南雲雅?俺じゃん。   作:ざったなっつ

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33話「南雲生徒会長爆誕/堀北学」

 

 

 10月某日。

 2学期の中間テストが終わってから数日が経過した。

 

 生徒会権限でいち早く結果を確認させてもらったが、どの学年にも赤点をとった生徒はいないようだ。

 体育祭の減点ペナルティを受けた生徒たちも無事に試験を乗り越えることができたらしい。良かった良かった。

 

 そういえば、1年Bクラスはほぼ全員が高得点を叩き出していた。

 図書室で一之瀬たちの勉強会を邪魔してしまったため、退学者が出ていたらどうしようかと不安だったけど……杞憂に終わって安心した。

 

「——この生徒会を率いて来られたことを誇りに思います。最後に、私のことを支えてくれた生徒会の仲間たちに深い感謝を。ありがとうございました」

 

 そんなことを考えているうちに、堀北会長の挨拶が終わった。

 感動的なスピーチに胸を打たれ、涙を流している生徒もいる。さすがの話術だ。

 

 次は俺の番なので、壇上の立ち位置に戻る堀北会長と入れ替わるようにマイクの前に移動する。

 

「えー、2年Aクラスの南雲雅です。まずは、堀北生徒会長。暖かいご指導のほど、本当に……」

 

 あっ、まだ話し始めたばかりなのに限界がきてしまった。

 こうなるから余計なことを考えて堀北会長のスピーチを真剣に聞かないようにしていたのに、結局ダメだったか。

 いやはや、まいったまいった。

 

「……本当に、ありがとう、ございまし、た……」ブワッ

「「「「「っ!?」」」」」

 

 驚愕する生徒と教師陣に見守られる中、滝のような涙を流しながら用意していたスピーチ文をゆっくりと読み終えた。

 

 この日、大号泣就任スピーチという高育の歴史上初の偉業を成し遂げた俺は——偶然なのか必然なのか——原作南雲とほぼ同じ時期に生徒会長になりました。

 

 

 

 

——Side:堀北学——

 

 

 生徒会の新役員募集面接に来た南雲を、当初俺は()()()にするつもりだった。

 

 入学試験をトップの成績で通過し、入学初日にSシステムの存在を見抜くほどの逸材。

 生徒会に所属するに相応しい実力を持つ生徒であることは間違いないが、問題はその気構えだ。

 

「生徒会長の堀北学だ」

「1年Aクラスの南雲雅です。よ、よろしくお願いします」

 

 南雲は隠していたつもりのようだが、その表情や仕草から、面接の合否はどちらでも良いと考えていることなどすぐに分かった。

 

 いくら優秀とはいえ、本気で生徒会に入るつもりのない者を合格にする気はない。

 

 初めはそう思っていたのだが——

 

「できるだけ退学者が少なくなるような行動を心掛けたいと思ってます。自クラスからだけでなく、他クラスからもです」

 

——その返答に、興味を抱かされてしまった。

 奇しくもそれは、俺が理想とする指導者のあり方と同じ考えだったためだ。

 

「南雲雅、合格だ。生徒会へ歓迎しよう」

「えっ、あ、ありがとうございます」

 

 近くに置き、少し様子を見るのも面白いかも知れない。

 南雲を生徒会に入れた理由は、そんな小さな好奇心によるものだった。

 

 

 それから数ヶ月が経ち、南雲は目を見張る活躍を続けていた。

 

 

 特別試験では自クラスを何度も勝利に導き、学年全体での勉強会を開くことで赤点による退学者が他クラスからも出ないよう立ち回り続けている。

 

 また、例年行われるはずの『ペーパーシャッフル』が急遽変更され、退学者が出やすい『クラス間パートナー筆記試験』を実施させられていたが、南雲の策によって1人の退学者も出すことなく試験を乗り切っていた。

 それどころか、次善の結果に終わらせることで全クラスに少なくないクラスポイントを獲得させている。

 

 学校側の意図は不明だが、もしかすると南雲の代に……いや、南雲に対して何か新しい可能性を見出しているのかも知れない。

 

「南雲雅……か」

 

 孤独でも孤高でもない南雲の戦術は、俺の戦術とは大きく異なる。しかし、だからこそ学ぶ点は多い。

 仲間と共に歩む戦い方。他クラスの生徒も仲間にしようとする考え方。そして……自身の気持ちに従う正直な生き方。

 

 南雲のおかげで俺自身の生き方を見つめ直す機会が得られたことには感謝しかない。

 

 

 それからさらに月日は流れ、年度最後の特別試験が実施された。

 

 

 1年生は南雲のクラスと桐山のクラスが競い合ったようだが……結果は桐山率いる1年Bクラスの惜敗。

 それに伴って桐山の退学が決定したが——その処分は取り消された。

 

 事前にAクラスの生徒を説得していた南雲は試験後すぐにBクラスの生徒を説得し、ポイントまで貸し出して桐山の退学を取り消したのだ。

 Aクラスでの卒業を目指すなら、桐山の存在は大きな障害になる。

 にも関わらず、南雲は桐山の退学取り消しを選んだ。

 

 後日。その選択に至った理由を聞いてみたが——

 

「だって、友達が退学するのは嫌じゃないですか」

 

 ——というまるで()()()()()()のような台詞を返されてしまった。

 

 他クラスの生徒と争わなければならないこの学校で、()()の学生生活を送ることは困難を極める。

 しかし、南雲はその実力を如何なく発揮し、他クラスの生徒と笑い合う普通の学生生活を実現し続けている。

 

 既存のルールに縛られず、新たな時代を作り上げていくのはこういう人間なのだろうと改めて思い知らされる出来事だった。

 

 

 気が付けば新年度が始まり、新入生を迎える時期となった。

 

 

 明晰な頭脳によってAクラスに配属された才女。坂柳有栖。

 入学試験をトップの成績で通過した優等生。一之瀬帆波。

 暴力による支配でクラスをまとめ上げた問題児。龍園翔。

 

 個性豊かな生徒が多くいる中、名簿には見覚えのある名前もあった。

 実の妹……堀北鈴音だ。

 

 俺を追ってきたであろうことはすぐに理解できたが、人は変わるものだ。

 長いようで短い3年の月日が鈴音に変化をもたらしていると信じて、最初の1ヶ月は様子見に徹した。

 

 しかし、鈴音は何も変わっていなかった。

 

 孤独と孤高を履き違えたまま、以前と同じ態度で学校生活を送っていた。

 

 このままでは良くないと思った俺は寮の裏手で鈴音を投げ飛ばす()()まで行い、俺のことを目標としないよう仕向けた。

 だが——

 

「あんた、今堀北を投げ飛ばそうとしただろ」

 

 ——その策は、予期せぬ人物の介入により失敗に終わった。

 俺の目では測り知れないほどの実力を隠し持つ存在……綾小路清隆だ。

 

 鈴音を守ろうとしたことから察するに、悪人というわけではないのだろう。だが、油断はできない。

 実力、目的、行動原理。現時点ではそのどれもが謎に包まれている。

 

 何より、鈴音と親しげな点は……見過ごせないな。警戒しておく必要があるだろう。

 

 

 それから少し経った頃。

 

 

 過去問の交渉をきっかけにして、南雲が綾小路に接触した。

 いつから見抜いていたのかは分からないが、南雲も綾小路の底知れない実力に気付いていたのだろう。さすがの洞察力だ。

 

 それにしても、まさか金欠の生徒を演じて相手から接触してくるよう仕向けるとは……あまりにも奇抜な接触方法に、それを知った時は思わず感心させられた。

 よくあんな策が思いつくものだ。

 

 

 月日は流れ、7月某日。

 

 

「南雲。綾小路を見てどう思った」

 

 南雲から見た綾小路の印象も聞いてみたいと思い、暴力事件の審議後にそう問いかけた。

 すると——

 

「えっと、普通の生徒だな〜と思いました」

 

 ——返ってきた言葉は、一見すると気が抜けるような感想だった。

 

 しかし、綾小路に鬼龍院を張り付かせてまでその動向を監視していた南雲が、そのままの意味で()()()()()という評価を下すはずがない。

 おそらく、『この学校で()()()学生生活を送れるほどの実力を持つ()()』という意味を含んでいるのだろう。

 

「ふっ、そうか」

 

 南雲が綾小路に抱いている評価が、俺が南雲に抱いている評価に似ているとは……。

 その偶然を可笑しく思った俺は、思わずクスリと笑ってしまった。

 

 

 さらに月日は流れ、学生生活最後の夏休みが始まった。

 

 

 夏祭り試験の祝勝会や生徒会業務。南雲との占いやクラスメイトとのプライベートな交流など、様々な出来事があったが、一番の思い出はやはり橘……いや、(あかね)と恋仲になれたことだろう。

 

 あまりにも遅すぎる気付きではあったが、南雲を参考にして自身の気持ちに正直に生きるよう心掛けていなければ、茜への恋心に気付かぬまま卒業していたかも知れない。

 その点に関しても、南雲には本当に感謝しかない。

 

 

 夏休みが終わった新学期初日。

 

 

 次期生徒会長には南雲を選んで欲しいと桐山が伝えてきた。

 

 桐山は俺と似た考えを持つことが多いため、南雲を推薦する理由はすぐに察することができた。

 だが、これはそう簡単に了承していいほど単純な話ではない。念のため確認をしておく必要があるだろう。

 

「桐山と南雲、生徒会長としての資質はどちらも充分あると俺は考えている」

「……堀北会長にそう言っていただけるのは、とても光栄です」

「お前が立候補するなら、次期生徒会長は生徒会戦で決めることになるだろう。だが、お前が推薦すれば南雲が生徒会長になることはほぼ確実だ。それでも構わないのか?」

 

 僅かな逡巡も見せず、桐山は強い意志をもって言葉を返した。

 

「構いません。俺は南雲を推薦します」

「……そうか」

 

 俺が何を言っても桐山が決断を変えることはないだろう。

 それほど強い意志が、桐山の目には宿っていた。

 

 

 そして現在。

 

 

 俺たちは南雲の生徒会長就任を祝うため、生徒会室に飲食物を持ち込んで祝賀会を開いていた。

 

「堀北会長、橘先輩。いつでも遠慮なく生徒会室に遊びにきてくださいね。少なくとも月に一回以上は!絶対に!()()通りに!」

「善処する」

「善処!?善処じゃなくて絶対来てください!」

「あはは、大丈夫ですよ南雲くん。学くんを引きずってでも必ず連れてきますから」

「ありがとうございます橘先輩!大変な時はいつでも呼んでください。引きずるの手伝いますから!」

 

 物騒なことを言いながら茜に感謝を伝えた南雲は、「グラス空いてるじゃないですか。お注ぎしますね」と言いながら茜の持つグラスにジュースを注ぎ始めた。

 どちらが主役か分からない光景だな。

 

「南雲」

「なんですか?」

「……生徒会を頼む」

 

 短くそう伝えると、南雲は真剣な表情を向けながら口を開いた。

 

「善処します!」

「……ふっ」

 

 南雲らしい返事に満足した俺は、賑やかな生徒会室の光景を静かに目に焼き付けた。

 

 

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