めっちゃ小物ムーブの化け物   作:I'mあいむ

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小物ムーブが足りないと思う今日この頃


弱っちい化け物

 

この世界に来てからのことを、俺は鮮明に覚えている。恐らく『異常性』に体が変貌したせいなのだろう。記憶を忘れるということが無くなったのだ。

思い出そうと思えば幾らでも、といった感じだ。前世の記憶もそうだ。この体になった時点で覚えていた記憶が薄れることはない。しかし転生のきっかけだけは、どうにも思い出せない。

 

いや、そもそもきっかけなど無かったのかもしれないが。

 

前世の最後は自転車に乗って夜道を走っている最中だった。その後何があったのかは分からないが、気付かぬ内にこの世界に居たのだ。何かを忘れているような感覚も無く、ワープでもしたような現象。

 

これがもし、キレイさっぱりに原因の記憶が消えているんだとしたら。その場合は原因を知らなくても良いだろう。そんな技術力のある奴を探るなんてどうなるか分からないしな。

 

可能性は幾らでも考えられるが、取り敢えず俺には分からない話だ。どうでも良い。

 

さて、そんな転生が起こってから数十年。もう少し詳しく言えば87年と半年程。

俺も最初は冒険をしようと思っていたんだ。冒険者らしく、人間らしく、壮大な夢と希望を抱いて宝探しとか、ダンジョン攻略とかやりたいと思った。

 

結果はご存知の通り。俺にはどうにも合わなかった。忙しいし、そもそも『異常性』を使えなければ俺は弱い。魔法や属性を持ったスキル等に対抗出来ないのが大きかった。

 

このまま毎日やっても疲れるだけだと思い、気付けばやめていた。大きなことなんてするよりダラダラする方が合っていた。目まぐるしく回る日々より、それなりの変化を伴いながらゆっくりするのが俺は好きだと気付いてしまったんだよね。

 

ただその過程には色んなことがあったし、今のギルドに行き着くまで結構な時間がかかってしまった。

 

時には冒険者をやめるのも一手だと思ったが、仕事っぽい仕事はもっと嫌だ。頭を使うのは苦手だし嫌いなんだよ。料理つっても売れるよう試行錯誤するのも面倒だ。日本の知識でチート?無理無理、マトモに勉強してねえし。転生したらそれを活用出来るなんて、そんな上手い話は無えんだよ。

 

俺が分かるのなんて木炭の作り方とかぐらいだ。電気関係の知識があれば良いんだろうが、そんなの分かるわけ無えだろって話。ああ、ラノベでマヨネーズとかよくあるけど、俺には分かりませんよそんなの。

まず石鹸なんかこの世界に来た時からあったしな。匂いが気に入らないから香りつけだけは頑張ったが、結局それだけ。元々あるのをやったって仕方がない。

以前醤油はどうにかしようとしたが、出来たのはコンソメ。工程とコストの関係で量産は諦めてしまった。今では俺の楽しみの一つになっている。

 

結局、こういうのは無理なんだなと断念した。趣味程度にやるのが丁度良いらしい。

ああでも、唯一反響があったのはハンガーだな。奇跡的にあの形が無かったからな。ラックと共に色々作ってみたら結構な収入になったのは覚えている。

不労所得にしたいなあとも思ったがそれは無理だった。俺と協力した商人が襲われてしまったからな。金が絡むと色々怖いからそういうのにも手は出さないようにしている。欲張ったら死ぬし。

 

結論、堅実に生きましょうということだ。小銭稼ぎ程度なら良いが、それ以上は身を滅ぼすだけ。何事も分をわきまえなければならないということだ。

 

「はあ……」

 

「何だ、そんな溜め息ついて。女に振られたか?」

 

「ちゃうわ!」

 

「ならなんだよ」

 

今俺の目の前で飯を食ってるこのおっさんはダイバと言う。冒険者歴も長く、このギルドの中では相当なベテランだ。俺の飲み仲間兼いつものメンバーの一人である。因みにもう一人はモホーク。

 

こいつは正直に言えばうだつの上がらないしょうもない冒険者だ。つまり、言ってしまえば俺と同じ。ただベテランとして頼られてはいるし、スキルがあるからランクもそこそこ。俺よりは上だ。

この差はなんだろうなあ。俺、少なくともこいつには勝てるんだけどね。負けたこと一度も無いんだよ。しかしギルドでの評判は良くない。というか悪い。……人間関係は難しいぜ。

 

「いや、金がねえなあって……」

 

「冒険者ならそりゃ誰だってそうだろ」

 

「お前と俺とじゃ話が違うだろうが。俺はお前らの半分にも満たない金でやってんだ。文句も言いたくなる」

 

俺にあと一つでもスキルがあれば何とか出来るのに。

 

冒険者にはランクがある。このランクがクエストを受けられる基準や、その冒険者の功績、強さに直結している。

ランクは上から魔金級、金級、銀級、銅級と大きなくくりはこうなっている。そしてこの中にも小さなくくり、階級というものがある。1~3までがあり、最初は誰しもが銅級の1から始まる。その後銅級の2、銅級の3となり、昇格試験を受けて初めて銀級となる。

唯一、魔金級にはこの階級がない。まあ、正直強過ぎるからな。限界を図ろうと思ってもそういう奴らには奥の手があるし、図っても仕方がないらしい。

 

何回か魔金級の奴らの戦闘を見たが、神話の戦争でも起きてるんじゃないかというレベルだった。あれはとうに人間を辞めた奴らの戦いだな。そもそもスキルってのが人間の限界を越える力。銀級や金級でさえ人間を越えている。銅級の2である俺には縁の無い話なんだろうが。

 

「ならランクを上げろ。ま、お前には無理な話か」

 

「ほおー、喧嘩なら買うぞ?久し振りにやるか、小僧?」

 

冒険者なら喧嘩は買わねえとな。この生意気な小僧は定期的ににやらねえと痛みを忘れちまうらしい。

 

「俺はそんな年じゃねえっての」

 

「だったら先輩を敬えこの野郎。20年前みたいにやっても良いんだぞ」

 

全く、お前が冒険者になった時からやってるのに酷い野郎だぜ。

 

「お前に勝てないのは分かってるからやめとく」

 

「チッ」

 

「そんなに報酬が欲しいならパーティーに入ったら良いだろう。種火の証ならいつでも歓迎だぞ」

 

種火の証かあ。こいつが所属している、このギルドの主要パーティーの一つだ。堅実さが売り。中には荒い性格の奴も居るが、ことクエストになると非常に慎重。クエストのクリア率はダントツだし、撤退の判断も早い。このギルドで一番安定したパーティーだろうな。しかし俺とは違う。

 

「それはモホークにも言われたが、面倒なんだよ。俺はもっと楽に生きたい」

 

「なら諦めるしかないな。俺達みたいなのにそれは高望みだろ」

 

「……だよなあ」

 

それは分かっている。結局は我が儘だ。これは分不相応な望みでしかない。俺には人間の限界を越えたような能力はないから。

俺はただ腕っぷしがあるだけの野郎だ。炎や雷を操るようなこともなければ、剣で山を割るようなこともない。そういうファンタジーとは程遠い、愚直で地味な戦い方しか出来ない。

 

「結局スキルが無きゃ駄目だよな」

 

「だったら神にでも祈ったらどうだ?おっさん」

 

「うん?」

 

誰だ?俺に話し掛けるような奴なんて、片手で数えられるぐらいしか居ないような気がするが。

ってこいつは……

 

「あ、これはこれは……ご無沙汰してますアルリエさん」

 

褐色赤髪ショート、溌剌とした雰囲気が特徴の女性。それがこのアルリエという人間だ。

女性にしては少々珍しい前衛方のスタイルをしており、基本的にステゴロかガントレットでの正面突破を主にした戦いを好んでいる。

こいつが俺に話し掛けてくるなんて、今日は槍でも降るのかもしれない。

 

「まあな。それで、おっさんはまだスキルが増えてねえのか?」

 

「ええ。私は相変わらずと言ったところです。それより、先日の金級への昇格、おめでとうございます」

 

そう、こいつは一ヶ月程前に金級への昇格という快挙を達成した、現在勢いのあるルーキーの一人だ。2年前にこのギルドに来てから彼女は破竹の勢いで成果を挙げている。このまま行けば魔金級にさえ手が届くのではと言われている程。

 

魔金級の人間は世界に数人いるかどうかというレベル。それは伝説の勇者や魔王みたいな歴史に名を残す奴らだ。冒険者の間では実質的に金級が最高峰というのが常識。

しかしこいつなら、運に恵まれればあるいは、と俺は思う。白天でさえ金級の3止まりだ。正直魔金級には上がれないだろう。しかしこいつはそれを越える可能性がある。

 

こいつは、いずれ俺とは住む世界の違う人間になる。

 

「ははっ、ありがとな!」

 

「いやー、流石ですね!俺らみたいなのには考えられませんが、このまま行けば魔金級も夢じゃないですよ!」

 

つまり、今の内に媚びておかねばならないのだ!万が一にも敵視されたくはないからな。全力でヨイショする必要があるわけだな!

 

「そうだな。アルリエはこのギルドをしょって立つ冒険者になると思うぜ」

 

良いぞダイバ!その調子で煽てておけば俺らの平和が守られるんだ!

 

「おう、勿論任せとけ!私がこのギルドを盛り上げてみせるよ!」

 

「応援してます!」

 

「頑張ってくれ」

 

「いやー、この前もギガントマンティスを討伐したらしいじゃないですか。金級2への昇格も時間の問題ですよね!」

 

……正直あの巨大なカマキリを討伐したって聞いた時はこいつ人間じゃねえって思ったな。俺だってあいつを倒すのはギリギリだってのに、本当に俺らと話して良い奴じゃねえな。

 

「それ本当か!?ほー、あのアルリエがここまで成長するとは思わなかったな……」

 

「おいおい、煽てても何も無いぞおっさん共!」

 

「──!」

 

「──?───!」

 

しかしあまり一緒に話していても良いことはない。こいつは活躍しすぎてファンクラブさえ作られている始末だ。他の奴らに目を付けられる前にさっさと退散していきたい。

 

「すいません、そろそろ俺は行きますね」

 

「ん?なんだ、今日は早いじゃねえか」

 

「まあな。それじゃ失礼します。アルリエさん」

 

「おう、またなー」

 

ギルドの戸に手を掛けて外に出る。ガヤガヤとした雰囲気が一気に喧騒へと変わる。

 

「……はあ」

 

まだ夕方だが仕方ない。今日はここらへんで帰るとしよう。夕日に照らされた空が何処か虚しく思えた。

 

◆◆◆

 

「なあ、ダイバのおっさん」

 

「おう、なんだ?」

 

「シンデンのおっさんってどれくらい強いんだ?」

 

「さあな。あいつの強さを知ってる奴なんてこのギルドに居ねえよ」

 

「おっさんでも知らねえのか?」

 

「………よく勘違いされるが、俺がまだ若い頃。このギルドに入った時からあいつはここに居た。その頃からあいつは何一つ変わらずにやってるんだ」

 

「はあ?それが本当ならスキルが二つなんて嘘じゃねえか」

 

「それは知らん。ただ少なくとも、あいつが三つ目のスキルを使ったところなんて見たことがない。俺はあながち嘘でも無いとは思ってるよ。……隠すメリットも無いからな」

 

「…それもそうか。あーあ、なんだよ、本当はメチャクチャ強いかもとか思ったのに………ん?じゃあ何で誰もそれを聞かないんだ?」

 

「これはギルドに長く居る連中しか知らねえ話だからな。このギルド一番の謎だ。いつから居るかも分からない銅級の冒険者なんて、何が隠されてるか分かったもんじゃない」

 

「………じゃあ、私とあのおっさん、戦ったらどっちが強いと思う?」

 

「だからそれは…………あー、いや、そうだな。スキルを使わないとしたら……」

 

「したら?」

 

「……お前が負ける。確実にな」

 

 

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