文豪ストレイドッグス-走狗共ノ事件簿-   作:神埼梨花

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第一幕:喧騒を運ぶ者たち

 

 

 帝塚宅急便────横浜に事務所を構える運送会社。

 普通の宅急便のような仕事もすれば、人を運ぶ仕事を承っている。噂では、かの有名な武装探偵社と共に依頼も行っているだとか。

 しかし運送会社と言ったものの、世間からの認知度は極めて低い。秘匿性が高いとかのそういった訳でもなく、世間に公表しがたいほどの荒事を担っているわけでもない。

 サイトを見れば、至って堅実な公式サイトで、ウイルスとかそういった通知も来ていない。社長の写真が載った紹介文もしっかりとしている。

 

 ここまで見たらやや癖のある、運送会社としか思えない。

 

 ────サイトには、匿名依頼も承っている、と書いているが…………。

 

「…………」

 

 ごく普通の大学生である佐久間和樹は此度、兼ねてよりアプローチをしていた女性とお付き合いすることになった。

 自分が普段から趣味でやっているオンラインゲームで頻繁にタッグを組んでプレイしている。

 今までは文字チャットのみで連携をとっていたが、ヘッドセットを買ったことで通話も可能になった。

 

 

 ────そこからは、本当にべたべたな展開だ。

 

 

 その相手の声が綺麗な女性の声だったのだ! 

 自分とは一つ年上の大学生で、どうやらホワイトハッカーを目指しているとか。

 そしてその女性が自分と同じ大学に通っていたことがつい一か月前判明し、そこからはもうとんとん拍子だ。

 

 ネットでの出会いは危険だと世間では言われているが、案外そうでもないと胸が弾んだ。

 

 …………そんな彼女が、君にしか頼めないことだと頼んできたのだ! 断るわけなんてないじゃないか!! 

 胸を弾ませて、そんな彼女のお願いを聞いたのだが────

 

 

 渡されたのは、一つのUSBだった。

 

 自分は思わず「これは誰に渡すの?」と聞いた、彼女は東京で働いている父親に渡してほしいと言ってきた。

 

 

 …………父親に渡す。父親に渡す。父親に渡す

 

 

 ……考える

 

 

 ……‥しばらく考える

 

 

 ────多分、彼女のお父様の忘れ物か何かだろう。

 

 きっと彼女のお父様は仕事で忙しくて、家に帰ってくる暇がなかったのか……

 彼女に頼まれたからには仕方がない! その頼み、承った! 

 

 そう意気揚々したものの、普通の運送会社だと大きさの規定に見事に引っかかって運送できないと分かったのだ。

 意気消沈した中、やけくそで運送会社を調べてみたら『大きさ、容量関係なく配送いたします!』と書かれたサイトがあった。

 

 

 

 

 ―――そう、そのサイトこそ

 

 

 帝塚宅急便だったのだ

 

 

 

 


 

 

 「………本当にここであってる?」

 

 アクセス方法に書かれていた地名で薄々気づいてはいた。

 みなとみらいと聞くと、普通の大学生には荷が重たいような気がした。

 

 確かにあそこは高層ビルやタワーマンション、ひいては横浜のシンボルでもあるランドマークタワーがある都会の中の都会だ。

 しかし、それだけじゃない。

 あの付近には、俗にいうポートマフィアと呼ばれる犯罪集団の目撃情報が絶えない。

 

 …この間交番が件の連中に襲撃されて、警官が亡くなったとニュースになっていた。

 幸い巻き込まれた人はいなかったが、女性が骨折をしたなど一時騒然になってたとかなんとか……。

 

 しかし、ここでいじけてはいけない。

 大学の講義が終わったと同時に、みなとみらいへと向かっていった。

 

 そして携帯の地図を頼りに、向かっていくと…

 細い路地に、一つ落ち着いた雰囲気の木造建造物が現れる。

 

 

 モダンチックなカフェを思わせる外観、そしてその看板には『帝塚宅急便』と書かれていた。

 そしてその傍らには『今なら社長オリジナルの珈琲、または紅茶をサービス!』とも

 

 ……喫茶店でも兼ねているのかと思うほどに小洒落た雰囲気に思わず唖然としてしまう。

 しかし、明確な目的がある以上、退く訳にはいかない。

 明確な意思がある以上、彼の足取りは少しの緊張が混じっていた。

 

 

 扉を開ければそこに取り付けられたベルが鳴り、あたりいっぱいには紅茶の匂いと雑貨屋にでも来たような音楽が流れていた。

 おそらく先ほどの看板を取り付けたのは、ここを喫茶店と勘違いして入ってくるお客さんのためなのだろう。

 なんだか心地いい雰囲気だと、思わずリラックスしてしまいそうだ。

 

 「……いらっしゃいませ。貴方がお電話を頂いた依頼主様ですね」

 

 奥から現れたのは、人形のように整った顔をした女性だった。

 日本人とは思えない色白の肌、癖のある綺麗な短髪に宝石のような赤い瞳。

 肩にかけるように羽織った黒い上着も相まって、どこか気品のあるお嬢様のようにもみえる。

 

 「あ、あの……ここで合っていますよね?帝塚宅急便って」

 「勿論です。依頼主の事は社長から伺っております。私の名前は清水紫琴と申します」

 「紫琴さん、ですね……初めまして、佐久間和樹といいます」

 「では奥に案内いたしますね。そこで詳しい話を」

 

 気品のある声色に、思わずときめいてしまいそうだった。

 しかし彼女の体にはいくつもの包帯がまかれている。腕に、足に、右目に、首に――沢山の包帯が巻かれていた。

きっと何か事故遭ったのだろうか?あるいは巻き込まれたのだろうか。

 

 

「………お気になさらず、少し人助けをしていたもので」

 

 

表情に出ていたのだろうか、彼女はそう答えた。

とはいえ心配にはなる、そもそも何をどうしたらそんな大怪我を負ったのだろうか。

らせん階段をのぼっていくと、先ほどと同じ雰囲気のした応接間が現れる。

 

「ではこちらでお待ちください、今は所長含め外出中ですので―――」

 

―――――タッタッタッタッ。

ベルが鳴る。客と思ったが……入ってきたのはかわいらしい制服を着た女子高生の姿が現れた。

 

「たっだいまーーー!!」

「おかえりなさいツルネ。初めての仕事はどうだったかしら」

「いやーそれがお父さんたちが危ないから下がってって言ってきてね、ほとんど他の三人∔お父さんで終わっちゃったよー」

「それもそうでしょ……これでも貴女の身の丈に合わせて調節したのよ」

 

制服姿と思しき恰好を身にまとった少女の名前は、ツルネというらしい。

白いリボンのカチューシャがとてもかわいらしい、いたって普通の女子高生のようだ。

 

 

そのあとに来たのは、背丈が高い女性だ。

赤いインナーカラーがある黒髪に紫紺の瞳…そして服装もやたらと現代的で鮮烈な赤色をしている。

 

肩を出し、胸までしかないパーカーを着ているだけでも刺激的なのに、赤色をまとってるだけでより一層刺激的になるのはなぜだろう。

 

「紫琴さんただいま!いやぁ今回の仕事は結構しんどかった……あ、もしかしてお客さん来てたの?」

「えぇ、さっき来たばかりよ。社長も来てから依頼内容を聞くつもりだったの」

「あぁ、なるほどそういう……でも今のうち話しといたほうがいいんじゃないの?」

「そういう訳にもいかないでしょ、ただでさえ従業員六人ぐらいしかいないから」

 

彼女の言葉に納得したかのように、赤い女性は軽くうなずいた。

 

 

 

―――――どうやらこの帝塚宅急便は相当アットホームな職場らしい。

 

 

緩い雰囲気というわけでもなく、適度に引きしまった温かみのある感じだ。

頂いているコーヒーと茶菓子もちょうどいい具合に美味い。

カフェと思われても仕方がない理由も、なんとなくわかる気がした。

 

 

そこに続いてきたのは男性が三人。

 

 

「ただいま戻りました!紫琴さん!」

――――一人は橙色の短髪をした少年。

他の女性陣とは違い、日に焼けた肌色をしている。体格も相まって野球でもやっているのだろうか。

 

「ツルネちゃん足早いですよ……気が付いたらいなくなっていたし……」

――――一人は金髪のショートボブの青年。

青いネクタイが目立った貴公子のような服装も相まって、どこか日本人離れしているようにも見える。

 

「留守番ありがとう、紫琴。依頼分は振り込むって言っていたよ」

――――一人は無精髭を生やした、黒髪の男性。

丸眼鏡が特徴的で、書生風の恰好に羽織を着ている。ふしだらな感じにも見えるが、どこか色気すら感じられる。

 

 

何故だろう。これだけ集まられるとなんだかこそばゆい気もする。先ほどからカチューシャを付けた少女が佐久間に質問攻めをしていて、なんだか親戚の実家に来たような感じに近い。

 しかし各々が自由なことをしていると、紫琴が口を開く。

 

 

「……貴方達、依頼人が来ているのよ。放っておかないで早く依頼を聞きましょう」

「あぁ、それは失礼しました……こうも立て続けに仕事の依頼が来るのは滅多になくてですね」

 

 

そうして眼鏡の男はこういった。

堂々と名乗るわけでもなく、高らかに宣誓するわけでもない。

 

 

いたって普通に、話すように

 

 

「ようこそ、帝塚宅急便へ。私が社長の二葉亭四迷だ」

 

 

 

「さて改めて、君の依頼を聞こうか」

 

 

陽の光が事務所内を照らす。

 

―――そんな、ありふれた午後の一幕だ。

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