Re:ゼロから始める呪術生活   作:アーロニーロ

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待たせてしまって申し訳ありませんでした!ここまで読んでくれる人があるなんてとても光栄です!今後もよろしくお願いします!


驚天

 

「ねぇ、ちょっと」

 

 彼女の手伝いを申し出てから約三十分。

 

「どういうことなの」

 

 捜査は順調に滞っていた(・・・・・)。問い詰めてくる少女の視線は冷たく、その不満げな眼差しを浴びる。それに対して乙骨は気まずそうに目を逸らし、スバルはなぜか頬を赤らめていた。悦びを見出し始めているスバルは無視するとして、こうなった原因を乙骨ははっきりと理解している。

 

 一つ目は土地勘がないことが挙げられる。

 

 何せここは異世界。乙骨はただでさえ外に出かける機会が少ないこともあって道の法則性がどーのとかいうことに関しては一才、理解ができない。ましてや元の世界とは異なり文明のレベルはどう高く見繕っても中世の西洋クラスだ。近代の世界に目が慣れている乙骨からしても街並みの仕組みがよく分かってなかったりする。

 

 ならば、ここは少女の力を借りるべきだ、となったのだがこれもまた上手くいかなかったのだ。なんとビックリ、少女もまたここら一帯の土地勘がなかったのだという。実際、3人して相手が道を知ってると思って、十分ほど路地裏をさまよって時間を無駄にしたのは記憶に新しかったりする。身なりからしてかなり高位の身分の人間だったと思ったが、そこまで箱入りだとは思わなかった。

 

 ここまで情報がないのならば衛兵に聞こうとなったのだが、少女自らがこれを却下した。手段を選んでる場合かと思った乙骨が実際に衛兵に声をかけようとしたのだが、少女が凄まじい速度と焦りを携えながら引き留めてきた。これをみた乙骨はどんだけ重要なものを無くしたんだと戦々兢々としていたりする。

 

 で、原因二つ目は文字の読み書きができないと言う点だ。

 

 会話が通じるので油断していたが、改めて周囲を見回すとそこかしこに手書きの象形文字のようなものが存在している。最初は気付かなかったが、看板などにも描かれていることから、『巷で流行りの魔除けの呪い』とかでない限り、アレがこの世界における文字なのだろう。言葉が通じてるのに読めないとか意味不明なことこの上ないが、この際話せるだけでも温情だと乙骨は自らを無理矢理諭して納得させた。

 

 『手詰まり』。この言葉がよく似合う状況にこうも容易く出会えてしまったことに乙骨は泣きたくなっていると、

 

「そう言えば2人はどこから来たの?2人ともこのあたりだとまず聞かない名前。そういえば髪と瞳の色も、服装もずいぶんと珍しいけど……」

 

「ああ!俺たちの故郷ね?聞いて驚け!その名も、ムグッ!?」

 

 気分転換にでもと思ったのか、二人の前をいっていた少女が振り返るとそう尋ねてくる。その質問に対してスバルが意気揚々と答えようとするのを乙骨が咄嗟に防ぐ。なにすんだという目でこっちを見てくるが乙骨は最早気にしない。

 

 なにせここまでの会話でスバルがやったことといえば、ゴニョゴニョと呟くように喋る、場を盛り上げるためかは知らないが元の世界限定のダジャレを連投するなど、乙骨目線から見てもバッドコミュニケーションと言えること間違いなしな代物だったからだ。ここで万が一にでも「異世界から来ました♡」などと言えば最早あるか無いかといっていいレベルの信用が完璧に消え失せかねない。故に、

 

「えっと、僕らは極東って呼ばれてる東のちっさい国から来たんだ」

 

 かなりぼかした言葉で場を濁すことにした。世界の東側に存在するジパング的な隠れ里。深掘りされても他国との国交がほぼない国で、そこから流れ着いたと聞けば大抵の人が納得してくれるという魔法のような言葉だ。乙骨の返答にスバルは上手いな!とでもいいたげな顔をしながらサムズアップをする。困惑している少女を前に質問がいつでも来ていいように待ち受ける。

 

 しかし、その対応は無駄に終わる。何故なら、

 

「ルグニカは大陸図で見て一番東の国だから……この国より東なんてないけど」

 

 この世界にとって極東とは今まさにここだったらしい。

 

「え」

 

「マジで!?ここが東の果て!?」

 

「二人してそんな反応するなんて…。自分のいる場所もわかってなくて、無一文って……なんか色んな角度から二人の将来が心配になってきた」

 

 慌てふためく二人に対して、少女はそわそわ落ち着かない目をし始める。身なりが奇抜な男二人組の周りを心配そうな顔をする少女と飛び回る猫が見ているという奇妙な光景に周りが目を奪われる。すると、

 

「とりあえず、そのあたりはおいおい詰めるとして、どうするのリア?ボクが顕現できるのはあと一時間もないよ?」

 

「ッ、この際なんでもいいから情報が欲しいわ。手の届かないところへ持っていかれてからじゃ遅いんだから」

 

 猫型精霊の言葉を聞いた少女はわかりやすく焦りはじめた。話を聞くにどうやら精霊を呼び出すのは何かしらの制限があるらしい。ここまで良いとこがない。このまま役立たずのまま終わるのかと思わず乙骨は嘆く。

 

 すると、ふとある看板が目に映る。それはリンゴしか売られていた果物屋だった。乙骨が気になったのはりんごオンリーという攻めた品揃えに対してではなく、店主の顔であった。髭と傷が目立ち、堅気には見えないその顔には見覚えがある。そう、異世界に来てすぐの時にスバルが話しかけた果物屋の店主だ。どうやらあれこれ移動しているうちに一周してきたらしい。それをみた乙骨は手の内のものを改めて確認する。そして、大きくため息を吐いたのちに2人から離れることを告げると乙骨は果物屋へと足を運んだ。

 

 

「ただいま」

 

「へぇ、君の名前はそういうのか、って、乙骨おかえり!その手荷物どったの!?」

 

「さっきリンガ屋さんへ足を運んでたけど『用』ってこれのこと?あまり時間に余裕がないから後回しにして欲しかったんだけど…それにお金もないのにどうやって」

 

「持って帰ってきたのはリンゴ、じゃなくてリンガだけじゃないよ」

 

 乙骨は手元に5個ほどあったリンガを投げ渡すと自身が持ち帰ったものを発表する。それは盗まれた場所が行き着く場所である貧民街のことや盗んだ相手であるフェルトという少女についただった。

 

「うぇっ!?どうやって集めたんだよ!?」

 

「すごーく、ありがたいけど…大丈夫?変なことされなかった?」

 

「そんなことされなかったよ。単純に交渉しただけさ」

 

 思わぬ収穫を前にスバルは大袈裟に驚き、少女は驚きつつも喜びよりも前に乙骨の身を案じていた。乙骨はあまりにも人が良すぎる少女に対して苦笑いしつつも交渉したと言った。無一文であったにも関わらず、交渉などできるのかと疑う少女。そんな状況の中、乙骨の変化に気がついたのはこの世界に来て1番乙骨と共にいるスバルだった。

 

「あ!スマホかぁ!」

 

「うん、正解」

 

 乙骨のやったことは単純明快。スマホを質にして交渉をしたことだった。この世界はスバルや乙骨からすると未開の技術や生物の集まりそのものである。そしてそれは逆もまた然り。そう考えた乙骨はスマホを店主に見せてみた。Wi-Fiがない以上、メインの機能である連絡機能は使えないが、写真撮影やアラームにタイマーなどは使用できた。そしたら案の定、見事なまでの食いつきぶあい、そのため情報を引き出すのは容易であった。ちなみにリンガはおまけだと言う。

 

この世界(ここ)じゃあ、電子機器はオーバーテクノロジーだもんな!?交渉材料としてはもってこいだわな!…でも、よかったのか渡ちまっても」

 

「うん、問題はないかな。連絡機能がないなら持ってる意味もないしね」

 

「ユウタ、ありがとう。じゃあ、今すぐにでも向かいましょう。案内とかお願いできる?」

 

「いいけどわかってるのは貧民街までの最短距離までだからね?盗品蔵に関しては聞き込みでやるしかないからね?……って、僕名前教えたっけ?」

 

「ん?ああ、さっき勝手に自己紹介は済ませたんだった。悪りぃな教えるの遅れちまって」

 

 乙骨は少女があまりにも自然に名前を呼んだことにスルーしかけたが反応するとどうやら自己紹介は済ませてあるらしい、

 

「軽く自己紹介といくかこちらの美少女はサテラ。んでこっちの首から指輪引っさげてんのが乙骨な。んで!オオトリの俺様が……」

 

「乙骨憂太っていいます。好きに呼んでくれていいよ」

 

「エ……サテラよ。よろしく」

 

 何か言おうとするスバルを無視してお互いに自己紹介をすませる二人。乙骨はサテラを名乗る少女が名前から掠りもしない単語が出たことや猫型精霊の呼称である『リア』とは程遠い名前を前に一瞬、眉を顰めたが根掘り葉掘り聞くほどのことではないと判断し無視するとお互いに握手をする。すると、スバルが地団太を踏んで言った。

 

「ちょっと!! 俺の自己紹介まだ済んでないけど!?」

 

「あなたは大丈夫よ」「菜月さんは知ってるからいいかなぁ」

 

「ちょっと待ってお供二人の風当たりがきつすぎるんですけど……。パックーーー!! 慰めてくれーーーー!!」

 

「あいにくボクもうそろそろ閉店なんだよ」

 

「あら、もうそんな時間? おやすみパック、お疲れさま」

 

「うん、おやすみ。気を付けてよ? そこのバカ二人に振り回されないでね」

 

「おいこらバカとはなんだ、バカとは!あ!逃げやがったな!!今度会ったら覚えてろ――!」

 

 練習か打ち合わせでもしたのかと疑いたくなる話の内容に思わず吹き出しつつも、バカの一括りにされたことに地味に傷つく乙骨。すると、そんな中でパックの像が光の欠片となって霧散して消えていくとサテラの胸元についている紫紺のクリスタルに吸い込まれいった。

 

「やっぱり制限とかあったんだ」

 

「うん。パックは9時から5時までの契約なの。それ以外の時間はこの宝石の中で休養してるのよ」

 

「可愛い形をしてサラリーマンみてぇな奴だな」

 

 パックのことに関して二人が各々の感想を口にしつつ、乙骨の先導の元3人で貧民街へと向かった。

 

 

「ここが盗品蔵かぁ…」

 

 感慨深そうにスバルが呟く。その視線の先には小汚いが他の住居?に比べて大きくしっかりとした建物が建っていた。乙骨は強面の店主の情報通り、貧民街についた。しかし、ここからどうしたものかと悩んだのだが、意外と苦労せずに着いた。

 

 理由はサテラが微精霊を呼び出して情報を引き出したり、小汚い格好で同情心を買うことに成功したスバルが持ち前やコミュ力を用いて住民から聞き出すことに成功したからだ。道中で記憶に1番残っているのは、サテラが微精霊を呼び出したことだった。体を淡く青い光が包み込む。チラチラと点滅しながら漂う小さな光源が何十と纏っている姿は不覚にも見とれてしまうほど妖艶な景色だった。

 

「それじゃあ、俺が先陣を切っていくわ」

 

「度々、助かるよ」「うん、頑張ってね」

 

「……言っといてなんだけど、本当にいいの?俺ここまでいいとこ無いけど」

 

「僕が行っても上手く話せる自信がないしね。だったら僕よりもうまく話せる菜月さんがいいよ」

 

「考えなしだとは思わないし、嘘をつくような人間とも思えない。だからスバルを信じてみる。……うまくいったら儲けものぐらいの気持ちで」

 

「乙骨、サテラ……。そこは後半を本音じゃなくて、『私のために頑張って』ぐらい言った方がやる気出るんだけど?」

 

「そんな無理してなんて言えないもの。でも、頑張って」

 

 サテラの言葉にスバルは破顔するとやってやるとばかりに意気揚々と中に入っていった。その背中はギィと音を立てて閉まる扉に遮られた。それを見届けた乙骨はさてこれからどうするかも思考を巡らせる。いくらここまで探すのを手伝ったとはいえ死にかけていたところを助けてもらったこともあってこれ以上の借りを作る訳にはいかない。すると、サテラは乙骨の横顔を見ると話しかける。

 

「あなた達、無一文らしいけどこれからどうするの?」

 

「あー…、そう、ですね。取り敢えずは職でも探してみますよ。幸いにも元手となりそうなのは手元にありますし」

 

「そこで私を脅さないんだ、……損する生き方」

 

「ック、サテラさんがそれを言いますか?」

 

「む、あれは必要に駆られたからやっただけだもの」

 

 サテラの言葉に乙骨は笑いを抑えるようにそう言う。それに対してサテラは何か言ってるが、ここまでのお人好しぶりをみた後では説得力に欠ける。微笑ましく笑う。

 

 次の瞬間、乙骨の背筋に何かが走る。

 

「ッッッッ!!」

 

「ユウタ?」

 

 乙骨は飛び跳ねるかのように視線を盗品蔵へと向ける。それと同時に寒気にも似た不快な感覚と共に嫌な予感が頭をよぎる。それは理由とか理屈とかを度外視した何かだった。常であれば無視していた。しかし、

 

「スバルッ!」

 

 中には半日とはいえ親しく接してくれたスバルがいた。乙骨は扉を開けて彼のあとを追う。

 

「うッ」

 

 瞬間、むせかえりたくなるほどの血の匂いが乙骨の鼻腔を貫いた。かつて生涯を誓った相手からも香った匂いを前に吐き気を催す。頭が潰れた死体を前にした時ですらもう少し控えめな匂いだった。となるとこの蔵の中で一体どれだけの人が血を流しているのだろうか。そう思い目線を前に向ける。最初に見えたのは地面にだらしなく転がる『腕』だ。指先が何かを求めるように開かれたそれは、不思議なことに肘から上が存在しない。その繋がる先を求めるように光を動かし、さらに奥に投げ出された足が見つかる。幸いにも足はちゃんと胴体に通じており、胴体には他のあるべきパーツも付属していた。

 

 ――首を大きく切り裂かれ、片腕を失った大柄な老人の死体が。

 

「ひ」

 

 その死体に気付いた瞬間、乙骨の口からは意味のない空気が漏れていた。事故死や老死は見たことがあった。故に死に関しては他の人間よりも耐性がある。そう思い上がっていた。死体を見たくない一心で目線を逸らす。そこにはスバルがうつ伏せの状態で転がっていた。

 

「――――」

 

 そして、脇腹からは、ひどく濁った液体がとめどなく流れていた。今度は空気すら漏れ出なかった。『逃げる』『とどまる』といった選択肢が浮かぶ余地もない空白は

 

「スバル?ユウタ?」

 

 外で待っている少女を引き止めることをままならなくするには十分だった。

 

「あらあら、お代わりが二つもなんて今日は豪勢だわ」

 

 艶かしい声と共に風切音が後ろから聞こえてくると同時に重たい何かが倒れる音がする。そして間をおかずして風切音が自身目掛けて襲いかかってくる。喧嘩はおろか武器など握ったことはない乙骨には避けることすら不可能。血のカーペットの材料となる瞬間を強制的に受け入れさせられる事態は

 

【憂太をォぉ、イじめルナァァぁ!!!】

 

 乙骨を愛してやまない彼女の一撃によって防がれた。瞬間、ドゴォォォォッッッッ!!!という音と共に迎撃の余波によって吹き飛んで跡形もなく消し飛ぶ盗品蔵の屋根。壁にできた赤黒いシミが襲撃者の末路を物語っていた。そして、月明かりによって晒される世界は

 

「スバルッッ!!サテラッッッ!!」

 

 乙骨の意識を現実に持っていくのはあまりに容易かった。すぐさま服を脱ぐと同時に二人をそばに寄せてスバルの腹とサテラの胸部に向けて強く押し当て止血をする。しかし、

 

「あ、ぁぁぁぁああぁ!!」

 

 血が、止まらない。どれだけ必死にって押さえてもとめどなく血が溢れていく。それと同時に頭の中で言葉が浮かぶ『手遅れ』、と。

 

「嫌だッ!嫌だァッ!!」

 

 顔から滂沱のように涙や涎が零れ落ちながら現実を否定するように首を横に振るう。少しずつ血が流れるのが収まっていく。それは同時に二人の命の終わりを意味していた。乙骨は怪我一つ治せず、見殺しにしてしまう無力な自身を呪う。せめてスバルの想いに応えるべく2人の手を寄せて手を繋げさせる。

 

 次の瞬間、全てが止まった。

 

 血も空気も生や死すらも止まっていた。何が起こったのか理解できないまま。止まった世界の中でいつの間にか2人の間で動いている女性に見える黒い影がスバルの方へと顔を近づける。そして、

 

「【愛してる】」

 

 蕩けてしまいそうなほどの甘い声で愛を囁いた。それと同時に止まって動かなくなった世界を目にしながら世界が一瞬で灰色と黒に色褪せ、自分の意志に反して体が、崩れ始めた。

 

 

「――どうしたよ、兄ちゃん達。急に呆けた面して」

 

「「は――?」」





里香ちゃんマダー?と思った人、安心してください。予告しておくと最低でも後数話で完全顕現します。
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