顔のいい姉の弟に生まれたので姉を曇らせたい   作:じゃがありこ

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第7話

「K、この部分なんだけど」

 

「あーそこはテンポを上げたいからそれに合わせて―――」

 

何時も通り、深夜に作業を行う奏たち。話題は作業に関する話題から雑談へ移り変わる。休憩がてらよく行われることである。

 

「ねっ、いつも使ってるファミレス、メニュー変わったらしいよ!今度行こーよ」

 

「新メニューってこと?結局いつも頼むの同じじゃない」

 

「むー、それはそうなんだけどさ絵名。ちょっとは冒険したいじゃん?」

 

絵名のぼそっと言う言葉に、瑞希はむすっとした表情で画面を睨んだ。

 

「いいよぅ、どうせ絵名は映えの奴頼むんだから……」

 

「なによ?悪い?」

 

「別に悪くないけど………写真撮るの長いー」

 

「そんなことないわよ。というか瑞希は猫舌なんだから、ちょうどいいでしょ!」

 

「映えを正当化しないっ!奏とまふゆは何か食べたいのない?これとか美味しそうじゃない?」

 

瑞希はチャットにスクショを貼り先ほどから口を開いていない二人に話題を振る。

 

「美味しそうだけど、わたしは……特にないかな」

 

「私も、頼んでも味わかんないし」

 

いつも通りの二人に、絵名と瑞希は肩を落とした。

 

「アンタらねぇ、もうちょっとなんかあるでしょ?」

 

「よくわからない」

 

「うわー、最近よく聞くまふゆの常套句だ」

 

「わたしは、自分から盛り上げるのは苦手だから」

 

目をそらす奏。絵名は大きくため息をついた。

 

「はぁ………まあ、ファミレスに行くくらいはいいわよ。そろそろ、新曲も終わりそうだし。奏たちもそれでいい?」

 

「私はいいけど」

 

まふゆからの返答はあるが、奏からは応答がないことをいぶかんだ絵名が奏の名を呼ぶ。

 

「あー、もしかして無視されてるぅ?」

 

「人聞き悪いわね!」

 

そんな二人の会話を聞きながら、まふゆは首をかしげた。

 

「…ミュートになってる?」

 

奏の状態がミュートになっていた。程なくして、奏のミュートは解除される。

 

「ごめん、弟が部屋に来たから」

 

奏が声を入れると絵名が安堵したように溜め息を吐いた。

 

「へーそっかなるほど~。奏の弟君か~。絵名が無視された訳じゃなかったんだー」

 

「あんたねぇ」

 

「「………………え?お、弟ぉ!?」」

 

一泊遅れ瑞希と絵名の驚愕の声が見事に一致した。

 

「……あれ?わたし、言ってなかったっけ」

 

「いってないわよ!」

 

「あははっ、一人っ子かと思ってた」

 

「っていうかまふゆは知ってたわけ?」

 

余り驚いていないまふゆに火の粉が飛んでいくが、冷静な声色でまふゆは返す。

 

「一度だけ外で奏に会ったことがあって、その時にジャージの上に男物の上着を羽織ってるから驚かなかっただけ」

 

「え?まふゆとすれ違ってたんだ。気が付かなかった」

 

「私も急いでたし交差点で見かけただけだから。それに髪もセットされてたから誰かに会うのかと思って」

 

奏は少し驚いた様子で確認すると、まふゆからは予想外の答えが返ってきた。

 

「奏が髪をセット!?」

 

驚愕する瑞希と軽く言葉を失う絵名。奏のズボラさを知る人間は同じように感じるだろう。

 

「弟がいつも髪を整えてくれるんだけど、他の髪形も練習したいって言うから………」

 

情報量の多さに頭が痛くなってきた絵名だったが、次の一言で完全にキャパを超えた。

 

「瑞希も絵名も神山高校の生徒だから知ってると思ってた。瑞希、弟と同級生だし」

 

「え?」

 

「うちの生徒なの!?」

 

予想外の情報に目を向く二人。瑞希は最近学校に行っておらず、真音と類たちの問題行動を知らなかった。

 

「奏の弟君か~。会ってみたいな」

 

「家で楽器を弄ってることが多いから時々学校行ってないみたいだけど、今度の文化祭は行くみたいだから会えるかも」

 

三人は奏の声が優しくなったことに気が付いた。おそらく、弟のことを家族として好きなのだと感じる。

 

「弟君も音楽やるんだねー。僕達みたいに投稿とかもしてるのかな?」

 

「たぶんしてるんじゃないかな?決まった時間に楽器弾いてるし」

 

奏は弟の活動に詮索をしていない。理由は………踏み込むことがいけない気がしているからだ。

 

「文化祭、か」

 

つい先ほど、弟から気が向いたら来てよと渡されたパンフレットを見て奏はしばらく思考の海に沈むのだった。

 

 

 

 

 

 

「文化祭でやる劇の内容がロミオ・ザ・バトルロイヤルって、凄まじいな………」

 

ワンダーランズ×ショウタイムの面々は次の舞台のため練習しようと放課後に集まっていた。音響と脚本の手伝いで俺もお邪魔しているわけだが、鳳がまだ来ないためだべっていた。

 

「なんだ!素晴らしい脚本に感動したか!」

 

「ドン引きしてるだけでしょ」

 

得意げな司とジト目の寧々。

 

文化祭の出し物として劇を行う司が考案した台本が、これである。漂う圧倒的B級の匂いと凄まじい台本に苦笑いを零す。

 

「愛する者を奪い合う悲劇を喜劇に見せるとは流石だよ」

 

「む?俺は悲劇で書いたんだが」

 

類の感想に首をかしげている司を見て溜息を吐く寧々。真剣に悲劇を書いてるのに喜劇になるのは、いかにも天馬司だ。

 

おそらく、大半はこのお話を喜劇と読むだろう。しかし、司は元々の「ロミオとジュリエット」が悲劇だから、それを踏襲した劇だし人が死ぬし悲劇だろうという認識なのだろう。やはり、人が死ぬということは入院生活の長かった妹がそばにいた司にとっては、重いのだと思う。

 

そんなことを考えていると、寧々が個包装の何かを差し出してくる。

 

「これあげる。チョコレート好きだったでしょ」

 

寧々が差しだしてきたのはチョコレートだった。ちょっと高めだけど、コンビニで売っているようなやつだ。

 

「え?俺は甘いものが苦手………あー、そうだった。ありがとう、寧々!チョコが一番好きなんだよ」

 

「?」

 

あーいけない。昨日の配信で真似したピアニストの思考に引っ張られた。俺はチョコレートが好きなんだった。お礼を言って、チョコを口に入れる。少しチープの甘さが広がり、寧々の気遣いが嬉しい。

 

「いつも練習付き合ってもらってるし、歌のアドバイスも貰ってるから」

 

少しだけ頬を赤くしてそっぽを向く寧々が異様に可愛い。寧々から甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐってくる。いつもよりも甘い言葉を吐きたくなるが、類の言葉がそれを制した。

 

「おや、真音君はチョコレートも好きなのかい?和菓子が好きと聞いていたけど」

 

突然、頭に重いものをぶつけられたようだった。 痛みはなく血だって出てこないけど、頭の中でなにかがじんわりと流れ出ていく感じがした。 熱い……頭の中が、身体が、ドロドロとして、熱い。 それでもそれは絶対に聞き間違いだと思ったから、もう一度だけ聞き返した。

 

「……今、なんて……?」

 

「僕の記憶違いでなければ和菓子好きだったと記憶しているけど」

 

「そうだったか?オレの記憶ではチョコレートとコーヒーを流し込んだ時が最高だと言っていた気がするのだが………」

 

たくさんの水が入ったコップを、ひっくり返されたようだった。

 

あれ?俺って何が好きなんだったっけ?いや、間違っている。和菓子が好きだったのは 確かコンクールの時に利用した絵描きの趣向で、チョコレートと一緒にコーヒーを流し込むと甘いのと苦いの飴と鞭で頭が冴えるという謎の理論は、配信で使ったギタリストの趣味嗜好だった。

 

であれば………俺の好みって何だったっけ?

 

足元が抜け落ちるような感覚を覚える。

 

「………あー、和菓子も好きなんだけどチョコが一番好きなんだよ。類の記憶違いじゃないか?」

 

声が震えるのを押さえて、声のトーンを意識的に上げる。吐き気が込み上げてくる。こんな部分にまで模倣の影響が出てくるとは思わなかった。

 

笑みを浮かべろ、仮面を作れ、得意だろ?こいつらに心配をかけるのは違う。

 

正直、違和感を隠しきれる自信は今日だけはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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