてあるが、もう一つは賞金を確実に取るためのコンクール受けする絵を出しておきたかったからである。

 

1枚目の絵は学生からの投票の部門でギリギリ入賞だったが、社員からの投票では圏外だった。しかし、2枚目のイラストは両方の部門から称賛を集めている。

 

真音は、最優秀賞を取り、100万円を手に入れたものの、何とも言えない気持ちを抱え展示を見に行った。

 

展示場には、票数が多かった各部門の計6作品が展示されていた。

 

「まだ少し頭が痛いな」

 

転生特典である模倣を使用する時、一つだけリスクがある。

 

それは技術をトレースする際に、その人格までも読み取ってしまうことだ。もちろんその人格に影響を及ぼされることはほぼあり得ないが、しかし1つだけ例外がある。

 

それは、使用頻度と模倣の回数である。模倣する回数が多ければ多いほど人格にも影響を及ぼし、あまりに短いスパンで乱用すれば、人格や記憶の混濁が大きかねない。

 

今回、真音は納得する作品を作るために、様々な人物の技術をトレースした。そのため、頭にはかなり負荷がかかっていた。

 

それらを落ち着けて自分は自分であると、認識させるためにも客観的に絵画を見るという目的で、展示会場に来ていた。

 

「本当に何がいいんだろうな、こんなもの」

 

作品の横にあるプレートにはタイトルと所属高校、そして ハンドルネームが記載されている。真音の作品プレートには、YMの文字がある。

 

大抵の場合、本名を使用しているが真音は本名を使用せずに、頭文字のアルファベットを取っていた。

 

来ている人は時間帯が遅いこともあり会場は閑散としており、だからこそ、その少女が目についた。よく手入れされている茶髪の髪、勝気な瞳に複雑そうな顔をした少女だった。身体は細く、四肢の先までスラリと伸びている。容姿は姉よりも真音のタイプだった。しかし、目についた理由は見た目ではない。

 

最優秀賞を収めた作品ではなく、1作品目の絵をじっと見つめていたからだ。

 

「もしかして、コンクールに応募された方ですか」

 

「え?」

 

「真剣に作品を見ていたので」

 

彼は、少女に思い切って話しかけてみた。

 

相手はきょとんとした顔をした後に、困り顔でゆっくりと首を縦に振った。

 

「あー、私気が付いた時には応募期間終わってて」

 

「………なるほど…それは残念ですね。ところでその絵が気になっているんですか」

 

真音は即座に話題の舵を切る。

 

「いえ、ただすごい絵だなと思って」

 

「入賞する作品ですからね」

 

「実は私、最優秀賞作品よりも私はこっちの絵の方が好きなんですよね」

 

それを聞いた瞬間、名状し難いものが、真音の心に生まれた。

 

「なぜですか?」

 

考えるよりも先に言葉が出ていた。そんな真音の動揺など、まるでわからないという調子で絵名は答える。

 

「理屈で説明はうまくできないんですけど、なんとなくこの絵の方に価値を感じるんです」

 

「………その感性は素晴らしいと思います。あの最優秀賞作品はあまりにも空っぽですから。あそこには何もなくて、見てくれたけの虚像で、触ればすぐに崩れてしまうどうしようもない伽藍洞です」

 

「………」

 

「ああ、失礼。僕の名前は宵崎真音と言います。神山高校の1年です。いきなりすいませんでした」

 

「あ、えっと。私は東雲絵名と言います。私も神山高校なので同じ学校ですね」

 

この時点で真音は、目の前の少女が自分が美人だと評した先輩だと気が付いた。しかし、ナンパをしたい気分ではなくすぐに帰宅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「何で真音は私のスカートを捲るの?」

 

今回は平手打ちをされた真音は満足した顔で応える。

 

「そこにスカートがあるから。後、ミクが反応してくれないので」

 

真音はセカイに来る頻度が非常に多い。一日に一度は必ずセカイを訪れ、考え事をしている。

 

「今更だけどさ、ミクは俺のことをどこまで知ってるんだ?」

 

転生者だと知っているのだろうか。セカイに出会って半年になるが、未だにミクがどういった存在か真音は知らない。

 

「真音が人とは違うことは知ってる。けどそれ以上は知らない。私が知ってるのは、真音が自分を見つけて認めてほしくて、認めたくて藻掻いていることだけ。そこから目を背けようとしていることも。自分がわからなくなった時にここに来て悩んでることも」

 

「………知りすぎじゃない?」

 

「このセカイを作ったのは真音なんだよ?」

 

「………セカイ………自分を認めたくて、か」

 

悉く的を射た言葉だ。この世界に浮いているものを触った時、すぐに気が付いた。中身が入っていないのだ。中身がなく伽藍洞。おそらく、自分の性質を反映しているとすぐに推測できた。

 

「伽藍洞のセカイ。実に皮肉が入ったネーミングだ………ミクの言う通り、歌も作曲も絵も、全部需要がありそうなだけのクソみたいなものを作って、特別な誰かの模倣をして、『俺』を排除して活動していた。自分をどうしたいのかわからなくて、どう表現すればいいのかわからなくて、ただ漠然とした日々が鬱陶しくて、誰かに認めてほしくて………自分を組み込むと伸びないし、自分を組み込めているかもわからないし、自分って何なのかも最近じゃ見えなくて吐きそうだ」

 

瞳が揺れる。込み上げてきた吐き気を誤魔化すように真音は立ち上がり、ミクのスカートを捲った。

 

「それを言い訳にしないで」

 

踵落としが右肩に刺さり真音は地面に横になった。

 

「これはこれでありだな」

 

パンツが見える角度だと察したミクは、スカートの裾を押さえ僅かに赤面した。無表情の赤面に真音の口角が上がる。

 

追撃の蹴りが飛んでくるまで、真音はそのパンツを鑑賞していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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