Re:ゼロから始める呪術生活   作:アーロニーロ

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邂逅

 先ほどの殺人鬼(暫定)との邂逅後、乙骨とスバルはそこそこ早足でフェルトの寝ぐらへと向かう。道中で虫の羽音や中身の入った酒瓶に「ひ」とか「わひゃ」とか言いつつの捜索していると、やがて小汚いボロ屋に行き着いた。かかった時間は殺人鬼(暫定)との遭遇から五分後のことなのだが、

 

「これは、また……」

 

「……本当に人の住処か?え?俺たち嵌められた?」

 

「情報だとここのはずなんだけど…」

 

 扉と思しき木の板の前に立って、思わずといった様子で言葉を漏らしていく2人。目の前のボロ屋の大きさは、おおよそ工事現場などの仮設トイレ二つ分といったところだろうか。立って半畳寝て一畳を地で行く感じだ。

 

「僕こういうの道徳の授業で『戦争ダメ絶対』みたいなことを教える時に出てくるスラムの写真でしか見たことないんだけど」

 

「俺は上野駅の前んとこだな。まぁ、あのホームレスとは違って持ち物少なそうだからこっちの方が悲惨なんだけどね?」

 

「言ってること分んねぇけど、思い思いな言葉で人の住居を貶してくれるなよ兄ちゃん達」

 

 2人仲良く小さい女の子がここで暮らしているのかと思うと不憫に感じていると、後ろから声をかけられる。振り返るとそこには金色の髪をセミロングにした少女がいた。兎のように赤い瞳、口の端から覗く悪戯な八重歯。小柄な体を動きやすそうな、言葉を選ばなければボロい服に包んでいる。乙骨はスバルの顔を見ると頷き返してくる。どうやら彼女がフェルトのようだ。 

 

「君がフェルトちゃんだね?単刀直入に言うと交渉をしにきた」

 

「ちゃん付けはやめろ気持ち悪い。って、交渉?」

 

「おう!俺たちの用件はひとつ。――お前が盗んだ徽章を、こちらで買い取りたい、ってことだな!」

 

「………なんで、アタシが徽章をギッたって知ってんだ? 依頼人以外にゃ漏らしてねーはずだし、盗んだのはついさっきだ。小耳にはさむにゃ耳がでかすぎんじゃねーか?」

 

 それを聞かれた時、乙骨は思わず痛いところをつかれたと思わされた。無理もない話だ。この広い国でたった1人が盗みを働いたところで知られる可能性は限りなく低い。それがついさっきともなれば尚更だ。どーしたものかと思ったが、いい言い訳が思い付かず取り敢えず浮かんだ言葉だけで言ってみることにした。

 

「えっと、さっき盗まれた本人が徽章を知らないか聞いてきてね?それで盗みに覚えのある人を聞いて行ったらここにたどり着いたんだ」

 

「言い訳すんなら後ろと打ち合わせしてからにしな兄ちゃん」

 

 乙骨の言葉にフェルトがそう返す。その言葉を聞いた乙骨は振り返ると口を隠していかにも「ヤベッ」と言いたそうな顔をしているスバルがいた。それを見たフェルトは盛大にため息を吐くと寝床に腰掛けると話を促してくる。

 

「で?徽章を買い取る、っつーのはどーいうことだ? もともと、これを頼んできた姉さんとアンタは別口だろ? 商売敵かなにか?」

 

「ごめん、フェルト。取り敢えず小難しい話は後にしてこっちの道具だけを見せとくわ」

 

 スバルはそう言うと懐からガラケーを取り出し、フェルトに向けてカメラの機能を用いて写真を連続で撮る。すると、フラッシュ機能付きであったこともあり、まともに光を浴びるフェルトが音と輝きに「うわぉう!」と女の子らしからぬ悲鳴で反応し、驚くと流れ作業のように腰に履いていたナイフを取り出す。

 

「テメーらなんの真似だ!」

 

「ちょっ!」

 

「待って!これ見てって!」

 

 ナイフを取り出されビビった2人はスバルのケータイを見るように促す。フェルトはナイフこそ仕舞わなかったが、悪意がないことを察すると2人を信じてケータイを見る。するとそこには、

 

「アタシ、か?」

 

「そ、これが俺の持つ道具の機能!こうして精巧な絵を残すことができる。さらにPRさせてもらうと世界に片手で数えられる程度しかない貴重品。さあ、どうよ」

 

 写真を見て驚くフェルトに対してドヤァ、と鼻を長くして見下ろすスバルに、フェルトは「ふむふむ」と鼻を鳴らす。しげしげと手の中の携帯電話を眺め、一通り見回してから納得の頷きを作り、

 

「機能見せられたら信じるしかねぇな。でも、これがアタシか?きれいに世界を切り取るって言うんなら、アタシはもっと美人だと思うぞ」

 

「あ、機能面に不満があるってんなら乙骨のを使え。よりハイグレードな君をお届けできるぜ?」

 

「……ほんとか?」

 

「質がいいのは認めるかな?あ、そうだ。ちょっとだけ自己紹介をしてみてくれない?」

 

 疑いの目線をこちらに送るフェルトに対して乙骨はポケットから取り出したスマホでカメラを起動する。半信半疑といった様子で自己紹介をするフェルト。自己紹介を終えて少しすると乙骨もカメラを止めてフェルトに見せる。そこには、

 

「うおっ!?ちっこい箱の中でアタシが喋ってる!?」

 

「こっちはスバルのと同じ機能の他に一時的に光景をここに納めることで繰り返し確認できるって代物かな?」

 

「どうよ!?俺と乙骨の商品は!?」

 

「……悪りぃがアタシの一存じゃ決めかねる。物珍しさは認めるけどどんだけの金になるかは微妙だからな。それに言っとくが、交渉相手の意見を丸呑みするほどアホにはなれねぇ」

 

「うーん、そっかぁ」

 

 割と妥当な判断を前に2人して何も言えない。で、問題は金になるかそうでないかを誰が決めるかだ。

 

「フェルトちゃんには当てがあるのかい?」

 

「とーぜん。そこにいる偏屈爺さんに聞くのが手っ取り早いだろーさ。物を見る目は公平だぜ?それなりに場数も踏んでっから、『魔法器』見ても判断つくだろーし」

 

「やっぱそこ行くのね…」

 

「なんだよ不満かよ。嫌なら無かったことにしてもいいんだぜ?」

 

「冗談だよ!じょーだん!」

 

 突然、交渉が打ち切りになりかけたことにスバルは絶叫し、乙骨も思わずギョッとした。予想していたとはいえこちら側としては盗品蔵に到着する前にこの場で決着しておきたかった。が、流石にそうは簡単にいかないようだ。

 

「そうと決まればちゃっちゃと交渉と行こうぜ」

 

「そうするけど、少し遠回りするぞ」

 

「え?なんで?僕たちもそうだけど君もこの手の交渉は早めにした方がいいんじゃ…」

 

「そうしたいんだけどい意外と持ち主が根性入っててさ、お陰で逃げ切るの大変だから妨害工作。ちょっと金渡せば喜んで周りの連中がやってくれっからさー」

 

「よし行こうすぐ行こうパッと行こうちゃちゃっと行こう」

 

 歩き出すフェルトの肩を後ろから押して、強引に盗品蔵への道を急ぐ。焦らせてくることに頬を膨らませる彼女を急がせながら、スバルと乙骨は無駄な被害が減らせたことに安堵するのであった。

 

 

 そして、そんなこんなで乙骨たちからすると二度目の盗品蔵への到着。何やら合言葉らしきものを終えて出てきたのが乙骨よりも2回りほど大きい大男―――後ほど知ったが巨人族らしい―――に出会し、ビビるというイベントがあったのは割愛とする。それはさておき本題である。

 

「ロム爺、鑑定を頼む」

 

「任された」

 

 差し出された二つの携帯機器をロム爺と呼ばれた老人が鑑定する。メタリックな見た目がまずその興味を惹いたのか大きすぎる手の中にあってはまさしく玩具のような機器を繊細な指触りが確かめるように撫でる。そしてスバルと乙骨の両名から機能を聴き、実物を見て驚くなどをした後に二つを机に並べた。

 

「で?どうよ?俺たちの?」

 

「……恐れ入ったわい。これほどのもんは初めて目にする。仮にワシが扱うのならそうさなぁ、聖金貨15…いや20枚は下らずにさばいてみせる。それだけの価値はある」

 

「…それってどうなの?」

 

「うちの交渉相手が提示したのは聖金貨10枚だったな」

 

 ガラケーを指差しながら感嘆する様子でそう呟き、やたらと瞳を輝かせるロム爺。いまいちこの世界の金銭のレートを知らない2人が思わずフェルトを見ると呆れた様子でそう返してくる。価値は分からずとも数はわかるため、優っていることを理解したスバルは諸手を挙げて喜ぶ。しかし、乙骨はそうもいかなかった。

 

「あの、ロムさん」

 

「…お主の呼び方、むず痒いのぉ。で、なんじゃ?」

 

「あの僕のスマホは…?」

 

 乙骨は自身のスマホを指差して困惑したようにそう聞き正す。気になるのも無理はなく、何せロム爺が聖金貨20枚はくだらないと判断したのはスバルのガラケーであって乙骨のスマホではない。どうゆうことなのか聞いてみると、ロム爺は苦々しい顔をしていた。そして「すまない」と一言謝ると説明し始める。

 

「これに関しては申し訳ないが時間をくれんか?」

 

「えぇ、そんなぁ!?」「おいおい爺さん!まさかと思うけど奪う気じゃねぇだろうなぁ!?」

 

「んなことするかぁ!価値が高すぎて決めかねるんじゃよ!」

 

「価値が、高すぎる?」

 

 ロム爺に差し出されたミルクを飲んでいたフェルトがこちらを向く。それに対してロム爺が頷くとフェルトに質問をしてくる。

 

「…フェルトよお前、この魔法器が一時的に光景を収めるものだと聞いてたな?」

 

「ん?ああ、そうだけど」

 

「それだけじゃあない。こやつの指示のもと色々と操作してみたが、時間を測る、時間を見る、保管した映像を加工できるなど機能が多すぎるんじゃ。仮に値段をつけられたとして、聖金貨が3桁を超えるのが妥当じゃないかと思わされるほどには」

 

「はぁ!?」

 

 思わぬ金額が飛び出たことにフェルトは自身の座っていた椅子を跳ね飛ばして立ち上がる。それに対して苦い顔をしたのは乙骨とスバルだった。何せ価値があると思って差し出した商品が価値がありすぎて悩むと言ってしまったのだ。ただでさえ時間が惜しいのにこれでは本末転倒もいいところだ。

 

「そんなに価値があるもんなら交渉する必要性すらないだろ!?」

 

「……なぁ、あんたら焦ってんのも気になるんだが、なんで徽章が欲しいんだ?」

 

「悪いけど説明する義理はないよね?交渉相手がいくら出すのかは知らないけどこっちが提示できるのはわかってるだけでも聖金貨20枚以上。それにさらに加算されるとなったら手を出して後悔するような額じゃないはずだ」

 

 疑いを持ち始めたフェルトの質問に対して事態を焦った乙骨が話を切り上げるべく、結末を急ぎ、そう告げる。すると、後ろから肩を叩かれる。分かってはいるがスバルだ。

 

「乙骨、焦りすぎじゃね?さらに疑われたら詰むぞ」

 

「悪いけど不意打ちにせよ何にせよこんだけ図体のでかい相手を殺せる奴が来る以上はモタモタしてらんない」

 

「……それもそうだな。多少のリスクを背負ってでも終わらせるのが妥当か」

 

 小声で尋ねてきたスバルは乙骨の言い分に納得すると再度席に座る。相手は悩んだ素ぶりを見せる。内心で乙骨は早く終わって欲しいと願う。が、世界はそんなに甘くはなかった。

 

「すまん、事情だけでも説明してくれ。こればっかしは信用に関わるんだ」

 

「お願い」

 

「すまんがダメだ。相手方の意見も聞かなきゃフェアじゃねーだろ?こればっかしは譲れねぇ」

 

 ここから打開する方法を思いつかない乙骨は最後の足掻きとして人情に訴えかけるように頼む。しかし、問い詰める瞳には微塵の容赦も慈悲もない。少女の双眸は2人の態度から、真実を掴み取ろうと懸命な様子だ。その揺らぎなさからここまできたら正直に話して出来る限り話を終えるに限ると判断する。

 

「俺がそれを欲しがるのは……元の持ち主に返したいからだ」

 

「――は?」

 

 ポロリと、本音をこぼした。しかし、反応は穏やかではない。

 

「俺はそれを持ち主に返したい。だから徽章を欲しがってる。それだけだ」

 

 目を見開くフェルトに対して、スバルは顔を上げて同じ言葉を告げる。どういう訳か紅い瞳に敵意が宿っているがスバルは目を逸らさない。乙骨にも視線が向くが偽らないためにも視線を逸らさなかった。

 

「おいおい、巫山戯んなよ。持ち主に返す?大金まで払って盗んだ相手から買い戻してかよ?信じるわけねぇだろ。衛兵のひとりでも連れてきて、アタシをとっ捕まえちまえばそれで済む話じゃねーか」

 

 それが出来たら苦労はしない。思わず乙骨はそう内心で叫んでしまう。それが出来たのならば今頃ラインハルトにでも捜索を手伝ってもらっている。しかし、それがサテラにとって不利益になる以上は出来ないのだ。

 

「つくならもっとマシな嘘をつけよ。真剣なふりしても騙されねーよ。そうじゃなきゃ、アタシは……そうさ。アタシは騙されない」

 

「フェルト……」

 

 なにかを振り切るように、フェルトは絞るような掠れた声を出す。気遣わしげなロム爺は彼女の胸中を知っているのか、その表情は痛ましげだ。『交渉失敗』の4文字が頭をよぎる。交渉にはどうしようもなく人の感情が絡んでしまう。ここからの打開策など思いつきようがない。半ば諦めかけたその時、

 

 トンットンッ

 

「…誰じゃ」

 

「ッ!」「スバル、構えて」

 

 扉から誰かが戸を叩く音が聞こえてくる。それを聞いたロム爺は立ちあがろうとし、乙骨とスバルは対処できるかどうかを隅にやってあからさまに警戒する。瞬間、扉が爆散した。

 

「―――は?」「なんじゃあ!?」「危ない!」「うぉ!?」

 

 思わぬ現実を前に三者三様ならぬ四者四様といった様子で驚きを露わにする。傷跡から刃物によるものと思い武器を警戒していたらまさかの爆発。思わぬ攻撃方法に身構えていると、

 

「とうとう見つけた、観念しなさい」

 

 そこに居たのはまさしく怒ったぞと言わんばかりに可愛い顔を歪めて眉をひそめる少女がいた。薄暗い盗品蔵の中を扉から差し込む夕日が薄赤く照らす。そんな夕日をスポットライトとして浴びて視線を独り占めする少女は強気な態度で話し続ける。

 

「逃げられると思わないで。あの徽章はすごく大事な物なの。返して貰うわよ」

 

「ホンっとにしつこいな、アンタ」

 

「盗人猛々しいとはこの事ね。神妙にしてくれれば痛い思いはしないわよ」

 

 余裕綽々といった様子でフェルトは言葉を返すが顔色は悪い。それもその筈、何せ相手はすでに空中に乙骨の前腕ほどの太さの氷柱を複数本用意しており、完璧に後手に回られているのだ。乙骨とスバルは彼女が単独でここまで辿り着けた事実に驚き、動かないでいる。最後の頼みの綱としてフェルトは強いのが目に見えているロム爺へと目線を向ける。が、

 

「ワシに振られても動けん、命を握られてるようなもんじゃ。それに嬢ちゃん、あんたエルフじゃろう」

 

 まさかの戦う前から白旗をあげている状態。エルフというマジックユーザーの強さを改めて確認させられると、

 

「正しくは違う。――私がエルフなのは半分だけだから」

 

 まさかのハーフであると本人から告げられる。肌の色の違う同士で結ばれても子供は生まれるが、文字通り人種が違っても生まれるのかと驚く乙骨。すると様子が変なことに気がつく。何せ言った本人が悲痛な顔をしているし、残りの現地民であるはずの2人も驚愕しているからだ。

 

「え、ハーフエルフってそんなに変!?」

 

「可愛いは罪、ってことぉ!?」

 

「アホか兄ちゃんたち!銀髪にハーフエルフとなりゃあ例のアレしかいねぇだろ!?」

 

「他人の空似!私だって迷惑してるんだから!」

 

 2人の反応に対して思わずツッコミを入れるフェルトと、悲痛そうな顔をして否定してくるサテラ。どうやらこの世界にも名前を言ってはいけないあの人(ヴォルデモート卿)的な存在はいるらしい。こちらは架空ではなく現実だけど。慌てる盗品組、困惑する異世界人's、サテラという見事な三すくみが出来上がり、互いに動けないでいる。

 

 ――たった1人、滑るように襲いかかる黒い影をのぞいて。

 

「――パック!防げ!!」

 

 スバルが叫ぶのと金属同士がかち合う音が鳴り響くのは同時だった。いつの間にか肩に乗っていたパックがこちらへ向けてサムズアップのようなものをしてくる。

 

「ナイスタイミング。今のは危なかったよ」

 

「精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」

 

 ククリナイフを顔の前に持ち上げて、恍惚を浮かべるのは先ほど出会った美女だった。嫌な予想が当たったことに嫌気がさしているとフェルトが喰ってかかかる。曰く、交渉はどうしたのだ、と。それに対して女は仕事も碌にできてないと一笑にふして終わった。それは、

 

「てめぇ、ふざけんなよ――!!」

 

 実力差も忘れて怒鳴りかかるくらい、スバルを怒らせる原因にはなった。

 

 驚いたようにスバルを見る女。フェルトやロム爺、乙骨、サテラも例外ではない。

 

「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!!そもそも出現が唐突すぎんだよ、外でタイミング待ってたのか!?うまくいくかもとかぬか喜びさせやがって、超恐いんだよマジ会いたくねぇんだよ! 俺がどんだけ痛くて泣きそうな思いしたと思ってやがんだ!刃物でブッスリやられるたんびに小金貰ってたら今頃俺は億万長者だ!それは言い過ぎた!」

 

「……なにを言ってるの、あなた」

 

「スバル、君はたまに突拍子もないこと言うけど今じゃないと思うよ?」

 

「だまらっしゃい!テンションと怒りゲージMAXでなにが言いてぇのか自分でもわかんなくなってきてんだよ!そんなお日柄ですが皆様いかがお過ごしでしょうかチャンネルはそのままでどうぞ!」

 

 意味不明なスバルの怒声に、女は呆れたような小さく吐息。そんな彼女の態度に微妙に傷付きつつ、スバルは唾を飛ばした勢いのままに、

 

「時間稼ぎ終了――やっちまえ、パック!!」

 

「見事な無様さだったね。――ご期待に応えるよ」

 

 地面を踏み鳴らすスバルに飄々とした声が応じて、彼女が顔を上げる。立ち尽くす彼女の周囲、全方位を囲むのは先端を尖らせた氷柱――それが二十本以上。

 

「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前はパック。――名前だけでも覚えて逝ってね」

 

 直後、全方位からの氷柱による砲撃が殺人鬼の全身に叩きつけられように殺到した。





ここまで読んでいただきありがとうございます!以下のは没案となります。

緊張が走る中、乙骨は立ち上がって問いかける。

「……あの、聞きたいんですけど」

「あら、さっきの緊張してた子ね?残念だけど『逃して』なら聞き届けられないわ。ここにいる以上は殺させてもらうのだから」

「いえ、そうではなくて」

「? なにかしら?」

 乙骨が命乞いをしてくるのかと身構えていると、まさかの否定に眉を顰める女。そして次の質問を聞いた時、

「友達とか恋人とかいないんですか?」

「…………は?」

 予想のはるか斜め上をいく質問に思わず呆気に取られた。周りの人間たちも何を言ってるんだこいつはとでも言いたげな顔をして乙骨を見てくる。乙骨はそれを無視して聞き続ける。

「僕はスバルが来るまで腹を割って話し合える人がいなかったけど、全く共感できない」

「何が、言いたいのかしら」

「えっと、僕が言いたいのはですね。きっと貴方はやりたいことがあるから人を殺してるんだと思うんです。人まで殺して……なんで自分なんかの為に必死になれるんですか?」

「――――――」

 心の底から理解できないといった様子で乙骨はそう締めくくる。一瞬の静寂が場を包み込む。先ほどまで喜色を顔に浮かべていた女の顔から笑みが消え失せる。瞬間、溢れ出す殺意や敵意。それは恐れる乙骨に対して一身にぶちまけられた。

「――あなた、心底嫌いだわ」

 ククリナイフをこちらに向けて殺意をばら撒く女は上体を低くして身構える。すると、

「意図的なのかそうでないのかはさて置き、ナイスな時間稼ぎだったよ少年」

 殺意を遮るようにパックの声が盗品蔵を叩く。声に釣られて彼女が目を向けると彼女の周囲、全方位を囲むのは先端を尖らせた氷柱が出現する。その数はパッと見た限りで二十本以上。
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