めっちゃ小物ムーブの化け物   作:I'mあいむ

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エグい程二番煎じな作品です。


低級冒険者な化け物

 

「最近の風剣の勢いと言ったら───」

 

「それを言ったら炎帝なんか────」

 

ここは冒険者ギルド。富と名声を求めた者達の活気に溢れ、世のあらゆる噂と欲望が渦巻く場所。

幸せと乾杯の音。食事に舌鼓を打ち、報酬を分け合う。別名で知られるような強者達の話で、酒席に花を咲かす。

この騒々しい場所が冒険者の象徴の一つだろう。ガヤガヤとした空気は、未だ留まるところを知らない。

 

そして、

 

「おいおい、お前ら白天を差し置いてそれはねえだろぉ」

 

そんな強者の噂に混ざって絡むのが俺。まあ、ただの酔っぱらいだ。

右には金髪モヒカンの世紀末かってぐらいガラの悪いグラサン。そして左にはそれなりにベテランだが大してうだつの上がらないおっさん冒険者。いつも俺と飲んでいる奴らだ。

 

「お前もう酔っぱらってんのか?ったく、今日はいつから飲んでるんだよ」

 

「昨日も飲んでなかったか?……まあ、お前の言うことも一理あるな」

 

「だろお!?お前らそれを風鬼だ炎騎士だのと、冒険者の風上にも置けねえぜ!」

 

そこら辺にいる木っ端冒険者。言うなればモブ。モブオブモブ。ありふれた冒険者達の中の一人。それが俺、いや、俺達だ。物語の冒険者なんてのとは程遠いメンバーだな。

 

「んだとお!?まず風鬼じゃねえ!風剣だ!」

 

「そうだそうだ!こっちだって炎騎士じゃなくて炎帝だっての!」

 

「ええ!?どうだって良いぜそんなの!とにかく今は白天の時代だ!」

 

そんな奴らと今日も今日とて飲み明かす。それが、その平穏こそが俺の望むものだ。

転生してこの世界に来てからというもの、どうにも危険なことを犯す気にならない。人間として過ごす為には面倒事は徹底的に避けなければならないからな。

 

「こいつは酔うと本当に面倒だな……」

 

「止まらなくなるからな……」

 

「おいおい面倒がるなよお!」

 

悲しいなあ。せっかくこっちが良い気分で酔ってるのによ。やっと酔いが回って来たんだから、もう少し相手してくれても良いだろうに。

 

こんな馬鹿みたいな日常が、俺にとって何よりも大切だった。こいつが現れたのはそんな時だった。

 

「なあ、少し良いだろうか?」

 

「!?」

 

突然、まるでさっきからそこに居たかのように、そいつは座っていた。フードで顔も見えない。声も男にも女にも思えるような、透き通った声。……へえ、やるなこいつ。

 

「あ?」

 

「なんだお前?」

 

おーおー、そんな態度取って良いのかね?警戒した方が良い相手に見えるが。それにこの神聖力………あー、酔いが覚めちまった。

クソッ、なんでこんな奴がこっちに来るんだよ。明らかに地雷三人組みたいな見た目をしてるじゃねえか。他にも知ってそうな奴は居るだろうが。

 

「まあまあ、取り敢えず話を聞こうぜ」

 

「……?」

 

「お前が言うなら……」

 

あら、聞き分けが良いねえ。少しはこいつのヤバさに気付いたか?まあ、こんな怪しい奴だ。警戒するに越したことはないよな。

 

「それで、どうしたんだい姉ちゃん」

 

「……どうして私が女だと?」

 

「あー?まあ、勘だよ、勘。どうだ?俺みたいなのでもやるだろ?」

 

いや、どんなに隠したってそりゃ分かるだろ。喋り方や声を変えても、姿勢とかに現れるもんだからな。ま、どこがそうかなんて具体的には言えないんだけどな。結局は勘だ。それでいい。

 

「勘か……すまない、実は白天について聞きたいのだが。先程話をしているのを聞いてな」

 

「白天?」

 

「白天って言えば、そりゃあ、なあ?」

 

「ああ、うん」

 

「「「最強の冒険者の一人だろ」」」

 

あ、ハモった。

 

「……それだけか?」

 

うおっ、マジかこいつ。いきなりそんな敵意を向けなくても良いだろうに。ちょっとしたおふざけだろうが。

 

「ははっ!すまねえ、別にからかおうってんじゃねえんだ!いやなに、あんたの質問が要領を得ないもんでな!」

 

実際意図が見えない質問をされても答えようが無い。白天の何が聞きたいのかが重要なんだ。

 

「なるほど、それはすまなかった。ああ、私が聞きたいのは……そう、白天の居場所だ」

 

「何だと?」

 

「…教えていただけるか?」

 

「あー、姉ちゃん。それは……」

 

「知っているんだな?」

 

「…………」

 

まずいな。答えを間違えたらしい。いや流石に人の居場所を勝手に教えるなんて、プライバシーってもんを無視しすぎてる。そりゃ知らない訳じゃないが、元日本人としてそういうのはなあ……

 

「もう一度言おう。教えていただけるか?」

 

「ッ……!」

 

いきなり殺気を向ける奴があるか!?嘘だろ!?ここでやる気か?!

 

「ま、待ってくれ!分かった!すまなかった姉御!」

 

「あ、姉御?」

 

「へへ……そんな殺気を出せるなんて相当なお方なんでしょう?こんなところで暴れられても困るんで、取り敢えず外で話させてくれませんかね?」

 

「……それもそうだな。ただ、おかしな素振りを見せれば」

 

「ええ、ええ。そりゃもう分かってますよ。へへ」

 

「おっ、おいっ!大丈夫なのか!」

 

金髪モヒカンの癖に肝っ玉が小せえのは相変わらずなんだなあ……。お前冒険者何年目だよ。もうそれなりに良い歳なんだから、少しは落ち着けば良いのにな。

 

「お前らはちょっと待ってろ」

 

「おまっ」

 

「止せ、あいつが言ってるんだ。どうとでもなる」

 

ナイスおっさん。こっからはあんまり見られたくねえしな。

 

「違っ、そうじゃなくて、危ねえのは……!」

 

「……ああそういう───」

 

「それじゃ、ついてきてくだせえ」

 

「ああ」

 

◆◆◆

 

明かりのある喧騒から遠ざかり、夜と静寂で満ちた路地裏に辿り着く。こんな状況には、月の光すら届かないような闇が好ましい。

……ここらで良いだろう。

 

「それで、白天の居場所についてですか」

 

「知っていることがあるのだろう。洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

遂には剣まで向けてくるか。もう隠す気も無いらしい。

 

「おお、怖い怖い。でもそれをタダなんて流石に無理ですぜ。いくら姉御みたいな強者相手でも、俺の命がかかってるし……」

 

「……何が欲しい」

 

「……金貨10枚?」

 

「舐めているのか?」

 

「ッ!?すっ、すまねえ!調子に乗りすぎたよ!」

 

すげえ殺気だな。ここまで強者となると王国の騎士でも無理だ。全く、何でこんな辺境に居るんだか。

 

それにしても、金貨は流石に駄目か。金貨は1枚だけでも日本での給料三ヶ月分。許される訳がないな。ま、期待もしてなかったが。

 

「他には?」

 

「なら………教皇の後ろ楯とかな」

 

「!?貴様っ、何故それを!」

 

現在の俺が居るこの国、この大陸で大々的に信仰されている宗教。こいつはそこ出身だろう。こいつの体の中に流れる身の毛もよだつような神聖力はそれ由来だ。

 

何の理由で白天を探してるのか知らないが、近々何か起こるかもな。あいつも大変だなあ……。これも有名税だし、仕方ないのかもしれねえな。

 

「運が悪かったな。何、少し眠っててくれ」

 

本当に運が悪い。俺に聞かなければこうはならなかったのに。もしただの情報だったら良かったのに。面倒事にならないものなら、と。そう思ってしまうのはまだ、俺に良心が残っている証拠だろう。まあ、久し振りに力を使うから、俺としては丁度良い。

 

「貴様はまさか、モン」

 

「気付くのが遅すぎたな」

 

ナニカが、姿を見せる。闇とも光とも言えぬナニカ。異質で、異常で、この星由来ではないだろうナニカ。知れば狂い、見れば死ぬ。名前を呟けば、存在に耐えられず消滅する。

 

「良い夜を、姉ちゃん」

 

この世のものではない、ナニカ。俺はこの世界で化け物になっていた。

 

◆◆◆

 

数十年前、俺はこの世界に転生した。良く覚えている。いつの間にかこちらの世界に居て、最初は球体のような形態だったのだ。しかし俺は直ぐ様人間の形となった。俺の意志のままに、姿形が変わったのだ。

 

正直この時点で気持ちが悪くて仕方がなかった。自分が人間ではなく、得体の知れないナニカになってしまったこと。俺の知らない場所、見たこともない森の中に居たこと。しかし生きているのには変わりない。

 

俺はなんとなく、自分が全く違う存在になってしまったのではと感じた。結局その嫌な予感は的中し、意識ある動物達は俺を知覚した瞬間に狂って死んでいく。見ても聞いても、動物やモンスターは耐えられなかった。

 

俺はこれらを『異常性』と呼ぶことにしている。まるで某RPGのSAN値を削る怪異や某財団の情報災害のような、そんな性質を有してしまったモノ。

 

姿形を変え、どんな存在にもなれる。しかし意識ある存在が知覚すれば自然と蝕んでしまう劇物。他にも色々出来るが、今は良い。

 

正直姿を変えられるのはありがたかった。俺はまだ人間として生きたかったから。どんなに変わろうと精神は何故か変わらない。道徳も価値観も変わらず俺の中にあった。

それならば是非あの娯楽溢れる世界を堪能したいのだ。万が一にも無いとは思うが危険な思いはしたくない。命を賭けるより美味い物が食いたかった。

 

そうなるとこの異常性を抑える必要があったわけだが、それは意外にも簡単に成功。俺は意気揚々と人間社会に溶け込み、今も上手くやっている。

 

「うおっ、あぶねっ」

 

そんな俺は現在、スライム討伐を行っている。冒険者の中でも初心者が行うクエストの一つ。そして誰でも出来るクエストNo.1と称されるスライム討伐だ。

 

日本に居た頃に想像したスライムと言ったら、そりゃ色々なパターンがあるだろう。この世界のスライムは透明で液体のような、それでいて粘着性を持つモンスターだ。

知能が皆無で、弱点でありスライムを構成する核が丸見えな為とても弱い。とてもゆったりとした動きで武器さえ必要ないようなやつだ。正直足で核を潰せば終わる。そこら辺の村娘でも倒せるような、簡単な敵。

上位個体や特殊変異ともなれば凶悪さが周知されているが、只のスライムとはそんなもんだ。

 

つまり誰も気にしないようなモンスターな訳だが、俺はそいつの討伐をしている。理由は簡単。誰もやらないから。命の危険もなく、楽で、それでもって金が貰える。最高じゃねえか。

 

あと、こういうのを怠ると後々大事件に繋がるんだ。只のスライムは通常なら無害だ。それは知能が無く、属性などの方向性が無いから。しかしこの方向性が無いというのは却って危険に繋がりもする。

上位個体は毒や炎等の属性を有している。しかし只のスライムは純粋に液体でしかない。それは水に近く、同化することが出来る。属性を持つ奴らの場合そんなことは出来ないんだが、只のスライムは川や海を取り込む可能性があるのだ。

 

通常の水辺は水棲モンスターが居るから問題ない。しかしそれが無い無害な場所もある。万が一そこにスライムが入ったら巨大スライムの完成だ。

 

一度その状態の奴を見たことあるが、ありゃ災害だ。とてもじゃないが手に終えない。俺では異常性を使う以外に対処できない。だからこうやって小まめに討伐するのだ。

 

「よし、これぐらいか」

 

街から結構離れた川まで来て倒すのは、正直に言えばとても面倒だ。無闇に異常性を使えば処理が面倒で使えず、結局は歩きで数キロのここまで来ることになる。

 

誰か手伝ってくれれば楽なのだが、新人の奴らもこんなのはやりたがらないしなあ。どんな新人でも冒険者を目指すような奴はスライムくらい倒したことがある。何せ村の外に行けばそこら辺にいる奴らだからな。子供の冒険程度で見つかるのだから、そりゃやりたくもないか。

 

安全だから最高なのには変わりないが、その点だけはいただけない。

 

「それなりにデカイ街だったら水辺に結界があるんだがなあ」

 

定期的に俺が来るしかないんだろうな。ま、金を貰えるんだし良いか。

 

「異常性を使えなきゃ弱いし、仕方ないな」

 

まあこれも大きな要因だ。俺は他の冒険者と比べてどうしても劣ってしまう。基本的に、冒険者なんてのはスキルを持ってるからだ。もしくは魔法なんかもある。凄い奴なら加護やギフトなんてのを授けて貰ったりもするが、これは数が圧倒的に少ねえな。

 

スキルってのはそいつが色々頑張って手に入れた力だ。日本のゲームとかに良くあるアレだな。魔法も概ね同じ。

 

これらを俺が扱えれば良かったんだが、どうにも俺には才能がない。基本的に初心者の冒険者ならスキルを一つは持ってる。というかスキルがあるから冒険者をやってるのだ。しかし50年以上続けても俺は二つだ。

あまりに少ない。10年やってれば3つ持ってるのが最低限と言われている中、俺は二つ。小物も良いところだ。

 

目立たないから、と言い訳を並べることは出来る。ただこれでは悪目立ちしてしまう。

命の危険はないほうが良い。強すぎるとそういう場面が多くて困るだろう。しかし普通のモンスターなら異常性でどうにかなる。というか異常性のせいでほぼ不死身なのだ。ならもう少し強さが欲しくなるというのが男だろう。

 

「スキル、欲しいよなあ」

 

現在俺がベテランとしてやれてるのはそれなりに努力したからだ。スキルがあればそんな苦労をしないで済むのにな。スキルが少ない為強いモンスターが出る依頼は受けられない。

筋肉のある肉体があってもスキルには敵わないというのが通説。というか基本的にそう。その為技術を鍛えて他の奴らに張り合ってもどうしようもないのだ。

 

「あ、まだ居たのかよ」

 

また核を切る。粘着質の流体がベチャアと崩れ去った。スライムは核を壊すとたちまち水になる。今回はこの核を拾って討伐の証にする。今日はこれで終いだな。

 

「……帰るか」

 

◆◆◆

 

「おっ、シンデンじゃねえか」

 

「ああ、モホークか」

 

クエスト完了の報告でギルドに入ったら金髪モヒカンに俺の名を呼ばれた。昔ならそれなりにビクついていたがこいつのせいで慣れてしまった。

こいつの名前はモホーク。イカツイ世紀末みたいな見た目をしている癖に肝っ玉の小せえ男だ。まあ見た目に反して良い奴だからな。そこら辺の奴よりも聖人君子なのはおかしいと思うが。

 

こいつは冒険者歴もそれなりに長い。それなりにこのギルドに居れば、いつかこいつが見た目と反した野郎だと知ることになる。そんなこんなでこいつは何処のパーティーにも顔が利く。このギルドで少し重要な立ち位置の人間だ。モヒカンの癖にな。因みに俺もこいつもソロだ。どちらも好き好んでソロだから仲良くなったという過去がある。

 

「何だ、またスライムか?」

 

「そうだよ、悪いか?」

 

何だコイツ。ニヤニヤしやがって。馬鹿にしとんのか。

 

「いや、お前らしいと思っただけだ」

 

「ああそうかよ。変に命を賭けるのは俺に合わねえ」

 

「どの口が言ってんだ。そこら辺の冒険者なんかとお前じゃ比べ物にならないだろ」

 

そりゃ歴が違えからな。戦場なんかも何度か渡り歩いたし、修行も何年も続けた。これだけやれば強くもなるし、スキルで負けててもそれなりに勝てるようにはなる。

 

「仕方ねえだろ。スキルがねえんだ」

 

「……お前を見てると、そんなに重要には思えないがな」

 

「何言ってんだ。そりゃどんな力でもあるに越したこたあないが、スキルは実力を維持する必要も無いんだぞ?ならそっちの方が良いだろ」

 

スキルは重要だろう。スキルは自身の努力やら素質、習慣が形に現れたものとされているが、本質は人間の限界を超える力だ。だから人間はモンスターに対抗出来る。これ程戦闘において戦局を動かすものもない。

 

「だけどお前の強さはギルド側も知ってるじゃねえか」

 

「だから時々教官として雇ってくれるだろが。あんな特別扱いそうそう無いぜ。ギルド様々だ」

 

本来ならギルドの教官としてやれるのはランクの高い冒険者だけなんだが、俺は例外的にやらせて貰えることがある。面倒なクエストをやり続けるとこういう特典もあるから有難い。

 

「ソロの癖にそれに感謝してるのはお前だけだろ……」

 

「うるせえ、あれは金払いが良いんだよ」

 

そりゃお前らみたいなランクの高い奴らは金に困らないだろうが、こっちは違うんだよ。

 

「だったらパーティーにでも入れば良いのに……」

 

「ソロの気楽さはお前が一番知ってるだろ」

 

「まあな」

 

そうしてカウンターへと向かっていく。今回はただのスライム討伐だからな。余り稼ぎにはならないが、食事代ぐらいにはなるだろう。

 

「すいません、クエスト完了の報告に来ました」

 

「あ、先輩。いつもありがとうございます」

 

いつもの受付の人に手続きしてもらう。ギルド職員歴の長いベテランだ。……まあ、俺の後輩なんだが。若い頃から冒険者をやってたが、ある時からこいつは職員として働くようになった。こいつが入ってきた時から俺は居たからな。

 

シンデンと名乗るようになってもう何年だろうか。名前は俺にとって大事な繋がりの一つだ。俺が人間で居る為のもの。日本の頃のを少し変えた名前。あまり良い思い出でもないが、それでも大事にはしてるのだ。

 

「いつも言ってますけど、僕には敬語じゃなくて良いですって」

 

「そうは言ってもですね。職員の方々に敬語ぐらい使わないと失礼でしょう?俺みたいなのは特に言動は気を付けないと」

 

「……まあ、新人の子達は僕らの関係を知りませんしね」

 

俺はよく悪目立ちする人間だ。この街での活動も長いからか、それなりに噂も立っている。その一つがスキル保有数の少なさ。ベテラン達の中にはモホークのように分かっている奴もいるが、そもそも披露する機会がないため知っている奴らは少ない。俺は他人の目がある場所で戦うなんてヘマをしない。スキルが強くも無いのに勝っちまったらそれこそ面倒だ。

 

初心者より強く、しかし二流三流止まりの冒険者。今の俺には丁度最適な位置だ。

 

「新人ですか……今年はどうですか?」

 

少々話を振ってみる。今年も新人教育の教官として雇われる可能性があるからな。そうでなくともどんな奴が入ってきたのかは知っておいた方が良い。こんな世界だから情報はそのまま命に直結している。俺のような立場の弱い奴は、新人とはいえ気を付けておいた方が身のためだ。いずれその新人達がギルドを引っ張っていく立場になるのだから。現状の俺なら、尚更だろう。

 

「例年通り、とは言えません。凄い子が入ってきました。スキルを四つ持っているそうです。しかも強力なのがその内二つ」

 

「へえ、そりゃ凄い。俺なんか目じゃないですね」

 

それならあと二年程でトップ層の仲間入りだろうな。いや、こんなところじゃくて首都の方に移るか。この街は王国の首都、つまり王都から離れてるからな。それなりに辺境と言える。こんなところに留まる理由も無いだろう。

 

「でもそういう子はいずれ行きづまりますよ。やっぱり先輩が必要です」

 

「いやー、そういう奴らはもう良いですよ。才能ある奴の相手はトップ層にやらせといて下さい。俺ももう歳ですから」

 

この街での活動も長いからな。年齢的なアピールをしといた方が良い。容姿も少しずつ変化させた方が良いかもな。

 

「……あれは」

 

「どうしました?」

 

何処を見て…ああ、昨日の姉ちゃんか。また来たらしい。昨日は異常性で関係者全員の記憶を弄ったからな。誰もあの件を覚えていない。あいつの中では昨日は何も収穫が無かったということになっているだろう。

 

調整には苦労するが異常性は汎用性が高い。精神や記憶を思いのままに出来るし、戦闘でも無類の強さを発揮する。まあ、一歩間違えれば全部台無しになる両刃の剣だ。余り使いたくは無いな。

 

「昨日も来てましたね」

 

「ギルドでは見かけない方ですから、昨日から少々注視してるんです」

 

「成る程……何かあったら報告しますよ」

 

「ありがとうございます……はい、これで手続きは終了です。こちらが報酬になります!クエスト完了、ありがとうございました!」

 

「はい、それじゃ」

 

受け取った金額は日本で言えば精々3000円程度。つまり俺は月給15万にも満たない中で働いてるのだ。俺は基本的に金を使わないからこれで良いんだが。取っている宿も安いし。食事も本来なら必要ない。娯楽として楽しんでいるだけだ。生活必需品の過半数がいらない体になってしまった。

 

「今日は何を食おうかな」

 

それでも美味いものは食いたい。俺が人間社会に執着する理由だ。これがなければ化け物として生きていたかもしれない。

 

今日は何処に行こうか。ギルドの飯は美味いが値が張るんだよな。酒、特にビールに似た奴は安いんだが、ガッツリ食いたい時は他の飲食店に行った方が良いと俺は思う。男冒険者は後先考えない奴も多いから俺みたいな奴は珍しいんだとか。その豪胆さのようなものも冒険者らしさだが。

 

「さて今日は……あそこ行くか」

 

今日も俺は無事平穏を謳歌している。

 

 

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