灰燼の魔女と夢の魔女   作:長き階段を下り、夢の中で会いましょう

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タイトルで釣られてきた方、主人公は男です。
さ、詐欺じゃないから……!

ヒロインはセリカです

私のロクアカは裏学区あたりで止まってます。
一応最終までの流れは知ってますが、詳しくないので矛盾点出てくるかも。
タイトルは未だしっくり来ないので考え中。

反応があれば続けたい。


二百年戦っていたらしい僕を誰か褒めてくれ

「あっあっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」

 

 高い空からこんちは。

 拝啓、お父さんお母さん、そして親愛なるご友人たちいかがお過ごしでしょうか。いや、どっちも大体とっくの昔に死んでいるんだけど。地獄でお元気にしていますか? 

 私は今、魔力がほとんどない状態で───空を飛んでます。

 

 いえ、正確には

 

「落ちてまぁあああぁぁぁあああす?!?!?!?!」

 

 

 ま、待て待て。まだ焦る時間じゃない。

 下を見ても雲に覆われて何も見えない。つまり、大地とキッス(潰れたトマト)するまでにはそれなりに時間があるということ。

 魔術師たるもの最後の瞬間まで諦めてはならないのである。必ずどこかに活路はあると信じて進まなくては。

 

 まず着地の瞬間に受け身を取れば……考えるまでもなく、トマトだ。

 おう、当たり前だろ。

 僕もそこそこ鍛えている自信はあるけど、この高さは無理。というか、魔力なしスカイダイビングとか化け物六人衆でも無理だろ。

 …………ムリ、だよね? 流石に。この速さで落ちてく中を生身で空を歩けば〜とか言い出さないよな? せめて魔術師は不可能であれ。

 

 なんて事を考えつつも、実は着地の問題なかったり。

 固有魔術を一回使うくらいの魔力は残ってる。

 

 本当の問題は、地上に降りたらすぐに邪神の眷属と戦争だろうということ。

 

 外なる神の化身と戦った後は、そのまま外なる神の眷属と戦争? 魔力のほとんどないこんな状態で? 

 確かにその辺りは解決できるけど、もう一回あの極限状態を強いられるの? もしかして自殺願望でもあるの? 

 ふざけたことを言っていないと気が狂いそうだ。いや、もうとっくの昔に狂ってはいるんだけどね! あはは。

 

 またあんな地獄を経験したくない、心の底からやめて欲しいと思う。そう思うがしかし…………まぁ、無駄に長生きしてしまった僕の命の使い所と考えよう。一人で戦うよりはヘイトも集中しないだろうし多少はマシ。

 一回タイマンでどうにかなったんだから、なんとかなる。なんとかならなくても、世界が滅ぶだけだし問題ない。みんな仲良く地獄行きだ。

 みんな一緒なら地獄の業火も遠足と同じさ! 

 

 さて、どれだけの時間、僕が化身と戦ってたのかはわからないが、その間に人類が滅ぼされていないことを願おう。

 

 目を瞑って覚悟を決める。

 

 

【夢の魔女】

 

 

 

 

 

 

 

 

 せっかくかっこ付けてパラシュートなしスカイダイビング、或いは紐なしバンジージャンプをしたというのに、戦争が終わっていた件について。

 世界はどう責任とってくれるのだろうか。僕の羞恥心が刺激されてしまって辛い。訴えるぞ。

 

 そこら辺にいた人に聞けば、40年前に戦争は終結したようで今は平和な世の中らしい。

 だから僕の決死の覚悟を返せ。

 いや、平和なのはいい事だろ。馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。

 

 話を戻そう。つまり僕は、少なくともあの化け物と40年間一対一で飲まず食わず、さらには寝ずの戦いを、たった一人だけ強いられていたということ。

 

 実質一人で世界の危機を救ったってことだよ? 僕ってば救世の大英雄だぜ? 

 だから僕が戻ってきたことに気がついたら、刺客差し向けるのやめてくれない? いい加減鬱陶しかったんだよね。

 200年前くらいに、「害虫ほど長生きするのはなんでですかねぇ?」ってうっかり口にしちゃっただけなんだよ? その程度でこんなにちょっかいかけてくるとか……あのゴミカス、器の小ささが知れるな。

 汚物の顔を思い出しただけで気分悪いわ。あの蛆虫がいるせいで女王陛下はそいつ殺して自殺しちゃうし、幼馴染くんは気がついたら死んじゃってるし……。

 あれからも皇帝になってたり、それに近い地位にいたりこちらを馬鹿にしてるとしか思えない行動ばかりしやがって。

 殺すぞ。

 転生だか憑依だかなんだか知らないが、何度殺しても生き返って現れるのは心底腹立たしい。

 確実に殺すために、僕が戦った化け物と2人っきりの空間に閉じ込めて、生まれてきたこととこの世界に絶望しながら死んで欲しいと心から思う。

 

 ま、そんなこと今はどうでもいいのだ。

 平和になったし戦わなくて良いというのは非常に喜ばしいことではある。

 そうなってくると、僕の現在の問題はお金がないこと。

 僕にかかればそこら辺の人間からお金を()()()()ことくらい簡単である。一言お金が足りないからちょうだいって言うだけだからね。しかしそれって流石に人としてよくないと思うのだ。

 

 故に、昔馴染みに助けてもらおうと思う。まだ住んでいた屋敷が残っていればそこにいる……はずだし。

 

 

 あ、そこの黒髪のお嬢さん? 少し聞きたいことがあるんだけどいいかい? 

 ありがとう。実は僕、人を探しているんだ。金髪で赤目でスタイルが良くて強い女の人。大陸一の魔術師だとかなんとかって言われてたかな。知らない? 多分有名だと思うんだけど。

 なんで探してるか? 実は僕、彼女の知り合いでね。久しぶりに会いに行きたくなったんだ。

 ん、学校で教師? そうか、どうもありがとう。僕が君にこれを聞いたという事は誰にも伝えないで、どうか忘れておくれ。

 

 

 

 どうやら彼女はアルザーノ帝国魔術学院の教授やっているらしい。

 お前、10年単位の穀潰しから教師になったのか……。何かに迫られるように殺しまくったり、僕のお金で引きこもりニートになったりした上で最後には教師か。

 収まるところに収まったというべきか、はたまた意外なところに収まったというべきか。なんにせよ、声が聞こえる云々は解決したんだろう。良かったね! 

 それじゃあ今度はその稼いだお金と優しさで、僕のことを褒めて讃えて養ってね! 

 

 ところで、なんでさっき養ってもらおうと思ってるって言わなかったのか? だって? 

 男が女に養ってもらうとか情けなさすぎるだろ。それを初対面の女性にいうとか頭おかしいの? 常識的に考えて? 

 

 さぁそんなことは置いておいて、行き先は決まったのだ。

 僕のゆっくり休暇の為、風に乗って行くぞ! フィジテに! 

 

 

 

 

「失礼、そこのお嬢様方?」

 

 鈴を転がしたような声だった。耳にしただけでくらりとくるような、脳が蕩けるような魔的な美声。気を確かに保たなければ、否保とうとしても狂ってしまいそうな、そんな声。

 声をかけられた学生──ルミアとシスティーナの意識はひどく朦朧としていた。この声に身を任せそのまま微睡みたい。この声の主の為ならどんなことでも成し遂げようと思わされる。

 

「ん? あぁ、忘れていた。ダメだね、長いことこのままだったから意識しないと大変なことになりそうだ」

 

 うめき声しか上げることのできない二人の様子に首を傾げたのち、そんな声と共に眼前でパシリと両手が打たれる。

 

 はっとして顔を上げて見れば、そこにいたのはひどく怪しい人物だった。

 絹のように美しいようにも、この世の黒を全て纏めて煮詰めたような漆黒にも見える黒髪を一本にまとめ、裾のあたりに黒く鷹の意匠が施された純白のローブを身に纏っている。手首にはリングを通し、耳にはイアリングを付けている。また、ほとんど肌を露出させておらず、首から上かつ顔の鼻より下のみ。その上システィーナやルミアでは、どのような術なのか理解できないほど膨大、かつ緻密に術が記された布を目が隠れるように着けている。

 真昼間からこんな格好の人間。これを不審者と言わずして誰を不審者というのだろうか。

 付け加えるなら、声をかけられるまでこれだけ怪しげな風体をしているのにも関わらず、二人とも気が付かなかった事もその異常性に拍車をかけていると言えるだろう。

 数多の修羅場を潜り抜けた……とは言わないものの、それでも短期間にそれなりの回数そういった場に遭遇していることで、これまでよりもいっそう気配に敏感になっているのにも関わらずだ。

 しかし、それよりも何よりも異常なのは、声を聞いただけで自分が自分でなくなるほどの強力な侵食を受けたこと。下手な魔術よりも恐ろしく、おそらく再び同じことをされようと自分たちでは抗えないであろう事を理解させられた。

 

 固くなった二人の表情を気にする様子もなく、反対に露出している口元を柔らかくして話し出す。

 

「学生さんの様だけど、もしかしてアルザーノ帝国魔術学院の生徒さんだったりするのかい?」

「…………ええ、それが何か」

 

 ルミアの力を巡ってすでにこの短期間に何度も魔術師と争っているため、見るからな怪しいこの人物を警戒しないわけにはいかないのだ。それがたとえ敵わないと理解していても。

 幸いというべきか、ルミアを狙うような様子はない。

 

「友人に会うために学院まで行こうと思っていたんだけど、道に迷ってしまってね。40年ぶりともなると、ダメだね。どこを通ればいいのか……さっぱりわからないよ」

 

 歳をとるって怖いねぇなどと言って笑う。

 二人の目からでは、目の前の人物が四十以上の人間には到底見えなかった。顔が半分ほど隠れているため正確なところはわからないが、二十代前半から、ともすれば十代にも見えなくない。

 

「えっと、ごめんなさい。つまり私達に声をかけた理由っていうのは……?」

「迷子になってしまったのでどうか僕を学校まで連れていってください。ということだね」

「なんでそんなに偉そうなんですか……」

「実際、それなりに偉かったからね」

 

 二人にはそれが冗談か否か、判断することはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「そうかそうか、君達まだ十七歳か! 若いねぇ」

「あはは、お兄さんもお若く見えますよ」

「ん、まぁ僕のは見た目だけさ。実年齢はお爺さんもいいとこだよ」

 

 どこぞの金髪も同じくとんでもない婆さんなんだよと続ける男。

 ルミアとシスティーナには、眼前に見える魔術師が男なのかはたまた女なのか知り得なかったが、魔術師曰く男らしいのでお兄さんという呼び方に落ち着いた。

 

「あなたのその目隠し、何が記されているんですか?」

「これかい? これは…………」

「話せないようなら無理にというわけじゃないけど……」

「いや、そういうわけじゃないんだ。少し説明が難しいというか」

 

 そうだなと耳につけた宝石を指で何度か弾きながら、少々思案するような様子を見せる。

 

「すごく簡単に言えば、見ての通りの目隠しだよ。僕の目はちょっと特殊で、見えすぎてしまうんだ」

「見えすぎてしまう……ですか?」

「そうそう。これ取っちゃうと、見なくていいものまで見えるだよねぇ」

 

 ため息と共に愚痴をこぼす男。そこから深刻な様子は見受けられない。その程度なら、わざわざここまでの術を編む必要はないのではないかと思うシスティーナ。反対にルミアは思うところがあるのか、言葉を反芻する。

 

「見えなくていいもの……」

「そう。何かを見る、観測するっていうのは、それだけでお互いに縁が生まれて繋がりができる。縁ができるっていうのは言ってしまえば、こちらからもあちらからも互いに干渉し合うことができる、と言うことだね」

 

 ここまでわかるかい? と一旦区切る男。

 二人にはいささか話が飛躍しすぎているように感じたが、特に何かを言うことはなく言葉の続きを待った。

 

「わかりやすく言えば、見ず知らずの人間に呪いはかけられないだろう?」

 

「話はズレるけど、偶にあるでしょ? ある村や街にいる人間を全員呪うだとか。そういうのは、実は間接的なものでね。大抵の場合、術者が仕掛けたのは土地に対してだよ。要するに、土地にかけた呪いや魔術の余波が人に及んでるってこと」

 

 土地に通う霊脈やら何やらに干渉するのは程度の実力があるなら簡単だしね。と続ける。

 どこが簡単なんだろうかと思うも口には出さない。

 

「だけど、会って会話をして為人を知れば個人に向けて術をかけられるんだ」

「いま一つ話が理解できません」

「要するに僕の場合は名前出身家族構成その他諸々を知ることなく、見てしまえばかけることができるというわけだよ」

 

 

「だとしたら、見ただけの相手はあなたの事をわからないんじゃないですか?」

「うん、基本的にはそうだね。だけど僕が見たのが神だったり、天使だったりそういう超越存在だとしたら? なんなら凄腕の魔術師でもいい。そんな化け物達は総じて、そういうものに敏感なんだ。『見たな?』とばかりに、縁を辿って繋がりをなぞってこちらに手を伸ばしてくる。生まれた縁は良くも悪くもなかなか切れない。逃げようにも逃げられなかったり、切ろうとしても切れなかったりさ」

 

「ちなみに、逃げきれずに捕まって四十年もそこで過ごしていたらしいのが今の僕だよ」

 

 ギョッとして少し距離を取る二人。そんな様子を見てけらけらと笑って言う。

 

「冗談だよ。二人とも面白いなぁ」

「笑えない冗談はやめてください!! 冗談とは思えない雰囲気があります!」

 

 

 

「お兄さんは学院にご友人がいらっしゃるそうですが、どなたなんですか?」

 

 やばいやつだと確信して訝しげに男を見るシスティーナを宥めつつ、ルミアはそういえばとばかりに尋ねる。

 キョトンとした雰囲気を出してから、言っていなかったっけ? とこぼす男。

 

「君達はセリカ=アルフォネアって知っているかい?」

「はい」

「彼女が僕の古い友人のようなものでね。会いに来たんだ」

 

「アルフォネア教授の古い友人って……何歳なのよ」

 

 魔術師は意図せず漏れてしまったシスティーナの言葉に、あははと笑って返す。

 

「200と40は超えてるかな? だからお兄さんというより、お爺さんと言うのが正解かもしれないね」

永遠者(イモータリスト)なんですか?!」

「まぁ似たようなものだよ。一応寿命もないわけじゃないから、永遠者(イモータリスト)もどきってやつかな」

 

 これについてはあまり多くを語りたくないのか、それ以降男が口を開くことはなかった。

 

「ここが学院なんですけど……」

 

 学院を背にした警備員は、不審者を見るような視線を魔術師に向ける。

 

「おや、僕は入れてもらえないのかい?」

「すいません、実は……」

 

 ルミアによって以前テロリストに狙われたことや、それに伴い学園外の人間が入ることに対して、敏感になっており規制が厳しくなっていることが伝えられた。

 

「そうか、それは災難だったね。僕もよく襲われてたから面倒臭さはわかるよ」

 

 うんうんと頷き答える男だが、どこかズレた答えに感じられる。

 

「ここまで送ってくれてありがとう。非常に助かった。セリカが出てくるまでこの辺りをふらついてようと思う。勉強頑張るんだよ」

 

 

 

 

「やぁ、セリカ。40年ぶりだね」

 

 それが現れたのは突然のことだった。

 

 

「…………え?」

 

 茫然と目を見開き、身体を震わせるセリカ。

 誰にも悟られることなく現れた魔術師と、大陸最高峰の魔術師が普段見せる超然とした様相が剥がれ落ち、驚きで硬直した姿は場を混乱させるには十分だった。

 

「死人を見た様な顔をしないでおくれよ。僕と君の仲だろう?」

 

 心底不思議だと言うような困惑を乗せて、魔術師は語る。

 

「君はどうしたのかな、今日は来客の予定などなかったはずだが」

 

 学園長が警戒とともに、突如現れた魔術師に尋ねた。グレンも同じく表情を強張らせ、アルカナを抜けるように準備する。果たしてここで使うのが正しいのかはわからないが、少なくとも一撃は防げる。

 

「な、なんで? なんで、どうしてここにいるっ?!」

 

 それに対するセリカの反応は劇的だった。

 金髪を振り乱し頭に片手を当て、表情を歪める。

 普段であれば軽口と共に蹴散らすであろうが、今はそんな余裕は見られない。

 

 うわごとのように、そんなバカな、おかしい、あいつは私の目の前で、と繰り返すセリカを、グレンは肩を掴み正気を取り戻させようと声をかけてゆする。

 

「落ち着け! セリカ、どうしたんだよ?」

 

 しかし、それに重ねるように魔術師は続けた。

 

「どうして? 君に会いに来たからに決まっているだろう?」

 

()()()()()》!!!」

 

 これを相手に何かさせる余裕はない。グレンの腕を振り払い、改変呪文による攻撃を行う。

 魔術師の返答とともに改変呪文によって放たれたのは【プラズマ・カノン】、【インフェルノ・フレア】、【フリージング・ヘル】の三重唱。

 猛る雷が、全てを燃やし尽くす業火が、あらゆる機能を停止させる瀑氷が魔術師を目掛けて同時に襲いかかる。

 

 学園の一室はセリカによる砲撃によって一瞬で爆散し消し飛ぶ。

 学園内の突然の爆発に生徒や教師は混乱状態に陥った。何が起きているのか確認しようと出てきた教師が見たのは、苦い表情をしているセリカ=アルフォネア(第七階梯)の姿であった。

 

「セリカ君?!」

「何やってんだお前?!」

「グレン……とっとと逃げろ」

「はぁ? 訳わかんねーよ!」

「アレが本当にあいつなら、今の私じゃどうなるかわからん」

 

 冷や汗を浮かべ表情を固くしたセリカは静かにグレンへと告げる。

 万全の状態ならまだしも、今のセリカはそうとは言い難い。学園の地下に存在する迷宮で負った傷は未だ癒ず。

 

「お前は教師なんだ、私の心配よりも生徒の心配をしろ」

「……一人で大丈夫なんだな?」

「学長も、生徒が逃げられるように頼む」

「わかった……セリカ君、頼んだよ」

 

 リックはすぐさま放送を行うために走り出す。

 後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。

 

 二人が行ったことを確認して深く息を吐く。

 間違いなく自身の放った魔術は直撃しているが……改変呪文の通り吹き飛ばしただけ。

 これで死んでいるのならば問題はない。それはセリカの知る人物ではない。

 叶うことなら、私の見間違いであって欲しい。これで死んでいてくれ。

 

 しかし、そんなセリカの願いは叶うことはない。

 

「……いきなりな挨拶だね?」

 

 ごうごうと暴れ回る電撃や炎、白銀の世界から現れたのは、身にまとうローブを叩きながら傷一つついた様子のない魔術師。

 先ほどまでと違うのは、声が固く震えているように感じられることだ。

 

「一度落ち着いて話をしよう。僕はここにいるし君の勘違いでもなんでもないよ」

「……っそんなはずはない!!」

「だから、話を───」

「《黙れ》!」

 

 爆発の直撃をくらい再び吹き飛ばされた魔術師。

 しかし、先ほどの焼き回しのようにやはり無傷で歩みを進める。

 

「なんで、どうして? どうやって! お前が生きているんだ!!!」

 

 その言葉に肩をはねさせて、動揺したのか動きが止まる。

 

「お前は、私の目の前で死んだはずだろう?! イトラ!!!」

 

 セリカの今にも張り裂けてしまいそうな慟哭に、ことの中心である魔術師は浮かべていた笑みをそのまま──────

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 仲の良い女の子に会いにいったら死んだものにされていた件について。

 僕はどこの誰を訴えればいいんだろうか。世界か? 世界さんを訴えればいいのか? 訴えたら勝てるぞ。

 勝手に死んだことにしておくとか……人間でもそうそうやんないぞそんな非道。

 

 久しぶりの再会だからいい感じの魔術師感を出していたのに、あんまりなことを言われたせいで素が出てしまった。

 ここは一旦落ち着いて、死んでなどいないことを伝えるべきだろう。

 

「いやいや、僕死んでないから?!」

 

 何も動揺を繕えなかった。

 仕方ないだろ、好きな子に勝手に死んだことにされてたと考えてみろよ。ほらね? 無理でしょう? 

 

「ならどうしてそんな悍ましいものを着けている!」

「はぁ? 何を言って───」

 

「200年前に討った邪神の眷属と似た気配がすると言っているんだ!」

 

 んー? 邪神の気配? 

 そういうこと言うのやめてくれない? 

 僕アレに寄生されてるの? それとも僕が生きてるって勘違いしているだけで、実はとっくの昔に死んでて乗っ取られていた? 

 

 ……………………。

 

 …………い、いや! おそらくだが、化け物の血やら何やら浴び続けたせいで、存在がそちらに寄ってしまっているということではないだろうか。僕も相当浴びたし、身に付けているコレなんて、血を落とす前はそれはもうどす黒くなっていた。

 だから、そう。多分、大丈夫。

 もしかしたら血の契り的なアレになっている可能性もありまくるが、それは考えないでおく。自分の血と化け物の血、確かにぐちゃぐちゃに混ざってるけど……。

 仕方ないだろう?! 戦っていればそりゃあ怪我するし、させる。吹き出した血が混ざってしまうのはどうにも防げないだろう?! 

 

「まあまあ、落ち着いてくれよ。その辺りも含めて話すために、一番初めに君に会いに来たんだからさ」

 

 両手を上げて抵抗する意思がないことを示し、その場に座り込む。

 たとえこの状態であろうと魔術の発動はできるのでポーズだけとなってしまうが、それでも必要なこもである。

 

「……わかった。聞くだけ聞いてやる」

 

 

 そんなことを言いながら僕の頭をげしげしを脚で蹴ってくる。

 これだけ近くに寄ってきて、足蹴にするとかもう信用されたと思っていいよね? 

 

「ほら、とっとと吐け」

「実はかくかくしかじかで───」

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素───」

 

 それはまずい。

 大抵の攻撃はなんとかなるけど、それはダメなんだよ。一撃で消されることはなくても、這々の体で逃げ出さなきゃなくなるくらいにはダメなんだ。

 僕に対して特攻だから…………。

 

「ごめん! ごんめんって! 冗談だよ?!」

「ふん、くだらない冗談はいいからさっさと話せ。次同じことをしたら……わかってるな?」

 

 僕はコクコクと壊れたおもちゃの如く頷くほかなかった。

 

 

 

 

 

「邪神を見ようとしたら、たまたま全く関係ない別の神と目があって攫われたっていうのが事の真相」

 

「で、ようやく殺しきって昨日戻ってきたというわけさ」

 

 本当に殺し切ったのかは知らないけど……。うん、まぁ、多分きっと、この世界にはいないんじゃないかなぁ? 

 平気平気、僕がこの世界におけるアレになっている可能性とかないない。大丈夫、いざとなれば自分で腹を切れば死ぬから。多分僕が死ねば終わるから問題ないはず。おそらく本体、大元が消えればそのほかも終わるだろうし。もし万が一残ってもその時はその時で諦めればいいから。

 ほら、英雄が最後の敵になることってあるじゃない? それと同じだよ……うん。

 でも僕が死んでも僕が生きているとしたら、残った僕を殺したところで、僕を殺した人がまた僕になってしまうだろうということ。

 

 僕、死のうと思ったらしっかり身辺整理しないと世界がやばい。

 

 

「…………言っていることはわかった、わかったが……にわかには信じられん」

「おう、僕もこんなの信じたくないね」

 

 こめかみを抑えながら、うめくように言ったセリカに元気よく答える。

 僕だって信じたくない。あれならまだ地上で戦ってた方が万倍マシだった。

 

「それで、お前四十年ぶりと言ったな?」

「うん。いや〜我ながらよく戦ったと思うよ? 御伽噺の魔王だっけ? やつも、あんな化け物じゃないだろうと思うぜ」

「二百だ」

「ん、なんのこと?」

「魔導大戦──邪神の眷属との戦いは二百年前だ」

「え? 二百年?」

「四十年前はまた違う戦争だ」

「ふーん」

 

 200年前ね。結構前だな。

 ……うん、200年?!?!?!?!?! 

 

「そんなバカな!」

「事実だ。諦めろ」

 

 ちょっと受け止められそうにない。に、200年か……そりゃ道がわからなくなって当然だよ。

 しかし、そうか。なら英雄五人衆はもうみんな死んでるのか。墓参りに行かなきゃね。

 

「それと私に息子ができた」

「ん? ああ、息子ね。おめで───?!?!?!?!」

 

 は? 

 

「どっどっどっどどっどどどどこの誰とぉ?!」

 

 僕と君と二人で過ごした200年は、その程度の価値だったのか……! 

 いや、それとこれとは話が違うか。いやいやでもでもだってだってぇ?! 200年も一緒にいれば、その先も死ぬまで一緒だと思うじゃん……。僕たち殺されるか自殺するかしないと終わらないけど。

 

 というか、セリカはいまや、既婚者子持ち最低四百代後半不老人類最強美女ってこと? 

 ……君、随分ととんでもな属性付けてきたわね。

 

 僕なんて、寝取られ神殺嘘つき不死者が関の山である。

 

「どこの? いや、養───私に子どもがいることが、お前に何か関係あるか?」

 

 関係あるか、だと? 

 

「あるに決まってる! 僕がどんな気持ちでここまで帰ってきたか!」

「ふぇ?」

 

 40年も頑張ったんだから10年くらいセリカに全肯定されながら引きこもりしても許されるよね! とか、頑張ったねって褒めてもらいながら養ってもらえるの最高とか思ってたに決まってるだろうが! 

 いざ話を聞いてみれば、40年どころか200年? ふざけんな?! 挙げ句の果てには、優しくしてもらおうと思ってた女の子は結婚して旦那がいて子持ちだと? 

 

 僕の血に塗れた200年を返せ! 

 

「僕は君のことをっ───い、いや、いい。気にしないでくれ。そりゃあ200年もあれば当然だ」

 

 またセリカと二人で過ごせると思ってたけど、まさか旦那に息子がいるとは……。

 うん、そっか、いや、なら、まぁ、その、仕方がない。

 セリカがいい人なのは僕が一番よく知っている。

 に、200年もあれば仕方ないよね……。

 

 田舎に帰って、終活でもするかぁ。

 

「待て、それって、私のこと好きってことじゃ───」

 

「セリカ! 生徒は避難させた! …………今どんな状況だ?」

「グレンか。こっちは一旦問題ない」

「元から問題はないんだけど……ごめんなさい」

 

 口答えしたら拳が飛んできた。

 これが言論の自由を抑圧する暴力……! かつて友人が僕の知らぬ間に教会勢力に火炙りにされてたことを思い出すぜ。

 

「使うか?」

 

 僕が悲しくも暴力に屈している間に、黒髪のグレンと呼ばれた青年がセリカに何か聞いているようだ。

 使うって何を? ギロチン? 処刑? 

 話し合おう、僕たちは分かり合えるはずだ。

 

「やめておけ。常にいくつか魔術をストックしている。お前がそれを使ったところでなんの意味もない」

 

 あー! それは僕の魔術の大事なところだから誰にも言うなって言ったのに! 女王陛下に訴えてやる! 

 

「何をそんな顔をしている? 急に現れたお前が悪いんだろう? 別にこれが割れたくらいでどうにかなるもんじゃないだろ」

「いや、拗れたのは話を聞かなかった君が悪いんじゃないの?」

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せ───」

「あぁああ! 僕が、僕が悪かった! 僕が悪かったからそれだけはっ!」

 

 足蹴にしながら冷たい瞳で魔術師を見下ろすセリカと、恥も外聞も放り出して情けなく土下座をする魔術師を見て、確かに問題なさそうだと納得するグレン。

 魔術師にどこか自分と同じ情けなさを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「えー、皆さんこんにちは。本日より、セリカ=アルフォネア教授の助手(下僕)になりましたイトラと言います。200年前から理論や解釈が止まってますが、多分どんな質問にも答えられると思います」

 

 破壊されてて数日後。それに関する説明があると行動に集まれば、突然新任教師の発表が行われていた。

 壇上で話すのは、長い黒髪をポニーテールのように一本にまとめ白いローブを身につけた人物。身体のラインは隠れている上、男にも女にも取れる容姿をしており性別は不詳。

 

 それを見たルミアとシスティーナの脳内には、なぜこの人がという疑問で溢れていた。目隠しをしていないが、特徴的なローブの髪は確かに以前学校に案内したあの魔術師だ。

 

 セリカが並んで壇上に立ち言葉を続ける。

 

「この馬鹿は学会に提出する論文が書き上がっていないので、場合によってはすぐに解雇される」

「はぁ?! 論文とか僕聞いてないぞ!」

「ああ、言ってないからな。ほら、自分の身体を調べて書けば評価されるんじゃないか?」

「そんなことしたら、僕が教会に異端認定されて火炙りにされちゃうだろ!」

 

(((((あ、この人やばい人だ)))))

 

 セリカとイトラの会話を聞いた全校生徒の考えが完全に一致した瞬間だった。

 きゃんきゃんと喚くイトラを黙らせ(殴り)、セリカは次の紙を渡す。若干涙目で頭をさすりながらそれを受け取ったイトラは、再び原稿を読み始める。

 

「えっと? 先日の爆発騒ぎは僕がセリカに認めてもらいたいがために起こしてしまった悲しい事故であって? すでに被害箇所は、心優しい僕の保護者であるセリカ様の手によって完璧に修復されており学業を行ううえではなんの問題もございません? この度は皆様の授業を妨害しあまつさえ歴史ある学院の建物を破壊してしまったことを心よりお詫びします?」

 

 そこまで読み上げところで、横を向くイトラ。視線の先では、セリカがうんうんと頷きながら背中を叩いている。

 イトラに向けられるのは生徒達からの冷たい視線。さらには、第七階梯の助手という立場故に向けられる教師陣からの憎悪混じりの殺気。

 

「ま、待ってくれ! これはおかしい! 正確な経緯が書かれてないぞ!」

 

 偏向報道だ! 人を誤認させるような伝え方だ! と主張するのを片目に、優しい笑顔でセリカはならば、と促す。

 

「ほう? ならその正確な経緯をはじめからしっかりと話してみろ」

 

 話すことを許されるとは思っていなかったのか、イトラは拍子抜けしたような表情をした後嬉々として話し出す。

 

「まず、僕がこの学院の学長室に侵入して!」

 

 あぁ悲しいかな、イトラは正直者だった。

 ますます強くなる視線に困惑を隠せないイトラ。

 首を傾げながらもう一度自分の言葉を振り返って……

 

「ち、ちが! お邪魔して! 学長のお部屋にお邪魔させていただいて!」

 

 残念ながら時すでに遅し、取り返しはつかなかった。

 生徒からは犯罪者を見る目を向けられ、教師陣からはゴミを見る目で見られる。

 イトラの心はボロボロだった。

 

「はい、お前の出番はこれで終わりな。……というわけでこのバカをどうぞよろしく」

 

 嵐のように場を荒らすだけ荒らしてから、セリカ(より強い力)よって引きずられていく様を生徒達は見送ることしかできなかった。




続くかわからないので、設定放出。

イトラ
魔術特性【事実・真実の隠覆/偽装】
固有魔術(オリジナル):【覆い隠す者】【夢の魔女】【◼️◼️◾️
時間は無駄にあったので、魔術だけでなく剣術や体術などにも高いレベルで精通している。実は法医魔術の天才。
寄生先とかなんとか言ってるけど、要するに頑張ったから一緒にいて!褒めて!ってこと。
なんやかんや200年一緒にいたしこれからも一緒なんだろうなぁ……と思っていた女の子に、知らない間に息子ができたと聞いて脳破壊された。養子と聞いて回復した。

眷属との戦闘中に連れてかれたのは、魔術特性や名前、容姿や固有魔術までイー・ト・ラーと重なる部分が多かったため。それだけなら呼ばれることはなかったはずだが、彼の目は異世界の神ですら見つけることができてしまったのが運の尽き。
もちろん殺し切れていない。ともすれば、この世界におけるイー・ト・ラーの役割を与えられたのかもしれない。

次回やるならイトラVSアール=カーン

イ「君、この辺りに死ぬほど美人な女が来たと思うんだけど……知らない?」
ア「愚者の民よ、死ぬが良い!」

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