「あっ、お菓子ゲット」
高育の歴史上初となった1〜2学年同時ペーパーシャッフル試験は無事に終わり、結果が発表された翌日の放課後。
俺はケヤキモールのスーパーにある無料品コーナーをガサゴソと漁りながら、今回の結果について考えていた。
まず、2年Bクラスと2年Dクラスの戦いは順当にBクラスが勝利。Dクラスは予想以上の奮闘を見せたものの、Bクラスの得点には惜しくも及ばず敗北してしまった。
そして、我ら2年Aクラスと2年Cクラスの戦いだが……。
「うちは結構な点差だったなぁ……」
異常なまでに高まったクラスの士気とエゲツない難易度の作成問題のおかげで、AクラスはCクラス相手に圧倒的な点差で勝利した。
もちろん、結果発表後は即座にCクラスの教室へ突撃し、事前に用意していた契約書にサインをさせてCクラスを『同学年ほぼ全員救済計画』に参加させた。
Bクラスはまだ懐柔できていないが、今後の特別試験でAクラスの地位を揺るがされることはほぼないだろう。
勝ったな!ガハハ!
なお、現在のクラスポイントの推移は以下の通りとなっている。
——ペーパーシャッフル終了時点のcp——
Aクラス:1820→1920cp
Bクラス:525→625cp
Cクラス:400→300cp
Dクラス:223→123cp
Dクラスがもう少しで0cpになってしまうが、南雲銀行からDクラスの生徒一人一人に毎月2万PPtを支給しているため、日常生活に支障はないとのことだ。
ただ、新たに協力関係となったCクラスの生徒全員にも毎月2万PPtを支給してしまうと以前から協力してくれているDクラスの生徒の手元に毎月残るポイントを超えてしまうため、しばらくは追加のポイントの支給はなしという契約でまとまった。
それでも、Cクラスが毎月俺に支払っていたクラスメイト1人あたり1万5000PPtの契約は今回で止めるため、以前よりも手元に残るプライベートポイントは多くなる。
なんならペーパーシャッフルの前よりも多い計算になるため、Cクラスのみんなは普通に喜んでいた。
「そういえば、葛城と一之瀬の計画も見事にキマってたなぁ」
次に葛城と一之瀬の計画についてだが。
1学年のペーパーシャッフルではCクラス対Dクラスの戦いは原作通りDクラスが勝利し、Aクラス対Bクラスの戦いは原作とは異なりBクラスが勝利していた。
その結果、一之瀬のクラスは合計853cpとなりAクラスへ昇格。葛城のクラスは774cpとなってBクラスへ降格し、坂柳とのリーダー争いは延長戦へともつれ込んだ。
「これからどうなるのかなぁ……」
一之瀬たちのAクラス昇格は原作の流れから大きく逸脱した展開だ。
葛城と坂柳だけじゃなく、龍園や堀北妹や綾小路といった各クラスの主要メンバー達も今回を機に原作とは大きく異なる動きを見せてくるかも知れない。
でもまぁ——
「——別にいっか」
葛城へのアドバイスがあろうとなかろうと、ストーリーは大きく変わっていたはずだ。
原作通り一之瀬たちがペーパーシャッフルで負けたとしても、リーダーになった坂柳が葛城の退学という原作にはない計画を実行する可能性は高い。
「それに、やることは変わらないしな」
変化していく流れの中で、できる限り
まぁ、葛城や一之瀬が困ってたらちょこっとだけ贔屓したりもするけどね。
「あっ、ついでにデザートも買っちゃお」
近々クラスメイト全員+鬼龍院という面子で祝勝会を開く予定だが、先に一人で祝うのも悪くない。
そう考えながらデザートコーナーへ足を運ぶと——
「南雲先輩!?」
「えっ、うそ、本物?」
——そこには、目を見開きながら驚く紺色のポニーテール美少女と、あたふたしながら水色の髪を靡かせるボブヘア美少女がいた。
「網倉麻子さんと小橋夢さんだよね。久しぶり」
「お、お久しぶりです」
「お久しぶりです。名前、覚えてくれてたんですね」
「当然だよ。初めましてじゃないからね」
小橋の疑問に笑顔でそう返す。
2人と話すのは初めてではなく、小橋とはハロウィンで一回、網倉とはプールとハロウィンで計二回、軽く挨拶したことがある。
つまり、もう友人と断言していいほど親密な仲ということだ。そんな相手を忘れるはずなんてない。そもそも、2人のことは前世から知ってたし。
「ところで、これからパーティーでもするの?」
2人が押しているショッピングカートを見ながらそう問いかけた。
カートにはお菓子とスイーツの山ができており、女子2人でというには明らかに過剰な量だ。
「実はこの後……」
「あっ!麻子ちゃん。ちょっとちょっと」
「えっ、何?」
小橋が急にハッとした表情になったかと思えば、網倉へ何かを耳打ちし出した。
「提案なんだけど……」
「えっ!でも……」
「大丈夫大丈夫。きっと帆波ちゃんなら……」
「たしかに、そうかも」
なんだろ?「提案なんだけど……カートに乗ってるお菓子とデザート全部こいつに奢らせね?」的な相談かな?言ってくれれば喜んで奢るよ。
「あの、南雲先輩はこの後予定とかあったりします?」
「予定?全然ないよ」
おそるおそるといった表情で問いかけてきた網倉に、笑顔でそう返した。
この後は部屋に戻って一人祝勝会の予定しかなかったため、実質予定なしだ。
「実は私たち、この後クラスメイト数人で特別試験のお疲れ様会をやる予定なんです」
「もしよかったら、南雲先輩も一緒にどうですか?」
「えっ、いいの?」
「全然大丈夫です!」
「みんなも喜ぶと思いますので、是非!」
まさかのお誘いに内心驚きながら考えを巡らせる。
他クラスの、ましてや学年も違うクラスのお疲れ様会に参加するというのは、普通に考えれば無粋な行為であるように思う……が!良い子しかいない一之瀬クラスのお疲れ様会は、楽しいこと確定な激アツイベントだ。個人的には是非とも参加したい。
それに、他クラスどころか他学年でもある俺にこんな機会が訪れることなんてもうないかも知れない。このチャンスは逃したくはない。
そう考えをまとめた俺は——
「それなら、お言葉に甘えて参加させてもらおうかな」
——満面の笑みを向けながら、2人の提案に了承を示した。
「やたっ!それじゃあみんなに連絡しておきますね」
「あっ、南雲先輩も好きなお菓子やデザート選んでください。ここは私たちが奢りますので」
「いやいやいや、誘ってもらった上に奢ってもらうのは流石に申し訳ないよ。ここは俺が奢るから、むしろ遠慮なくどんどんカゴに入れてって」
どちらが奢るか奢られるかの押し問答をしばらく行った結果、デザートだけは俺が全て奢るということで決着。お菓子や飲み物は俺以外の参加メンバーが奢ってくれることに決まった。
「一旦帰宅して私服に着替えてから、帆波ちゃんの部屋に集合って形で良いですか?」
「うん、それで……えっ?」
聞き間違いの可能性もあるため、念のために小橋へ確認してみる。
「今更なんだけど、お疲れ様会って一之瀬の部屋でやるの?」
「そうですけど、あれ?言ってませんでしたっけ?」
「言ってませんでしたね」
数人でやるとは言ってたけど、まさか一之瀬の部屋が会場とは……。
てっきり、カラオケルームとかでやると思ってた……。
「あ、もしもし帆波ちゃん?今実は……」
網倉が今まさに学生証端末で一之瀬に許可を取ってくれているため、ここにきて断るというのはさすがに失礼だろう。
参加辞退という選択肢は消えた。
「……よしっ」
静かに覚悟を決めた俺は、原作で数々の展開が生まれた伝説のエリア——『
◇
——Side:星之宮知恵——
帰宅後。自室のソファーに体を預けた私は、先日南雲くんが口にした衝撃的な一言を思い返していた。
『次の試験では一之瀬たちが勝ってAクラスになるので、先んじてそのお祝いをと思いまして。本当におめでとうございます』
「まさか、あの言葉の通りになるとはね……」
南雲くんの言葉を聞いた私は、仲の良い生徒たちからすぐに情報を集めた。
そして、葛城くんと坂柳さんの間で起こっているリーダー争いの現状を知り、一之瀬さんと葛城くんの間で結ばれたであろう取引の内容を察して、南雲くんの言葉の意味をやっと理解できた。
「ホント、南雲くんはとんでもないわね……」
今回のペーパーシャッフルで勝てた理由には、一之瀬さんたちの頑張りももちろんある。あるんだけど……でもやっぱり、一番の要因は南雲くんの影響だろう。
彼が葛城くんを焚き付けて、一之瀬さんと協力するよう促していなければ、この結果を得るのは難しかったように思う。
「もしも葛城くんの選択が、一之瀬さんたちの不利益に繋がるものだったら……」
今回は私たちのクラスにも葛城くんにも利益のある取引だった。
でも、一之瀬さんと葛城くんのどちらかにしかメリットのない状況だったなら……果たして、南雲くんはどちらに味方したのだろう。
「やっぱり、どうにかして南雲くんを味方につける必要があるわね」
今回の試験で、南雲くんが他学年の特別試験にまで決定的な影響を与えられることが証明された。
そんな彼を味方にできれば、綾小路くんというジョーカーを持ってるサエちゃんのクラスが相手でもきっと有利に立ち回れる。一之瀬さんたちがこのままAクラスで卒業できる確率は格段に上がるはずだ。
「一之瀬さんがくっついてくれるのが手っ取り早いんだけどなーっと。くぅ〜!」
缶ビールを煽りながらごちる。
2人が付き合ってくれるのがベストだけど、過去の過ちに囚われている一之瀬さんから一歩踏み出すのはたぶん難しい。かと言って、南雲くんから来てくれるかというとその可能性も低いだろう。モテるくせに、南雲くんは物凄くウブだ。
「悠長に待ってる時間はないかも知れないわね……」
アイドルのようなルックスに加えて、成績優秀で運動神経も抜群。その上、『歴代最高のリーダー』という強力な肩書きと『高育の現生徒会長』という大きな権力まで持っている逸材——南雲雅。
そんな彼がモテないはずなど当然なく、南雲くんのことを慕っている女子生徒は学年問わずとても多い。
南雲くんがその気になれば、いつ彼女ができてもおかしくはない状況だ。
「あの策がハマれば良いんだけど……」
一之瀬さんの恋路を後押しするために、南雲くんに私たちのクラスを気に入ってもらうために、私は水面下でいくつかの策を講じている。
そのうちの一つが、『南雲くんはとっても話しやすい先輩だよ〜』という話をクラスのみんなにしていること。
南雲くんはスペックが高過ぎるせいで近寄ることすらおこがましい存在だと勝手に思われているから、初対面の相手から話しかけられることはほとんどない。
そんな南雲くんに話し掛ける子がうちのクラスから少しでも現れてくれれば、うちのクラスに対する南雲くんの好感度が少しは上がるかも知れない。
あわよくば、遊びに誘うくらい仲良くなってくれる生徒が現れてくれるかも——
「——なんて、そんな都合の良い展開が起こるなら苦労はしないのよね〜」
網倉さんと小橋さんのファインプレーを知らなかったこの時の私は、南雲くんを懐柔するための新たな策を考えながら晩酌を続けた。
〜小橋と網倉のヒソヒソ話の内容〜
小橋「提案なんだけど、この後のお疲れ様会に南雲先輩も誘ってみない?」
網倉「えっ!でも、まずは帆波ちゃんに確認取らないとダメだめじゃない?」
小橋「大丈夫大丈夫。きっと帆波ちゃんなら喜んで了承するだろうし、絶対喜ぶでしょ」
網倉「たしかに、そうかも」