——Side:立花賢人——
ケヤキモールのトレーニングジムで体を動かしながら、俺は自クラスで巻き起こっている問題について考えを巡らせていた。
1年度最後の特別試験で武藤が退学になったおかげで、表立って俺に反発するやつは居なくなった。
その結果、現在のCクラスは1つにまとまった状態となっているが……それはあくまでも
「チッ、余計なことしやがって……」
現在。武藤派閥だった奴らが水面下で新たな派閥を結成し、それが無視できないほどの規模になっている。
その派閥の名は……『南雲派閥』。
自クラスの生徒ではない南雲を支持する意味のわからねぇ勢力だ。
俺の方針に不満を抱く元武藤派閥。
南雲の開く勉強会のおかげで退学を免れた元赤点組の奴ら。
単純に南雲へ好意を寄せている女子連中。
そんな奴らが集まり、南雲派閥は日に日に勢力を強めている。
推測でしかないが、すでにクラスの半数以上が南雲派閥に属している可能性が高い。
「イラつくぜ……」
他クラスのリーダーを支持する派閥が出来上がっていることもそうだが、なによりイラつくのは
現在のクラスポイントの数値はCクラスが355cp。対して、Aクラスは1385cp。1000cp以上の差がある。
しかも、無人島試験で南雲の策に従い、トータルで600cpの差を与えてもらった上でこの差だ。
あの時、Aクラスが本気で無人島試験を勝ちにきていたら……俺たちのクラスポイントは残っていなかった可能性が高い。
「くそっ……」
俺はまだAクラスへの昇格を諦めていないが、現時点で南雲には敵わないと諦めてしまう奴らの気持ちもわかる。それがたまらなくムカつく。
「まさか、これも全て南雲の策なのか……!?」
赤点組の救済と他クラスのクラスポイントをゼロにしないような立ち回り。どちらもAクラスにとってはメリットのない行動だが、それらが全て『南雲派閥』を生むための布石だったとしたら……点と点が繋がったような感覚を覚えた。
同時に、南雲が入学当初の中間試験からこの状況を思い描いていた可能性にも至り、背筋に冷たい汗が流れる。
「お、俺はまだ負けてねぇ!」
言いようのない不安と苛立ちを発散するために、俺は自身の筋肉を酷使し続けた。
◇
——Side:須知萌香——
待ち合わせよりだいぶ早い時間に到着してしまった私は、寮のエントランスにあるソファーに座りながら現状を整理していた。
「どう考えても、問題だらけだよねぇ……」
選抜種目試験の勝利で私たちはBクラスまで昇格できたけど、素直に喜べる状況ではない。
Dクラスに降格した桐山くんたちの方が学力や運動面では優れているし、立花率いるCクラスには個性豊かで尖った才能を持つ生徒が多い。だからこそ、どちらのクラスとの戦いも油断はできない。
でも、一番の問題は南雲くんの率いるAクラスの存在だ。
リーダーの私がこんなことを思っちゃダメだと分かってはいるんだけど……正直、南雲くんのクラスに勝てるビジョンが全く浮かばない。
結果だけ見れば、無人島試験やパートナー筆記試験はAクラスより優秀な成績を修めたことになっている。けど、あの結果が生まれたのは南雲くんに勝つ気がなかったからだ。
どちらの試験でも、南雲くんは勝つことより退学者を出さないことを優先して立ち回ってくれた。クラスポイントを得ることより、同学年から退学者を出さないことを優先してくれたのだ。
「それなのにクラスポイントが倍以上違うって、どんだけって感じだよぉ……」
5月の頭に発表されたクラスポイントの数値は、Aクラスが1385cpでBクラスが585cpだった。
うん、何度見ても絶望的な差だと思う。
ちなみに、本来であれば600cp残っているはずだったんだけど……うちのクラスの三馬鹿共が馬鹿なことをしたせいで15cpのマイナスを受けてしまったため、現在は585cpとなっている。
聞いた話によると、コンビニの前で1年Dクラスの生徒に絡み、緘口令が敷かれていることを忘れてクラスの階級を示唆するような発言をしてしまったらしい。
本当に馬鹿だ。次また何かやらかしたら立てなくなるまで正座させてやる。
話を戻すけど、絶望的なポイント差ではあるものの、2年度の特別試験を勝ち続ければ埋められる差だとは思っている。
でも、南雲くんの率いるAクラスを相手にその条件を達成するのは至難の業だ。というか、最初からそんなことができていたらここまでの差なんてついてない。
「運が悪いのかなぁ……」
先生方の間では、南雲くんはすでに『歴代最高のリーダー』と評されているそうだ。
そんな人とAクラス争いをしないといけないなんて、私たちだけじゃなくて桐山くんや立花のクラスのみんなも本当に運が悪いと思う。
「まぁ、考え方によっては運が良いとも言えるのかな……」
これは担任の先生から聞いた話だけど、この時期にまだ一人しか退学者が出ていないという事実は、この学校の歴史上初めての事例らしい。
例年なら、2年に上がる頃にはもっとたくさんの生徒が退学しているそうだ。
この結果は生徒一人一人の努力もあるだろうけど……一番の理由はやっぱり、南雲くんのお陰だと思う。
クラスの垣根を越えた勉強会の実施に、特別試験で退学者が出ないような策を実行してくれたこと。口には出さないけど、南雲くんのお陰で私たちの学年が救われているとみんなが思っている。
もしも、南雲くんが他クラスの生徒を蹴落とすような立ち回りをして、全ての特別試験を本気で勝ちにきていたとしたら……想像するだけでもゾッとする。
とんでもない数の退学者が出て、クラスポイントの差も今以上に酷いことになっていたはずだ。
そう考えると、この学年になれて運が良かったとも言える。
「よし、現状整理終了っ」
ネガティブな思考を振り払い、改めて決意を固める。
私はAクラスへの昇格を諦めるつもりはない。叶えたい夢のためにも、クラスのみんなのためにも、Aクラスで卒業して必ず特権を手に入れる。
たとえ南雲くんが相手でも、Aクラス卒業の特権を譲るつもりはない。
「あ!スッチーもう来てたんだ。待たせちゃってごめんね」
静かに決意を固めていると、待ち合わせの相手であるなずなちゃんがエレベーターから降りてきた。
「全然待ってないよ。っていうか、まだ約束の時間の10分前だからね」
「あははっ、お互い早いね〜」
すぐさま気持ちを切り替えた私は、親友とのお出掛けを楽しむためにソファーから立ち上がった。
◇
——Side:桐山生叶——
学校の図書館では、今日も他クラスとの合同勉強会が開催されている。
そんな中、俺は向かいの席で鬼龍院に絡まれている南雲を見ながら静かに考えをまとめていた。
「南雲雅……か」
クラスポイントの存在を初日に見破ったという話を知ってから、俺は南雲のことを警戒していた。
今後行われる特別試験において、最大の障害になる相手だとその時に確信したためだ。
しかし、その認識はまだ甘かった。
中間試験では過去問が必勝法であることを即座に見抜き、無人島試験やパートナー筆記試験では退学者を出さない立ち回りを続けながらも他クラスを翻弄し続け、選抜種目試験に至っては俺の退学を取り消すために教室まで乗り込み、実際にクラスの全員を説得して退学を取り消させた。
高い学力や運動能力だけでなく、他クラスの生徒まで従えてしまう圧倒的な求心力も備えた存在。最大の障害という表現すら生温い相手。それが南雲雅だった。
正直なところ、いくら考えを巡らせても南雲を越えられるイメージは湧かない。
しかし、俺はAクラスへの昇格を諦めるつもりなどなかった。俺を残す決断をしてくれたクラスの仲間たちのためにも、Aクラスでの卒業を南雲から勝ち取るつもりだ。
そのためにはまず、Bクラスの地位を取り戻す必要があるだろう。
現在の俺たちDクラスのクラスポイントは334cp。対して、須知が率いるBクラスは585cp。絶望的な差ではない。
次の中間試験では、最大で
「ただ、南雲の動向には注意しなければな……」
南雲が中間試験の
敢えてそれを使わずに試験に挑むつもりなのか、水面下でなんらかの策を巡らせているのかは分からないが、俺がやることは変わらない。
必勝法をクラスの全員に共有し、対戦相手であるBクラスに勝利する。そして、5教科全ての平均点で1位を独占し、ボーナスの50cpも手に入れる。それだけだ。
「そんなにじっと見つめてどうしたんだ?まさか、お前も南雲狙いなのか?」
「断じて違う。変な勘違いはするな」
南雲への視線に気付いた鬼龍院をあしらった俺は、隣の席に座る他クラスの生徒への講義を再開した。
〜Side:須知萌香の補足〜
・三馬鹿
須知が言っていた三馬鹿とは、原作の1巻で須藤に絡んでいた2年生のことでございます。どこのクラスかは明言されていませんが、須知のクラスである可能性が高いため1人5cpで合計15cpのペナルティとさせていただきました。
ちなみに、クラスの階級を示唆する発言とは以下の通りでございます。
「当ててやろうか?Dクラスだろ?」
「Dクラスだってよ。やっぱりな!お里が知れるってもんだよなぁ」
「可哀想なお前ら『不良品』」
クラス分けに差があることを教えてくれるなんて、優しい先輩たちですね!
・須知が叶えたい夢
原作の須知萌香は、Aクラスになるために重大違反を犯して退学になりました。
そこまでしてAクラスに行きたかった理由は明言されていませんが、今作では『叶えたい夢のため』ということにさせていただきます。
夢の内容については今後どこかで描く予定でございます……タブン。