Re:ゼロから始める呪術生活   作:アーロニーロ

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遅れてしまい申し訳ありません。日常回を書くのがクソ難しいです。


自己

 

 あれから早、4時間が経過した。今、スバルはエミリアと共にデート中。そして乙骨はというと、

 

「ほらほら筆が止まってるのよ」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 ベアトリスと共に文字の読み書きの練習をしていた。彼女が書き出してくれた基本の文字を、ページ一枚に四百文字ほどのペースで書き連ねていく。ゲシュタルト崩壊を起こしそうな積み重ねだが、この地道さこそが必要な手段と割り切って没頭している。しかしそれでも文字の読み書きの練習など英語の授業が最後だったことを考えれば、読みはともかく書きに関しては若干一年ぶりとなる。見かけた文字ならともかく見たこともない文字列ともなれば難しさは一押しだ。

 

 初めはとんだカミングアウトをした乙骨に対して「さっきの言葉は嘘だったんか、ワレ」みたいな白けた目線を向けてくるベアトリスに対して必死になって弁明をした。今まで読んできた本を参考にして本の造詣のいろはについてひたすら語ることで―――この世界にはない本ということもあって苦労はした―――なんかと納得はしてもらった。

 

 読みに関してなのだが、これは割と苦労はしなかった。この国、というかこの世界にはどうやら文字が3種類存在しているらしく、基礎となるイ文字から始まってロ文字、ハ文字となっている。ベアトリスとしては時間をかけてイ文字を学ばせてからあとは自己学習でもさせるかメイドでも使って覚えさせようとしていた。

 

 が、ここで想定外だったのが乙骨の脳みその出来が思っていたよりも良かったということだ。

 

 勉強を開始してからわずか数時間足らずでイ文字に関しては既にコンプリートしかけてたりするのだ。あまたの本を読了してきた乙骨からするとイ文字は形こそ象形文字に見えるがその実、日本語と同じようにその文字単体で『あ』と読むなど日本語に馴染みのある乙骨にとってかなり覚えやすかった。おまけにロ文字に関しては日本でいうところのカタカナ枠であった為、イ文字との差が見分けにくいこともあり文字の形に苦戦してはいたものの、多少の違いを見つけた今となってはそこまで苦労はしてなかったりするのだ。

 

 で、そんな乙骨に対して火がついたのがベアトリスだった。

 

 ある程度文字の読み書きができるようになったとわかるや否やイ文字オンリーの本やイ文字とロ文字が混ざり合った本を読ませてみたり、自己紹介の文を書いてみることを促すなどかなり積極的に乙骨の教育に取り組んでいた。多少スパルタではあるが、かなりわかりやすく説明してくれたりと今の状況は乙骨にはありがたかったりするのだ。

 

 それに乙骨とてただ文字を書く練習をしていたというわけではない。ベアトリスから貸し与えられた本を通して今いる国についての理解を深めていた。どうやらこの国は『親竜王国ルグニカ』と呼ばれ、世界のもっとも東に位置する大国であるらしい。人口30万ぐらいの王都ルグニカを中心に、六茫星を描くように人口20万から30万クラスの大都市が六つ配置されているらしく。ずっと昔から王族と竜に結ばれた盟約によって繁栄を助けられてきたらしい。

 

 色々と振り返りながら文字を書いている時、ふとあることを思い出してベアトリスに聞いてみることにした。

 

「ベアトリス」

 

「ん?なんなのよ」

 

「サテラ、って何かわかる?」

 

「――――お前、それ、本気で言ってるかしら?」

 

 乙骨の質問に対して絶句した様子でこちらを見てくるベアトリス。乙骨としても偽る理由がない為、頷く。すると、これまた力強くため息を吐きながら近くにあった絵本を浮かばせて手に取ると広げる。中の挿絵は嫌におどろおどろしい場面が随所に見受けられた。怖い系のやつかと思っているとベアトリスの説明が始まる。

 

 嫉妬の魔女「サテラ」が銀髪で、ハーフエルフだったという事を。

 

 他の6人の魔女を自らの糧にし、世界を敵に回し、世界の半分を飲み込んだ大罪の事を。

 

 賢者と龍と、剣聖の力を持って、滅することも出来なかった事を。

 

 そして今も大瀑布という場所に封じられている事を。

 

「なんていうか、これぞ世界の敵って感じだね」

 

「実際、世界の敵そのものなのよ。当時、あの時代にいた英雄が犯罪者が龍がそして全てが嫉妬の魔女に挑んだのよ。それも悉く飲み干してしまった」

 

「仮にさ、ハーフエルフの子が『サテラ』を名乗ったら…」

 

「自殺志願者か頭に問題のある余程の阿呆かのどちらかかしら。いずれにせよお話にすらならないのは確かなのよ」

 

 ベアトリスは乙骨の質問に手をやれやれとでも言いたげな態度で挙げるとそう言い切った。それを見た乙骨は前のループでエミリアのやった銀髪にハーフエルフな人間が『サテラ』を名乗るというのがどれだけリスキーなのかを認識させられる。こちらの世界で当てはめるなら鉤十字の軍服着たちょび髭親父が「私はヒトラーです」と宣言してるようなものなのだろう。

 

 ハーフエルフと関わらせないようにする配慮があったそこには確かな優しさがあったのだと改めて確認させられる。すると、

 

「――呼んでる」

 

 ふいに、そんな呟きが書庫内に静かに響いた。机に向かっていた乙骨は何事かと思い顔を上げる。側にいたベアトリスが扉の方に顔を向けていた。彼女は脚立から軽やかに下りると、

 

「呼ばれているかしら」

 

 瞬間、目の前で空間が歪むような違和感を乙骨の全身は得た。浮遊感に近い感覚が全方位から体に襲いかかり、刹那にも関わらず、振り回されたような感覚に全身に気だるく蔓延する。平衡感覚がめちゃくちゃになりながらも必死に立ちあがろうとしてずっこける乙骨。それを見たベアトリスはバツが悪そうな顔をして謝った。

 

「一声かけるべきだったのよ」

 

「い、いや、問題はない?のかなぁ」

 

 頭を押さえながら立ち上がる乙骨。それを見届けたベアトリスは扉を開く。するとそこには、

 

「よーっす!って、あれ?乙骨じゃん。てっきり引きこもりのロリっ子が出てくんのかと思ったんだけど」

 

「誰がロリっ子かしら!」

 

「お、いたいた。そしてお前だぜ〜ドリルロリ」

 

 スバルが満面の笑みで出迎えていた。一際広い部屋に驚かされつつも、並んでいる食事を見るにどうやら食堂のようだ。スバルを筆頭にメイド2人もエミリアもいる。残りの参席の内、ベアトリスと乙骨の分が2席だと考えると残りの1人は未だにきてないことになる。一体どんな人なんだろう。そんなことを思いながら席に就こうとすると。

 

「おーやおや。君が食事の席にいるなんてだーいぶ珍しいんじゃないかな?ベアトリス」

 

「お前の珍妙な格好と喋り方には劣るのよ」

 

 後ろの方から声が聞こえてくる。

 

 振り返るとそこには文字通り道化がいた。

 

 容姿は髪は長めで藍色。左目が黄色、右目が青のオッドアイだった。そして日本人にしては高めな乙骨に近しい身長と恵まれた体格を持った男はピエロメイクで台無しにしていた。

 

 エルフ、メイド、金髪ドリルに続いて登場したピエロを前に思わず固まる乙骨。そんな乙骨を見たピエロは心の底からおもしろそうに笑うと肩に手を乗せて自己紹介をしてくる。

 

「はーじめまして。私の名前はロズワール・L・メイザース。一応、ここの屋敷の主人さ」

 

「あ、ご丁寧にどうも。……ん?主人?」

 

 思わぬ単語が飛び出たことに下げた頭を思わずあげて顔を確認する。いつの間にか息がかかるほどの超至近距離に近づいていることを無視しつつ、周りを見渡す。レムとラムの2人はこれといった変化はなかったが、エミリアは苦笑いし、スバルは「うんうん、俺も同じ道通ったわー」みたいな顔をして頷いている。そして再度、ニッコリと笑っている本人へと目線向ける。目線を背けようにもタイミングを失い、見つめ合い続けると、

 

「ちゅっ」

 

「きゃああああああああ!!??」

 

「お、乙骨ゥゥゥゥゥ!!!」

 

 止まらないピエロによってデコチューされて乙骨の口から絹を裂くような悲鳴が飛び出した。造形がいいとは言え、男かつピエロメイクの男にキスをされる趣味など乙骨には存在していない。喧嘩慣れしてない乙骨が咄嗟に放ったボディーブローは綺麗にロズワールの鳩尾へと着弾。主人に害されたことでメイド2人が殺気立っているが乙骨としてはそれどころじゃない。

 

「大丈夫か、乙骨!!?傷は深いぞ!!」

 

「り、里香ちゃんが、里香ちゃんがヤバいんだ」

 

「あ!うん!絶対に抑えろよ!?」

 

 崩れ落ちた乙骨に駆け寄るスバル。ピエロにキスされたショックで倒れ込んだのかと思っているようだがそうではない。里香が乙骨の中で暴れ狂ってるのがヤバいのだ。里香は乙骨のことを溺愛している。そんな乙骨の唇ではないとはいえファーストキスを奪われたらどうなるのか。ガチギレである。乙骨が断片的に伝えるとスバルも察したのか青い顔をしてなんとか留めるように伝える。

 

 高笑いを決めるピエロ、殺気立つ双子メイド、我関せずなドリルロリ、呆れかえるハーフエルフに焦りまくる異世界人。

 

 大凡、誰1人として共通点がない中、混沌とした形でロズワール邸のメンバーが全員集まった。

 

 

「では、食事にしよう。――木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」

 

 あれから色々とあったが、乙骨は成り行きとはいえロズワールを殴ったことを謝り、ロズワールもまたからかい過ぎたと謝った。そしてその後一通り終えた自己紹介が一区切りつくと、ロズワールの鶴の一声でようやく昼食が始まった。彩りの良い様々な料理は、どれもこれもがスバルと乙骨を唸らせる味で、あの騒がしい一日で失ったエネルギーが一気に補充されていくのを二人は実感した。

 

「すごい美味しい…。誰が作ったんだろう…」

 

「それでしたらラムの妹が作ったわ」

 

 魚料理を食べながら思わず感心したようにそう言うとラムが反応してきた。目線をレムのほうへと向けると小さくVサインを送ってきている。

 

「へー、凄い。もしかしなくてもここの料理って」

 

「ええ、その通りですわ、お客様。当家の食卓は基本、レムが預かっております。姉様はあまり得意ではありませんから」

 

「ははーん、双子で得意スキルが違うパターンだ。じゃ、桃髪は料理苦手で掃除系が得意な感じ?」

 

「はい、そうです。姉様は掃除・洗濯を家事の中では得意としていますわ」

 

「それは凄いな。綺麗に役割分担出来てるってことか」

 

「いえ、レムは基本的に家事全般が姉様より得意ですので大体はレムが後追いでやっています」

 

「桃髪の存在意義が消えたな!?」

 

 どこぞの世紀末な世界では兄より優れた弟はいねぇらしいが姉よりも優れた妹はいるらしい。それをスバルと乙骨の両名によって明らかになった。ちなみに肝心の姉はというと「ハッ!」と反応するあたりどこ吹く風といったようすだ。そんなこんなで頬を綻ばせながら食事に舌鼓を打ち、自然とロズワール邸のメンバーとの会話がとても盛り上がった。そして話はあの件、つまり騒動の中心になった徽章の話になったのだが、

 

「エミリアさんが王様候補?」

 

「うん。今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」

 

「マジ、かよ…」

 

 あの日あの夜で出会った少女の正体は王様の候補生だというのだ。来ている服や態度から高位の人物であることはなんとかなく察してはいたが、まさかここまでとは思わなかった。そしてそのあと出てきた話題にさらに度肝を抜かれることになる。

 

「え!?待って、あの徽章って王選参加権だったの!?

 

「おいおい!なんてもん無くしてんだよ、エミリアたん!!」

 

「待って!無くしてないわ!すられただけよ!」

 

「「なお悪いわ!!」」

 

 なんとビックリ、この少女。王様になるための証を無くしかけたというのだ。咄嗟にエミリアは乙骨とスバルの言い分に言い訳するがすぐにツッコまれて反論できなくなってしまう。無理もない話だ。如何に盗むのが悪いとは言え、盗まれた隙を見せるエミリアもエミリアなのだから。理由はともあれ候補の証をなくすのは候補者にとって非常に大きなスキャンダルとなること間違いなしだったはずだ。

 

「王様候補のスキャンダル回避って考えると俺達って結構凄い功績残したんじゃね?」

 

「そーうだねぇ、加えてエミリア様の命も救って頂いた。こーれに勝る功績はなーかなかなーいねぇ。故に、キミ達への恩はそぉーれこそ表現できないほど大きなものになってるよ。もしキミ達が望むなら……報酬はお望みのまま、どーんな願いでも叶えてあげよう」

 

「マジっすか!!」

 

 スバルは喜ぶが乙骨としてはあまり素直に喜べなかった。何せこちらは不法入国&戸籍なしの存在しないとされている人間。報酬なんぞ渡さずとも適当なところで殺してしまえば済む話にのだから。そういったことを心優しいエミリアはやらないと思うが、それ以外の人間がやらないとは限らない。それ故に求めるべき報酬は出来るだけ謙虚かつ、住む場所を獲得できるところがいいと判断し、宣言する。

 

「俺をここで働かせてくれ!」

 

「僕をここで働かせてください」

 

 奇しくも乙骨が求める内容とスバルの求める内容は意図せずして一致することになったのだった。

 

 

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