気がつけば6月。
綾小路と櫛田とお昼を一緒に食べるというサプライズがあってから、今日のように静かに考えを整理したい時はひと気のないテラス席でひっそりとお昼ご飯を食べることが定番となりつつあった。
「さてと……」
気を取り直して現状の整理を始める。
まず、5月末に行われた中間試験の結果を受け、現在のクラスポイントは以下の通りとなった。
——中間試験終了時点のcp——
Aクラス:1382→1482cp
Bクラス:580→480cp(Cクラスへ降格)
Cクラス:345→245cp(Dクラスへ降格)
Dクラス:332→482cp(Bクラスへ昇格)
驚くべきことに、桐山たちDクラスが速攻でBクラスの座に返り咲いた。
須知クラスの三馬鹿による15cpのペナルティや、鬼龍院が大人しく過ごしたことで生活態度の減点が少なかったことなど、要因は色々あるだろうけど……一番の理由は中間試験の全科目平均1位ボーナスによる+50cpだろう。
試験後に知った事実だが、3年生が4月の上旬に行った『総復習テスト1年度版』に出てくる内容と今回の中間試験の内容が完全に一致していたらしい。
その事実に気付いた桐山はすぐに先輩から復習テストを入手し、クラスの全員へ配布。その結果、平均点ほぼ満点という驚異的な成績を叩き出してボーナスクラスポイントを全て獲得した。
思い返してみれば、真面目担任が「今日は3年の総復習テストが行われています」「みなさんも復習は忘れず行うように」などと、ことあるごとに復習復習言っていた気がする。
あれが匂わせ説明だったとは……完全に油断した。
高育が普通の特別試験なんてやるはずないのに、クラスポイントに余裕があったせいでどこか甘く見ていたようだ。
反省だな。今後の特別試験はより一層気を引き締めて挑むとしよう。
ともあれ、今回の試験結果も悪いことばかりではない。
桐山のクラスが僅差でBクラスに昇格したことで、須知のクラスに綻びが生まれ始めたのだ。
三馬鹿の馬鹿行動を未然に防げなかったことやBクラスの座を即座に奪われたことが重なり、須知のリーダーとしての資質を疑問視する声が少しだけ挙がっているらしい。
須知には悪いが、この隙は遠慮なく利用させてもらう。
立花のクラスにいる協力者を経由して元武藤派閥を焚き付け、Dクラス内に南雲派閥を誕生
「早く進めなきゃな」
Bクラスと1000cpの差が生まれている現状でも、桐山たちが逆転できる手はまだたくさんある。
その中で俺が最も警戒している手は以下の2つ。
1つ目は、パートナー筆記試験のような特別試験でAクラスの主要メンバーを道連れにされることだ。
この作戦はリーダーやクラスメイトの気質的に立花のクラスが行ってくる可能性が高いため、俺は過去の貸しを全て消費する勢いで南雲派閥の誕生を急いでいる。
まだ油断はできないが、Dクラスの半数以上が味方に付いてくれている現状でこの手が実行される確率は低いはずだ。
2つ目は、B〜Dクラスによる共闘。
これを行われるのが一番ヤバい。マジでヤバい。
無人島試験や体育祭など、他クラスに共闘されるとどうしようもなくなる特別試験は意外と多いため、1000cpの差もあっという間に覆される可能性がある。
それをさせないためにも、立花クラスを完全に掌握し、須知クラスの懐柔も進める必要があった。
「桐山のクラスはどうしようかな」
問題は桐山のクラスだが、俺の計画を正直に説明すれば協力してくれる可能性は高いと思っている。
仮に断られたとしても、おそらく問題はない。
その時にCクラスとDクラスが味方になっていれば今後の特別試験が3クラス対1クラスの構図になるため、協力せざるを得ないはずだ。
「できれば2年の中盤くらいまでには計画を実行したいなぁ……」
そんなことを呟きながら、端末に保存している計画書を改めて読み直す。
その表紙に記載されている文字は……『同学年のほぼ全員救済計画』。
"ほぼ"と付いている点に自信のなさが現れていてちょっと情けないが、これが最終的に行おうと思っている計画のタイトルだ。
まだクラスメイトにしかこの計画は打ち明けていないため、いずれ学年全体に説明を行う必要があると思い、わざわざ作成したのである。
「あ、そういえば堀北会長に呼ばれてるんだった」
用事を思い出した俺は食べかけのサンドイッチを口の中に放り込み、テラス席を後にした。
◇
生徒会室に行くと、放課後に行われる審議の進行役を任せたいと堀北会長に言われた。
「了解です。それで、何の審議なんですか?」
「ちょっとした揉め事の審議だ。俺も参加する」
「ほへぇ、堀北会長も出陣ですか。珍しいですね」
揉め事の審議は、基本的に俺や桐山といった下っ端たちで処理している。
橘先輩に手伝ってもらうこともあるけど、堀北会長が直々に参加するのは非常に珍しい。
「何か気になることでもあるんですか?」
「……日々多忙故、基本的には参加を見送らせていたが、原則俺も立ち会うことを理想としている」
「えっ、なんですか今の"事前に用意してました"みたいな文章」
「……」
あれ?待てよ?今のセリフどこかで聞いたことがある気が……あっ、思い出した!
確か、原作の1年生編2巻で行われた須藤の暴力事件の審議の時に、堀北会長が茶柱先生に言っていたセリフだ!
ま、まさか、堀北会長が審議に参加すると言っているこの状況って……。
「……もしかして、審議って1年Cクラスと1年Dクラスの揉め事の件だったりします?」
「ほう、耳が早いな。何か知っているのか?」
知っているどころか、誰がどういう話をしてどんな結末で終わるかまで全部知ってます。とは口が裂けても言えないため、「その2つのクラスが揉めていると耳にしました」と言って誤魔化した。
「これが今回の審議の資料だ」
渡された資料に目を通すと、特別棟で須藤が石崎たちをボコボコにした話が丁寧な文章で書かれている。間違いない、原作2巻の暴力事件そのまんまだ。
「橘先輩に進行をお願いすることはできないんですか?」
原作だとこの審議の進行役は橘先輩が務めていたため、本来の流れへ戻すために聞いてみた。
「橘には別の仕事を頼んである。放課後は空いていない」
「なるほど……」
ということは、橘先輩にお願いするのは無理か。ここから原作の流れに戻すのは難しいだろう……。
「お前の言いたいことはわかる。この程度の揉め事の審議に生徒会長と生徒会副会長が揃って参加することへ疑問を感じているのだろう?」
全然違います……とは言えないため、静かに頷く。
「今回の審議の参加者の中に、少し気になる生徒がいてな。お前に直接見てもらい、意見を聞きたいと思ったんだ」
「気になる生徒、ですか……?」
「1年Dクラスの綾小路清隆という生徒だ。知っているか?」
前世から知ってます。とは言えないため、「名前くらいは」と言って誤魔化した。
「もしかして、生徒会に誘うつもりですか?」
「今のところ、そのつもりはない」
あれ?原作だと審議の後に綾小路を生徒会へ誘っていたような気が……。
「まだ言っていなかったが、新入生の生徒会メンバーが先日決まったばかりでな。急いで新たな役員を集める必要はないんだ」
「そうだったんですね。なんていう生徒ですか?」
「Aクラスの葛城康平とBクラスの一之瀬帆波という生徒だ」
えっ!2人とも面接に受かってる!一体どうしt……あっ、そうか!
「俺が暴れてないからか……」
原作の堀北会長が綾小路を生徒会に誘い、葛城と一之瀬を面接で落とした理由は南雲が原因だった。
原作南雲の思想を危険視した堀北会長は、対抗できる役員として綾小路を生徒会に勧誘し、南雲に懐柔されそうな葛城と一之瀬は生徒会に入れないようにしていたのだ。
つまり、この変化は俺が原作南雲のような行動を取らなかった結果によるものだろう。
「どうかしたか?」
「い、いえ。なんでもありませんっ」
こんなに早い段階からストーリーが変わってしまうとは思っておらず、少し動揺してしまった。
気を取り直して堀北会長の言葉に耳を傾ける。
「とりあえず、放課後の審議の進行はよろしく頼む」
「わ、わかりました」
綾小路に副会長だという事実がバレるだろうけど、もともと隠し切れないことだから特に問題ないはずだ。開き直って進行を頑張るとしよう。
「葛城と一之瀬については今回の審議が終了してから正式に生徒会役員として働いてもらう予定だ。その時は南雲に教育係を任せたい」
「了解でs……えっ!ど、どうしてですか!?」
2人とは事務的に関わる程度の関係でいこうと思ってたのに!
「普段の学生生活におけるお前の活躍は聞いている。学年全体で勉強会を開いたり、最近では他クラスの生徒の進路相談まで受けているそうじゃないか」
「そ、そんなことまで知ってるんですね……」
進路相談は計画実現のための伏線なのだが、まだ始めたばかりで日は浅い。
それなのに、もう堀北会長がこのことを知っているとは……一体どこから情報を仕入れているんだろ?改めて堀北会長の凄さを知った。
「そんなお前なら後輩たちをより良い方向へ導いてくれると信じている。期待しているぞ」
「は、はいぃ……」
メガネの奥から熱い視線を向けてくる堀北会長の頼みを断れるはずもなく、葛城と一之瀬の教育係という新たな役職を授けられてしまった。
~ちょこっと解説~
今回でAクラスとBクラスのポイント差が1000cpとなりましたが、これは原作よりぶっ飛んだ結果となっております。
原作の南雲の代は2年の中盤でAクラスとBクラスに700cp以上の差があったと推測されてますので、2年の序盤で1000cp差はちょっとヤヴァイです……。
ちなみにですが、原作の2年終盤における南雲クラスのポイントは1491cpですので、今作南雲くんクラスの現時点のポイントとほぼ同じでございます……ヤヴァイ!