最強は永遠に 作:ルイス
ロキ・ファミリアが遠征に向かってから約一週間後。オラリオでは所要期間僅か一ヶ月半でランクアップを果たした少年。
今だに世界最速記録保持者となったベル・クラネルの話題で持ちきりだった。
「世界最速記録保持者ねー」
「気になるのかい?」
「全然興味ないねー。強さとか知れてるし」
「だねー。今頃七海と灰原は楽しく遠征をしているのだろう」
「寂しいの?」
「さぁー?どうだろうね?」
軽口を叩いている二人。
特に何をするでもなく日々を楽しんでいる。
その一方で七海と灰原はダンジョン50階層で明日に向けての準備を進めていた。
「この間の事もありますから警戒は怠らないでください」
「「「はい!!」」」
ロキ・ファミリアの団員たちは元気よく返事をした。これは灰原の影響なのか、はたまた七海の事を尊敬しての事なのかは分からない。
だが、七海と灰原がロキ・ファミリアに入ってからは下位の団員たちは強くなろうという意思が強くなっていた。
だからこそ、この遠征でもかなり気合が入っている。
「七海、灰原。明日の打ち合わせをする。テントへ来てくれるかい?」
「「分かりました」」
二人はフィンたちがいるテントへと向かう。
そこではフィンとリヴェリア、ガレスが二人を待っていた。
「明日からはかなり厳しくなる。二人共頼りにしているよ」
「ありがとうございます!!頑張ります!!」
「自分の力を精一杯出しますよ」
最後の打ち合わせを終えた二人は明日に備えて眠る事とした。
次の日。いよいよフィンたちは51階層へと進出する。選定されたメンバーは緊張よりも待ち遠しくて仕方なったと言わんばかりの者たちが多かった。
「この先から、無駄口は無しだ。………総員戦闘準備!!」
フィンの号令がかかると全員が戦闘状態に入る。そして、51階層に踏み行った。
「行け!!七海、灰原、ベート、ティオナ!!予定通り正規のルートで行く!!新種の接近には常に警戒を払え!!」
前衛の七海たちが強引に道を切り開く。それにティオネとアイズが道を広げる。
凄まじい速度での攻防、サポーターのラウルたちはついて行くのがやっとであった。
58階層に着く頃には、アイズたち第一級冒険者はまだ余裕を持てているが、ラウルたち第二級冒険者たちはヘトヘトとなっている。
「おかしいな…冷気が伝わってこない。記録によると、59階層は極寒の地。なのに59階層手前のこの場所に冷気が届かないのは明らかに不自然だ」
「どういう事なのかな?」
「ゼウス・ファミリアの誇張とは考えにくいのぅ。何らかの異変か?」
「団長。どうしますか?」
「サラマンダー・ウールは無しで構わない。総員速やかに食事と回復、装備の確認に移れ。半刻の後に出発する」
それぞれがそれぞれの準備を始める。
ロキ・ファミリアが初めて踏み入れる未知。それにどれだけの警戒をしなければならないのか分からない。だが、彼等は進むしかない。
半刻後、フィンたちは準備を終えて59階層へと向かう。
59階層へと続く階段は、寒いどころかむしろ蒸し暑い様な熱気に包まれていた。
かつてゼウス・ファミリアが極寒の世界と評したその空間からは、何度確かめても凄まじい熱気と湿気が押し寄せて来ている。
ロキ・ファミリアはまだ見ぬ世界へと足を踏み入れた。
59階層。そこは記録通りの極寒の世界とは全く別のものだった。
「これは、密林?」
「アイズさん!!あれって!!」
「あれは24階層の時の!!」
「前進」
フィンの言葉に全員が樹海の中へと突入する。
そうして一行が見つけたのは、奇妙な形で寄り添い合う緑のモンスター達の集団。
その中央に聳え立つ女体型のモンスター。
「不味いっ、強化種か!?」
フィンのその言葉と同時に、"死体の王花"に宝玉が寄生したであろう女体型が奇妙に叫び出す。
目の前で変化する女体型は徐々にその威圧感を増し始めていく。姿をより人型へと作り替えて、進化した。
緑色の髪に緑色の上半身。
極彩色の衣を羽織り金色の眼を持つ、女神にも劣らない美貌の持ち主。
だが、下半身はやはり異形の存在。怪物の下半身と天女のような上半身を併せ持つ歪な生命体。
「な、なんだっていうのよ……アレは」
「嘘っ!!」
ただ呆然と、ティオネは呟く。
そしてアイズは何かを感じたのか愕然と立ち尽くす。
「精霊…………」
「せ、精霊!?あんな薄気味悪いのが!?」
アイズが呟いた言葉にティオナは驚く。
無理もない。精霊とは思えないほど、目の前にいるアレは不気味な存在だから。
「アリア!!アリア!!アリア!!アハッ、アハハハハハハッ!!会イタカッタ!!会イタカッタ!!」
「まさか、アイズのこと?」
「ネェ!!ネェ!!貴女モ一緒ニナリマショウ♪貴女ヲ、食ベサセテ?」
不気味な存在。精霊と呼ばれるもの。
それを見たアイズは動揺している。だが、アイズ以外にもアレを見て動揺していた。
「七海。……この世界では絶対にありえないはず…なのに………あれから感じるんだよ」
「………ええ。私も感じます。………どうして」
七海と灰原は目の前にいる不気味な存在からこの世界では自分たち呪術師しか持ち得ないものを感じてしまった。
((どうしてアレから呪力を感じるんだ))
この世界の人間、モンスター、ありとあらゆる生物は呪力を持っていない。
今まで例外は無かった。目の前の存在を除いて。
七海と灰原は間違いなく目の前の存在から呪力を感じ取った。
全員が理由は違えど動揺している中、団長であるフィンは場の状況を変える。
「総員、戦闘準備!!話は後だ!!目の前のモンスターたちを倒すぞ!!」
フィンの号令で皆が戦闘態勢に入った。
凄まじい数の芋虫型と、精霊の下半身に繋がる強固な触手が波のように押し寄せてくる。
「オオオオオオオオオオオオォォォ!!」
破鐘の吠声を響かせ百を優に超える芋虫型と食人花がアイズたちのもとに進軍する。
「フィン、儂も前に出るぞ!!」
「どうせいつもとやることは変わらねぇ、ぶっ殺す」
飛び出すガレスとべート。
しかし、次の瞬間に
「【火ヨ、来タレー猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ】」
「超長文詠唱だと!?総員リヴェリアのもとまで下がれ!!リヴェリア結界を!!!!」
フィンの指示を受けてリヴェリアは詠唱を始める。しかし、相手の詠唱は速い。
「『舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契りを結び、大地の歌をもって我等を包め。我等を囲え。』」
「【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊炎ノ化身炎ノ女王】」
「『大いなる森光の障壁となって我等を守れー我が名はアールヴ』!!」
リヴェリアの詠唱が終わる。
それと同時に相手の詠唱も終わった。
「『ヴィア・シルヘイム』!!」
「【ファイアーストーム】!!」
リヴェリアは必死に結果を維持する。だが、敵の魔法のほうが圧倒的に強い。
「結界が保たない。………ガレス!!!!アイズたちを守れ!!!!!」
「うおおおおおおお!!」
リヴェリアの指示通り、ガレスはアイズたちの前に立ち、彼女たちを庇う。
「リヴェリア、ガレス!」
紅蓮の炎嵐が結界を
寸前、リヴェリアは咄嗟にガレスへ指示を出すことに成功したものの、誰よりも最前線で結界を維持している必要のあった彼女は真っ先に炎獄の嵐に包まれた。そして、ガレスもまた瀕死の重傷を負う事となる。
「【地ヨ、唸レ】」
更に畳み掛けるようにアレは詠唱を始める。
「【来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ撤退ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災-代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王】」
「まずい!!」
「【メテオ・スウォーム】」
階層のほとんどが激しい光の連鎖に支配される。先程までの密林が今や見る影もない。それほどまでの強烈な魔法だった。
「くそ、がぁ……」
フィンたちは瀕死の状態。最早、動ける者などほとんどいなかった。
この二人を除いては。
「魔力を吸ってるね」
「なら、今が攻めるチャンスです」
七海と灰原は真っ直ぐ敵へと向かって行く。
何故、敵から呪力を感じるのかは分からないが今は敵を倒すことに集中する。
「アナタ達ハ邪魔ヨ」
「意思疎通を図れるモンスター。だが、明らかに変質している。あの姿とアイズさんが精霊と言っていた事から太古の昔にいた精霊と納得した方が良いでしょう」
「問題はどうして呪力を感じるかだね。それに術式か何かを持ち合わせてるかもしれない」
「ええ。細心の注意を払い攻撃します」
「うん!!了解!!!!」
大量に押し寄せてくるモンスターを一撃で屠りながら突き進む。
その勢いは止まることはない。
「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王】」
(あれは短文詠唱)
「【サンダー・レイ】」
豪雷の砲撃魔法が七海と灰原を襲う。
しかし、呪力でガードした二人はダメージを負う事はほぼ無かった。
「アアァ、アアァ!!アアアアァー!!!!」
魔法が通じなかった事で敵は動揺する。
そして、その事が原因で彼女は
「アナタ達ハ危険。全力デ消シテアゲル」
「「!?」」
突如として、七海と灰原に呪力で作られたエネルギー弾が飛んでくる。
これは先程の魔法と違い、完全に防ぐ事は出来なかった。
「ガハッ!!……威力は特級並……強い」
「初速スピードが速い。……避けきれない」
「アハハハ!!消エテ消エテ」
休む暇もなく、呪力による攻撃が飛んでくる。
七海と灰原は呪力で何とか耐え凌ぐ。攻撃が止んだ瞬間に二人は再び走り出す。
諦めずに真っ直ぐと二人は戦い続ける。
その姿を見ていたフィンたちは情けなさが表に出ていた。
「あの二人はどうしてあそこまで強いんだろうね。明らかに敵は異質の化け物なのに。………僕は……『勇者』として負けてられない」
七海と灰原に感化されて一人の男。『勇者』たるフィン・ディムナが立ち上がる。
そして、倒れている仲間たちに呼びかけた。
「あの怪物を討つ!!君達に『勇気』を問おう!!その目には何が見えてる?恐怖か、絶望か、破滅か?僕の目には倒すべき敵、そして勝機しか見えていない。退路などもとより不要だ!!この槍を持って道を切り開く!!女神の名に誓って君達に勝利を約束しよう!!ついてこい!!………それともベル・クラネルの真似事は、君達には荷が重いか?」
「雑魚に負けてられっか!!」
「上等じゃない!!」
「七海と灰原に任せっきりには出来ない!!それにあたし達も『冒険』しなきゃね!!」
「ラウル、ナルヴィ、アリシア、クルス、椿は後方に残って支援しろ!!僕とアイズ達で女体型に突撃する!!レフィーヤ、君も来るんだ!!」
「はい!!」
「リヴェリア…ガレス…ここで終わりか?ならそこで寝ていろ。僕は先へ行く!!」
フィンの言葉を聞いてガレスとリヴェリアは立ち上がった。
「あのクソ生意気なパルゥムめ!!おい、いけ好かないエルフ!!寝とる場合か!!」
「黙れ!!野蛮なドワーフ!!……いつまでも口は達者だな」
「ガレスさん!!リヴェリアさん!!」
「ラウル、斧をよこせ!!」
「はいっす!!」
「詠唱に入る。椿、私を守れ!!」
「無論だ!!手前も一助となろう!!」
彼等は戦う。諦めることなど許されない。
フィンたちは真っ直ぐ女体型に突撃していく。
七海と灰原が芋虫型を倒して進んでいることもあって進行しやすくなっていた。
「アイズ、力を溜めろ!!全力の一撃で君が決めるんだ!!他の者たちは最善を尽くしアイズを奴のところまで送り届けろ!!僕も全力で行く!!『魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て』『ヘル・フィネガス』!!」
フィンの魔法ヘル・フィネガス。
発動中はまともな判断能力が失われてしまうが戦闘意欲が引き出され全能力が超高強化される。
それによってフィンはモンスターたちを次々と倒していく。
それに続いて他の者たちも続く。
「【火ヨ、来タレー猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ】」
「させないよ!!」
フィンは槍を飛ばし、敵にダメージを与える。
それによって詠唱が止まった。
だが、すぐさま敵は再生する。
「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王、サンダーレイ】!!」
「『盾となれ、破邪の聖杖』『ディオ・グレイル』!!」
レフィーヤが魔法を発動させて魔法を少し防いでいる。ティオナとティオネはレフィーヤを支えた。
しかし、起動を逸らすことしか出来ない。
だが、それだけも彼等には十分だ。進めるなら進む。それだけだった。
一方のリヴェリアたちも激しい戦闘をしている。
「数が多いっす!!」
「うむ、これでは足りんな!!」
そう言って、椿は武器を取り替えた。
「椿さん無茶っす!!そんな重すぎる武器を二つも!!」
「たわけ!!手前は鍛冶師だ!!この手であらゆる獲物を散々試し斬りしてきた!!」
「マジっすか!!」
驚くラウルをよそ目に椿はモンスターを斬り倒していく。
「『間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣--我が名はアールヴ!!』『レア・ラーヴァテイン』!!」
リヴェリアの魔法でモンスターたちは灼き尽くされていく。
「道は作ったぞ!!行け!!」
フィンたちの攻撃が激しさを増していく。
だが、敵の防御は硬い。
「何じゃ、口だけかフィン!!」
「ガレス。君を待ってたんだよ!!言わせないでくれ!!」
「ふん!退け!邪魔じゃ!!」
「アリア!!アリア!!アリア!!」
「はああああああああああああ!!」
アイズが渾身の一撃を決めようとする。
しかし、敵も殺られまいと詠唱を始めた。
「【永遠ノ凍土ノ如ク氷結セヨ数多ノ刃代行者タル我ガ名ハ水精霊水ノ化身水ノ女王】」
「邪魔をさせるわけにはいかない!!」
「サポートするよ!!」
ドンッ!!!!!
七海と灰原の渾身の一撃が敵を襲う。
それにより、敵は大ダメージを負い、詠唱が出来ないほどフラフラとしている。
しかし、徐々に体制を整えていく。だが、この時は誰も気づかない。まさか、敵がこの一瞬で弱体化していたなど知る由もなかった。
「はああああああああああぁ!!リル・ラファーガ!!!!」
「ァア……アリア……」
アイズの一撃が敵を沈めた。そして、敵は灰となって消える。この瞬間、勝利が確定した。皆が歓喜にあふれる。
そんな中、七海と灰原は先程の敵がいたであろう場所へと向かう。
「あの元精霊とも呼ぶべきものから感じた呪力。それにあの呪力攻撃。……………後付けだよね」
「ええ。恐らく混ぜられたのでしょう。呪物かと思って見に来たのですが跡形もない」
「アイズさんの攻撃で吹き飛んだのかな?」
(消し飛んだのか?しかし、あの呪力攻撃はおかしい。今の私と灰原がダメージを負うほどの威力。敵が未熟だっとはいえ特級相当の力はあったはず)
「色々考えなければならないか。…………帰ったら五条さんたちに今回の事を話しましょう。放置しておくにはあまりに大きなことなので」
「そうだね。とりあえずは、誰も死んでいないのが幸いだよ」
「ええ」
何故、敵が呪力を持っていたのかは分からない。だが、今は全員が生きていることに安心する。フィンたちはしばらく待機して、体力を回復させる。そして、上へと帰還した。
フィンたちがこの階層から消えたのを確認した彼はひょっこりと岩陰から出た。
「精霊の成れの果て。結局負けちゃったか。宿儺の指を一本与えたけど、結果はその程度。回収する手間がかかる」
彼は精霊の成れの果てが倒される間際に、誰にも気づかれずに与えた宿儺の指を抜き取っていたのだ。
「指を二本以上与えても良かったけど、耐えれない可能性の方が高かったからね。本当に器を探すのも苦労するよ」
やれやれと男は首を振る。
そして、再び何処かへと歩き出す。
「神の使いとも呼ばれる精霊ですら受肉出来ないとは。……もっと良い素材が欲しいね」
彼は今も多くの意図を張り巡らせている。
それに気づいている者のはいない。
「次の実験はどうなるかな?」
彼は不気味に笑いながら次なる企みへと向かった。