ハロウィンイベントは大成功で幕を閉じ、それから数日が経過した11月某日。
俺は高育生徒会一の大男——葛城と一緒に、ケヤキモール内の和食料理店へ訪れていた。
「葛城は何にする?なんでも奢るよ」
「南雲会長をお呼びしたのはこちらですから、さすがにそれは申し訳なく……」
「先輩の顔を立てるのも後輩の仕事だぞ。ほれ、遠慮なく何でも頼みなさいな」
「あ、ありがとうございます。ですが、自分は緑茶だけで——」
「遠慮するならデラックスあんみつパフェかなぁ……」
「——緑茶だけではなく、今季限定の和菓子セットもお願いします」
良いチョイスだと思ったため、俺も同じものを注文。程なくして到着したうさぎ型のお饅頭や雪だるま型の大福を堪能しながら、葛城との談笑を楽しんだ。
最近はハロウィンイベントで余ったクッキーやチョコレートばかり食べてたから、久々の和菓子は新鮮さも相まってより一層美味しく感じる。あんこウマー。
「実は、南雲会長にお聞きしたいことがありまして……」
食後の緑茶を飲んで一息ついたタイミングで、葛城が徐に本題を切り出した。
「聞きたいこと?」
「はい」
葛城は一呼吸置いた後、神妙な面持ちで言葉を続ける。
「気を使わずに答えていただきたいのですが。南雲会長から見て、俺はクラスのリーダーを務めるに相応しい実力を持っているでしょうか?」
「……」
葛城の現状は知っているため、質問の意図は即座に理解できた。
この時期の原作葛城はクラスの主導権を坂柳に奪われていたが、この世界ではまだバッチバチにリーダー争いを続けている。
ただ、なずなから聞いた情報によれば、現状は坂柳派閥のほうが大分優勢らしい。その現状に焦りを覚えた葛城は何かアドバイスでも貰えないかと思い、今回俺をお茶に誘ってくれたのだろう。
まぁ、なんの用事がない時も誘って欲しいけどね!
「ん〜……あくまでも俺個人の意見だけど、それでもいい?」
「はい。むしろ南雲会長の率直な意見をお聞きしたいです」
「そうか、わかった」
下手に取り繕っても葛城のためにはならないので、ここは正直に全て伝える。
「まず、葛城はリーダーを務めるに相応しい実力を持ってると思う。成績は優秀だし、責任感はあるし、仕事はできるし、なにより仲間想いだ。Aクラスのリーダーとしての資質は充分にある」
「あ、ありがとうございます」
褒められるとは思っていなかったのか、葛城は少し驚いている。だが、本題はここからだ。
「でも、今のままじゃ坂柳さんからリーダーの座を勝ち取ることは難しいだろうね。葛城のやり方は、坂柳さんと相性が悪過ぎる」
「……たしかに、南雲会長のおっしゃる通りだと思います」
この世界の坂柳も原作と同様に、無人島試験で橋本を暗躍させることで自クラスを敗北へ導き、葛城派閥の勢いを削いでいた。
そのことからも分かる通り、坂柳は特別試験の勝敗にそこまで固執していない。必要とあらば自クラスの敗北すら戦略に組み込んでくる。
対する葛城は優しくて責任感が強いため、リーダー争いで自クラスを敗北させるなんていうめちゃくちゃな戦略は考えもしないだろう。
体の半分が優しさでできてるバファリン葛城と、必要とあらばえげつない一手も躊躇なく使うリトルジョーカー坂柳。
取れる戦略の幅から見ても、リーダー争いは坂柳の方が圧倒的に有利だ。
「ちょっと聞きたいんだけど、次の
「次は坂柳が指揮を取ることになっています」
葛城は無人島試験から体育祭までずっと指揮をとり続けていたから、今回が坂柳の番なのは順当か。
となると、リーダー争いはますます坂柳が有利だな……。
「葛城はどうするつもり?」
「俺にできる範囲で尽力し、クラスの勝利に貢献するつもりです。その過程で俺の考えに賛同してくれるクラスメイトを増やせればと思っています」
「そのやり方が坂柳さんに通用すると本気で思ってる?」
「それは……」
葛城も気付いているようだが、その選択は悪手だ。
葛城は今まで指揮をとった特別試験で良い結果を出せていないため、坂柳が今回の特別試験で勝利を収めてしまえばリーダー争いも坂柳の勝利で決着してしまう可能性が高い。
そう考えると、今回取るべき最善の選択は坂柳の妨害一択だ。無人島試験で葛城がやられたように、ペーパーシャッフルで自クラスを敗北させれば坂柳派閥の勢いを簡単に削げる。
だが葛城の性格上、その選択には抵抗があるのだろう。
「自分がリーダーに相応しいかだけじゃなくて、坂柳さんがリーダーになったらクラスがどうなるのか。そういうところも、もう一度しっかり考えた方がいいと思うよ」
坂柳がリーダーの座についた場合。原作通りの流れで戸塚は退学させられ、葛城の居場所も徐々に奪われていくだろう。
それどころか、生徒会に入ったことで原作よりも影響力を高めている葛城のことを危険視し、いきなり退学させてくるなんていうトンデモ展開になる可能性も充分ありうる。
そんなことになるのは悲しいから、できれば葛城には奮闘してもらいたいなぁ……。
「どういう選択をするかは葛城の自由だ。でも、後悔を残す選択はなるべくしないようにね」
「……はい」
葛城が神妙に頷いたところで、本日のお茶会は解散となった。
◇
——Side:葛城康平——
自室に戻ってからも、先ほどの南雲会長の言葉が頭から離れなかった。
『自分がリーダーに相応しいかだけじゃなくて、坂柳さんがリーダーになったらクラスがどうなるのか。そういうところも、もう一度しっかり考えた方がいいと思うよ』
「坂柳がリーダーになったら、か……」
坂柳は非常に優秀な生徒だ。そんな彼女がリーダーとしてその実力を発揮すれば、特別試験でも優秀な成績を収めてくれるだろう。
だがその一方で、俺なら実行を躊躇ってしまうような策でさえ、坂柳は平然と実行に移す可能性が高い。
「もしかすると、クラスメイトの退学すらも……」
坂柳ならば、必要と判断した時にはクラスメイトの退学すら作戦に組み込んでくる可能性がある。
そして順当に考えれば、その時に選ばれるのは俺や俺のことを支持してくれたクラスメイトの誰かになるだろう。
『どういう選択をするかは葛城の自由だ。でも、後悔を残す選択はなるべくしないようにね』
再び、南雲会長の言葉が頭の中をよぎった。
「後悔を残す選択、か……」
退学になるのが俺だけであるなら、何の問題もない。坂柳と争うと決めた時から覚悟はできている。
だが、もしも俺と親しいクラスメイトが選ばれ、退学させられることになったら……俺はきっと、計り知れない後悔に苛まれるだろう。
「あまり好ましい手ではないが……やるしかないか」
覚悟を決めた俺は学生証端末を手に取り、ペーパーシャッフルの対戦クラスのリーダーを務めている生徒……一之瀬に宛ててメッセージを送った。
アニメ4期、メチャヨカッタ。