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「追いかけなくて大丈夫なんですか?」
「リアが選んだことだからね。ボクがどうこう言うつもりはないのさ。それにこういうところが僕の愛娘のいいところだと思わないかい?」
「まぁ、素晴らしいですけど」
「もうっ、2人して私を揶揄わないで!」
乙骨は自身の膝にスバルの頭を乗っける、いわゆる膝枕の状態で肩に乗っかったパックにそう問いかけるとパックはどこか誇らしげにそう応え、それに対して少女は恥ずかしそうに憤慨する。
「それにしても治癒魔法って本当にすごいですね。あれだけの怪我を負ってた菜月さんがもう無傷になってるなんて」
「私これでも擦り傷とか軽い怪我程度なら簡単に治せるの」
乙骨の反応にエッヘンと言わんばかりの反応を見せる少女。
あの後、気絶したスバルに近づいた少女はスバルに手を向けるとケガを治し始めた。どうやらこの世界には回復魔法なる存在があるらしく、通常であれば治すのに数ヶ月必要な骨折すらも目に見える速度で治した時はかつて肺炎を治すべく病院に入り浸っていた乙骨からすると信じがたい光景だった。このレベルの怪我を「程度」ということはもしかして外傷だけでなく病気まで治せたりするのだろうか。
側から見れば精霊を従えている美少女との会話という微笑ましい絵だ。そんな微笑ましい絵面の中心にいる乙骨としては内心色んな意味でバクバクだったりしてる。それは乙骨が美少女相手に緊張しているというだけではない。
「それはそうとさっきのは、なに?」
「あ、それはボクも気になってるんだよね〜。精霊っぽくはなかったし」
美少女とその
正直、元いた世界では襲われるまで【彼女】のことを見えない人が大半だったりするのでこの世界でも見えないのではないかと期待したが、この反応を見るにがっつり見られていたらしい。探られることに関しては過去が過去だけに単純に探られるのは乙骨としても好ましいことではなかったりする。
あと、さっきから【彼女】が乙骨と楽しげ?に話している美少女相手に良い気持ちを抱いていないと言うのもある。
「えー、っとですね…」
「私としては邪精霊だと思ってるんだけど」
少女の目がキラキラとしている。きっと、精霊使い同士で通じ合えるところがあると思っているのだろう。そんな目をされると嘘をつきにくい。あまりいい心地はしないがいっそのこと邪精霊?とやらにでもしてやろうかと思った矢先、天は乙骨を味方した。
「ん…」
「菜月さんが目を覚した」
「あ、本当だ。頭も打ってるから、安心できないのだけど」
スバルが意識を取り戻したのだ。瞼がむずむずと動き出したのとみじろぎ始めたのが膝の上だったためすぐにわかった。話が逸れることに安堵していると何故か膝の上で寝ているスバルの顔がだらしなく歪み始める。100歩譲って幸せそうな顔ならともかく自身の膝の上で野郎が好色じみた顔をしているのは乙骨としても普通にキモい。恐らくだが、乙骨の膝を少女のものだと勘違いしているのだろう。
「うへへ、美少女の膝って固いんですね」
「ごめん。嬉しそうな顔してるところ申し訳ないけど僕の膝だ」
「だと思ったよ、チクショウ!」
スバルは寝返りを打つ素振りでその太ももの感触を堪能しにきたあたりで乙骨がネタバレすると突っ込みを入れながら上を向いて飛び起きた。
「乙骨、テメェ!美少女の膝枕だと期待させやがって!楽しいか!?男の純情を弄んで楽しいか!?」
「いや、流石に助けてもらったうえに治してもらったのに膝貸してとは言えないでしょ…」
「ぐぅ」
「ぐぅの音は出るのね…」
乙骨の言葉に文字通りぐぅの音しかでないスバル。せめてもの反撃と恨みがましく見てくるがこっちとしてもラストのほうは気持ち悪かったのでおあいこである。そんな乙骨の視線に思うところがあったのかスバルは目線を逸らして話題の焦点を歩み寄ってくる少女に移す。
「なんか、けっきょく目が覚めるまでいてもらって……」
「勘違いしないで。聞きたいことがあるから仕方なく残ったの。それがなかったらあなたのことなんて置き去りにしたわ。そう、してたの。だから勘違いしないこと」
情けは人のためならず、を地でいくような論法だ。「勘違いしないこと」とは言っているが人の良さが言葉の端から滲み出ているのがよくわかる。乙骨からするとそれこそが彼女の美徳なのだろうが、本気で生きづらそうな生き方をしているように思えてくる。そんなことを思っていると先の会話でスバルの意識がハッキリとしたのだとわかると少女は厳しい顔つきのままで問いかける。
「――それで、あなたは私の盗まれた徽章に心当たりがあるわね?」
「あー…。手当してもらってこんなこと言うのはあれなんだけど、―――すまん、マジで身に覚えがない」
少女の問いの内容にスバルは首を傾げざるを得ない。正直、乙骨としても先ほどそれとまったく同じ質問をされていたため、対応のしようがないのが現状だ。
徽章、というといわゆる弁護士や検事、自衛官などが身分を証明するためにつけるバッジに当たるものが頭に浮かぶ。しかし、スバルが気絶していた時間を含めてなお乙骨もスバルもこっちに来てから未だに30分たったかどうかという具合。その間に少女を除けばそこまで高い地位に属していると考えられる人間には出くわすどころか話してすらいない。ここまで時間くったことに対して失望するのかと思いきや、少女は落胆した様子もなく頷き、
「そう。それじゃ仕方ないわ。でも、あなたには何も知らないという情報をもらうことができたわけだから、ちゃんとケガを治した対価は貰っているわね」
と、詐欺師もびっくりな論法で自分の丸損を表明したのだった。想像のはるか斜め上をいく返答に対して呆気に取られていると少女は吹っ切るように大きく手を叩き、
「じゃあ、もう行くわね。悪いけど急いでるの。ケガは一通り治ってるはずだし、脅したから連中ももう関わってこないと思うけど、こんな時間に人気のない路地にひとりで入るなんて自殺志願者と一緒だから。あ、これは心配じゃなくて忠告よ。次に同じような現場に出くわしても、私があなたを助けるメリットがないから助けなんて期待されても困るから」
早口でメチャクチャ言いまくしたてて、押し黙る二人の沈黙を肯定と受け止めたのか、少女は「よし」と満足そうに呟いて身をひるがえす。そんな彼女を見た乙骨の心によぎったのは感心したわけでも凄いと思うわけでもなく、ほんの少しの「呆れ」だった。乙骨がいたにも関わらず迷惑極まりないタイミングで倒れたスバルを治療して、目を覚ますまで見張りとして立ち、聞いたはずの質問を繰り返してそれを代価とし、スバルに負い目を感じさせないようにした。
素直じゃないとかいうレベルの問題じゃない。こんなに面倒くさい配慮ばかりする人間を乙骨は初めて見た。正直、滅茶苦茶詐欺とかにあってそうだと思わされるくらいだ。故にこそ今まさに大通りに出ようとする少女を見て思う。「本当にこれで終わりでいいのか」と。ここまで恩をもらっておいて「はい、ありがとうございました」で済ませていいのだろうか、と。
乙骨は目線を隣へと向ける。そしてスバルと目線がかち合う。どうやらそう思っていたのは乙骨だけではなかったようだ。スバルは肩を回し、足腰を動かして健在ぶりを、乙骨は咄嗟に服の下に隠した指輪の所在を確認する。そして、
「――おい、待ってくれよ!」「待ってくれませんか!」
二人は路地の入口、大通りへ繋がる場所で首をめぐらす少女、その背中に声をかけた。長い銀髪を手で撫でて、わずらわしげに彼女は振り返ると2人の呼び止めに応える。
「なに? 話ならもう終わったわ。もう私とあなたたちは無関係の他人です。ほんの一瞬だけ人生が交わっただけの、赤の他人」
「そんな寂しいこと言わないでよ。こっちからするとあんだけ助けてもらっておいて『はい、お終い』で片付けられるほど薄情になれないんだ」
「そー、そー!乙骨よく言った!そっちは終わったつもりでも、こっちは全然まだまだ丸っきし終わったなんて思ってない。なんせ恩を何一つ返せちゃいないんだからな!」
少女は助けた二人に立ち塞がられだことに対して冷たい目線を送ってくる。側から見た絵面はまるで1人の女を競い合う間抜けな男たち。乙骨は内側で荒ぶる【彼女】を宥めながら少女と向き合う。
「大切なもんなんだろ? 俺たちにも手伝わせてくれ」
「でも、あなたは何も……」
「『何も知らない』って言いたいんだろうけど、そうでもないと思うよ?僕は兎も角として菜月さんは君の徽章を盗んだ犯人に心当たりがあるっぽいし」
少しだけ二人に慣れ始めた乙骨がそう言いながらスバルへと目線を向ける。するとそれに釣られるように少女もスバルを見ると、少し動揺したように「お、おおよ!」と黙ったが自信ありげに胸を張った。乙骨としては先ほどのチンピラ2名が見かけたと言っていたなら目線的にもスバルも見てたのではないかとあたりをつけて言ってみたのだが、どうやらあたりだったようだ。
「――変な人たち」
口元に手を当てて、珍獣でも見るように小首を傾けた少女の声だった。
彼女はスバルを値踏みするように見据えて、
「言っておくけど、なんのお礼もできません。こう見えて無一文なので」
「安心しろ。俺も無一文みたいなもんだ」
「僕も同じく」
「安心できる要素がないんだけど…」
2人のとんだカミングアウトを前に「えぇ…」とでも言いたげな顔をしてドン引きしてくる彼女を無視しながら話を進めていく。
「それにお礼なんていらない。そもそも、俺が礼をしたいから手伝いたいんだ」
「お礼をされるようなことしてない。傷のことなら、ちゃんと代価は貰ってるから」
「そんなことないと思うけどなぁ。なにせ世の中は一問一答で動いちゃいないからね」
スバルの言葉にあくまで頑なな姿勢を崩さない少女に対して乙骨がそうフォローすると少女は「むぅ」と唸りながら思考する。あともう一押し欲しいと想っていると、彼女の頬を肩に乗る灰色猫がその肉球でつつきながら喋り始める。
「邪気は感じないし、素直に受け入れておいた方がいいと思うよ? まったくの手がかりなしで探すなんて、王都の広さからしたら無謀としか言いようがないし」
「でも……私は」
「意地を張るのも可愛いと思うけど、意地を張って目標を見失うのは馬鹿馬鹿しいと思うよ。ボクはボクの娘が馬鹿な子だと思いたくないなぁ」
肩をすくめて挑発的にたしなめる小猫に少女の眉尻が上がる。それから彼女は数秒、「あうー」「ううん」「でもっ」と変に色っぽく悩んだ挙句、
「――本当に、なんのお礼もできないからね」
そう言って、少女は二人の同行を許可した。