しかし一方で、観衆たちの間で「レース場でタキオンの隣りに座っていた女性が、彼女の担当トレーナーだったのでは?」という噂も流れた。
もし本当に彼女がトレーナーであったというなら、彼女は(ゲーム版のモルモットくんと違い)タキオンに一度はレースを断念させてしまい、みすみす無期限レース休止を宣言させてしまったことになる。
そのことに関して、遺憾の意を示す者もいるのかもしれない。
では(本当にトレーナーであったなら)、タキオンを放置するに至った彼女は無能だったのというのか?
この話は、それを問う物語である。
トレセン学園の片隅にある理科準備室。もはや半ば公然の存在となったタキオンとカフェに私物化されたスペースだが、今日は主は片方しか存在しないらしい。
制服の上にゆるく白衣を纏った栗毛のウマ娘が、実験機材や資料が雑然と並べられたデスクに鎮座する、パソコンモニターの光と向かい合っている。その眼もまた、薄暗い部屋の中真紅の仄かな輝かきを宿して。
ふと部屋の主アグネスタキオンが、耳を微かにぴょこんと伸ばす。部屋の戸が静かに開く音を聞きつけたからだ。
中に入ってきた者の姿を見て、タキオンは意外そうな顔をした。
「今さらここに来てどういうつもりかな。――くん」
かつて自らを指導するトレーナーをそう名付け、呼び続けているうちに定着した(させた)名前で呼ぶ。
アグネスタキオンの担当トレーナー。スーツを生真面目そうに着こなした、黒髪の大人の女性。やや幼びた顔つきとタイトスカートから伸びる健康的な白い素足が、まだ彼女が学徒の青さを尾に引いた年頃であることを表しているようだった。
しかし彼女が紛れもなく選ばれた中央のトレーナーであることを証明するに、そのスーツの胸元には身分を示すバッジが付けられていた。
彼女こそかつて辣腕で鳴らした老トレーナーの元で師事し、その前途が有望視されていた俊英トレーナー。
「やっと合宿の後片付けが終わって、身体が空いたのよ」
「合宿……。ああ、トレーナーは全員サポートとして帯同したのだったな」
「やることと言えば、いつまでも逆指名を貰えないルーキーや謹慎中で担当のいない奴らに混じっての、もっぱら雑用ね。さながら懲罰部隊だったわ」
トレーナーのぼやきを聞いて、タキオンが呆れたように言う。
「君もいい加減新たな担当を見つければ良いだろうに。まだこれから本格的な出走を控えている者もいるし、本年度メイクデビューの者だって、君ならば引く手あまただろう」
「誰のお陰で今の状況になっていると思っているのかしら」
とトレーナーは返して、皮肉そうに、しかし害意のない笑みを見せた。
皐月賞勝利後のタキオンによる無期限のレース出走休止の電撃発表は、世間の人々を驚愕と困惑に導いた。
怪我や病気といった問題から精神面の不調、人間関係の問題を始め、呆気にとられてしまうような陰謀論まで含めて、様々な憶測がネットや現実世界を駆け巡った。
当然そういった言説は、彼女を担当するトレーナーにも向けられる。
「タキオンに休止するだけの事情が有ったとして、それが問題化するまで放置していた彼女の担当トレーナーも、管理責任が問われるのではないか」
無論彼女は厳しい審査を経て選抜されたトレーナーであり、大衆に無責任に糾弾されるような無能などではない。『中央』も巷の風聞で所属する人材の処遇を左右するような、浮ついた組織などではない。
言ってみれば彼女はタキオンの『気まぐれ』に巻き込まれた被害者なのだ。
タキオンの言わせるところ「君も早く契約を解除して、何なら放置してでも次の担当につけば良い」のだが、しかし彼女はどうした訳か、タキオンの専属トレーナーの地位にあり続けるのだった。
そんな彼女の久方ぶり(研究に没頭するタキオン自身は、月日の感覚を忘れていたが)の到来に、しかしタキオンはさりとて感傷もなさげに振る舞う。しかし彼女を見やる紅い目が、僅かばかり細められている。
トレーナーもそうした扱いには慣れていると見えて、そんな態度に気にもせず、ずけずけと部屋の奥タキオンのいる方に歩み寄っていく。そして、
「久しぶりに、どう」
空いているソファを指さした。
「はぁ、はぁ、くっ、そこ……もっとぉ……」
ぎぃ、ぎぃ、と家具の軋む音。
「ああ、そこだぁ。くぅぅ……。そこ。いい、とっても気持ちいいよ。……最高っだよ――くん!」
白衣越し、背中を圧迫される。
あの野放図にして気ままの権化である俊英が、周囲に奇人変人と扱われてもなお憚らなぬマッドサイエンティストが。まだ成人してさほどでもないだろう年頃のトレーナーの体の下いいようにされ、情けない声を漏らしている。
これもトレーナーによる指圧の賜物。整体と骨盤矯正の施術だ。
元来タキオンの脚は、自身が発揮できる能力に耐えられるだけの強靭さを持ち合わせていなかった。
そうした身体面でのリスクを持ち合わせたタキオンの負担を少しでも軽くするため、こうしてトレーニングの後にトレーナー手ずから、マッサージの施術を行っていたのだった。 タキオンも自分が触れることを許さない頭部の部位を除いて、彼女に全身を委ねるという、普段は他者を実験材料扱いして憚らぬ態度とは180度変わった待遇ぶりだ。
なおタキオンは「一体そんな技術どこで学んできたのだね」としきりに尋ね回したものだが、トレーナーによれば全て座学で、「こんなもの貴女にしか施したことないわよ」とのこと。
「貴女ずっとああしてモニターに向かい合っているのかしら。首も背中もガチガチよ。腰だってこんなにずれて」
「ああ、プランBは今や興味深い推移を示しているからねー」
プランB……。皐月賞でのアグネスタキオンの走りに魅せられ、狂気の残光に追い立てられた者たちがタキオンの求めた領域に到達。彼女はそれを観測すること。
「観察で身体を壊したら元も子もないじゃない。レース寿命を伸ばしたいなら、少しは自重することね」
タキオンは顔を歪ませる。
『レースの出走無期限停止』とは、復帰のタイミングが未定とのことではなく、そもそもレースに2度と出るつもりはないとの意。
だからトレーナーの物言いは、そもそもレースという勝負の世界から降りたタキオンにとっては、忌々しいほどに的はずれなのだが。
「おやぁ? トレーナーくんはまだ私の栄光に縋り付きたいようで、くふぅ……」
タキオンの軽口は、背中への攻撃で吐息に変わった。後は再びトレーナーの為すがままだ。
うつ伏せ状態での上半身への施術を終えたトレーナーが、タキオンに身体を入れ替えるよう促す。
そして上体を起こすように言い、脚を自分の方へ伸ばすように指図した。
両脚、そして足裏へのマッサージだ。
タキオンのふくらはぎのなだらかな曲線に沿わすように、トレーナーの手が撫でつけていく。自らにかしづき施術するトレーナーを見下し、紅い目を光らせいつもの狂気じみた笑みを浮かべるタキオンだが、そこにくすぐったさを我慢するための演技が混じっていないと誰が言えよう。
長時間パソコンに齧りつきの状況からマッサージを受け急激に血流が増えたことで、思考が混濁してきたのだろう。
タオルで目を覆ったタキオンはいつしか寝落ちし、夢を見ていた。
時速70キロメートルをゆうに超える速度でターフを疾走するウマ娘。その脚は、ウマ娘の限界とされるラップタイムを大幅に縮めるに至り、天上の高みへ至らんとなおも加速し続ける。
そして彼女を追いかける対戦相手。
その姿は始め愉快な挑戦者ジャングルポケットかと思ったら、同室の相方?マンハッタンカフェに入れ替わっている。あるいは彼女がいう『お友だち』に。自身は姿を知らない筈なのに、何故かそうだという確信があった。いや、やはり最初のポケットに戻ったかと思いきや、それらは渾然一体となって判別がつかなくなる。
最初は第三者の光景で眺めていたのに、いつしか自身が走者に成り代わっている。爛々と紅い目を輝かせ、ターフを駆け抜ける。地面すれすれを飛翔する様な軽やかな足取りで、脚を前へ、前へと運んでいくのだ。
最後の直線ゴールが迫る。湧き上がる高揚感に自然笑みが溢れ……。
うたた寝をした時の取り留めのない荒唐無稽な夢。
しかし夢で見る光景に当てられ気持ちが高ぶっていたのだろう。
「うっ」
トレーナーがうめき声を漏らした。
その声を聞き、タキオンもハッと目覚めた。
自らも脚を繰り出し走ろうとでもしたのか、無意識に蹴り出された脚がトレーナーの柔らかい腹を打ったのだ。
「すまないね。強く打ってはいないかな」
「ええ、大丈夫よ」
脚が動いて早々の衝突だったため、思っていたより勢いが付いていなかったようだ。腹に不意打ちを食らったトレーナーも、さほど差し障りがないらしい。
とはいえ人間を遥かに上回るウマ娘の力だ。何があったとしてもおかしくなかった。
タキオンもそれを自覚していたから流石に詫びた。
「やっぱりね」
「何だと言うんだい」
「その脚、やはり走りたがっている」
「はっ」
タキオンは吐き捨てる。
「ただの反射に過ぎぬものから何を読み取ったのかな、君は。言っただろう。私はこれ以上走ることに意義を見出せぬと。よしんば私の無意識がレースを渇望したとて、理性が、理論がそれを否定するのだよ」
寝入ってた最中の脚の不随意運動と、己の気持ちを安易に結びつける担当を安直さを、手厳しく喝破して見せる。
トレーナーはタキオンの言い分を全て受け入れたかのような優しい表情で頷くと、しかし芯の入った声で語る。
「そう。私たちは貴女たちの声を『聞き』届けることができない。それは定められた摂理」
ウマ娘たちが確かに持つ種族特性。
自らの走りを通して、メッセージを発する力。
『私の走りについて来れるか」
『私が絶対に勝つ!』
『君に勝ちたい』
『大好きだー』
そのメッセージを"別のウマ娘"が受け止め奮起させ、その者を動かす原動力と為す。
ウマ娘の走りには、確かに誰かを動かす力があるのだ。
しかし種族の違いゆえ、力を持たない自分トレーナーたちには、そういった真似はできない。
「ウマ娘を動かすことができるのはウマ娘の走りだけ」
その絶対の原則の前に、トレーナーは素直に膝を崩してみせるのだ。
それはトレーナーとして無能なのか?
「ああ、このトレーナーは己の限界にさっさと見切りを付け、自分の力で担当を動かすことを諦めるんだな。なんて情けない。有能なトレーナーだと言うのなら、奇跡の1つや2つくらい起こしてみせろよ。アニメやゲームみたいに」と。
では、そう他者に要求して止まない者に聞こう。
過去のレースにおいて、レース中の負傷で競技を失格。ターフを去ったウマ娘たちの担当トレーナーたちは、皆無能だったというのか?
ウマ娘の『声』に無自覚で、その癖彼女たちが持ち合わせた才能を自分の指導力の賜物とうぬぼれ、まぐれにも至宝を射止めたに過ぎぬ俗物の才の方が、彼女に勝るとでも?
そんな訳無いだろう。
「奇跡」などという都合の良い幻想を捨て、自分にできる限りのことをやり尽くす。そして後は結果を受け入れる。そんな彼女を一体誰が責められるというのか。
「私たちにできることは、ただ祈るだけ。どうか無事でいて欲しい。満足行くまで走って欲しいと。そして彼女たちが走った結果を受け入れ、喜びを分かち合い、悲しみを共にする」
だからトレーナーは、自らの思いを吐露する。
「どれだけ人事を尽くそうとも、時にはどうしようもないことが起きることだってある。人はそれを受け入れ教訓とし、また次に挑む。そうやってターフの歴史を紡がれてきた。それが正しいのかも知れない。だけども弱い私には耐えられないから」
タキオンはハッとなり、自らの担当と向かい合った。
その瞳が語る真実。
自分も同じだというのだ。
かつて彼女が師事した、老トレーナー。
彼が育成した最高のウマ娘は、たった4戦走った後、トゥインクル・シリーズを去った。 そして彼自身が深い悲しみを抱き、指導者の席から退いた。
割り切れば良いのかも知れない。
「今回は残念だった。この教訓を活かして、また次を頑張ろう」
老トレーナーもそうだ。一度は現役を退きながらも、かつて育成した先達の勧めに応じて、彼女の後進を育てることを決意したのだから。
アグネスタキオンは紅の双眸を鋭くすぼめ、正面に映る相方の瞳、その奥を覗き込んだ。
何と澄んだ目!
それを見極めたタキオンは、トレーナーの語る真意を悟った。
「何たる馬鹿だ。大馬鹿者だ、君は!」
だから、ここに来てタキオンは吐き捨てる。
どれだけ優秀でも――「ああ、認めるよ。確かに彼女はこの私の目を持ってしても優秀なトレーナーだと断言できる」――いや、その優秀さゆえ、彼女は見切りをつけたのだ。
弱い自分は、担当するウマ娘の運命を――悲劇のそれを受け止める番になったら、絶対に濁ってしまうだろう。
感情の濁りを上手く隠したところで、それは澱となって残り続ける。精神の奥底に堆積していくだろう。
かつてターフを去ったウマ娘もそうだった。
あの寮長は、淡く澄んだ瞳の奥底に、消し去ることのできない澱を潜ませていたのだから。
そんな濁った精神のまま、また別のウマ娘の、そして次のウマ娘と、素知らぬ顔で彼女たちを導いていけというのか。
汚したくない。
耐えられない。
だってどのウマ娘も、同じ時同じ舞台に立てるのは一度きりなのだから。
自分が彼女たちの手を取る資格があるのか。
だから自分は最後まで1人のパートナーと添い遂げよう。
その彼女のことを信じ続け、ずっと彼女の帰りを待ち続ける。
そう宣言して憚らないのだ眼の前のこのトレーナー(大馬鹿者)は!
「はっ、言ってくれるな。馬鹿馬鹿しい……何とも馬鹿馬鹿しい」
心底くだらないと言った調子で、タキオンは大きなため息を吐く。
「言っただろう……。研究とは実験と観測の反復の集大成だと。全ては実験材料なのだよ。最初から情など持たず、その様に扱えば良いだけの話だ」
「実験材料ね……」タキオンの紅の奥を見透かすようにして、トレーナーは呟く。「ではその実験材料に、こうして関心を抱かずにいられない、貴女は何なのかしら」
トレーナーの指摘。
プランBを始めたタキオンは、観察対象とした出走者の有り様を見届けるべく、レース場に姿を見せることしばしであった。実際同期のジャングルポケットなどは、タキオンの姿を見て当てられてしまっていた。
「私の存在を印象付けておくのも研究手法の一環だ。それによって生じた影響も確かに実験の成果なのだからな。何の問題があるというのだね」
「それで実験に重大な影響が生じたとしても?」
「影響も想定のうち」と言っているのに、あえて同じことを繰り返すトレーナーの真意がつかめず、タキオンは顔をしかめた。
「何だね。ラプラスの悪魔における無限後退でも主張しているつもりかい。何百年前の論争の蒸し返しを今さら。それとも量子力学の多世界解釈でも持ちだ――」
「相手はそうね。忌々しい貴女を眼にしたら嫌でも変わらずにいられない。可能性の果てへと至らんとするでしょう。では、そんな彼女たちを観察する貴女は? かつて自身がそこへ至らんと希求した貴女よ。貴女自身が可能性の果てに至らんとする彼女たちを見、変わってしまう。変わらざるをえないということに、気がついていなかったの? そう。貴女は重大な"鍵"を見落としているの」
言い募るタキオンにやんわり被せるように告げられたトレーナーの言葉は、タキオンを一瞬で黙らせた。
虚を突かれ紅い目を柄にも似合わず丸くしたタキオンは、くくく……と笑みを漏らした後、目を細め叫ぶのだった。
「面白い……。いやぁ面白いよ、――くんは。この私の実験に、重大な落ち度でもあっただと。そう言いたいのか。ああ、実に素晴らしい本当に為になる指摘だよ。そうだな、では賭けて見ようじゃないかい。この私が君の言う"鍵"とやらに足を掬われ雁字搦めに囚われて。絆され諭されプランの変遷に至ると。そんな馬鹿馬鹿しいことがあり得るのか……!」
……
…………
……………………
……………………………………………
レースの決着後、興奮の醒めやらぬ観衆たちの歓声を受け、栗色に波打つ髪を靡かせたウマ娘が、レース後の疲れはどこへやら飄々とした態度を崩さぬ、紅い目のウマ娘に駆け寄ってくる。
「今日のところは勝ちを譲ってやっからよ。次は首を洗って待って……あ、おい。こら待てお前!」
アグネスタキオンはライバルの宣戦を聞き流し、抗議の叫びを悠然と背に受けその場をスタスタと立ち去る。
彼女には悪いが、レース後真っ先にやり取りしたい相手は他にいたから。
タキオンの電撃復帰後、ジャングルポケットと直接対決することになったあるレースの決着後だ。
ここまでの事情は既に知られた通り。
国内外の古豪たちにジャングルポケットが挑んだ本年度のジャパンカップ。そのレースシーンを目撃したアグネスタキオンは、魂を徹底的に揺さぶられ、咆哮。
「私が! この眼で! その先の景色を見たいんだ!!」
やがて自らもその脚で高みへ至らんと欲さずにはいられなくなった。
その顛末が、理屈づくめのプランBの破棄だ。
"感情"というファクターの欠落を指摘していたトレーナーの指摘は、いみじくも的中していたのだ。
彼女の復活は、同時に担当トレーナーの復活も意味している。
これまでの様に二人三脚の体制でシニアシリーズを挑んでいくようになった2人であった。
タキオンの体質の問題が改善された訳では無いが、共に一流のレーサーとトレーナー同士だ。現役中レースを支障なく進めていくプランは立っていた。
タキオンの前途に問題はないだろう。
ただし今度はトレーナーの方――。
やがて起こるかもしれない『瑕疵』を恐れるトレーナーは、有りもしない『資格』の欠如を枷として、タキオンの引退後自らも身を引くだろう。
時が来ればいつかは遭遇する、『それ』を恐れるがゆえ。それにタキオンだって、現役中いつ故障しないとも限らないのだ。
それでもだ。タキオンは断言する。
大災を受けてなお、自分はきっとパートナーにこう言うだろう。まだ存在しない未来のウマ娘だって、きっとこう言う筈だ。
「立ち止まるな」
「走り続けろ」
「未来へ繋げ」
ある者は言う。「ウマ娘を動かすことができるのはウマ娘の走りだけ」
そうなのかも知れない。それは転じて、人間の力ではウマ娘を変えることは出来ないという現実を突きつける。
だがだ。この命題を前にして、次の論理は否定されていないのではないか。
「人の心を動かすことは、ウマ娘だって不可能ではない」
傷つくことを恐れるあまり、次の一歩を踏み出してしまうことを恐れるトレーナー。
彼女の頑なな心が、この私に溶かせないと誰が言えるのか。
彼女を説得する。その為のプランを、練らなければならないな。
だから帰りの地下道を歩むアグネスタキオンは紅の双眸を見開き、こう宣言するのだった。
「それでは諸君。実験Ⅱを始めようではないか」
ゲーム版が「トレーナーが(歴史に介入することで)、史実において悲劇的な結末を辿ったウマ娘たちを救う」話であるのなら、
映画版が今度は「ウマ娘が運命を受け入れたトレーナーたちの心を救う話」であっても良いのではないかという話。