最強は永遠に 作:ルイス
今日は怪物祭。
暇つぶしに五条と夏油は街を歩いていた。
祭りということもあり、屋台などが多くある。
「怪物祭って何のためにやってるんだろうな」
「可能性は大きく分けて二つだろう。一つはモンスターの凶暴性をさらけ出す。危険だと知らしめる事。…もう一つはモンスターに慣れておく。……融和のためにだ」
「………融和ねー。この雰囲気は無理でしょ」
周りは闘技場でモンスターの調教ショーを楽しんでいる。それは人が人を見下すのと似ている。否、それよりも酷い感じだ。
「憎悪、苦痛、悲劇。今の人たちがモンスターとの融和なんて不可能だ」
「だね。まぁ、私たちには無関係の事だよ」
「だな。それよりも何か騒ぐしくないか?」
五条の言う通り、街中の人は逃げ惑っている。
どうやら、怪物祭で捕まえていたモンスターが逃げ出したらしい。
「傑ー。ちょっと、見に行きたいところがあるんだよねー」
「見に行きたいところ?」
「そう。野暮用って奴」
五条は夏油を連れてとある場所へと向かう。
目指す場所は今回逃げ出したモンスターが捕まえられていたであろう場所。
「誰がモンスターを逃がしたのか少し気になってるんだよー」
もう少しで目的の場所へ着くというところで、五条と夏油に攻撃する者たちが現れる。
一人は大剣を手に持っている猪人。一人は仮面をつけて槍を持っている猫人。他にも白妖精や黒妖精、四人の小人族が立ち塞がった。
「一応聞くけど俺たちに何のよう?」
「お前たちを試してやる。あの方に相応しいか」
「「試す?相応しい?何様のつもり(だ)?」」
まず、五条は猪人の腹を思いっきり殴った。
あまりの威力に猪人は意識を飛ばしながら後ろに吹き飛んだ。
「オッタル!!」
「彼はオッタルというのかい?まぁ、覚える気は無いけど」
ドンッ!!
今度は猫人が夏油に蹴り飛ばされた。
白と黒の妖精が距離を取ろうとするが、五条に頭を掴まれて投げ飛ばされる。
残こりの四人の小人族は夏油が使役したモンスターに吹き飛ばされていた。
「何なんだ、こいつ等?」
「さぁ?」
「弱すぎ。七海たちがいるファミリアの幹部だっけ?そいつらと同じくらいだよな」
「私たちに喧嘩を売るとは馬鹿な奴らだよ」
五条と夏油は倒した者たちを見下ろしている。すると、後ろから気配がした。
「あら?私の可愛い眷属たちは負けたようね」
そこに立っていた人物。この世界の男なら誰もが心奪われる美しさを持つ。
容姿端麗な神々の中でも随一の美貌を持つ【美の女神】。
彼女は迷宮都市オラリオにおいてトップクラスのファミリアの主神。女神フレイヤである。
「どっかで会ったことある?」
「さぁ?初めてじゃないかしら?」
「いや、嘘だな。その姿じゃなくて、別の姿で会ってんだろう?あの時感じた違和感。あの店の店員だろう?違うか?」
「ふふっ。女性の秘密を探るのはマナー違反よ」
「知るかよ」
フレイヤは特に表情を崩さず話していた。
「俺達に何のようだ?」
「ねぇ、二人共私のものにならない?」
「「断る」」
「ふふっ…初めてね。二人同時に断られるの」
振られると分かっていたフレイヤは気にしている様子はない。
むしろ、ますます欲しくなっていた。
「こいつ等お前の眷属だったな。もしかして、モンスターを逃がしたのもお前か?」
「だとしたら、どうするのかしら?」
「さぁ、どうしようか。…どうする傑?」
「そうだね。まずは彼女のファミリアを潰す。それが一番だ」
五条と夏油。二人ならフレイヤ・ファミリアであろうと簡単に潰せる。
それを分かっていて尚、フレイヤは諦めようとはしていない。
「魅了してあげるわ」
フレイヤはその神たる力を使う。
この力を受ければどんな者たちもたちまち彼女に抗えなくなる。
だが、彼等は違った。
「「ババアに魅了されるわけないだろう」」
五条と夏油はフレイヤの“美の力”をものともしない。その平然としている姿に驚きを隠せない。これこそ下界の醍醐味でもある未知だと痛感した。
「今は諦めてあげる。他にも欲しい子がいるから。また、会いましょう」
「「このまま逃がすと思うか(い)」」
五条と夏油がいつでもフレイヤに対して攻撃出来るようにしている。
神殺し。下界の人間がやってはならない禁忌。魂までもが生涯呪われるとも言われる。
だが、彼らには関係ない。神殺しという怪物になろうとも、親友と歩めるのであれば苦でもなんでもないから。
いつでも殺せる。だが、彼らが手を下す前に一人の男が路地裏からやって来た。
「神殺しはいけないよ。それは駄目だ」
身長150cmにも満たない男。顔は何処か凛々しく何処か少年のようでもある。マッチョというわけではないが無駄のない筋肉バランス。
そして、五条から見てフレイヤよりも上だと判断出来た。
「異界の者たちよ。矛を収めなさい。そして、フレイヤ。彼らから手を引きなさい。君がどう足掻いても敵う相手ではないからね」
「あら?随分と言うのねシヴァ」
シヴァと呼ばれた男。
彼はインド神話に出てくる破壊の神である。
「もちろんさ。さっさっとこの場から失せなさい。この僕に殺されない内にね」
「……良いわ。でも、私が狙っているもう一人の子は絶対に手に入れる。邪魔をしたら消すわよ」
「邪魔はしないよ。あくまで僕が興味あるのは異界の者たちだけだよ」
シヴァは真っ直ぐ五条と夏油を見る。
最早、フレイヤは眼中にない。フレイヤもそれに気づきその場を後にする。
いつの間にかフレイヤの眷属たちも他の眷属に運び込まれてこの場にはいなくなっていた。
「さて、邪魔者たちはいなくなった。君たちに会いたかったよ異界の者たちよ」
「さっきから言ってる異界の者たちって何だよ」
「おや?君たちは分かっているはずだよ。ここは君たちのいた世界とは違う別世界。君たちはこの世界の住人ではない。いや、正確には住人ではなかった…が正解かな」
何処までも深く見据えるシヴァの目。
そんな彼の目線を受けた五条はサングラスを取り、シヴァを睨む。
「………」
「良い目だ。その目が地獄に堕ちない事を祈る。………そうそう、先に言っておくよ。もしもの時は、僕が力の全てを使い君たちを殺す。くれぐれも堕ちないようにね」
そう言って、シヴァはその場を去って行った。
「ったく、何なんだよ。あいつは」
「さぁね。油断ならない相手だったというのは分かるよ」
「誰が逃がしたかは分かったから良いけど、面倒な奴に目をつけられたな」
「シヴァと言っていたね。確か、私たちがいた世界に倣うと彼は破壊を司る神だ」
「破壊神って奴か。本気で戦ったらどうなるかな。少し面白そうではあるよ」
「勝てるのかい?」
「当たり前じゃん。…………勝つさ」
五条はシヴァを見据える。
そこに敵意はない。ただただ見ているだけだ。
一方のシヴァはギルド祈祷の間にいた。
昔からの知りあいであるウラノスを訪ねるために。
「それで、会った感想は?」
「感触としては良いぐらいだよ。僕の血が騒ぐくらいにはね。大丈夫だよ。彼等は道を間違えない」
「それは根拠がない。何よりもあの者たちは危険だ。ガネーシャやロキのところにいる者たちも然り」
「ならば、何故傍観している?1年前から気づいていたのだろう?ハハハッ…分かっているよ。利用しようとしているのだろう。特にあの前髪の子を」
シヴァは夏油の事を指して言う。
彼はウラノスから夏油の能力を聞いている。故にウラノスは後々のことを考えて利用しようとしていた事が分かっていた。
「必要な事だ。私が使える私兵は限られているのでな。何よりも彼等の中でもあの力が一番危険だ。ずっと放置しておく事は出来ぬ」
「君が何をしようとそれは君の勝手だ。まぁ、少しだけ忠告してあげる。下手に手を出すべからずだよ」
「お主といいガネーシャといい、私を完全に信用してはいないのだな」
「それは誤解だよ。僕は君を信用しているよ。もちろん、ガネーシャもね。だけど、信頼はしていない。だから、ガネーシャも君に話さなかったのだろうね。彼は本当に子供たちが大好きだから」
ふふっと笑いながら答えるシヴァに対してウラノスは不機嫌な表情へ変化していく。
「ハハハッ。まぁ、好きにしたまえ。僕は平凡な日常に戻らせてもらうよ」
シヴァはウラノスと話すことを話して部屋を出る。シヴァが部屋を出た後に、暗闇から現れるものがいた。
「やれやれ。神というのは分からないな」
「……フェルズか。どうだった?」
「全員化け物だよ」
「そうであろうな。彼らをどうするかはまだ決めかねている。それに……三日程前にまた現れた。…これで八人目だ。一年前に二人。半年前に一人。そして、今月で五人」
「勇者となるか魔王となるか分からないな」
「今は静観だ。何も起きぬよう祈るだけだ」
ウラノスは何も起きないことを祈るが、それは無理な話。何も起きない理由もない。
◆◇◆
シヴァと五条たちが出会う三日前。
彼女たちもこのオラリオにやってきていた。
幸いにも彼女たちはダンジョンや危険なところではなく、治療院にて目覚めた。
「ここはどこじゃ?」
彼女…天内理子はディアンケヒト・ファミリアが管理する治療院のベッドで目覚めた。
「お目覚めになりましたね。気分はどうですか?」
天内に声をかけたのはディアンケヒト・ファミリア団長であり、都市最高の治療師として名高い女性アミッド・テアサナーレだ。
「気分は良い…………」
「そうですか。それは良かったです。覚えていますか?あなたともう一人の方は治療院の前で倒れていたのですよ」
「倒れていた?それにもう一人って……まさか!?もう一人は何処に!!」
「隣の部屋に……」
アミッドの声を聞き終える前に天内は隣の部屋へと向かう。
そこには天内の家族とも呼べるべき存在の黒井美里が眠っていた。
「黒井!!」
「うっ……」
「黒井!!黒井!!」
苦しそうにしている黒井を見て、必死に呼びかける天内。
だが、その心配は杞憂であった。
「お嬢様………………もう……お肉…食べれません……焼き肉………美味しかった」
「えっ?」
黒井の寝言を聞いて呆気に取られる天内。
「その方の命に別状はありません。あなたもですけど」
追いついたアミッドは黒井が無事であることを天内に伝える。
一安心した天内は椅子に腰掛けた。
「何があったのですか?」
アミッドの質問に天内は答えられなかった。
ここが何処なのかも分からない。何よりも彼女自身は死んで空港にいた。だが、今は治療院にいる。最早、何がなんだか分からず話せないでいた。結局、天内は黒井が目を覚ますまでは黙ることにした。
「お嬢様!!」
「黒井!!」
二人はお互いの無事を嬉しく思い抱き合う。
そして、助けてくれたアミッドに改めてお礼を言う。
「助けていただいて本当にありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。それで、お二人に何があったのですか?」
アミッドの質問に天内同様に黒井も言葉に詰まる。どう答えて良いものか分からないから。
「いえ…その…信じてもらえない話ですよ。ここから見える外の景色を見て私自身すらも信じられない思いですから」
「黒井……」
「ですが、お嬢様が一緒にいてくれるのがせめてもの救いです」
「………黒井!!」
天内は嬉しさが込み上げて黒井に抱きつく。
「何か複雑な事情があるみたいですね」
「ええ」
「話したくなったら話してください。お二人の積もる話もあるでしょう。私はひとまず失礼します。一時間後には診察に来ますね」
そう言って、アミッドは部屋を出た。
残された天内と黒井はこれからどうするのか。ここが何処なのかを話し合う。
「全く別世界に見えますね。ここから見える人たちは本来ならいないはずの種族」
黒井は窓の外から見える人たちを見て呟く。
他種族たちが多くいる。これは最早別世界と言えてしまう。
「私たちだけがこの世界に来たのでしょうか?」
「それって……まさか!!あやつらも!?」
「空港にいたメンバーがもしかした来ているのかもしれません」
「……そうか。……そうじゃな」
「まずは、先程の治療師の方に聞いてみましょう。この世界のことや五条様たちのことを。そして、私たちも話しましょう。私たちのことを。幸いにも彼女はとても良い人に見えるので」
「そうじゃな。それが一番じゃ」
一時間後。約束通りアミッドは診察をするために部屋を訪れた。
まずは診察を済ませたる。その後、天内と黒井は自分たちに何が起こったのかを話す。
信じてもらえなくても、助けてくれた善人だ。話す責任がある。そう思い全て話す。
「そういう事情があったのですね」
「こんな突拍子も無い話信じてくれるのか?」
「ええ。この世界は未知が多いですから。何よりもお二人の目が嘘をついていないので」
「ありがとうございます。その、この世界の事を教えてくれませんか?」
「そうですね。何から話しましょう。……まずは、神やダンジョンについて教えましょうか」
アミッドはこの世界の事を語り始める。
大体の話を理解した天内と黒井は目眩がしていた。あまりにも現実離れした世界に。
「聞きたいのだが……サングラスをかけた変な奴と前髪の変な奴は知らぬか?」
「いえ、知りません。有名な方なのですか?」
「私たちの世界では有名でしたよ。……色々と」
本当に有名でだった二人。それは天内と黒井が死んだ後の方が有名だったくらいなのだから。
「見かけたら聞いておきますね。それよりもお二人はこれからどうするのですか?」
「分かりません。正直住まいもありませんし」
「新しい生活のスタートという事じゃな」
「もしよろしければ、お仲間が見つかるまでの間、二人共ここで働きませんか?仕事内容は薬剤などの整理。ポーションなどの売買。後は患者カルテの作成。これらは私が一から教えて指示するので」
「良いのですか?」
「ええ。もちろんです」
アミッドの提案に二人は断る気はない。
何よりも本当に運が良いと思える瞬間でもあったから。
「よろしくお願いします!!」
「よろしく頼む!!」
こうして二人はアミッドの下で働く事となった。彼女たちが五条たちと会うまで後一週間。