久々に書いてみたけどやっぱり描き初めがめっちゃ難しいですね。すごい躓きますわ。
「マジで勘弁してくれよ。俺たちにどうしろっつーんだよ」
「むしろ如何なる装備を持ってても異世界ってだけで通用しないんじゃないのかなぁ…」
乙骨と昴は互いに軽く自己紹介を済ませたのちに薄暗い路地裏に腰を下ろして互いの現状把握と持ち物を確認し合うことにした。地面は舗装されていて、現代日本と比較すれば雑な仕事だが悪くはない。現状が異世界ファンタジーと仮定して、文明はお決まりの中世風。見たところ機械類は一切なしで、建材も石材か木材でほぼ統一されている。
言語に関してはかなり不安視していたが、道すがら話している人間?の声を聞く限り言語の壁という点に関しては問題はないようだ。ならば文字も日本語なのかと聞かれたら否であった。近くの商品の札を見るがどうも読めない。まさに異世界文字、こっちの世界の楔形文字のようだ。しかし、不思議なことに話してる言語は日本語と意味不明。疑問が疑問を呼び、頭が整理されない。仮にそれ以外で問題があったとするならば、
「わかってたが貨幣が違ったかぁ」
「日本円を渡した時、あからさまに顔を顰められたもんね」
そう、貨幣の違いである。これに関してはなんとなく予想していた通りだった。何せ元いた世界ですら国が違うだけで貨幣が変わる世の中なのだ。文字通り世界が変われば貨幣の形など容易く変わってしまう。ちなみに確認したのはコミュ症を拗らせた乙骨よりマシな昴である。すぐそばにいた果物屋と思しき店との交渉をおこなった。店先に並んでいたリンゴ、否こちらではリンガを買おうとして、日本円を拒否されたのだ。そのときに見た限りでは、この世界での通貨は金貨、銀貨、銅貨などらしい。
「金もねぇ、武器もねぇ、呼び出した美少女なんていもしねぇ。オラこんな異世界いやだぁ」
「気が滅入るからそんな歌歌わないで…」
乾いた笑みを浮かべながら昴が歌っているのを乙骨は止めようとする。昴の態度も無理はない。なにせこの世界に来て力が目覚めたようなこと一切なくかと言って所持品は
昴がまずケータイ(電池切れそう)、財布(レンタルビデオ屋の会員証多数)、コンビニで買ったカップラーメン(とんこつ醤油味)、同じくスナック菓子(コーンポタージュ味)、愛着しているグレーのジャージ(未洗濯)、使い古したスニーカー(二年もの)で
乙骨がスマホ(充電かなり有り)、財布(所持金トータル3,000円に銀行のカード)、コンビニで買った商品(おにぎり数個にジュース一本)、学校で配布された制服(新品?)、首からかけた指輪、最近購入した運動靴である。
武器の所持など一切なく、転移してから持ち物は変わらず。もはや清々しさすら覚える初期装備を前に二人仲良く項垂れながらもため息を吐く。しかし、そんなことをしている場合ではない。何故ならば、
「おい、兄ちゃんたち。痛い目みたくなきゃ金目のもんだしな」
ふいに路地裏に響いた足音――見れば路地の入口、三人ほどの男が道を塞ぐように立っていたからだ。セリフから察することが出るように明らかに物盗り――しかも、世界設定的に物だけじゃなく命まで盗られる可能性がある類の。
「それに異世界召喚だぜ。俺無双パターンからすれば、ひょっとしたら俺はこの世界じゃメチャクチャ強いかもわかんねぇ。……よし!いけるかもわかんねぇな!」
「なーんか、ぶつぶつ言ってるよ、アイツ」
「状況がわかってないんだろ。教えてやればいいんじゃないか?隣のやつみたいによ」
気分の盛り上がるスバルに対し、男たちの反応はやや冷たくしながらもニヤけながら乙骨の方へと目線を向ける。チンピラの言う通り乙骨の顔からは血の気が完全に失せていた。その様子にチンピラたちはこれから乙骨が自身の身に降りかかるであろう暴力に対しての焦りだと判断して笑みが溢れる。
その様子を見たスバルは乙骨の前に庇うように立ち塞がってファイティングポーズをとる。スバルは内心で守ってる俺がカッケー!とか想っている。しかし、
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!なんで昨日の今日に限って同じことが!)
乙骨からすると内心ではそれどころではなかった。マズイどころの騒ぎではない。先ほどから感じるのだ。影に蠢く彼女が
あの時の繰り返しともあって確実に半死半生まで嬲るのは確定している。時代背景が中世ごろなのを考えると騎士たちが存在しているのは明らかだ。しかも科学とは真逆のオカルトじみたこの世界ともなれば乙骨のことを補導してそのまま牢屋にぶち込まれる可能性すらあり得る。
しかし、乙骨からするとこの際、自身の身がどうなるうがどうでもいい。問題はそう、スバルとチンピラ三人衆である。100歩譲ってチンピラ共は自業自得で片付けるにせよあそこまで友好的だったスバルまで巻き込まれたら洒落にならない。今度こそ心が折れる。
かと言って引きこもりを自称していたスバルやどこに出しても恥ずかしいもやしボディの自身を戦闘面で期待することすらどうかと思うレベルだ。幸いにも後は人通りが多い場所、駆け抜ければ逃げ切ることは可能。そう判断した乙骨はスバルの服を掴んですぐに逃げようとする。しかし、乙骨の予想は真逆の方で覆された。
「どらっしゃい!!」
「え!?」
妙な掛け声と共に男たちが動くより先にスバルの先制攻撃が入った。懐に飛び込んで渾身の右ストレート。先頭の男の鼻面を見事に直撃し、当たった相手の前歯が理由で拳骨から血が出ているのがわかる。
「喧嘩とかできたの!?」
「いや!人ぶん殴るのも初めてだ、よっと!」
「ぐはっ!」
乙骨の驚愕に対しての返答のように弧を描く足先が男の側頭部を打ち抜くことで壁に叩きつけて二人目を悶絶させる。あと1人残っているがこのままなら行ける!思わぬ展開に驚いていると一人の男がナイフを取り出す。明確なまでの命をとります宣言。一瞬怯みかけるが相手は一人でこちらは二人。今なら制圧できる。流石に見ているだけではと思い参戦しようとした瞬間!
「すみません俺が全面的に悪かったです許してください命だけは――!」
「えぇ……」
「いや!流石に刃物反則だろぉ!?」
あまりの情けなさにさしもの乙骨もこの表情。こんな状況を相手が見逃してくれるはずもなく、気付けば一撃食らわして倒したはずの二人も復活している。それぞれ鼻血の垂れる顔を押さえていたり、くらくらする頭を振ったりしているが、それ以外は元気そうだ。二人は殴り飛ばした張本人であるスバルへと駆け寄るやいなやすぐ様暴力を執行し始めた。土下座する顔面を上から踏みつけられ、額で地面を削って血が流れるのをみた乙骨は助けを呼ぶべく振り返る。しかし、
「おいおい、友達置いてどこに行こうってんだよ」
いつのまにかナイフを持っていた男が逃げ道を塞ぐように回り込んでいた。背丈は乙骨が優っているからどうにかしようと思うが、ナイフによって与えてくる脅威が大きすぎる。
「か、金目の物が目的ならなにも……!」
「なら珍しい着物でも履物でもなんでもいーんだよ。路地裏で大ネズミの餌になれ」
笑いながら男はそう言いながら近づいて乙骨を壁に押し付けると浅くナイフを刺した。それが分水嶺だった。
「へ」
瞬間、目の前でナイフがまるで塵紙を丸めるかのように容易く丸くなった。舌を出した男は目の前で起こった怪奇現象を前に呆気に取られる。そして驚愕はそれだけで終わらなかった。
壁から死人を思わせるほど、生気を一切感じさせないほど青白い手が、男の全身を包み込んで握り潰すには余裕すぎるどの大きさをもって現れる。この怪奇現象に気がついているのは乙骨と中くらいの男だけ。残りの2人はスバルを殴ることに夢中だし、スバルもそれどころではない。誰一人として助けが来ない。その事実に男は声も出せずにいた。乙骨が「待って!」と言っても止まる気配がない。あわや男の顔が握りつぶされそうになる。しかしそれは、
「――そこまでよ、悪党」
どこまでも透き通るような美しい声によって阻まれた。
美しい少女だった。
腰まで届く長い銀色の髪をひとつにまとめ、理知的な瞳が射抜くようにこちらを見据える。柔らかな面差しには美しさと幼さが同居し、どことなく感じさせる高貴さが危うげな魅力すら生み出していた。
身長は百六十センチほど。紺色を基調とした服装は華美な装飾などなく、シンプルさが逆にその存在感を際立たせる。唯一、目立つのは、彼女の羽織っている白いコートに入った『鷹に近い鳥』の紋章を象った刺繍か。その荘厳さすら、少女の美しさの添え物にすぎないと思わせるには十分だった。
「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。――そこまでよ」
あまりにも場違いと言わざるを得ない人の登場に乙骨もスバルも、果ては暴力に勤しんでいたチンピラすらも少女の方へと目線を向けていた。そして目の前の状況を把握したのか二人は慌てるそぶりをしながらスバルから離れて釈明し、今まさに命の危機にさらされていた男は膝から崩れ落ちるようにその場にへたり込んだ。
「待て待て!待ってくれ!な、なんだかわからねえが、こいつは見逃す!だから俺たちのことは勘弁して……」
「潔くて助かるわ。今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」
「だから悪かったって……へ?盗った物?」
「お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。――今なら、命まで取ろうとは思わないわ」
懇願の気配すら漂わせていた言葉の最後、そこだけが明確に怒りをはらんでいた。少女の視線は鋭く、差し伸べるように向けられた掌は何も掴んでいない。しかし、そこに言葉にし難い何かが集まり始めるのを理解した。
「ちょ、待って! ……あの、話が食い違ってると思うんだがっ」
「……なに?」
男たちが足蹴にしているスバルと壁際に追い込まれていた乙骨を指さすと、
「ええっと、この男を助けにきたわけじゃないんで?」
「……変な格好した人ね。仲間割れの途中? 三対一なんて感心しないけど……私に関係があるのか聞かれたら、無関係と答えるしかないわ」
話をはぐらかされているとでも思ったのか、少女の口調には苛立ちがまじる。その態度に焦りを覚えたのか、男たちは慌てた素振りで弁明をする。
「ちょ、ま、待ってくれ!こいつが目的じゃないなら、俺らは別口だ!盗まれたとかって話ならたぶん、さっきの女だろ!」
「あ、ああ、そうだ。さっきの! 壁蹴って屋根伝いに逃げてった!!」
茫然自失といった様子の中くらいの男を除いた男たちの続けざまの言い訳に、少女の視線がスバルと乙骨に絡まる。嘘は許さないといった強い目線を前に乙骨は目の前の出来事と彼女を抑えるのに必死だったこともあって首を傾げるで済ませたが、スバルはどうやら見に覚えがあったらしく頷いた。それを見た少女は「えぇ、嘘…。時間を無駄に…」と言うとこちらに背を向けて、路地の外に向かう。それを見た乙骨に巣食う彼女は乙骨の敵を排除すべく再度顕現しようとする。
「それはそれとして、見逃せる状況じゃないのよ」
が、それよりも早く。その掌から、飛礫がスバルを殴り始めようとした男たちめがけて放たれた。球速はメジャー級で、コースはバリバリのビーンボール。常人では構えていても運良ければ反応出来るかもしれないと言うほどの攻撃は直撃。男たちが苦鳴を上げて吹っ飛ばされる。
「――魔法」
小説やアニメ、そういった架空の存在であったものを現実としてみた乙骨は思わずといった様子で呟く。すでに身近にオカルトそのものと言っていい存在がいるがそれでも目の前にある『魔法』は乙骨を驚かせるには十分だった。
「やって、くれやがったなッ」
吹っ飛ばされた男たちが立ち上がる。しかし、どうやらかなり効いているらしく足元がかなりおぼつかないでいた。すると別の男が錆びの浮いた鉈のような獲物を握って臨戦態勢をとると叫ぶ。
「こうなりゃ相手が魔法使いだろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!」
片手で曲がった鼻を押さえながら、鉈を持った男が怒声を張り上げる。しかし、その罵声に対して少女は怯んだ様子もなく、
「そうね。二対一は厳しいかもしれないわね」
「じゃ、二対二なら対等な条件かな?」
少女の声を引き継ぐようにして、中性的な高い声が新たに路地の空気を震わせた。声のした方へと目線を向けるとそこにはふよふよと少女の横に浮かぶ子猫のような存在が腕を組んでこちらを睥睨していた。バイオレンスなこの空気に見合わないあまりにもメルヘンチックな存在を前に思わず困惑していると、
「――精霊使いか!」
「ご名答。今すぐ引き下がるなら追わない。すぐ決断して。急いでるの」
少女の言葉に対して少し怯んだ様子を浮かべるとすぐに乙骨のそばにいる中くらいの男を支えてそそくさとその場を後にする。思わぬ横槍が入ったとはいえ、結果的に彼女が誰一人として殺さなかった事実に乙骨は安堵していると。
「──動かないで」
まるで凍り付いたかのような瞳で乙骨を覗き込む少女がそこにはいた。彼女の瞳には警戒の色が濃い。これに関しては流石に仕方のないことなのだが、問題は乙骨と彼女との距離感にある。こちらを覗き込むようにして見てくる少女と乙骨との間はほぼないに等しい。いまだに初恋相手を引きずってるとは言え、さしもの乙骨も男である。思わず顔を赤くして目をそらしてしまう。そんな乙骨の仕草に少女は警戒の眼差しのまま不敵に笑う。
「やましいことがあるから目をそらす。私の目に狂いはないみたいね」
「どうかな。今のは男の子的な反応であって、邪悪な感じはゼロだったけど」
「パックは黙ってて。――あなた、私から徽章を盗んだ相手に心当たりがあるでしょ?」
「悪いけど本当に心当たりがないし、助けてもらっておいて盗んだ品を返さないほど恩知らずじゃないよ…」
乙骨の返答に嘘がないを理解したのか「嘘っ!?」という言葉と共に屈んでいた体勢から跳ね上がるようにして立ち上がる。先ほどまでの凛々しい態度もどこへやら、慌てふためく彼女は掌の猫と向き合い話している。そして少しうめくようにしている少女をよそに乙骨はスバルの元へと駆けつけようとする。すると、
「あ、連れてく前にその人にも話を聞かせて欲しいの」
「スバルにも?そんなことよりも追いかけたほうがいいんじゃ…」
「そういうわけにもいきません。あれを取り返すためにも少しでも情報が欲しいんだから」
胸を張ってそう答える彼女を見てそこまで重要なものなのかと思っているとあることに気がつく。乙骨は感情の機微に気づくのが得意だったりする。これは今まで生きてきて相手の顔色を窺ってきたことが原因だったりする。故にこそ気がついた。スバルの姿を見る彼女の目線から心配の考えが伺えることを。それに気づいた乙骨はきょとんとした顔をしてからすぐに笑う。
「…なにがおかしいの?」
「ううん、そうじゃなくてさ。こんな状況なのに心配してくれるなんて優しい子だなぁって思ってさ」
「なっ!?ち、違う!私は私の目的があって!」
「諦めなよリア。彼完璧に見透かしてるっぽいし」
顔を赤くして否定するリアと呼ばれた少女に対してパックは宥めるようにそう言うと「うー」という唸り声を上げながら睨んでくる。全く恐ろしくない睨め付けに対して笑いながら流すとともに礼を言うべく今度こそスバルの方へと近づく。すると、
「あ、気絶してる」
痛みに耐えかねたのかスバルは気絶していた。その言葉を聞いた少女は大きくため息を吐くとスバルの方へと足を運んだ。