南雲雅?俺じゃん。   作:ざったなっつ

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 お、お久しぶりでございますっm(__)m
 ちょこっと書き溜めましたので、放出させていただきますっ。

 それと、しれっと表紙も描き直しましたので、そちらも見ていただけると嬉しいですっ。

 そ、それではどうぞっ。

クソバカ
【挿絵表示】





☆31話「天才少女/クソバカ」

 

 

——Side:坂柳有栖——

 

 

 体育祭で綾小路くんを見つけた時、真っ先に思い浮かんだのは南雲副会長のアドバイスでした。

 

『Dクラスの子たちのことは取るに足らない存在だと思っているようだけど、それは物凄く大きな間違いだから認識を改めたほうがいいよ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさか、あの言葉の通りになるとは思いませんでしたね……」

「どうかした?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 向かいの席で昼食を摂る真澄さんにそう返しながら、思案を続けます。

 

 南雲副会長の言葉を素直に聞き入れていれば、綾小路くんの存在にもう少し早く気付けたかも知れません。

 不服ですが、視野が狭くなっているというアドバイスは受け入れざるを得ないでしょう。

 

 しかし、それは私のやり方が間違っているという証左にはなりません。

 

 南雲副会長は尊重や信頼といった言葉で仲間の大切さを説いておられましたが、余計な尊重は駒の評価を乱し、過剰な信頼は統率を乱す要因となる。

 駒を指す人間が優秀であれば、それらは無用の長物です。

 

「そういえば、ちょっと聞きたかったんだけどさ」

 

 静かに思案を続けていると、真澄さんが不意に声を掛けてきました。

 伺うような視線を向けてくる真澄さんに目を合わせながら、続く言葉を待ちます。

 

「葛城陣営はどうすんの?あんたの予想より懐柔進んでないんでしょ?」

「そのことですか」

 

 真澄さんの言葉で、再び南雲副会長の顔が思い浮かびました。

 

 現在、南雲副会長の名声が葛城くんの求心力を高めていることで、Aクラスの掌握が予定よりも難航しております。

 

 対抗策として南雲副会長をカフェにお誘いし、私も懇意にしているというアピールを行いましたが……そのすぐ後に生徒会の新役員歓迎会なるものを南雲副会長が開催したことで、私の策は無意味なものとなってしまいました。

 それどころか、歓迎会の後は葛城くんのほうが南雲副会長に気に入られているという噂まで流れてしまい、むしろ葛城くんの求心力が以前よりも高まっております。

 

 私の策を即座に打ち砕く手腕もそうですが、情報収集能力も相当なものをお持ちのようですし……ふふふっ、中々楽しませてくれますね。

 

「葛城くんを介して、このまま南雲副会長との駆け引きを楽しむのも悪くないかも知れません」

「あんたそれ本気で言ってるの?」

「ふふっ、どうでしょうね」

 

 少し前の私なら本気でそう考えたのでしょうが、今は違います。

 このまま内輪揉めを続けていては、綾小路くんとの戦いに支障をきたしますからね。少し残念ではありますが、いつまでも南雲副会長と遊んでいるわけにはいきません。

 

「おっ、姫さんこんなところにいたのか」

 

 思案を終え、そろそろ教室に戻ろうかという頃。橋本くんがいつも通りの陽気な様子でテラス席にやってきました。

 私を探していたということは、何か用事があるようですね。

 

「どうかされましたか?」

「ちょっと面白い噂を耳にしてな。実は——」

 

 橋本くんが話した内容は、昨日図書室で行われていた1年BクラスとDクラスの勉強会に南雲副会長が参加し、一之瀬さんを延々と口説いていたというものでした。

 南雲副会長のセリフから、一之瀬さんに相当ご執心な様子だったとのことです。

 

「姫さんにはあまり興味のない話だと思ったんだが、一応耳に入れておこうと思ってな」

「とんでもありません。むしろ非常に興味深い内容でした」

 

 その噂が事実であれば、南雲副会長を揺さぶる道具として一之瀬さんを利用できるかも知れません。

 南雲副会長の情報を集めるために船上試験の前から一之瀬さんと交流を深めておりましたが……まさか、その繋がりを活かす機会が訪れるとは思いませんでした。

 嬉しい誤算ですね。

 

「ふふふっ、楽しくなりそうですね」

 

 静かにそう呟いた私は学生証端末を取り出し、一之瀬さんに連絡を入れました。

 

 

 

 

 

 

 数多くの書籍から『素直に褒める』という基本中の基本こそが女性の好感度を上げる真理だと学び、図書室で一之瀬のことを()()()()褒めた結果……物凄く避けられるようになりました。

 

 そして、一之瀬とほとんど会話がないまま数日が経過した現在。

 

「前から思ってたけど、雅って勉強できるのにバカだよね」

「頭の良いアホだな」

「何でそこで?って場面でボケることあるよな〜」

 

 図書室で俺のやらかしを見ていたなずなと殿河と溝脇に何か打開策はないかと相談して返ってきた言葉が、上記のご意見だった。

 

 もうやめて!俺のライフはゼロだよ!

 

「あの……よろしければこの状況を打開できる策をご教授いただきたいのですが……」

「そんなの簡単だろ。『めんごめんご!全部冗談だからっ!』で一発じゃね?」

「「それは絶対ダメだろ」でしょ!」

 

 先陣を切った溝脇の意見はなずなと殿河に秒で却下された。

 バカでアホでボケな俺でも、さすがに今の案がダメなことはわかる。

 

「じゃあお前らはどんな案があるんだよ」

「否定しておいて申し訳ないが、代案は思い浮かばん。ただ、溝脇の彼女さんが苦労しているであろうことは理解できた」

「何でっ!?」

「溝脇、あんた彼女さんのこと大切にしなよ?マジで」

「朝比奈までっ!?」

「バカアホボケ同盟へようこそ。歓迎するよ溝脇」

「俺も同類なの!?」

 

 ひとまず、溝脇と殿河からの意見は期待できないようだ。

 

「なずな様。何かアドバイスを授けてはいただけないでしょうか」

「ん〜……」

 

 なずなが難しい顔をしながら口を開く。

 

「そもそもの話、バカ雅は帆波ちゃんが避ける理由についてちゃんと考えたの?」

「もちろん、しっかりと考えたよ」

 

 避けられるようになってから、バカアホボケなりに一之瀬の心境についてずっと考え続けていた。

 

 歓迎会の帰りに本心からの忠告を伝えた時の戸惑った表情。

 体育祭の借り物競争で一緒に走った時のはにかんだ笑顔。

 図書室の勉強会で少しだけ褒めた時の恥ずかしそうな反応。

 

 そして、気になる人がいるという発言。

 

 これらの情報から導き出した答え。それは——

 

「——褒められ足りなくて怒ってるんだと思う。次会った時はもっとたくさん褒めるつもりだ」

「クソボケじゃん!」

 

 なずなが呆れた顔をしながら言葉を続ける。

 

「今日から雅のあだ名はクソバカロクデナシアホボケね」

「めんごめんご!全部冗談だからっ!」

 

 トゲアリトゲナシトゲトゲみたいなあだ名を付けてきたなずなに慌てて頭を下げた。

 そんな本名より長いあだ名なんて嫌だ。

 

「ほんとに帆波ちゃんのこと考えたの?もしかして、今のクソボケの極みみたいな答え本気で言ってる?」

「今のは本当に冗談なんです。一之瀬の気持ちについては、ほんとのほんとに真剣に考えました」

 

 恥ずかしさを誤魔化すために変なボケをかましてしまったが、気を取り直して辿り着いた本当の答えを口にする。

 

「その、自意識過剰かも知れないけど、一之瀬は少なからず俺のことを……」

「ストップ!聞いておいてなんだけど、これは帆波ちゃん以外の人が正解か不正解か判断していい問題じゃないから。そこまででいいよ」

 

 なずなの言葉に心の中で同意する。

 たしかに、これは他の人が勝手に判断していい問題じゃない。

 

「変な解答だったら説教するつもりだったけど、今の雅なら大丈夫そうだね」

「ああ。もう無闇に一之瀬の気持ちを掻き乱すようなことはしないよ」

 

 そう答えながら一之瀬の心境を改めて考える。

 

 以前から俺のことを少なからず想ってくれていたとすれば、歓迎会の帰り道では気になっている相手からデリカシー皆無な忠告をぶちかまされたことになる。

 普通ならそれだけでメンタルはガタガタになるかも知れないが、作中屈指のつよつよメンタルを持つ一之瀬はそれに耐えるどころか、俺のことを許してくれた。

 

 しかし、狂戦士と化したクソボケの追撃は止まらない。

 

 体育祭では一緒に走ろうと誘い、図書室では執拗にちょっかいをかけ、一之瀬のメンタルへ更なるダイレクトアタックを敢行。

 一之瀬のライフポイントがゼロになっても攻撃を続けた。

 

 うん、こんなことをして避けられている程度で済んでいることにむしろ驚きだ。

 嫌われて完全に口を利いてくれなくなってもおかしくないほどのクソボケムーブである。

 

「はぁ、私もいい加減頑張らなきゃなぁ……」

「ん?何か言ったか?」

「雅はやっぱりクソボケだなぁって言ったの!」

「急なディスり!?」

 

 少しだけ顔を赤らめたなずなは、「コホンッ」と咳払いをしながら言葉を続けた。

 

「仕方ないから、今回だけは特別に帆波ちゃんとの仲を取り戻せる策を授けてあげましょう」

「お願いいたします!」

「帆波ちゃんとの仲を取り戻せる策。それはね……」

「それは?」

 

 もったいぶるなずなの言葉に耳を傾ける。

 

「『何もしないこと』かな」

「……えっ?」

 

 どういうこと?

 

「実は昨日、帆波ちゃんに会って色々と聞いてみたの。そしたら、『友達に相談したおかげで気持ちの整理ができました』って言っててね。たぶん、次会った時は前みたいに普通に話せるんじゃないかな」

「そうだったのか……」

 

 下手に謝れば今回の件を蒸し返すことになり、一之瀬の気持ちを再び掻き乱してしまう可能性がある。

 すでに気持ちの整理ができているのなら、なずなが言う通り『何もしないこと』が得策かも知れない。

 

「なずな、ありがとな。俺の知らないところでそんなことまでしてくれてたなんて……」

「食堂のスペシャ……じゃなくて、今度の休みに私をランチに連れて行くことで手を打ってあげましょう!」

 

 一緒にランチへ行く程度で借りを返したことにしてくれるとは、俺には勿体無いほどできた友人だ。

 でも普通のランチじゃ俺の気が収まらないから、当日は奮発させていただこう。

 

「なんでも好きなものを頼んでくれ。もちろんデザートも付けさせていただきます」

「うむ、苦しゅうないよ」

 

 満足げに頷いたなずなは、思い出したように言葉を続けた。

 

「あっ。でも、むしろ私に対してより帆波ちゃんの友達に感謝するべきかもね」

「たしかにそうだな。その友達の名前ってわかったりする?」

 

 一之瀬の相談に乗った友達にも感謝しかない。

 機会があれば是非とも何かお礼をしたいところだ。

 

「たしか、1年Aクラスの()()()()って言ってたかな」

「……ワォ」

 

 前言撤回。お礼をする必要は一切なさそうだ。

 だってその子、相談と称して一之瀬の弱みを探ろうとしてるだけだもん絶対。

 

「雅、どうかした?」

「な、何デモナイヨ……」

 

 何でもないことはないけど、現時点では坂柳が一之瀬を害しているわけではないため、何でもないといえば何でもない。

 

 ただ、原作より早い段階で坂柳が一之瀬と接触したきっかけは完全に俺のせいだ。

 他学年の問題に必要以上に関わるつもりはなかったけど、これで一之瀬に何か被害が出るようなら……坂柳の遊び相手としてちょっとだけ頑張ろうかな。

 ある意味それが坂柳へのお礼にもなるだろうから、ちょうど良いかも知れない。

 

「とりあえず、南雲と一之瀬の仲が戻るならひと安心だな。これで生徒会室の空気もちょっとだけマシになるだろうし」

 

 思案を続けていると、溝脇が笑顔でそんなことを呟いた。

 

「えっ、生徒会室の空気悪いの?」

 

 生徒会の現状を知らないなずなは溝脇の言葉に疑問を感じたようで、首を傾げている。

 

「色々あってな〜」

「色々起こっているな……」

 

 言いながら溝脇と殿河がこちらに視線を向けてきた。俺が説明しろということか。

 まぁ、生徒会室の空気が悪い原因は俺にもあるから、するけども!

 

「生徒会の問題だから詳しくは話せないんだけど……今、堀北会長と大喧嘩してるんだよね」

「えっ、誰が?」

「俺が」

 

 堀北会長と俺の仲の良さを知っているなずなは、これ以上ないほど驚いていた。

 

 






 次回「シスコンVSクソボケ」
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