言うのが遅れてしまいましたが、UA:20,876、お気に入り:609件、しおり:226件になりました!ありがとうございます!
ここだけの話だが、乙骨は朝起きるのがめちゃくちゃ苦手だったりする。
瞼を開ければ目に飛び込んでくるのは、人工的な印象の白い輝きだ。知らない天井、そこに備えつけられた結晶が、いかなる原理でか淡い輝きを放って室内を照らし出している。寝起きのよさには定評があり、故に一度目が覚めてから意識が覚醒するのが激烈に遅すぎる乙骨はこの状況を10分経った今でも理解できていなかったりする。
寝起きの頭脳に見たことのない天井。これらふたつの現状が原因で頭の中で眠気と?マークが入り乱れ情報が完結しないでいると、
「おっはよーございまーす!!」
「ッうぉ」
ドバーンッ!という効果音が付きそうな勢いと共に開かれる、ぶち壊したら乙骨が失神してしまいそうな額が飛び出てきそうな豪勢な扉。それと同時に聞こえてくる聞き慣れた声。乙骨の口から早朝かつ油断していたこともあって気の抜けた声が漏れ出る。音の発信源に目を窄めながら目線を向けるとそこには普段のジャージ姿とは異なり、寝巻きのような姿に身を包み、珍妙なポーズを決めたスバルがいた。
「おふぁよう、スバル」
「おう!って、まだ眠たげだな乙骨!朝は弱い系男子かぁ!?このモヤシっ子めぇ!」
あくびを混ぜながら返事すると眠たげな乙骨を揶揄うスバル。むしろ朝からそのテンションの方が異質でしょ、とツッコミたいが眠気が勝っているせいで上手く言えない。せめてベッドから出ようと思い口をもごつかせてベッドから降りようとするが、バランスを崩して転げ落ちる。
「……大丈夫?マジで朝弱過ぎじゃね?」
「元々強い方じゃないけど、昨日色々あったから」
「あぁ…」
割と心配になる転び方をした乙骨にスバルは手を差し伸べると乙骨は手を取って立ち上がる。そして、軽く伸びをした後に体を柔らかくするべく柔軟のようなものを行い無理矢理だが、自身の目を覚まさせる。
「改めて、おはようスバル」
「寝みぃならまだ寝てていいんだぞ?いや、俺の家じゃねぇから許可は出せないけどね?」
「大丈夫、大丈夫。さっきコケたおかげで目が覚めたよ」
力瘤を作るように腕を上げて元気アピールをすると「まぁ、お前が言うなら…」と言って引き下がるスバル。ならばとスバルがテンションを上げてこのままここにいるよりも外に出て探索でもしようかと提案する。初め反対しようとしたが、このまま待っても退屈だった為、乙骨もそれを了承。2人して自室を後にする。
「それにしても、どこだろうここ」
「ラインハルトの家か、エミリアたんの家かってとこだな」
「エミリア?」
ここがどこなのかと独り言を言うとそれに反応するスバル。その時に出てきた名前に聞き覚えがない為、聞き直してみる。
「誰?」
「お!よくぞ聞いてくれました!これを語るには山よりも高く!海よりも「簡潔にお願い」昨日、命を助けた見返りにハーフエルフの子に名前を聞いたら答えてもらいました。はい」
明らかに長くなるのが目に見えた為、答えだけ出すように催促する。昨日の見返りに名前を聞くという行為に謙虚だと思うところはあるが、どうやらあのハーフエルフの名前はエミリアというらしい。偽名なのは分かっていたが確かにそのような名前だとパックのリアという愛称や前回のループでの自己紹介で「エ」から初めようとしたのも納得がいく。それにしても、
「ん?わからない?意識のなかった僕は兎も角、スバルは一緒に来たんじゃないの?」
「あー…、実は、さ。俺、昨日お前と同じようにぶっ倒れたからここに来るまでの記憶がないんだよね」
「なんでまた」
乙骨の質問に対して昨日起こったことを説明し始めるスバル。なんでも乙骨が気絶し、介抱した後に瓦礫の中から飛び出した人物がエミリアの命を狙ったらしい。その人物はなんとびっくり【腸狩り】ことエルザであった。
「はぁ!?」
「あー、わかる。あん時の俺も、というかラインハルトもエミリアも似たような反応したもん」
思わぬ人物の名前が出てきたことに驚愕する乙骨。そんな乙骨の反応に対して腕を組みながらうんうんらと頷くスバル。乙骨の反応も無理はない。何せ里香に掴まれたのち、万力のような力で握り潰されたのだ。おまけにダメ押しでもするかのように盗品蔵へと全力で投げ捨てられていた。あの状況で生きてると思える方が難しい。スバル曰くあの後、2人から教えられて知ったらしいのだが、どうやらエルザは伝説に名高い吸血鬼だったらしい。細胞一片残らず消されたら蘇れないが、頭部とかのパーツさえ残っていれば吸血鬼なら再生して蘇られるらしい。
当然、突如として現れた存在を前に誰も反応出来るはずもない。ラインハルトなら見てからでも反応できそうだが、初めての全身を蝕む痛みを前に体を動かしきれなかったようだ。で、あわや凶刃がエミリアを捉えようとした瞬間、
「俺が助けたってわけよ!」
「……本当にファインプレーじゃないか。よく反応できたね」
「え、い、いやぁ、それほどでもぉ」
ドヤ顔になりながら親指を自身に指して胸を張るスバルに思わず拍手を送ってしまう乙骨。拍手されるとは思わなかったのかスバルはめちゃくちゃ照れくさそうにしているが、それだけ凄いことをしていたのだと乙骨はどこか誇らしく思っていた。ひとしきり照れ終えたスバルは話を戻す。拾ったロム爺の棍棒を急所が並ぶ正中線をカバーするようにガードすると腹を狙ったエルザの攻撃を凌いだらしい。仕留めきれなかったエルザは分が悪いと判断して撤退。で、その後に月下の元でエミリアの名を聞き届けたのだとか。
「まぁ、実は凌ぎきれてなかったらしくて腹ぁ裂かれちゃってたんだけどね。って、どったの?」
「いや、さ。なんか僕、めちゃくちゃ情けないなぁって」
肩を落としている時にスバルに聞かれると胸の中で生まれていた情けなさが前面に押し出されてくる。片や衝突する寸前の戦闘を止めたのちに両者の放つ覇気にやられて気絶した自身とエルザの攻撃を死ぬ気で守って好きな人を守りぬいたスバル。言葉にすればするほど、字面にすればするほど情けなさが際立つ。そんな様子を見たスバルは乙骨の内心を察したのか慰める。
「いやいや。ブチギレた悟空とベジータのかめはめ波とギャリック砲がぶつかる寸前みてーな状況を体張って止めたお前も大概だろ」
「そうかなぁ」
「いや、マジで。あの状況で動けたのってお前だけだったからね?」
俺とかもー足ガクガクだったわと言ってくるスバルの言葉に少しだけ胸を張れそうな気分になる乙骨。その後、あの後何が起こったのかの説明や互いにあの時できたことを讃えあって話し続けていると、ある変化に気がつく。
「……ねぇ、スバル」
「ん、なんだ?」
「廊下、長くない?」
足を止めてそう言うとスバルも釣られて足を止めて前を見る。この屋敷は広い。それは貸し与えられた?部屋が自身の住まう1LDKのアパートの一室がすっぽり収まってしまうほど広いことから知って入る。故に相対的に考えればこの屋敷もまた、とてつもなく広いのだろう。が、いくらなんでもおかしい。乙骨とスバルはずっと
これが横長の屋敷だと言われたら納得できるかもだが、話し続けて早10分以上は経過している。横長であったとしても限度があるというものだ。どうやらスバルもそれに気づいたらしい。
「ループしてんのか?これ」
「スバルって例の能力といい、ループものにすごい縁があるよね」
「嫌すぎる!もっとこう、美少女とかの縁がよかったわ!」
自身の言葉に全力で嘆く。念のため事実かどうか確かめるべく、隣に飾ってある絵を目印に軽く歩いてみた。結果はループものだとわかった。どうしたものかと考える。何せただ道に迷ったのではなく、魔法によって故意か偶然か、或いは防犯なのか知らないがこの現象は第三者が絡んだものだ。その為、その場で座り込みスバルと作戦会議を行い、浮かんだ作戦を実演する。
「「誰かー!!もういい加減やめてくれませんかーーー!!!」」
作戦は簡単。作戦名の通り2人して大声を出してみる。防犯目的ならばこれで解いてもらえる可能性が高いのだが…
「解けて、ねぇな」
「ぽいね」
大声を出した後に先ほど同様に絵を目印にして歩いてみたのだが変化はなく、同じところをぐるぐると回っているだけに終わった。
◇
「そもそもさ。ループしてるんじゃないんじゃないかなぁ」
「へ?ていうと?」
「スバルちょっと靴借りていい?」
乙骨がそう促すとスバルはその場で靴を脱いで渡す。乙骨は自身も脱いだ靴を縦に置き、スバルのも同様に置いて並べると説明する。
「つまりさ、僕達の動きに合わせて空間をつぎはぎにしてるじゃないのかな?」
「成程!メビウスの輪みたいなのじゃなくて切り取って張ってを繰り返してるのか!」
「こんな感じで」と言いながら繰り返し交互に入れ替えるようにして並べていく。スバルは盲点だったのか驚き、なるほどと言いながら出た言葉を吐く。「メビウスの輪」という単語に乙骨は頷くと納得したスバルに靴を返す。靴を履いたスバルは走る準備をし始めると乙骨は逆方向を向いて自身なりに準備をする。
「なんで逆?」
「走ってつぎはぎが間に合わなくさせるのは同意見だ。でもどうせなら二手に分かれて不規則に動けばより間に合わなくなるんじゃないかと思ってさ」
乙骨の言い分に納得したスバルはニヤリと笑ってクラウチングスタートのポーズをとる。「1、2の3っ!」という乙骨の合図と共に一斉に駆け出す2人。もしもこの予想が当たっていたのなら空間は歪み、この場から脱出ができる。結果は、
「ゼェ…ハァ、ハァ、大丈夫か?」
「オェ、うんっ、なん、とか」
大外れ。しかも、相当性格が悪いのか空間を引き延ばしたらしく必要以上に走らされたという結末。モヤシっ子な乙骨は吐く一歩手前まで、体を鍛えているが病み上がりなスバルは息も絶え絶えといったようすとなった。
◇
「却下」
「だよなぁ」
体力を無駄に消費させられて飛び出してきたスバルの案に乙骨は迷うことなく却下する。その作戦は里香を使っていっそのこと空間もろとも破壊してしまおうというものだった。これに関してはスバルも思うとこがあったらしくすぐに却下を納得してくれた。万が一、この作戦が実行されたらエミリアの屋敷だった場合でもラインハルトの屋敷だった場合でもどう転ぼうが恩知らずになる。それにラインハルトの屋敷だった時は最悪の場合、里香vsラインハルトの第二ラウンドが勃発することとなるのだから。
◇
「まーじでどうすんの!?」
「手詰まりだなぁ」
手詰まりな現状に叫ぶスバルに作戦も出し切ってへこたれる乙骨。道に迷ったとか、罠が大量に仕掛けられているとかそういう単純なのではない。元の世界では決して起こり得ることのない『空間をどうこうされる』というどうしようもない状況を前に本気で心が折れそうだ。
流石に疲れたこともあっていい加減このループから抜け出すべく、思考を巡らせる。すると、スバルが近くにあった扉のドアノブに手をかける。
「……いいの?それって最初にスバルが2度と出てこれない場所に繋がってるかもってことで却下してたけど」
「もうこれしかねぇだろ。…それに存外、ループしまくりのあとの罠満載の廊下。こういう典型的なダンジョンイベントって、意外と最初のドアがゴールだったりするよな」
そんな思いつきに等しい発想で扉を開き――、
「……なんて、心の底から腹の立つ奴等なのかしら」
見覚えのない書庫の中、こちらを見つめる巻き毛の少女の恨み節を受けた。しかし、そんなことを気にすることはなく乙骨は目を輝かせた。
「うわぁ…!」
そこはまさしく、『書庫』と呼ぶしかない部屋だった。広いスペースは二十畳ワンルームの倍ほどもあり、壁際を始めとして至るところに書棚が設置されている。どの書棚にも本がみっちりと詰められていて、蔵書数はどれほどになるのか想像するのも難しい。
「すっご」
元の世界でもなかなか見ない規模の書庫を前に乙骨は少し興奮したように驚く。実は乙骨の趣味は読書だったりする。取り憑いている里香の存在もあって他人と関わることがほとんどできなかった時期は人生の半分近くと恐ろしく長い。そんな乙骨を見かねた乙骨の妹が「趣味でも作れば?」と言って勧めてきたのが読書だった。
初めこそ何もできない自身の手慰みとして始めたものだった。が、1人でいることが多かったこともあってどんどんと読んでいくうちに書物の中で展開されていく世界に没頭。結果、自身の借りている部屋の1割近くを占める本棚がびっしりと埋まるほど本にハマってしまった。
「うわぁ!こんな大きな書庫は初めてだ!ねぇ、ここの書物って読んでもいいの?」
「……下から二つ目でならいいのよ」
「ありがとう!」
興奮を抑えきれずに本棚へと近づく乙骨。念のため書庫を管理していると思しき金髪の幼女に許可を取ると書物の一つに手を出す。そして、ページをめくってみるのだが、
「……わかんない」
「そりゃそうだろ」
先ほどのテンションが一気に下がり、肩を落とす乙骨にスバルは呆れたようにツッコむ。若干分かってはいたが文字の意味がかすりもしないほどわからない。一応、日本語訳されてない海外の本の原本も読むことがあった為、多少の外国語ならわかるが象形文字のようでまるでわからない。すると、その反応が気に食わなかったのか幼女の機嫌があからさまに悪くなる。
「他人の書架をずけずけ眺めて、おまけにため息。……ひょっとしてケンカ売ってるのかしら? だったら買うのよ?」
「あ、ごめん」
「いやー!初対面の相手と準備なしに話せるほどコミュ能力なくてさぁ。ちょっぴり助走入れるくらい許してくれよ、メンゴ」
乙骨は素直に謝り、スバルは舐め腐ったように舌を出して謝る。そんな対象的な謝り方をする2人を見て目頭を揉む幼女。
「指輪つけた男はまだマシかしら。お前は本の価値を理解できている。不用心なのはいただけないけど本を読む時にベティーに許可を取り、扱いもまた本が傷つかないように気を遣ってる。最低限、マナーがなってるのよ。そこの礼儀知らずとは違って余程立派かしら」
「えっと…ありがとう?」
「おい待てこら」
ゴスロリ幼女のセリフに青筋立てたスバルを無視しながらゴスロリ幼女は本を読むもの同士で理解できることでもあったのか乙骨を高評価してくる。困惑しながらも礼をし、取り敢えずここの場所について問う。
「ここはなんて言うの?」
「『禁書庫』かしら。文字通り、本を保管するところなのよ。ベティーはその番人」
「へー、この数を…。お母さんのものかな?」
「―――ええ、そう、なのよ」
最後の質問の際に顔が悲痛そうに歪んだことに疑問が浮かぶ。が、それよりも一代で築いたのでなないだろうが、劣化しやすい書物をこれだけの規模で管理することに乙骨は感嘆する。すると、今度はスバルが反応する。
「へいへいどうしたベティーちゃん!もっと笑顔でいようぜ! ほら良く言うじゃねーか、ロリの笑顔に勝るものなしってな!」
「そろそろベティーも限界なのよ。ちょっと思い知らせてやった方がいいような気がするかしら」
スバルの煽りにも似た言い回しに堪忍袋の尾が切れたのか安楽椅子から立ち上がると手を前に突き出す。そして、
「――動くんじゃないのよ」
ゾッと、背筋を寒気が走るような感覚がスバルを襲った。ふいに、それまで書庫の中を支配していた古い紙の臭いが消し飛び始める。直接向けられていない乙骨でさえも肌が泡立ちそうになるほど目の前にいる幼女の機嫌は悪い。
「何か言いたいことでも?」
少女は首を傾けて、目を見開き、唇を震わせるスバルに問いかける。止めようとしたが、思い浮かぶのはスバルの数々の態度。そう思うと「あれはないな」と思い止めようとするのを思いとどまる。
「い、痛くしないでね」
「軽口もここまで徹底してると感心するのよ。――痛いかどうか、それはお前次第じゃないかしら」
本気で感心したような口調で言って、少女の手がスバルの胸に伸びる。掌がスバルの胸に合わされ、表面を優しく慎ましやかに撫でた。瞬間、呻き声をあげながらスバルは倒れた。
「は?」
「気絶しなかったみたいなのね。聞いてた通り、頑丈なのよ」
「な、何しやがった、ドリルロリ……」
「ちょっと体の中のマナに聞いただけなのよ。――凡庸なのに、変な魂の形をしているかしら。ゲートも閉じっ放しみたいだし」
矛盾した内容を呟き、少女は崩れ落ちたスバルの前で膝を折る。彼女は必死に上体を支えているスバルを指でつんつんしながら、
「まあ、敵意がないみたいなのは確かめられたのよ。それに、これまでベティーに働いた散々の無礼も、今のマナ徴収で許したげるかしら」
「スバル!」
突かれて限界に達し、震える腕で支え切れずにスバルの上半身が床に落ちる。明らかに尋常じゃない様子のスバルを見た乙骨は持っていた本をしまってすぐに駆けつける。すると、口の端で泡を作るスバルは少女を見つめると悪態をつくようにして忌々しげに話す。
「くそ……お前……人間じゃ……ねぇな……」
「気高く貴き存在を、お前の尺度で測るんじゃないのよ、ニンゲン」
謎の遺言のような言葉を残してスバルは今度こそ意識を落とした。乙骨はあまりにも温度を感じられないことに驚くわけでも、超常じみた存在である少女に戦くわけでなく、
「おい」
「ん?」
「スバルに何をした」
友を傷つけられたという事態に怒り狂っていた。確かにスバルの言い分は擁護できるものではなかったかもしれない。しかし、ことの発端は言い分からして目の前の少女である。叩き出すなどの対応であれば乙骨も笑って流した。だが、行った対処はこれである。腹を裂かれて病み上がりなスバルに対する所業ではない。
瞬間、乙骨の怒りに呼応するように膨大という言葉を用いてもなお足りないほどの魔力が動き始める。影が歪んでそこから白い手が這い出ようとする。が、
「ッッッッッ!!!」
「おわぁ!?」
それを感じた少女はすぐさま手を横に薙ぐと空間が歪み始める。そして次の瞬間には乙骨の足元に黒い穴が出現。乙骨はその穴に落ちると廊下に身を投げ出させられた。