新学期初日。
原作と同じく、午後の最初の授業は体育祭の説明だった。
真面目先生がしてくれた説明は以下の通り。
全学年が赤組(ADクラス)と白組(BCクラス)に分かれて勝敗を競い、総合点で負けた組は全学年等しく−100cp。勝っても変動はなし。
各学年の総合点1位は+50cp。2位は変動なし。3位は−50cp。4位は−100cp。
個人競技報酬や最優秀生徒報酬として、順位に応じた筆記試験の点数やプライベートポイントを手に入れることができる。
あとは反則事項などの説明もあったけど、ペナルティがちょっと違う点以外は原作の説明とほぼ同じ内容だった。
うん。原作でも誰かが言ってたけど、1年生編5巻の体育祭は本当においしくない!
最悪の場合は200cpもマイナスされるのに、最良の結果を出しても50cpしか獲得できない。さらに、確実な勝利には全学年への根回しが必要なため、実行は非常に難しい。
退学者が出ることはほぼないだろうけど、色々な意味で厳しいルールだ。
「次の時間は体育館で他クラスの生徒と顔合わせを行う予定ですので、遅れないように移動してくださいね」
そうこう考えているうちに真面目先生の説明は終わり、残り時間でぱぱっと体育祭の方針を決め、みんなで体育館へと移動した。
赤組の集まる場所でぼけ〜っと様子を伺っていると、原作通り藤巻先輩がみんなの前に出てき……ん?
「3年Aクラスの堀北学だ。今回赤組の総指揮を執ることになった。よろしく頼む」
「っ!?」
原作では藤巻先輩が赤組の総指揮を務めていたはずなのに、堀北会長が総指揮!?
もちろん不満はないけど、一体なぜ?
原作と異なる流れが起きる原因はどうせ俺だろうけど、それにしたって理由がわからない。今度堀北会長に聞いてみるか……。
「体育祭の経験は必ず別の機会でも役に立つ。今後の試験の中には一見遊びのようなものもあるだろうが……」
堀北会長のありがたいお言葉を聞きながら遠くのほうに座っている堀北妹を見ると、側から見ても一目瞭然なほど落ち着きのない様子だった。なんかずっとソワソワしてる。
対する堀北会長はいつも通りに見えるが、俺にはわかる。この場にいる全員へ語りかけているように見せながらも、常に妹さんが視界の端に映る角度へ顔を向けている。
この兄妹、相変わらず拗らせてるなぁ……。
「最後の1200メートルリレー以外は学年別種目ばかりだ。そのため、方針については各学年で集まり好きに話し合ってくれ。以上だ」
堀北会長の言葉が終わり、赤組の生徒たちが一斉に動き出す。
「なずな。悪いんだけど、Dクラスとの話し合いは任せてもいい?ちょっとぶらぶらしたい」
「ぶらぶら?別にいいけど、Dクラスには事前に決めた方針に沿って話しておく感じでオッケー?」
「うん、それでオッケー」
さすがは我ら2年Aクラスの副リーダー。ぶらぶらしてくるというクソみたいな理由でも快く仕事を変わってくれるとは、本当にありがたい。今度デラックスあんみつパフェを奢ろう。
「さてと、葛城たちは……」
1年生が集まっている場所へ静かに近づくと、1年AクラスとDクラスの話し合いはすでに始まっていた。
「……ん?」
葛城の後方に視線を向けると、十数名ほどの生徒が坂柳の周囲の生徒から少し間隔を空けて座っていた。
様子から察するに、あの十数名は葛城陣営の生徒だろう。
「また色々変わってるなぁ……」
原作だとこの時期は葛城陣営の生徒が数名しか残っていなかったと書かれていたはずだが、人数が明らかに多い。詳しい理由は不明だけど、原作よりも葛城陣営の弱体化は進んでいないようだ。
もしかすると、生徒会に入ったことが良い方向に影響しているのかもしれない。
そんなことを考えていると——
「話し合いをするつもりはないってことかな?」
「こっちは善意で去ろうとしてんだぜ?俺が協力を申し出たところでお前らが信じるとは思えない。結局端から腹の探り合いになるだけだろ?だったら時間の無駄だ」
——一之瀬と龍園の声が体育館に響いた。
おぉ!原作でも数えるほどしか見られない珍しい2人の対話シーンだ。
貴重な光景に思わず笑みが溢れる。ぶらぶらしに来て良かった。
「ねぇ龍園くん。協力なしで今回の試験に勝てる自信があるの?」
「クク。さぁな」
龍園はそう言い残し、Cクラスの面々を引き連れて体育館から去っていった。
協力を断られた一之瀬はなんとも言えない表情をしているけど、大丈夫だ。
原作通りなら真面目に体育祭を頑張った一之瀬クラスが1年で1位を取り、龍園の策で堀北妹と須藤をボコボコにされたDクラスは最下位という結果に終わる。
だから一之瀬。正々堂々戦えば君たちがきっと1位だよ!
「まぁ、赤組の一員としては堀北妹と須藤を助けたほうがいいのかも知れないけど……今回は静観だな」
原作の体育祭では、龍園とのゴタゴタによって堀北妹は仲間の大切さを知り、須藤はバスケ以外の自分の
つまり、今回の体育祭は堀北妹と須藤の成長に欠かせない重大イベントなのだ!
前世から堀北妹と須藤のことも好きだった俺としては、体育祭で2人に干渉して成長の機会を奪うつもりはないのである。
「あと、できれば堀北妹とちゃんと話せるようになりたいからなぁ……」
実はプールでバレーをした時に2人に話しかけており、須藤とはスポーツ関連の話でそれなりに意気投合できたのだが……堀北妹とはあまり話すことができなかった。
堀北会長に近しい存在だと認識されているためか、まともに会話ができないほど緊張されてしまったのである。
体育祭が終われば堀北会長を見ても動揺しなくなるほどメンタルが強化されるため、その頃にまたリベンジするつもりだ。
「すみません、南雲副会長ですよね」
「っ!そ、そうだけど……」
ぼけ〜っと1年の様子を眺めていると、不意に1人の女子生徒が話しかけてきた。
「初めまして。1年Aクラスの神室です」
「あ、どうも初めまして。2年Aクラスの南雲雅です」
声の主は紫色のサイドテールをなびかせるキリッと眉毛の美少女、神室真澄だ。
急な展開にドキがムネムネだが、顔には出さないよう微笑みで誤魔化しながら会話を続ける。ニコッ
「少しお話したいことがあるんですけど、放課後にお時間いただいていいですか?」
「放課後か。全然いいよ」
話って何だろ?と疑問に思いながらも、お誘いには即座に了承した。今日は暇なもんでね。
「それでは、放課後にケヤキモールの『パレット』で待ち合わせるのはどうでしょうか?」
「パレットか……」
「別の場所がいいですか?」
「いや、俺は全然いいんだけど、
「っ!」
あれ?なんで驚いて……あっ、そうか!
原作知識で『神室のアポ取り=坂柳からのお誘い』だと当然のように思ってたけど、それは本来なら俺が知るはずのない知識だ。
プールでの軽井沢の件もそうだけど、最近やらかしまくってるなぁ……前世から大好きだったよう実ワールドが楽し過ぎて浮かれているようだ。反省せねばっ。
「えっと、場所はどうする?坂柳さんが大丈夫ならパレットで全然いいけど」
「……その場所で話したいと言っていたのは坂柳なので、大丈夫です」
「了解。要件はそれだけ?」
「それだけです。ではまた放課後に」
神室はそう言い残し、坂柳の元へ戻って行った。
それにしても、まさか坂柳がお誘いしてくれるとは……なにか企んでいるのは間違いないだろうけど、一緒にカフェに行けるなら騙されても全然オッケーだ。
俺だけが不利益を被る程度の企みなら、むしろお釣り多過ぎて困るレベルである。
「坂柳とも仲良くなりたいなぁ……」
そう呟きながら、放課後を心待ちにするのだった。
南雲君「坂柳とも仲良くなりたいなぁ……」
運命力「オッケー」