意外と早くかけました。楽しんでいってください!!皆さんに高く評価していただいて光栄です!今後もよろしくお願いします!
「「は?」」
乙骨とスバルの口から間の抜けた息を吐くような声を同時に出した。大通りは相変わらず人でごった返しており、たまにトカゲの馬車が通りかかる以外では常に道幅いっぱいに歩行者が広がっている。陽の高さや明るさからして、時刻は昼頃。目の前にいる果物屋の二人を不思議そうに見つめている。
「なんだ。俺の顔に何かついてんのか?大丈夫か兄ちゃん達。なんつーか幽霊でも見たような顔してんぞ」
「ごめん、なさい」
目の前に先ほど見たのでは?とデジャヴを感じるほど似た光景が目の前に広がる。先ほどと今の現実のギャップの差を前に対して乙骨は茫然自失のまま思考が巡らないでいた。
「あー、何があったのかは知らねぇがこのままじゃあ商売に差し支える。買うの買わないのかだけでもはっきりしてくれ」
「悪ぃなオヤジ。俺たち天下の無一文なもんで」
「……んだよ、じゃあ、ただの冷やかしじゃねーか。なら行った行った!こっちゃ商売してんだ。冷やかしに付き合ってられん」
「へいへい。おら行くぞ、乙骨」
とっさに割り込んできたスバルの言葉に対しておざなりに手振りでその場からどかされる。それに対してスバルはいまだに呆然としている乙骨の手を取るとその場から素直にそそくさと移動し、その場を後にした。
◇
「ここまで来ればもう大丈夫だな。―――じゃあ、情報をすり合わせようか」
「うん」
陽によって照らされる街中から人通りの少ない薄暗い路地裏へと場所を変えるとスバルは乙骨に向き合うと本題を切り出した。まず初めに今この瞬間に起こった異変についてだ。突如として比喩表現なく昼夜逆転したという事実はあまりにも理解の外をいく。異世界――この世界に連れ込まれたときも、夜と昼の逆転劇を体感している。もしもこれが異世界では当たり前と言うのならば驚きを禁じ得ないこともあって衝撃は最初ほどではないのだが、明確にそのときとは違う条件がある。
「腹の傷、本当に大丈夫なの?」
「ご覧の通りだよ」
乙骨の心配に対してスバルはジャージの裾をまくり、その下の腹部を確認させることで返答とした。そこには傷ひとつない割れた腹筋だけがあった。それを見た乙骨は思わずその事実を否定しそうになる。何故ならば乙骨は見ていたから。血と内臓を思いっきりぶちまけ、致命傷へと至った傷跡を。しかし、それはどういうわけか存在しない。当然、縫った跡もなければ服に血が付いている形跡もない。それどころか、スバルの着ていたジャージには土埃や泥による汚れも見当たらなかった。
「なんにせよマジでありがたい。…というかサテラは、あいつは何処にいんだ」
「…っかった」
「あ?どったの乙骨」
「よかった…ッ」
サテラを心配していたスバルは乙骨のほうへと目線を向けるとギョッとする。理由は分かりやすかった。泣いていたからだ、乙骨が。
「ちょちょちょちょ!落ち着けよ!どうしたんだよ!」
「よかった、本当によかった。もう、ダメかと思った、また、助けられないのかと、思った」
スバルはボロボロと涙をこぼしている乙骨を必死に慰める。それでも乙骨の涙は止まらない。事情を知らないスバルからすると困惑ものだが、乙骨の過去を考えればこの反応はあまりにも妥当だった。即死だったとはいえ、かつて子供の頃に生涯を誓った相手を助けられなかったという事実は確かに乙骨を苛んでいたのだから。友人を救えなかったという事実と無傷の状態でいてくれてるという事実を前に感情がジェットコースターのように起伏が激しくなり、抑えきれなくなり溢れてしまったのだ。
涙を流す同年代を必死になって慰めるという絵面がしばらく続くと、
「……ごめん」
「い、いいって。むしろそこまで悲しんでくれてんのが嬉しいよ」
次第に落ち着いてきたのか乙骨は泣くのをやめた。恥ずかしさもあってかなり気まずそうにしているとスバルも思うところがあったのか少しだけ顔が引き攣っていた。少し気まずい空気が漂うが数分くらいしてから乙骨が「じ、じゃあ、本題にうつろうか」というとスバルも「お、おう」と少し吃りながら賛成した。
「そんじゃ、まぁ、さっき起こった怪奇現象について話し合おうか」
「それって死んだのに蘇ったこと?それとも時間が巻き戻ったこと?」
座り込んだスバルを前に乙骨は――答えはわかっているが――そう問いかけると「両方だ」と答えると指を3つほど立てる。
「そんで俺はこの現状について3つほどの説が浮かんだ。一つ目は白昼夢説なんだが「それはない」…だよ、な」
スバルが一つ目にあげた白昼夢説を乙骨は食い入るように否定する。確かに剣も魔法も程遠い生活を送ってきた二人からすれば1番正しい説なのかもしれないが、それは断じてあり得ないと二人は自覚していた。理由として2人して同じ夢を見て同じ結末を見たなど聞いたことがないことがりあるが、それ以上に夢と言うには痛みも喜悦も全てにおいてあまりにもリアルが過ぎた。それはスバルも自覚していたのかすぐに乙骨の反応に同意した。
「んで、二つ目は『実は誰かが知らない間に怪我を治して1日経過していた』説なんだが…」
「うん、これもないと思う。仮にそうだとしてもさっきの果物屋の店主が一言一句同じ質問をしてきたことや対応をしたことに対しての説明にならない。―――それにあの時の菜月さんとサテラは確実に死んでた。これは覆しようのない事実だ」
「そっ、か。というか死んだってよくわかったな」
「初恋相手とおばあちゃんの死を見届けたから」
「……悪ぃ」
乙骨の返答に対して滅茶苦茶気まずそうなするスバルに対して乙骨はヘラっと笑って流す。これに関してもこの推察には穴があるため否定が可能だ。傷の回復に関してはサテラの前例があるので、傷口がないことにも納得はいく。が、先ほど盗品蔵でスバルが負った傷はわかりやすいほど致命傷だった。意識が落ちた瞬間に第三者である乙骨からでも死を感じたほどのものだ。あれほどの傷が治るというのなら、この世界の魔法は死者蘇生すら可能にするとしか思えない。
「命の価値がだいぶ薄れるよなぁ」
「いやそれ以前に誰が?ってなるよ」
乙骨の言葉にスバルは「だよなぁ」と呟くと顔を下に向けて困っように頭をかいた。100歩譲ってブラックジャックですらも土下座して崇めたくなるような癒し手が助けたとして、サテラを含めて3人がいたのは貧民街。その町の住人以外が寄り付くことはまずない街中にあるはずもないし、いたとしたらどんな確率だよとツッコミを入れたくなる。それに何より、
「
乙骨はポケットからスマホを取り出して画面を見る。そこに記載された日付は変わっておらず、時間だけが異世界に来てから1時間ほど経過していたことを告げていた。それを見たスバルは「マジか」とだけ告げると残っていた指を見つめて最後の説を推す。
「最後に時間が逆行していた、なんだが。これが1番ないと思ってたんだけどなぁ。というか誰だよ時間巻き戻してんの。乙骨知ってる?」
「…身に覚えなら一人だけ」
「え?マジで?冗談で言ったんだけど身に覚えあんの?で、だれ?やっぱサテラか?」
「ううん。僕の目の前にいるよ」
「………………俺ぇ!?」
予想外の言葉を前に思わず叫ぶスバル。それをみた乙骨は巻き戻る前に起こった止まった世界の中でいつの間にか2人の間で動いている女性に見える黒い影についてなど包み隠さず全て話した。
「マ・ジ・かぁ。俺っていつの間にスタンド使いになったの?バイツァダストを使えるやうになったの?」
「どっちかと言えばノトーリアスじゃ…。死んだ後に発動してるし」
「死んだ後に時間が戻るってか?ハハ…負け犬根性ここに極まれりだな」
「負け犬根性って、菜月さん本気で言ってるの?」
乾いた笑みを浮かべながら自虐をするが、乙骨からすれば喉から手が出るほど欲しい強力な能力だと思わされたため、思わずといった様子で声が出てしまう。
時間の逆行。それは全世界の人間が一度は夢見たことだった。ああ、すればよかった。こうすれば正解だったのでは?など、根幹に「やり直したい』と願った者たちがこぞって目指した事象そのもの。死ぬことというハードルの高い条件を除けばどんな相手にも勝りうる規格外の能力だ。
「反則すぎるでしょ、その能力」
「受け身すぎて好みじゃねぇよ。エクスカリバーとかもっと派手なのが良かったわ。なんだって『
(……は?)
二人の意識を残して、音も、空気の流れも、鼓動すらも止まる。そして困惑と驚愕をよそに、どこからともなくスバルの背後からゆっくりと黒い手が現れるのを乙骨は見た。影にも似たそれは楽しむように、弄ぶように回り込むとスバルの胸に手を突っ込んだ。スバルも乙骨も誰に言われるまでもなく理解した。その手がスバルの心臓を愛撫し、愛おしげに握りしめたのだと。そうして、満足したようにスバルの胸から手を抜き取ると乙骨へと矛先が向く。ゆらりゆらりと焦らすように手を伸ばし、乙骨の胸に指先が触れた瞬間、
影の手が触れることをよしとしなかった【彼女】が手を払いのけ霧散させた。それは、
「――がっはぁッッ!!? あ゛ぁっ!!!!」
「ッ!スバル!」
世界が再度歩みを取り戻す合図でもあった。スバルは心臓を握り潰されそうになった感触に胸を押さえて身をよじった。乙骨は尋常ではないスバルの様子に慌てて近寄った。
「スバル!慌てずにしっかり、ゆっくりと息を吸うんだ!」
「ふ、ざけんなッ。腹を、裂かれ、たといい、心臓撫で、られるといいッ!こっちにきてから親、知らずの抜歯を置き去りにして痛みのランキングを更新しすぎな、んだよッ」
「あんまり焦んないで!」
スバルは憎まれ口を叩くが口の端から涎が垂れ、えずくように何度も咳を込む様子はお世辞にも良いとは言えない。無理もない話だ、何せついさっきハートキャッチ(直喩)されたのだから。心臓を掴まれた時に生じる痛みなど想像も出来ないし想像したくもない。しかしどれだけのものでと痛みとは時間が解決してくれるものである。
「悪ぃな、乙骨。もう大丈夫だ」
背中を撫でていくうちに荒い息も青い顔も何とかマシにはなっていった。スバルを見て、ふぅと安堵の息をついた。そして乙骨は問い詰める。
「菜月さん。さっき見えたアレって身に覚えがあったりしませんか?」
「18年間生きてきたけど一度たりともありゃしねぇよ、あんなの……。つーか、何であいつ?は俺の心臓を……?」
「……そうなる前って確か能力の名前を言おうとしてましたよね?」
「あ?ていうとなにか?俺が『死に「わぁー!ダメだって!またおんなじ目に遭うかもしれませんよ!?」あっぶねぇ!そうだったわ!ナイス乙骨!」
危うく同じ轍を再度踏もうとしたスバルを乙骨がすんでの所で妨害した。乙骨としても感じるあの閉塞感には辟易としているため、おんなじ目に遭うのはごめん被りたいのだ。取り敢えず、例のワードを避けつつ2人で先ほどの現象についての考察を始める。結果先ほどの現象は、
「警告、ってことなのか?」
「そうなるんじゃないのかな?他言はできないという条件と引き換えにやり直しの権利を得た、って感じじゃないかな?」
「マジかよぉ、ふざけんなよ、オイ!そんな契約みたいなの受理した覚えねぇぞ!?ただでさえ死ぬことが条件なだけにキツイってぇのに他言無用とか意地悪すぎんだろ!」
行き着いた答えにスバルはうがー!と憤慨して天を仰ぐ。それを見た乙骨は先ほどの手から感じた違和感を拭えないでいた。あの手からどこか強い意志を感じた。まるで他人にスバルとの繋がりを明かされたくないかのように。それこそ自身の身に憑いている【彼女】にも似た捻じ曲がり、壊れ、狂気に塗れた【愛】のように。
故に乙骨はもしかしたらスバルは自身と同じような存在ではないかと勘繰った。かつて愛していた人がいてその人が死んでから自身にその人の思いが取り憑いたのだと、そして先程の手はその現れなのだと思っていた。しかし、現実は異なった。遠回しに聞いたりしてみたが、恋愛云々は小学校の低学年が最後らしく、それ以降は元の世界で経験することはなかったらしい。ましてや目の前で誰かが死んだことなども一切なかったとのことだった。
「あ、そうだ乙骨」
「ん?どうしたの?」
少しして互いに落ち着き乙骨が膝立ちの状態から立ちあがろうとすると、スバルが思い出したかのように声をかける。何かまだ不備でもあるのかと身構えていると、
「さっき見えたお前の後ろにいる
「――――――――」
思わぬ質問に乙骨は目を見開いた。それを無視しつつスバルは質問を続ける。
「俺が悪態を吐けた理由はソイツなんだよ。心臓握られてビビってたところをそいつが現れた瞬間、背筋に氷柱をぶち込まれたような怖気が走ったんだ。寄り添ってるし、お前の反応を見るに身に覚えがあるんだろ?教えてくれ」
「そ、それは…」
乙骨は教えようとするが『怖い』という感情が頭に浮かぶ。過去に似たようなことをしても頭がおかしい奴のような扱いを受けたことが頭をよぎる。こんな状況だ、きっと信じてくれるだろう。だけど万が一、億が一にでも信じてもらえないかもしれない。そう思うと言葉が出ないでいた。しかしそれでも乙骨は黙っていては前に進めないと判断し、意を決して喋ろうとした瞬間、
「彼女は―――」
「おっ、見ろよ」
「おいおい、ガキが二人でこんな所で何してやがんだぁ?」
「こんな道で弱っちそうなガキが二人で出歩くもんじゃねえよ。とりあえず、出すもん出しな」
まるで乙骨の覚悟を聞き覚えのある声が遮った。